百合JKの異世界転移〜女の子だけのパーティで最強目指します!〜

綾瀬 猫

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迷宮挑戦の章

74.今日の出来事

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「エスト!」


 夕暮れの町中を一人、どことなく寂しそうな表情を浮かべながら歩いていたエストに、未来が声を掛ける。
 少し離れていて、町中の喧騒もあったのだが、未来の声はエストの耳にしっかりと届いた。顔を上げて正面を見ると、そこには自分の大好きな四人の少女達の姿。


「あ……皆さん……」


 そうポツリと呟いた声は、もちろん未来達には届かない。届かない代わりに、エストの姿を見つけたクローバーの四人が、エストの元へと駆けて来る。何故だが分からないが、そんな四人の姿を見ていると不意に涙が溢れそうになって、エストは慌てて空を見上げた。


(もう夕方になってたんだ……)


 そこで初めて、今の時刻を把握するエスト。思えば数刻前から、特に何をする訳でもなく町中を一人で彷徨っていた。だから過ぎてゆく時間にも気付かず、不意に見上げた空の色で今が夕暮れ時だと知った。


「エスト!」


 そして空を見上げていると、いつの間にかクローバーの四人が自分の元へと集まっていた。エストは涙を何とか目の奥に飲み込み、ゆっくりと顔を下げる。そこには、いつもと同じようにキラキラと輝くような美少女四人が、いつもと同じように優しい瞳で自分の方を見つめていた。


「こんばんは皆さん」


 自分自身、決して自意識過剰ではないと思っている。それでも、四人の自分に向けてくる眼差しを見れば、好感を持たれている事ぐらいは分かる。だからこそエストも、同じように優しく慈しむような瞳で四人を見つめた。


「こんばんはエスト。今日って『風鳴き山』に行ってたんだよね?」
「あ、はい。朝早くから四人で再挑戦して来ました」


 四人とはもちろん、エストとスナイプ、メリッサとカノンの四人だ。クローバーという規格外のパーティを除けば、この街の新人冒険者の中では最も腕の立つパーティだろう。


「それでどうだったの!?ルフは倒せたんでしょうね!?」


 少し前のめりになりながら、サフィーがエストに訊ねる。クローバーの中で常日ごろから一番エストを心配しているのは、何を隠そうサフィーだ。本人とエストはその事に気付いていないが、未来と愛莉、リーシャの三人はその事に気付いていて微笑ましく思っている。


「えっと、何とか無事に討伐出来ました。今回は他の皆さんもほとんど無傷でしたし」


 エストのその言葉を聞き、ホッと胸を撫で下ろすクローバーの四人。愛莉は自身の『鑑定眼』でエストの潜在能力に気付いていたが、それでも無事にルフを倒して帰って来たと聞かされて、やはり安堵してしまう。他の三人も同様だった。


「良かったわエスト~!じゃあCランクにランクアップしたのね?」
「え……と……」


 突然、エストが困った様な表情を浮かべる。エストに訊ねたリーシャは首を傾げながら、サフィーや未来、愛莉と顔を見合わせた。


「どうしたのエスト?ランクアップ出来なかったの?」
「出来なかったと言うか………パーティの皆さんは出来たと思うんですけど………」


 何とも歯切れの悪いエストの物言いに、サフィーの眉が少しだけ釣り上がる。そんな曖昧な答えを聞きたい訳ではなく、エストがCランクにランクアップ出来たかどうかを知りたいのだ。


「はっきりしないわね!ランクアップしたかどうかを訊いてるのよ!」


 迫る勢いでエストにそう訊ねるサフィー。するとエストは少し困った表情を浮かべ、そして小さくこう答えた。


「わたしは…………………ランクアップしてません」
「はっ?」
「え……?」
「何で!?」
「エスト……?」


 エストの答えに驚きを隠せないクローバーの四人。そんな皆の視線を受けながら、エストはゆっくりと息を吐く。そして目を閉じ、気持ちを落ち着かせる為に何度か深呼吸を繰り返すと、再びその目を開けた。


「実はですね……」


 そして語り始める。今日という日の出来事の一部始終をーーーー



■■■



 風鳴き山の三度目の挑戦で、遂にスナイプのパーティは山頂へと到達し、Cランクへのランクアップモンスターである『ルフ』の討伐に成功した。 
 だが、ルフを三匹倒した所でスナイプ達を強敵とみなしたのか、それ以降ルフは襲って来なかった。なので、当然だが手に入ったルフの魔石は三つ。四人パーティのスナイプ達が全員ランクアップするには、魔石が一つ足りない。


「おいっ!降りて来やがれクソ鳥野郎!俺達にビビってやがるのか!?」


 大声でルフを挑発するスナイプだが、賢いルフはそんな挑発には乗らない。スナイプ達が手を出せないような高い石柱の天辺で、優雅に眼下を見下ろしている。


「クソッ!あと一匹なのに!」
「わたしの魔法なら届くけど……この距離だと当てる前に逃げられちゃう……」


 遠距離攻撃の手段を持つのは魔道士のメリッサと、弓を扱えるエストのみ。魔法はルフに到達する前に逃げられるし、エストもこの距離で当てられる程の弓の腕はまだ無い。


「万事休すだね。いくら我々が強くなったと言えども、攻撃出来ないのではどうにもならない」


 カロンの言葉は正論だった。どんな達人でも強者でも、攻撃を当てられないのでは戦闘の土俵にすら立てないのだ。
 だがスナイプは、キッとカロンを睨みつける。先ほど自分でトドメを刺したルフを解体し、その手の中には魔石が握られている。つまりカロンにとっては、自分の目的は果たせた。あとはどうなろうと知った事ではないと、そういう態度がスナイプの気に障った。


「おいカロン、お前なーーー」
「きょ、今日はこれぐらいにして帰りませんか?あの……とりあえず魔石は皆さんの分は手に入った訳ですし」


 カロンに詰め寄ろうとしたスナイプに、エストが慌てて声を掛ける。その声を聞き、エストの方を振り返るスナイプと、驚いた表情を浮かべてエストを見るメリッサ。
 先ほど倒したルフ三匹は全て解体済みで、実際に解体作業をしたスナイプとメリッサの手には、ルフの魔石が握られていた。別に解体をして取り出したからといって、その魔石が自分の物という決まりはパーティには無い。だが、解体をするカロン、スナイプ、メリッサに向けてエストは先ほど「わたしのは最後でもいいですから」と言って、エストが魔石を三人に譲った形だ。
 それもこれも、しばらく待てばもう一匹ぐらいこちらに襲い掛かって来るだろうとスナイプもメリッサも高をくくっていたから受け取ったのだが、残念ながら四匹目のルフがこちらに向かってくる気配は無い。


「ちょっと待ちなさいよ……それじゃあエストの分の魔石が無いじゃない」
「あ、あはは……それは……そうなんですけど」
「ふざけんなエスト!俺達が今こうして山頂に立って、ルフを倒せたのはお前のお陰なんだ!何でそのお前の分の魔石を諦めなきゃならねぇんだよ!」


 思わず激昂するスナイプだが、これはエストの事を思っての発言だ。それはエスト自身にも分かっているので、嫌な気持ちには全くならない。そんなエストに、スナイプとメリッサが同時に手を伸ばした。その手のひらの上では、ルフの魔石が淡い輝きを放っている。


「これはお前の分だ。受け取れエスト」
「わたしのでもいいわ。受け取りなさいエスト」


 そう言って、スナイプとメリッサは同時にルフの魔石をエストに差し出したのだった。
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