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砂と誓い
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喜びは束の間だった。合格の余韻に浸る間もなく、アリアがふいに顔を硬くした。いつもの軽やかな調子は消え、彼女の瞳に真剣さだけが残っている。
「スミス、この試験が何のために行われたか分かる?」
問いに圧され、俺は言葉を探す。日常ではおちゃらける彼女のことだから、こんな表情を見るのは初めてに近い。
「意味……ですか?」
アリアは小さくため息をついた。「やっぱり、わからないのね」
言葉を濁す彼女に、さらに刺さるように続けられた。
「じゃあ教えるわ。なぜ私が『死ぬ可能性がある』技まで教え、使わせたと思う?」
一拍置いて、俺は考えた。この問いには技術以上の何かが隠れている気がした。
「……仲間を助けるため? 自分が消えても、仲間を守れるから?」
アリアの顔に薄く安堵の色が広がる。「その通りよ。理由は一つ、信頼の確認。信頼がなければ、どれだけ個が強くても組織は崩れる」
「信頼……」
アリアは静かに続ける。「才能や努力は必要だけど、信頼がなければ誰かを見捨てる。組織はいつか腐る。だから最低限、互いに命を預けられるかを確かめたかったの」
俺はとっさに否定しそうになったが、胸の奥で過去の無力さがうずいた。彼女の言葉は冷たくも真実だった。
「分かりました。これからもっと考え、学びます」
アリアはすっと微笑んだ。「それでいい。で、次の段階よ。『学ぶ機会』を与える」
「学ぶ機会って?」
「答えは実践。最高の学びは現場よ」
実践――その言葉に、俺の胸がつんとする。訓練は知識を与えるが、本当の重さは現場でしか分からない。アリアは一瞬だけからかったように笑った後、真面目に言った。
「初めの任務はチームでの討伐。自分で仲間を探してチームを作りなさい。給料がないと食いっぱぐれるから、先輩に頼ることも覚えなさいね」
「自分で……チームを?」
孤独に慣れた俺の表情を見て、アリアは肩をすくめる。「初めは誰だって苦手よ。慣れればいい」
そう言い残して彼女は消えた。置き去りにされた気分と、与えられた試練の重さが同時に押し寄せる。
とにかく頼れる人を探さなきゃ。俺はフロアにいる誰にでも声をかけたが、内気さが足を引っ張り、誰も振り向いてはくれなかった。焦りが募るその時、一人の女性が近づいてきた。
「あの……新人さんですか?」
笑みは柔らかく、それだけで心が軽くなる。彼女は自分をカタリナと名乗り、「protect」と呼ばれる新人保護グループの一員だと説明した。保護――その言葉に安堵を覚え、俺は素直に付いていくことにした。
カタリナは地下へ続く長い階段を降り、さらに深く潜る。階段は終わりを知らないかのようで、不安が募る。やがて扉の前で立ち止まり、カタリナは無言で中へ入ると、誰かと短く会話したあと、俺の前の扉を残して立ち去った。
不安に耐えきれず扉を開けようとした瞬間、背後が暗くなり、覚えのない冷たい針が俺の首筋に差さった。意識はゆっくりと溶けていく。
目が覚めると──砂の熱風が肌を撫でていた。視界は黄褐色の地平線。右腕に違和感があり、見るとそれは爬虫類のような鱗と細い爪に変じている。
「な、何が……?」
状況は呑み込めない。腹が鳴り、夜はすでに深い。火魔術で小さな火球を点し、周囲を照らすと小さなヤモリが飛び出した。飢えに抗えず、火球で捕らえ、焼いて食べると奇妙なことに右腕の変化が少し戻った。どうやら何かを摂ることで変化が和らぐらしい。
寒さが襲い、体温を保つ必要に迫られる。燃費のいい風術で獣の気配を探し、やがて一メートルほどの動物を見つける。だが姿を見れば、毛の少ない鱗肌、犬とも狼とも違う獰猛な顔つきだ。
「ハイエナだ……」
気づく間もなく獣が突進してきた。とっさに右腕で防ごうとした瞬間、噛まれ、激痛が走る。火の術も鱗に吸収され、効力を発揮しない。噛み締める力は増し、腕が引きちぎられる恐怖に襲われる。
「このままじゃ……千切られる!」
咄嗟の判断で獣の目を左手で突いた。苦悶の唸りが上がる。だがまだ決着はつかない。最後の手段として、俺は自分の腕ごと爆発を誘発する火魔術を起動した。結果は想像を超えて凄まじかった。爆発は獣の頭部と俺の右腕を吹き飛ばし、二つは跡形もなく消えた。
地面に崩れ落ち、血まみれになりながらも呼吸を続ける。痛みは激烈だが、冷気にさらされて凍える前に、獣の皮を剥ぎ取って被った。粗末な毛布ができ、何とか夜を凌ぐ。血の味と砂の匂いの中で、ただ一つだけがはっきりしていた。
「絶対に、あいつらを許さない。全部、取り返す」
復讐の誓いを胸に、俺は血と砂の上で眠りについた。
「スミス、この試験が何のために行われたか分かる?」
問いに圧され、俺は言葉を探す。日常ではおちゃらける彼女のことだから、こんな表情を見るのは初めてに近い。
「意味……ですか?」
アリアは小さくため息をついた。「やっぱり、わからないのね」
言葉を濁す彼女に、さらに刺さるように続けられた。
「じゃあ教えるわ。なぜ私が『死ぬ可能性がある』技まで教え、使わせたと思う?」
一拍置いて、俺は考えた。この問いには技術以上の何かが隠れている気がした。
「……仲間を助けるため? 自分が消えても、仲間を守れるから?」
アリアの顔に薄く安堵の色が広がる。「その通りよ。理由は一つ、信頼の確認。信頼がなければ、どれだけ個が強くても組織は崩れる」
「信頼……」
アリアは静かに続ける。「才能や努力は必要だけど、信頼がなければ誰かを見捨てる。組織はいつか腐る。だから最低限、互いに命を預けられるかを確かめたかったの」
俺はとっさに否定しそうになったが、胸の奥で過去の無力さがうずいた。彼女の言葉は冷たくも真実だった。
「分かりました。これからもっと考え、学びます」
アリアはすっと微笑んだ。「それでいい。で、次の段階よ。『学ぶ機会』を与える」
「学ぶ機会って?」
「答えは実践。最高の学びは現場よ」
実践――その言葉に、俺の胸がつんとする。訓練は知識を与えるが、本当の重さは現場でしか分からない。アリアは一瞬だけからかったように笑った後、真面目に言った。
「初めの任務はチームでの討伐。自分で仲間を探してチームを作りなさい。給料がないと食いっぱぐれるから、先輩に頼ることも覚えなさいね」
「自分で……チームを?」
孤独に慣れた俺の表情を見て、アリアは肩をすくめる。「初めは誰だって苦手よ。慣れればいい」
そう言い残して彼女は消えた。置き去りにされた気分と、与えられた試練の重さが同時に押し寄せる。
とにかく頼れる人を探さなきゃ。俺はフロアにいる誰にでも声をかけたが、内気さが足を引っ張り、誰も振り向いてはくれなかった。焦りが募るその時、一人の女性が近づいてきた。
「あの……新人さんですか?」
笑みは柔らかく、それだけで心が軽くなる。彼女は自分をカタリナと名乗り、「protect」と呼ばれる新人保護グループの一員だと説明した。保護――その言葉に安堵を覚え、俺は素直に付いていくことにした。
カタリナは地下へ続く長い階段を降り、さらに深く潜る。階段は終わりを知らないかのようで、不安が募る。やがて扉の前で立ち止まり、カタリナは無言で中へ入ると、誰かと短く会話したあと、俺の前の扉を残して立ち去った。
不安に耐えきれず扉を開けようとした瞬間、背後が暗くなり、覚えのない冷たい針が俺の首筋に差さった。意識はゆっくりと溶けていく。
目が覚めると──砂の熱風が肌を撫でていた。視界は黄褐色の地平線。右腕に違和感があり、見るとそれは爬虫類のような鱗と細い爪に変じている。
「な、何が……?」
状況は呑み込めない。腹が鳴り、夜はすでに深い。火魔術で小さな火球を点し、周囲を照らすと小さなヤモリが飛び出した。飢えに抗えず、火球で捕らえ、焼いて食べると奇妙なことに右腕の変化が少し戻った。どうやら何かを摂ることで変化が和らぐらしい。
寒さが襲い、体温を保つ必要に迫られる。燃費のいい風術で獣の気配を探し、やがて一メートルほどの動物を見つける。だが姿を見れば、毛の少ない鱗肌、犬とも狼とも違う獰猛な顔つきだ。
「ハイエナだ……」
気づく間もなく獣が突進してきた。とっさに右腕で防ごうとした瞬間、噛まれ、激痛が走る。火の術も鱗に吸収され、効力を発揮しない。噛み締める力は増し、腕が引きちぎられる恐怖に襲われる。
「このままじゃ……千切られる!」
咄嗟の判断で獣の目を左手で突いた。苦悶の唸りが上がる。だがまだ決着はつかない。最後の手段として、俺は自分の腕ごと爆発を誘発する火魔術を起動した。結果は想像を超えて凄まじかった。爆発は獣の頭部と俺の右腕を吹き飛ばし、二つは跡形もなく消えた。
地面に崩れ落ち、血まみれになりながらも呼吸を続ける。痛みは激烈だが、冷気にさらされて凍える前に、獣の皮を剥ぎ取って被った。粗末な毛布ができ、何とか夜を凌ぐ。血の味と砂の匂いの中で、ただ一つだけがはっきりしていた。
「絶対に、あいつらを許さない。全部、取り返す」
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