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迷宮挑戦の章
97.迷宮の真実
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愛莉の予想していた通り、地下六層に降り立った途端、周囲は暗闇に包まれていた。
「真っ暗だね」
「そうね……」
階段を降りた場所に、かがり火が置かれているが、火は灯っていない。つまり、しばらく誰もこの地下六層を訪れていない可能性がある。
「とりあえず進もっか。ランタンで照らせば明るいし」
愛莉特製のランタンで前方を照らすと、視界はかなり明るくなった。魔石を利用して発光しているその光は、火の明るさよりも照度は上だ。直接戦闘に介入しない愛莉が代表してランタンを持つ。
「さて、この階はどんなモンスターが出るのかしら」
サフィーの言葉を聞きながら、愛莉は予想を立てていた。
(ほとんどの冒険者が六層に降りて来ないって事は………)
出現するモンスターが、強い割に実入りの少ないモンスターばかりである可能性。そしてもう一つの可能性はーーーー
「あっ、あのでっかい岩の向こうにモンスター居るっぽいよ」
未来が気配察知でいち早くモンスターの存在を確認する。その言葉を聞いて、皆の中に適度な緊張が走る。だが、現れたモンスターを見た瞬間、愛莉以外の四人が呆気に取られる。
「あれ?昨日のスケルトンじゃん」
「本当ね~。同じモンスターが出る事もあるのね」
「分かんないわよ、同じでもレベルが高いって可能性もあるわ。アイリ、鑑定結果どう?」
『ランススケルトン(死霊系モンスターLv28)』
『ソードスケルトン(死霊系モンスターLv26)』
「ううん、レベルも同じ」
そう答えながら、可能性として考えていた予想の一つが当たった事を実感する。
(こっちだった。五層と同じモンスターしか出ないならわざわざ六層には降りない)
そう、愛莉が可能性として予想していたのは、先ほど述べた強い割に実入りの少ないモンスターが出る可能性と、もう一つが五層と同じモンスターしか出ない可能性。そのどちらだった場合も、わざわざ六層へは降りずに五層で狩りをするのは当然の選択だ。
「そうなのね。じゃあ遠慮なく行くわよ!」
そしてまた今日の探索が始まる。いつもと違う所と言えば、恐らくこの階には他の冒険者が居ないという事。昨日までは、探索中も他の冒険者の姿を見かけたりもしたが、もうそれも無いだろう。
これから下へ進むに連れて、クローバーの五人は本当の意味で孤独な戦いになる。だがそれは、彼女達にしか出来ないが故。魔法鞄を持つ彼女達だからこそ、もっとも下へと進めるのだから。
■■■
「ではこちらが今回の買い取り額になります。いつもありがとうございます」
見る者の心を奪うような微笑みを浮かべながら、冒険者ギルドの受付嬢イリアーナがいつものように冒険者に応対している。
「そう言えば聞いたかイリアーナ?クローバーの奴らのとんでもない話をよ」
「それはもしかして、カルズバール迷宮入口でのお話ですか?」
「何だ知ってたのか。いや、俺達もあの場に居たんだけどよーーーー」
それはつい昨日、カルズバール迷宮から帰還したCランク冒険者によって聞かされた話。
クローバーの五人が他の街の冒険者パーティに絡まれた際に見せた、未来の一瞬で別の場所に移動する能力と、リーシャの召喚獣の途轍もない破壊力の攻撃の一部始終。
興奮気味に話す冒険者達と、感心しながら話を聞く冒険者達。その会話が、イリアーナの耳にも届いたのだ。
「あの……クローバーの皆さんはお元気そうでしたか?」
「おう、元気も元気、大元気だったぜ!特にミクとサフィーはな!」
あの二人、特に未来はこのギルド内においてもずば抜けて明るい性格をしている。そして人懐っこいので、男女問わず人気者なのだが、実は男性が苦手で恋人が愛莉というのはクローバーのメンバー以外は知らない。
(そう言えばミクちゃんって、何となくファナに雰囲気似てるのよね)
幼馴染にして、つい先日恋人になったファナ。その天真爛漫さや突き抜けた明るさは、確かに未来と雰囲気が重なる。いや、イリアーナの場合はファナの雰囲気に未来が重なるのだ。
何となくなし崩し的に恋人になった幼馴染だが、気が付くとイリアーナは毎日ファナと仕事終わりに夕食を共にしていた。
そして夕食後は毎日、独り暮らしをしている自分の部屋にファナを招き、毎日彼女と行為に及んでいる。
ファナの細い指先が、熱い舌が、毎晩のようにイリアーナの身体の隅々を、蕩けてしまいそうな程の快感でいっぱいにしてくれる。
昨晩も彼女に何度も絶頂させられ、何度も彼女を絶頂させた。少し目を閉じるだけで、その時の余韻がすぐに押し寄せて来てイリアーナの子宮がキュッとすぼむ。
イリアーナの膣内で愛液が分泌されたその時、イリアーナはハッと我にかえって目を開けた。
(仕事中に何考えてるのよ……)
ふるふると首を振るイリアーナ。こんな場所で、ましてや仕事中に愛液で下着を濡らしてしまったら洒落にならない。香水は付けているが、誰かに愛液の匂いがバレてしまったら、もう受付嬢などーーーー
「おいイリアーナ」
「ひゃう!?」
突然後ろから名前を呼ばれ、思わず変な声が出てしまった。恐る恐る振り返ると、ギルドマスターのオルガノフが訝しげな表情でこちらを見ている。
「何だお前、今の返事は」
「きゅ、急に話し掛けられたから驚いたんですよ………」
「そうか、それは悪かったが………そもそも何で首振ってたんだお前?」
「え……そ、それは……」
まさか昨夜のファナとのエッチを思い出してなどとは口が裂けても言えないイリアーナは、何とかそれらしい理由を考える。
「ク、クローバーの皆さんは元気かなぁ……と」
咄嗟に口から出た言葉だが、嘘ではない。先ほどまでは本当に彼女達の事を頭の隅で考えていた。
もっとも、オルガノフに呼ばれた時のイリアーナの頭の中はファナ一色に染まっていたが。
「あいつらか。まあ、地下八層までは何も心配はしてないが……問題はそれより下の階層だな」
「え………?どういう事ですか?」
「地下九層からは、迷宮の雰囲気がガラリと変わる。出現するモンスターも手強くなるからな」
「そ、そうじゃなくて……何でマスターがそんな事をご存知なんですか!?」
カルズバール迷宮の攻略記録は、この街で唯一のBランクパーティが臨んだ地下八層が最高記録だった筈だ。それなのに何故、オルガノフは地下九層の事を語れるのだろうかと、イリアーナが疑問に思うのも当然だった。
「ここのギルドマスターに就任した時にな、ソロでこっそり潜った事があるんだ。つっても、地下十層で引き返して来たがな」
「ち、地下十層!?」
恐るべき事実である。Bランクのパーティが八層までしか行けなかった迷宮を、ソロで十層まで進んだというのだ。つまりそれは、オルガノフの実力がそれだけ凄いのだという事なのだが、凄いだけでは説明出来ないのは食料事情だ。どんなに強くても、食べる物が無くては先に進む事など出来る筈が無い。
「食事はどうしてらしたんですか!?」
「お前な、これでも俺はAランク冒険者だぞ?魔法鞄ぐらい持ってるに決まってるじゃねぇか」
これもまた衝撃的な事実だった。しかし考えてみれば、Aランク冒険者ともなれば魔法鞄を持っていたとしても不思議ではない。オルガノフの現役時代の事は知らないが、Aランクに上がる為にきっと帝国中を旅したのだろう事は何となく分かる。そんな大冒険をしたのなら、ますます魔法鞄は必須だったに違いない。
「そうなんですか………それならマスターが領主様の依頼をお受けすれば良かったのでは……」
「就任時ならともかく、今の俺が何日もギルドを離れる訳にはいかねえだろ。それにさっきも言ったが、俺は地下十層で引き返して来た。どうも更に下の階層から嫌な気配を感じてな」
「え……それって……クローバーの皆さんは大丈夫なんですか……?」
Aランク冒険者のオルガノフですら引き返そうと思った程の気配。つまりあの迷宮の奥深くには、それほどの何かが居るかもしれないのだ。そんな場所に、いくら強いからといっても少女五人で向かって大丈夫なのだろうかと、思わず心配になるイリアーナ。
「無理だろうな。恐らくあいつらも良くて地下十層止まりだ。あの気配に気付いたら、無理をせずに戻って来るだろう」
「え………それって」
「ああ。この依頼は失敗する。だが、失敗もいい経験になる」
まるで確信するようにそう言い放ったオルガノフの言葉を、何とも言えない表情で受け止めるイリアーナだった。
「真っ暗だね」
「そうね……」
階段を降りた場所に、かがり火が置かれているが、火は灯っていない。つまり、しばらく誰もこの地下六層を訪れていない可能性がある。
「とりあえず進もっか。ランタンで照らせば明るいし」
愛莉特製のランタンで前方を照らすと、視界はかなり明るくなった。魔石を利用して発光しているその光は、火の明るさよりも照度は上だ。直接戦闘に介入しない愛莉が代表してランタンを持つ。
「さて、この階はどんなモンスターが出るのかしら」
サフィーの言葉を聞きながら、愛莉は予想を立てていた。
(ほとんどの冒険者が六層に降りて来ないって事は………)
出現するモンスターが、強い割に実入りの少ないモンスターばかりである可能性。そしてもう一つの可能性はーーーー
「あっ、あのでっかい岩の向こうにモンスター居るっぽいよ」
未来が気配察知でいち早くモンスターの存在を確認する。その言葉を聞いて、皆の中に適度な緊張が走る。だが、現れたモンスターを見た瞬間、愛莉以外の四人が呆気に取られる。
「あれ?昨日のスケルトンじゃん」
「本当ね~。同じモンスターが出る事もあるのね」
「分かんないわよ、同じでもレベルが高いって可能性もあるわ。アイリ、鑑定結果どう?」
『ランススケルトン(死霊系モンスターLv28)』
『ソードスケルトン(死霊系モンスターLv26)』
「ううん、レベルも同じ」
そう答えながら、可能性として考えていた予想の一つが当たった事を実感する。
(こっちだった。五層と同じモンスターしか出ないならわざわざ六層には降りない)
そう、愛莉が可能性として予想していたのは、先ほど述べた強い割に実入りの少ないモンスターが出る可能性と、もう一つが五層と同じモンスターしか出ない可能性。そのどちらだった場合も、わざわざ六層へは降りずに五層で狩りをするのは当然の選択だ。
「そうなのね。じゃあ遠慮なく行くわよ!」
そしてまた今日の探索が始まる。いつもと違う所と言えば、恐らくこの階には他の冒険者が居ないという事。昨日までは、探索中も他の冒険者の姿を見かけたりもしたが、もうそれも無いだろう。
これから下へ進むに連れて、クローバーの五人は本当の意味で孤独な戦いになる。だがそれは、彼女達にしか出来ないが故。魔法鞄を持つ彼女達だからこそ、もっとも下へと進めるのだから。
■■■
「ではこちらが今回の買い取り額になります。いつもありがとうございます」
見る者の心を奪うような微笑みを浮かべながら、冒険者ギルドの受付嬢イリアーナがいつものように冒険者に応対している。
「そう言えば聞いたかイリアーナ?クローバーの奴らのとんでもない話をよ」
「それはもしかして、カルズバール迷宮入口でのお話ですか?」
「何だ知ってたのか。いや、俺達もあの場に居たんだけどよーーーー」
それはつい昨日、カルズバール迷宮から帰還したCランク冒険者によって聞かされた話。
クローバーの五人が他の街の冒険者パーティに絡まれた際に見せた、未来の一瞬で別の場所に移動する能力と、リーシャの召喚獣の途轍もない破壊力の攻撃の一部始終。
興奮気味に話す冒険者達と、感心しながら話を聞く冒険者達。その会話が、イリアーナの耳にも届いたのだ。
「あの……クローバーの皆さんはお元気そうでしたか?」
「おう、元気も元気、大元気だったぜ!特にミクとサフィーはな!」
あの二人、特に未来はこのギルド内においてもずば抜けて明るい性格をしている。そして人懐っこいので、男女問わず人気者なのだが、実は男性が苦手で恋人が愛莉というのはクローバーのメンバー以外は知らない。
(そう言えばミクちゃんって、何となくファナに雰囲気似てるのよね)
幼馴染にして、つい先日恋人になったファナ。その天真爛漫さや突き抜けた明るさは、確かに未来と雰囲気が重なる。いや、イリアーナの場合はファナの雰囲気に未来が重なるのだ。
何となくなし崩し的に恋人になった幼馴染だが、気が付くとイリアーナは毎日ファナと仕事終わりに夕食を共にしていた。
そして夕食後は毎日、独り暮らしをしている自分の部屋にファナを招き、毎日彼女と行為に及んでいる。
ファナの細い指先が、熱い舌が、毎晩のようにイリアーナの身体の隅々を、蕩けてしまいそうな程の快感でいっぱいにしてくれる。
昨晩も彼女に何度も絶頂させられ、何度も彼女を絶頂させた。少し目を閉じるだけで、その時の余韻がすぐに押し寄せて来てイリアーナの子宮がキュッとすぼむ。
イリアーナの膣内で愛液が分泌されたその時、イリアーナはハッと我にかえって目を開けた。
(仕事中に何考えてるのよ……)
ふるふると首を振るイリアーナ。こんな場所で、ましてや仕事中に愛液で下着を濡らしてしまったら洒落にならない。香水は付けているが、誰かに愛液の匂いがバレてしまったら、もう受付嬢などーーーー
「おいイリアーナ」
「ひゃう!?」
突然後ろから名前を呼ばれ、思わず変な声が出てしまった。恐る恐る振り返ると、ギルドマスターのオルガノフが訝しげな表情でこちらを見ている。
「何だお前、今の返事は」
「きゅ、急に話し掛けられたから驚いたんですよ………」
「そうか、それは悪かったが………そもそも何で首振ってたんだお前?」
「え……そ、それは……」
まさか昨夜のファナとのエッチを思い出してなどとは口が裂けても言えないイリアーナは、何とかそれらしい理由を考える。
「ク、クローバーの皆さんは元気かなぁ……と」
咄嗟に口から出た言葉だが、嘘ではない。先ほどまでは本当に彼女達の事を頭の隅で考えていた。
もっとも、オルガノフに呼ばれた時のイリアーナの頭の中はファナ一色に染まっていたが。
「あいつらか。まあ、地下八層までは何も心配はしてないが……問題はそれより下の階層だな」
「え………?どういう事ですか?」
「地下九層からは、迷宮の雰囲気がガラリと変わる。出現するモンスターも手強くなるからな」
「そ、そうじゃなくて……何でマスターがそんな事をご存知なんですか!?」
カルズバール迷宮の攻略記録は、この街で唯一のBランクパーティが臨んだ地下八層が最高記録だった筈だ。それなのに何故、オルガノフは地下九層の事を語れるのだろうかと、イリアーナが疑問に思うのも当然だった。
「ここのギルドマスターに就任した時にな、ソロでこっそり潜った事があるんだ。つっても、地下十層で引き返して来たがな」
「ち、地下十層!?」
恐るべき事実である。Bランクのパーティが八層までしか行けなかった迷宮を、ソロで十層まで進んだというのだ。つまりそれは、オルガノフの実力がそれだけ凄いのだという事なのだが、凄いだけでは説明出来ないのは食料事情だ。どんなに強くても、食べる物が無くては先に進む事など出来る筈が無い。
「食事はどうしてらしたんですか!?」
「お前な、これでも俺はAランク冒険者だぞ?魔法鞄ぐらい持ってるに決まってるじゃねぇか」
これもまた衝撃的な事実だった。しかし考えてみれば、Aランク冒険者ともなれば魔法鞄を持っていたとしても不思議ではない。オルガノフの現役時代の事は知らないが、Aランクに上がる為にきっと帝国中を旅したのだろう事は何となく分かる。そんな大冒険をしたのなら、ますます魔法鞄は必須だったに違いない。
「そうなんですか………それならマスターが領主様の依頼をお受けすれば良かったのでは……」
「就任時ならともかく、今の俺が何日もギルドを離れる訳にはいかねえだろ。それにさっきも言ったが、俺は地下十層で引き返して来た。どうも更に下の階層から嫌な気配を感じてな」
「え……それって……クローバーの皆さんは大丈夫なんですか……?」
Aランク冒険者のオルガノフですら引き返そうと思った程の気配。つまりあの迷宮の奥深くには、それほどの何かが居るかもしれないのだ。そんな場所に、いくら強いからといっても少女五人で向かって大丈夫なのだろうかと、思わず心配になるイリアーナ。
「無理だろうな。恐らくあいつらも良くて地下十層止まりだ。あの気配に気付いたら、無理をせずに戻って来るだろう」
「え………それって」
「ああ。この依頼は失敗する。だが、失敗もいい経験になる」
まるで確信するようにそう言い放ったオルガノフの言葉を、何とも言えない表情で受け止めるイリアーナだった。
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