百合JKの異世界転移〜女の子だけのパーティで最強目指します!〜

綾瀬 猫

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迷宮挑戦の章

68.気持ち

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 クローバーの四人がギルドマスターであるオルガノフの執務室に通されている頃、風鳴き山にはスナイプ達のパーティが三度目の挑戦に訪れていた。

 クローバーの四人がCランク冒険者にランクアップを果たし、遅れる事その二日後の事だ。今日こそは、是が非でもランクアップモンスターである”ルフ”を倒し、自分達もCランクにランクアップを果たしたい。
 これ以上リーシャやサフィーとの差が開いてしまっては、追いつく事は容易では無い事から、内心でかなり焦っているのはスナイプではなくカロンだった。


(今日こそは必ず……ッ!!)


 そんなカロン達四人の目の前には、何度も辛酸を舐めさせられた憎きモンスターであるビッグフット。そんなビッグフットを前にして、剣を構えるスナイプ、手のひらに魔力を込めるメリッサ、槍を突き出すカロン、そしてーーーー


「見せて貰うぞエスト!お前の攻撃力をな!」


 弓を携えたエストが、手に持つ矢に魔力を込めて、弓に矢を継がえる。


「はい。では行きます………破弓!」


 ヒュンという音をその場に残して、エストの手から放たれた矢がビッグフットに迫る。かなりの速度で撃ち放たれた矢は、エストの込めた魔力によって白い光を放っていた。
 それはエストの得意とする回復魔法の光。しかし矢に付与された魔法は、回復魔法であって回復魔法ではない。


 ドスッと鈍い音がして、エストの放った矢がビッグフットに突き刺さる。とは言え、あの巨体に矢が一本突き刺さったからといって、それが何だというのか。事前にエストに話を聞いていなければ、スナイプもメリッサも、そしてカロンもガックリと項垂れていた事だろう。


「グォ……グォォォーーーーッ!!」


 ビッグフットに突き刺さった矢から放たれていた白い光が、ビッグフットの身体の中に吸い込まれてゆく。その瞬間、ビッグフットは苦しそうなうめき声を上げ、巨体をよろよろと揺らし始めた。


「メリッサさん!」
「分かってる!水刃ローラム!」


 メリッサの手のひらから放たれた水の刃が、ビッグフットに命中する。その瞬間、魔法がビッグフットの身体に命中した箇所から大量の血が吹き出す。


「うわっ……わたしの魔法であんなにダメージが」
「スナイプさん!カロンさん!」


 エストの声を聞き、スナイプとカロンが一斉にビッグフットに切りかかる。


「おらぁぁーーーっ!!」
「覚悟ぉぉーーーッ!!」


 スナイプの剣戟を叩き込まれ、カロンの槍で無数に突き刺され、ビッグフットは呆気なく後ろに倒れた。既にその瞳からは、生気が消え失せている。


「嘘……だろ……?こんなに簡単に倒せた……?」
「これは……エストの能力なのか……?」
「エスト……これが……?」
「はい。【身壊術】といって、回復魔法を回復ではなく、へ発動させた魔法です」


 薬とは、決められた分量や調合によって身体を癒す力となるが、その調合や分量を間違えた場合は、身体を癒すどころか身体を蝕む毒と成り果てる。
 身壊術とは薬の調合と同じく、回復魔法を身体を癒す効果に術式展開するのではなく、身体を壊す方へと術式展開する事で、相手の身体を内側から破壊する魔術。本来は回復魔法と同じように素手か、杖を使って行使する術なのだが、元々弓術の素養があったエストは、身壊術を弓術に転用した。そして得たのが、【破弓】というエスト独自のスキルである。

 回復術士にして、その回復魔法を【身壊術】に応用出来るエストは、紛れもなく”天才”と呼ばれる人種。今この時、スナイプ達は初めてエストという少女の実力を目の当たりにしたのだ。そして、この非凡な少女の居場所は自分達の元では無い事を、図らずも悟る結果となった。だが今はーーーーー


「よし……先に進もう」
「うん。今日こそ絶対にルフを倒さなくちゃね」


 何としてでも今日こそは、今回こそはルフを倒して魔石を手に入れる。今までその覚悟と決意は、サフィーに負けたくないからという理由だったスナイプとメリッサだが、既にそんな感情は二人の中には無い。
 昨日、自分の想いをスナイプに告げたメリッサ。今まではサフィーの代わりとして抱かれている事に気付きながらも、それを受け入れて来たメリッサだが、もう代わりは嫌だった。
 だから自分の想いをスナイプに告げ、そして行動でもそれを示した。その結果、スナイプの中に初めてメリッサという少女が入り込んだ。

 表面的にはサフィーに対しての憎しみを見せていたスナイプだが、心の奥底ではサフィーに対して恋心を抱いていた。
 だからサフィーに認めて貰いたくて、いつか同じパーティを組みたくて、好きな相手を憎む事で自分の気持ちを常に前へと進ませていた。
 だが昨日、サフィーではなくいつも隣に居るメリッサという少女に気持ちを伝えられた。慣れない行為で、懸命に自分を悦ばせようと頑張る彼女の姿は、スナイプの心に自然と入り込んで来た。


(そうか俺……今までメリッサの事を見て見ぬフリをしてたのか)


 メリッサは言った、「わたしを見て」と。その時スナイプは初めて、自分がいつも見ていたのはメリッサではなく、メリッサの中に投影させたサフィーだったのだと気がついたのだ。

 メリッサとの行為が終わった後、スナイプの中には様々な感情や考えが浮かび上がった。メリッサに対する罪悪感や、ただの仲間とは違う愛おしさのような気持ち。
 同時に、先日見せつけられたサフィー達クローバーの実力や、ルフ戦で垣間見たカロンの本性。
 間違いなくカロンは、今のパーティを自分がのし上がる為の踏み台程度にしか思っていない。
 もちろん、それはそれで構わない。自分だって同じくカロンを利用しているようなものだ。現在のDランク冒険者で、カロン以上の実力者は居ない。だからカロンと一緒にパーティを組む事は、自分やメリッサにとってもランクアップの一番の近道である事は、カロン本人も分かっているだろう。

 
「けど……平気で仲間を見捨てようとする奴とこれからも一緒にはな……」


 そんな話を、スナイプはベッドの中でメリッサにしていた。メリッサもスナイプの胸の中で黙って聞いている。


「だから、ルフ狩りが成功してCランクに上がったら、このパーティは解散しようと思ってる」


 ピクッと、メリッサの小さな身体がスナイプの言葉に反応した。解散、その言葉の意味を考えてーーーー


「まあ、多分俺が言い出さなくてもカロンは抜けると思う」


 冒険者ギルドがEランク、Dランク冒険者に対して定める『パーティを組む場合は同じランクの冒険者のみ』という規定は、Cランクからは適用されなくなる。
 つまり、Cランクに上がれば自分よりも上のランクの者達とパーティを組む事も可能なので、カロンがこれ以上このパーティに留まる理由が無くなるのだ。
 とは言え、この街の冒険者ギルドでBランク冒険者は一組しか居らず、大半がCランクの冒険者だ。それでも、駆け出しのCランク冒険者パーティに居るより、他のベテランCランクパーティに入れて貰えれば、それだけ上を目指す速度が上がる。カロンがその選択肢を選ばない理由は、残念ながら無いのだ。


「そう………」


 スナイプからそんな説明をされて、メリッサの心の中には悲しみが膨れ上がってゆく。
 もちろんカロンが居なくなる事に対する悲しみではない。パーティを解散する事で、スナイプとの関係も終わってしまう事に対する悲しみだ。
 そしてもう一つ、エストとの関係も終わってしまう悲しみ。つい先日まで嫌いだった筈の少女だが、その優しさと温かさに触れて、今ではすっかり好きになってしまった。だからスナイプ共々、これからも一緒に居たいと思っていたのだが、エストは元々カロンとパーティを組んでいた少女だ。パーティが解散になれば、当然エストも去ってしまうだろう。

 愛しているスナイプ、そしてこれから仲良くなろうと思っていたエスト、その二人を同時に失うのだと思うと、悲しみで胸が張り裂けそうだった。
 一人になって、この先どうすれば良いのだろうか。いくらCランクでも、こんな目つきの悪い女を仲間に入れてくれるパーティなど、きっと存在しない。だからこれからは一人で冒険者稼業を続けなければならない。
 あまりの悲しみと、何も見通せない未来への恐怖で涙が込み上げて来る。そんな涙を隠そうとスナイプの胸に顔をうずめたメリッサの耳に、そのスナイプの声が届いた。


「また……二人でやり直そうぜメリッサ」
「…………え?」


 思わず顔を上げるメリッサ。そこには、今まで見た事も無いくらいに優しい表情を浮かべたスナイプが、照れ臭そうにメリッサを見ていた。


「その……お前の気持ちを知っちまったからさ。すぐに答えは出せないけどよ……とりあえず一緒に居て欲しいとは思ってる」


 聞き違いではない。まして夢でもない。スナイプ本人が、その口で本当に言葉を発してくれている。


「…………うん………うん……ッ!!」


 既に溢れ出た涙を我慢せずに、コクコクと首を振るメリッサ。今の一言だけで、真っ暗だった視界が明るく、そして美しく彩られたのだーーーーー





「これで……最後だぁぁーーーーッ!!」


 スナイプの振るった剣が、瀕死のルフにトドメを刺す。その瞬間、四人の頭の中にいつもの声が響き渡った。



ーースナイプのレベルが上がりました。

ーーメリッサのレベルが上がりました。

ーーカロンのレベルが上がりました。

ーーエストのレベルが上がりました。



 山頂へと辿り着いたスナイプ達。この日、エストの活躍もあって三匹目のルフを倒した。そんなスナイプ達を手強いと見たのか、それ以上ルフは襲って来なかった。




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