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迷宮挑戦の章
82.出会いと別れ 後編
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スナイプさんとメリッサさんのお二方と、わたしとカロンさんのパーティは一つのパーティとして活動するようになった。
剣士のスナイプさん、槍術士のカロンさん、魔道士のメリッサさん。
攻撃職が三人になって、モンスター討伐も凄く楽になった。今まで、わたしとカロンさんが苦戦していたモンスターも、それほど苦労しないで倒せるようになった。なので、わたし達のレベルも上がってゆく。
「ふう………やっぱり二人よりも効率いいよな。この分だと、ワイルドウルフを討伐する日も近いぜ」
「だね。僕の方からしても、遠距離攻撃の出来る魔道士のメリッサは有り難い。お陰でダメージを受ける機会も減ったから」
「別に……それが魔道士の役割だし」
三人が楽しそうに戦闘後の話をしている。わたしも……本当は戦闘に参加できる。弓だって扱えるから……遠距離攻撃も出来るのに………
「はぁ………」
思わず溜め息が漏れるわたし。完全に言う機会を逃してしまって、もう今さら言えない。
それもこれも、全部この内気な性格と意気地の無い心のせい。一言「わたしも戦えます」と言えていれば、今頃はわたしも三人の会話の輪の中に入れたのに。
(もうレベル8かぁ……そういえばリーシャさんとサフィーさんのレベルは今どれくらいなんだろう?)
ギルドホールで初めて、リーシャさんとサフィーさんに出会ってからもう一ヶ月半。お二人は今の所、パーティメンバーを増やしたりしていない。なので、多分レベル上げに相当苦労していると思う。
だって……お二人がギルドで受ける依頼は、毎日薬草採取ばかり。もちろんそれは誰もが通る道らしいのだけど(もちろんわたしも最初はそうだった)、レベルが上がっていくにつれて、次第に討伐依頼やモンスターの素材採取の依頼に舵を切るもの。
「何をボヤッとしてるの」
「ふえ?」
わたしが考え事をしていると、突然後ろからメリッサさんに話し掛けられた。
「手が止まってるわよ。荷物の確認は終わったわけ?」
戦闘で皆さんほど活躍しないわたしは、何だかいたたまれなくなって、パーティの荷物整理や確認を、自分から進んで行うようになった。でもいつの間にか、今ではそれがわたしの仕事の一つとして皆さんに認識されている。
「あ……ご、ごめんなさい!もうすぐ終わりますから!」
慌てて手を動かすわたし。そんなわたしをメリッサさんは黙って見下ろしていた。でも次の瞬間には口を開いてわたしに再度話し掛けて来た。
「また……サフィー達に会ってたわよね」
「…………え?」
「たまに会ってるでしょ。街中で見かける」
見られていた……?でも、別に約束している訳ではなくて、本当に偶然出会ってお話をしているだけでーーーーー
「嫌いなのよねわたし、あの二人の事」
それは………理解している。ギルドホールにリーシャさんとサフィーさんが居ると、スナイプさんとメリッサさん、そして………カロンさんまでもが彼女達に酷い言葉を投げつける。
二人の友人であるわたしは、それが悲しくて仕方がない。そして、三人を止められない自分が不甲斐ない。
わたしとメリッサさんの距離が日に日に遠くなるのは、わたしがリーシャさん達と仲良くしているから。彼女達と仲良くするわたしが、メリッサさんは気に入らないのだと思う。
「あの……どうして嫌いなんですか……?あんなに素敵なお二人なのに」
わたしがそう言うと、メリッサさんがわたしを睨み付けて来た。そして、怒気の篭った声音でわたしに言葉を投げつける。
「あんた達みたいな素敵な美少女は、せいぜい周りからチヤホヤされて育ったんでしょう?友達なんて自分から作らなくても向こうから寄って来て、男だって選びたい放題!あんたが言う素敵ってそういう事よね!?」
「え……ちがーーーー」
待って……全然そんな事ない。わたしなんて内気な性格過ぎて、友人なんて呼べる人は誰も居なかった。
家族にも思っている事をきちんと伝えられないで、家族はわたしを大事にしてくれたけど………いつも会話に上手く入れなくて寂しい思いをしてた………。
「顔が良いってだけで、何でも手に入ると思って!わたしがようやく手に入れたものでも、それにすら興味が無いって?わたしがようやく掴んで離したくないものを、自分から拒否するって?わたしはどれだけ惨めな思いをすればいいのよ!」
物凄い剣幕で、メリッサさんがわたしに激しく言葉を投げつける。その表情は怒りの中にも、僅かな寂しさや悔しさみたいなのが見て取れた。
でも……分からない。メリッサさんが言ってる事が何の事なのか………わたしには分からない。
「あ……あの………」
「………何でもないわ」
言いたい事を言って溜飲が下がったのか、それとも言い過ぎたと思ったのか、メリッサさんはそのままスナイプさん達の所へと戻って行った。
残されたわたしは、ぼんやりとしながら荷物整理の続きを再開する。このまま……メリッサさんに嫌われたままなのかなぁと、悲しい気持ちになった。
それから更に日にちが経ち、ついにランクアップモンスターの『ワイルドウルフ』を倒す事に成功した。
「はぁはぁ……やっとワイルドウルフ……倒せたわね……」
「だな!でもまだだ!」
初日に何とか一匹だけ。それから二日掛けて、更に二匹のワイルドウルフを倒した。
「よしっ!これで三匹目だな!」
「だね!最初よりはわりかしスムーズに倒せた感じだ」
「はぁはぁ……でも相変わらず一匹倒すのがやっとよね……もう戦いたくないこんなモンスター」
スナイプさんも、カロンさんも、そしてメリッサさんも、かなり息が上がっている。わたしは急いで皆さんに回復魔法を掛けて回った。
そしてふと思ったのは、今メリッサさんが言った「もう戦いたくない」の意味。
きっと………わたしの分のワイルドウルフを倒そうとは思わない。だって……わたしは戦闘では回復だけで、あまり活躍していないから。このまま三人だけでランクアップして、わたしは終わりーーーーー
「はは……違いねぇ。出来ればもう戦いたくないな」
わたしがメリッサさんを回復していると、後ろからスナイプさんのそんな声が聞こえた。ああ………やっぱりそうなんだ…………
「でもまあ……そんな訳にいかないのよね。また明日も来なくちゃ」
メリッサさんがポツリと呟いた言葉を聞いて、わたしの手が止まる。
「だな!戦えないエストの為に、俺達が魔石を用意してやらなきゃな!」
わたしの手の甲に、ポタっと温かい雫が垂れた。
「…………え?」
顔を上げたわたしの頬に、わたしの目から溢れ出た涙が流れる。先ほど手の甲に落ちたのは、わたしの涙だった。
「何泣いてるのよ。嫌だけど……仕方ないでしょ」
嫌というのが、もう一度ワイルドウルフと戦う事なのか、それともわたしの為に魔石を用意する事なのか、それは分からない。でも、それでも、わたしの中では嬉しさが胸をいっぱいに満たした。
わたしなんて、お荷物扱いだと思っていた。スナイプさんにもメリッサさんにも、嫌われていると思っていた。だからこのまま一人だけ置き去りにされると思っていた。
でも、二人はそんなわたしの為にもう一度ワイルドウルフと戦うのだと言ってくれた。それが、どれほど嬉しかった事かーーーーー
そしてあの『風鳴き山』での初めてのルフ戦の後、帰りの馬車でメリッサさんが話し掛けてくれた。
「あの……エスト………?」
「はい?」
「その………今日は………ありがとう………」
メリッサさんは照れ臭そうに、わたしにお礼の言葉を述べた。メリッサさんがルフから逃げ遅れた時に、真っ先にわたしが駆けつけてくれたのが嬉しかったのだと、正直に教えてくれた。
「それに……今まで酷い事言ってごめんなさい。って……今さら許してなんてくれないと思うけど………」
そう言って俯くメリッサさんの手を、わたしは無意識に掴んでいた。すると、メリッサさんが顔を上げてわたしを見る。
「エスト………?」
「全然気にしてません!わたし……本当はずっとメリッサさんと仲良くしたかった。せっかく同じパーティなんですから、助けたり助けられたりして、毎日お話して………た、たまには一緒にお買い物に行ったり………とか………」
わたしがそう言うと、メリッサさんは大きく目を見開いた。そして意識してか無意識にか、メリッサさんがわたしの手を握り返してくれた。
「ホント……に……?わたしなんかと仲良くしたい……の?」
「もちろんです!あの……メリッサさんが……わ、わたしなんかで良ければですけど……」
驚きに見開いた目が、次第に優しく閉じてゆく。
ああ………わたしやっと……メリッサさんと仲良くなれた……打ち解けられた………。
振り返れば、辛くて寂しい日々だったけど、嬉しい事だってあった。レベルが上がれば皆さんと一緒に喜べたし、ワイルドウルフの時は嬉しくて泣き出したりもした。
そう……わたしはこのパーティが………きっと好きだった。だから、これからもこのパーティで頑張りたいって、素直に思えたんだ。でも、そんなわたしに待っていたのはーーーー
「エスト………元気でね」
ーーーーーー
ーーーー
ーーーエストが自分の本心を語り終えた瞬間、サフィーがエストを抱き締めていた。
「サフィー……ちゃん……」
「馬鹿ねあんた……馬鹿なんだから……」
サフィーの瞳からは涙が零れ落ちていて、それは頬を伝い、エストの肩へとポタポタ落ちる。
抱きつかれたエストもまた、身体を小刻みに震わせながら、サフィーと同じように泣いていた。
それを傍で見ているリーシャも涙を流し、未来と愛莉の瞳にも薄っすらと水の膜が浮かんでいる。
この純粋で無垢な少女は、自分が嫌われても尚、メリッサと仲良くなる事を望み、居心地のあまり良くはなかったパーティにおいても、常に皆の力になろうと努力して来たのだ。そして最後には、パーティ解散にこんなにも心を痛め、メリッサとの別れをこんなにも悲しんでいる。
そんなエストの気持ちが、まるで胸に染み込んで来るかのように伝わって来たサフィーは、我慢出来ずにエストを抱き締めた。
「もう……あんたを寂しい思いなんてさせない!居心地の悪い場所になんてしない!だから………っ!!」
サフィーの暖かな思いが、彼女の身体を通じてエストにも伝わる。普段は口の悪いサフィーの本当の優しさが、エストの中に流れ込んで来る。
「わたし達の所に来なさい!ううん、わたし達の所に来てエスト!絶対に楽しい思いをさせてあげるから!絶対にエストを手放したりなんてしないから!」
サフィーの口から放たれた一言一言が、エストの心を癒やしてゆく。
それは心だけではなく、エストの魂さえ震わせる言葉。初めて他人に掛けられた、自分だけの為に生み出された言葉。
「う……うう……サフィー……ちゃん……う、うわぁぁぁぁーーーーん!!」
二人で抱き合いながら、わんわんと泣き出すサフィーとエスト。いつの間にか二人を包み込むように、リーシャと未来、そして愛莉も両手を広げて抱き寄っていた。
「ひっく……わた……わたしでいいの?本当にもう……ぐすっ……」
「もちろんよぉ~、ずっと待ってたのよ、わたしとサフィーは」
「にっししし!一緒に冒険しようエスト!いっぱい冒険しよう!」
「はい……はい……ッ!!」
「あっ、何回も言うけどエスト、敬語直してね」
最後に愛莉がそう言うと、全員で笑い合った。
皆の暖かな腕に包まれたエストの手の中にはーーーーー
ーールフの魔石がしっかりと握られていたのだった。
※本当はもう少し引っ張りたかったエストのパーティ加入ですが、またしばらく更新が滞るので、キリの良い感じにしたくてこうなりました。
あまり間隔を開けないように頑張りますので、どうぞ今後も宜しくお願い致します。
剣士のスナイプさん、槍術士のカロンさん、魔道士のメリッサさん。
攻撃職が三人になって、モンスター討伐も凄く楽になった。今まで、わたしとカロンさんが苦戦していたモンスターも、それほど苦労しないで倒せるようになった。なので、わたし達のレベルも上がってゆく。
「ふう………やっぱり二人よりも効率いいよな。この分だと、ワイルドウルフを討伐する日も近いぜ」
「だね。僕の方からしても、遠距離攻撃の出来る魔道士のメリッサは有り難い。お陰でダメージを受ける機会も減ったから」
「別に……それが魔道士の役割だし」
三人が楽しそうに戦闘後の話をしている。わたしも……本当は戦闘に参加できる。弓だって扱えるから……遠距離攻撃も出来るのに………
「はぁ………」
思わず溜め息が漏れるわたし。完全に言う機会を逃してしまって、もう今さら言えない。
それもこれも、全部この内気な性格と意気地の無い心のせい。一言「わたしも戦えます」と言えていれば、今頃はわたしも三人の会話の輪の中に入れたのに。
(もうレベル8かぁ……そういえばリーシャさんとサフィーさんのレベルは今どれくらいなんだろう?)
ギルドホールで初めて、リーシャさんとサフィーさんに出会ってからもう一ヶ月半。お二人は今の所、パーティメンバーを増やしたりしていない。なので、多分レベル上げに相当苦労していると思う。
だって……お二人がギルドで受ける依頼は、毎日薬草採取ばかり。もちろんそれは誰もが通る道らしいのだけど(もちろんわたしも最初はそうだった)、レベルが上がっていくにつれて、次第に討伐依頼やモンスターの素材採取の依頼に舵を切るもの。
「何をボヤッとしてるの」
「ふえ?」
わたしが考え事をしていると、突然後ろからメリッサさんに話し掛けられた。
「手が止まってるわよ。荷物の確認は終わったわけ?」
戦闘で皆さんほど活躍しないわたしは、何だかいたたまれなくなって、パーティの荷物整理や確認を、自分から進んで行うようになった。でもいつの間にか、今ではそれがわたしの仕事の一つとして皆さんに認識されている。
「あ……ご、ごめんなさい!もうすぐ終わりますから!」
慌てて手を動かすわたし。そんなわたしをメリッサさんは黙って見下ろしていた。でも次の瞬間には口を開いてわたしに再度話し掛けて来た。
「また……サフィー達に会ってたわよね」
「…………え?」
「たまに会ってるでしょ。街中で見かける」
見られていた……?でも、別に約束している訳ではなくて、本当に偶然出会ってお話をしているだけでーーーーー
「嫌いなのよねわたし、あの二人の事」
それは………理解している。ギルドホールにリーシャさんとサフィーさんが居ると、スナイプさんとメリッサさん、そして………カロンさんまでもが彼女達に酷い言葉を投げつける。
二人の友人であるわたしは、それが悲しくて仕方がない。そして、三人を止められない自分が不甲斐ない。
わたしとメリッサさんの距離が日に日に遠くなるのは、わたしがリーシャさん達と仲良くしているから。彼女達と仲良くするわたしが、メリッサさんは気に入らないのだと思う。
「あの……どうして嫌いなんですか……?あんなに素敵なお二人なのに」
わたしがそう言うと、メリッサさんがわたしを睨み付けて来た。そして、怒気の篭った声音でわたしに言葉を投げつける。
「あんた達みたいな素敵な美少女は、せいぜい周りからチヤホヤされて育ったんでしょう?友達なんて自分から作らなくても向こうから寄って来て、男だって選びたい放題!あんたが言う素敵ってそういう事よね!?」
「え……ちがーーーー」
待って……全然そんな事ない。わたしなんて内気な性格過ぎて、友人なんて呼べる人は誰も居なかった。
家族にも思っている事をきちんと伝えられないで、家族はわたしを大事にしてくれたけど………いつも会話に上手く入れなくて寂しい思いをしてた………。
「顔が良いってだけで、何でも手に入ると思って!わたしがようやく手に入れたものでも、それにすら興味が無いって?わたしがようやく掴んで離したくないものを、自分から拒否するって?わたしはどれだけ惨めな思いをすればいいのよ!」
物凄い剣幕で、メリッサさんがわたしに激しく言葉を投げつける。その表情は怒りの中にも、僅かな寂しさや悔しさみたいなのが見て取れた。
でも……分からない。メリッサさんが言ってる事が何の事なのか………わたしには分からない。
「あ……あの………」
「………何でもないわ」
言いたい事を言って溜飲が下がったのか、それとも言い過ぎたと思ったのか、メリッサさんはそのままスナイプさん達の所へと戻って行った。
残されたわたしは、ぼんやりとしながら荷物整理の続きを再開する。このまま……メリッサさんに嫌われたままなのかなぁと、悲しい気持ちになった。
それから更に日にちが経ち、ついにランクアップモンスターの『ワイルドウルフ』を倒す事に成功した。
「はぁはぁ……やっとワイルドウルフ……倒せたわね……」
「だな!でもまだだ!」
初日に何とか一匹だけ。それから二日掛けて、更に二匹のワイルドウルフを倒した。
「よしっ!これで三匹目だな!」
「だね!最初よりはわりかしスムーズに倒せた感じだ」
「はぁはぁ……でも相変わらず一匹倒すのがやっとよね……もう戦いたくないこんなモンスター」
スナイプさんも、カロンさんも、そしてメリッサさんも、かなり息が上がっている。わたしは急いで皆さんに回復魔法を掛けて回った。
そしてふと思ったのは、今メリッサさんが言った「もう戦いたくない」の意味。
きっと………わたしの分のワイルドウルフを倒そうとは思わない。だって……わたしは戦闘では回復だけで、あまり活躍していないから。このまま三人だけでランクアップして、わたしは終わりーーーーー
「はは……違いねぇ。出来ればもう戦いたくないな」
わたしがメリッサさんを回復していると、後ろからスナイプさんのそんな声が聞こえた。ああ………やっぱりそうなんだ…………
「でもまあ……そんな訳にいかないのよね。また明日も来なくちゃ」
メリッサさんがポツリと呟いた言葉を聞いて、わたしの手が止まる。
「だな!戦えないエストの為に、俺達が魔石を用意してやらなきゃな!」
わたしの手の甲に、ポタっと温かい雫が垂れた。
「…………え?」
顔を上げたわたしの頬に、わたしの目から溢れ出た涙が流れる。先ほど手の甲に落ちたのは、わたしの涙だった。
「何泣いてるのよ。嫌だけど……仕方ないでしょ」
嫌というのが、もう一度ワイルドウルフと戦う事なのか、それともわたしの為に魔石を用意する事なのか、それは分からない。でも、それでも、わたしの中では嬉しさが胸をいっぱいに満たした。
わたしなんて、お荷物扱いだと思っていた。スナイプさんにもメリッサさんにも、嫌われていると思っていた。だからこのまま一人だけ置き去りにされると思っていた。
でも、二人はそんなわたしの為にもう一度ワイルドウルフと戦うのだと言ってくれた。それが、どれほど嬉しかった事かーーーーー
そしてあの『風鳴き山』での初めてのルフ戦の後、帰りの馬車でメリッサさんが話し掛けてくれた。
「あの……エスト………?」
「はい?」
「その………今日は………ありがとう………」
メリッサさんは照れ臭そうに、わたしにお礼の言葉を述べた。メリッサさんがルフから逃げ遅れた時に、真っ先にわたしが駆けつけてくれたのが嬉しかったのだと、正直に教えてくれた。
「それに……今まで酷い事言ってごめんなさい。って……今さら許してなんてくれないと思うけど………」
そう言って俯くメリッサさんの手を、わたしは無意識に掴んでいた。すると、メリッサさんが顔を上げてわたしを見る。
「エスト………?」
「全然気にしてません!わたし……本当はずっとメリッサさんと仲良くしたかった。せっかく同じパーティなんですから、助けたり助けられたりして、毎日お話して………た、たまには一緒にお買い物に行ったり………とか………」
わたしがそう言うと、メリッサさんは大きく目を見開いた。そして意識してか無意識にか、メリッサさんがわたしの手を握り返してくれた。
「ホント……に……?わたしなんかと仲良くしたい……の?」
「もちろんです!あの……メリッサさんが……わ、わたしなんかで良ければですけど……」
驚きに見開いた目が、次第に優しく閉じてゆく。
ああ………わたしやっと……メリッサさんと仲良くなれた……打ち解けられた………。
振り返れば、辛くて寂しい日々だったけど、嬉しい事だってあった。レベルが上がれば皆さんと一緒に喜べたし、ワイルドウルフの時は嬉しくて泣き出したりもした。
そう……わたしはこのパーティが………きっと好きだった。だから、これからもこのパーティで頑張りたいって、素直に思えたんだ。でも、そんなわたしに待っていたのはーーーー
「エスト………元気でね」
ーーーーーー
ーーーー
ーーーエストが自分の本心を語り終えた瞬間、サフィーがエストを抱き締めていた。
「サフィー……ちゃん……」
「馬鹿ねあんた……馬鹿なんだから……」
サフィーの瞳からは涙が零れ落ちていて、それは頬を伝い、エストの肩へとポタポタ落ちる。
抱きつかれたエストもまた、身体を小刻みに震わせながら、サフィーと同じように泣いていた。
それを傍で見ているリーシャも涙を流し、未来と愛莉の瞳にも薄っすらと水の膜が浮かんでいる。
この純粋で無垢な少女は、自分が嫌われても尚、メリッサと仲良くなる事を望み、居心地のあまり良くはなかったパーティにおいても、常に皆の力になろうと努力して来たのだ。そして最後には、パーティ解散にこんなにも心を痛め、メリッサとの別れをこんなにも悲しんでいる。
そんなエストの気持ちが、まるで胸に染み込んで来るかのように伝わって来たサフィーは、我慢出来ずにエストを抱き締めた。
「もう……あんたを寂しい思いなんてさせない!居心地の悪い場所になんてしない!だから………っ!!」
サフィーの暖かな思いが、彼女の身体を通じてエストにも伝わる。普段は口の悪いサフィーの本当の優しさが、エストの中に流れ込んで来る。
「わたし達の所に来なさい!ううん、わたし達の所に来てエスト!絶対に楽しい思いをさせてあげるから!絶対にエストを手放したりなんてしないから!」
サフィーの口から放たれた一言一言が、エストの心を癒やしてゆく。
それは心だけではなく、エストの魂さえ震わせる言葉。初めて他人に掛けられた、自分だけの為に生み出された言葉。
「う……うう……サフィー……ちゃん……う、うわぁぁぁぁーーーーん!!」
二人で抱き合いながら、わんわんと泣き出すサフィーとエスト。いつの間にか二人を包み込むように、リーシャと未来、そして愛莉も両手を広げて抱き寄っていた。
「ひっく……わた……わたしでいいの?本当にもう……ぐすっ……」
「もちろんよぉ~、ずっと待ってたのよ、わたしとサフィーは」
「にっししし!一緒に冒険しようエスト!いっぱい冒険しよう!」
「はい……はい……ッ!!」
「あっ、何回も言うけどエスト、敬語直してね」
最後に愛莉がそう言うと、全員で笑い合った。
皆の暖かな腕に包まれたエストの手の中にはーーーーー
ーールフの魔石がしっかりと握られていたのだった。
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