百合JKの異世界転移〜女の子だけのパーティで最強目指します!〜

綾瀬 猫

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皇女との邂逅の章

176.皇女からリズへ

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「あとはあの二人だけだね!」


 未来の働きによって、何とか互いの名を呼び合う事が出来るようになったエストとリズ。そんな未来が、円卓の席に座っているリーシャとサフィーを見ながら、いつもの調子で元気良く声を上げる。

 
「………え?」
「は………?」


 この部屋に入った時から、まるで置物のように固まっていた二人だが、今は口をあんぐりと開きながら固まっている。


「だーかーらー、二人だってリズっちの仲間になるんだから呼び捨てとか当たり前じゃん?」
「ミ、ミク……?あなた本気で言っているの……?」
「で……出来る訳無いでしょ!?相手は皇女様なのよ!?」


 ただでさえ権力者に弱いリーシャとサフィーだが、それでも今までは何とかなって来た。
 ファルディナの街の領主アルディオは人格者だったし、エストの実家でもある辺境伯家の人々はとても好意的で、最初こそ緊張したがいつの間にか仲良くなる事が出来た。
 だが、今回だけは相手が悪すぎる。相手はこの国の第一皇女、正真正銘のお姫様なのだ。本来であれば、こうして同じ部屋に居る事自体が有り得ない存在なのに、何の冗談か同じパーティになり、更には名前で呼ぶなど天地がひっくり返っても有り得ない。


「出来るよー、あたしも愛莉もエストも出来たんだから」
「エ、エストは大貴族の娘さんだもの。それに皇女様とは古い仲みたいだし……わたしやサフィーとは違うわ………」
「ミクとアイリに至っては違う世界から来たんでしょ!?何て言えばいいのか分からないけど………あたし達庶民とは少し違う存在じゃない!」


 二人の言い分はこうだ。エストは辺境伯家の娘で、リズとは知己の間柄。なので今さら呼び捨てにしても、さほど問題も違和感もない。
 そして未来と愛莉の場合は、そもそもこの世界の人間では無い。つまり帝国人では無いので皇族に対して必要以上に敬う必要も無いのだと。
 対して自分達は生粋の帝国人で、生粋の庶民。更には超が付くほど田舎者というトリプルコンボ炸裂である。
 皇女など雲の上の存在であり、こうして同じ時を過ごしている事自体、身に余る光栄なのだ。


「むー……なかなかしぶとい……」
「しぶといのはあんたよ!いい加減に諦めーーーー」
「上に立つ者、驕るべからず。常に平民と共にあるべし」


 サフィーが言い終わる前に、突然リズが謎の一文を口ずさむ。


「ふふ、急にごめんなさい。これはこの帝国の創始者でもある初代皇帝が残した言葉なの」


 呆けたようにリズを見るリーシャとサフィー。そんな二人の視線を受けて、リズが更に話を続ける。


「皇族ってね、別に偉くないの。皇家や貴族が存在していられるのは、この国で暮らす全ての人のお陰。一人一人が毎日一生懸命働いてくれるから、元気に暮らしてくれているから、わたし達も存在していられるの。だから本当に偉いのは毎日働いてくれている全ての人達。そういう意味では、お父様とお母様はこの国の為に毎日懸命に働いてくれているから、偉いのかもしれないけど、わたしなんて別にこの国に何か貢献している訳でも無いし、きちんと働いている訳でも無いから偉くないの」


 それは以前、エストも同じような事を言っていた。偉いのは街の人達の為に働いている父と母、それを陰ながら助けている兄と姉だと。自分は好き勝手に家を飛び出して来た身なので、偉くもなんとも無いのだと。
 

「改めて自己紹介するね。わたしはリズリット・フォン・アルフォリア。貴女達のお名前も聞かせてくれる?」


 リズがそう言って微笑むと、リーシャとサフィーは急いで立ち上がり、直立不動の状態で自己紹介をする。


「リ、リーシャと申します!職業は召喚士です!」
「サ、ササ、サフィーです!魔道士です!光栄です皇女様!」
「あはは……その……出来ればミクの言う通り”リズ”って呼んでくれると嬉しいのだけど……」


 何となく困った表情を浮かべながらリズがそう言うも、リーシャとサフィーは「とんでもない!」と言って首を横に振る。すると、リズはくるりと身を翻し、後ろで手を組みながら天井を見上げてポツリと呟いた。


「わたしね……今まで何処へ行っても誰に会っても皇女様とか、姫様としか呼ばれた事が無いの。それはそれで仕方ないとは思っているのだけど……」


 そこで一旦言葉を切り、今度は未来、愛莉、エストの顔を順番に見回す。


「さっきね、家族以外の誰かに初めてリズって呼ばれて………凄く不思議な気持ちだった。この感情を何て表現したらいいのか自分でもよく分からないけど………きっと凄く嬉しいのだと思う。心が弾むような、それでいて心地よさが胸の奥から込み上げて来て、幸せだなって感じたの」


 リズとエストの視線が交差する。エストは恥ずかしそうな表情を浮かべながらも、口元は嬉しそうに緩んでいた。


「せっかくこんなに素敵なパーティに入る事が出来たんだもの」


 そう言いながら、リーシャに近づくリズ。そしてリーシャの前に立つと、リーシャの両手をギュッと握った。


「ひあっ!?」


 突然の事に驚くリーシャ。間近で見るリズはとても美しくて、思わず赤面しながらも見惚れてしまう。


「ね、リーシャお願い。リズって呼んでくれる?」
「そ、そそそれは………」
「皇女様……なんて呼ばれたら、わたしだけ仲間外れみたいな気持ちになるもの」


 そう言われてハッ!と口を開けるリーシャ。確かに言われてみれば、これから同じパーティで行動を共にするのに、いちいち『皇女様』と呼ばれて崇め奉られては、リズの方も嫌な気持ちになるだろう事は容易に予想出来る。
 それは彼女を孤独へと追いやり、彼女の心を傷付ける事に他ならない。本当に目の前の皇女を思うのであれば、本人の希望する通りに接する方が良いと気付いたのだ。


「わ……分かりました……その……リ……リズ……」

 
 緊張、畏怖、恥ずかしさ、色々な感情が渦巻く中、何とか絞り出すようにリズの名を呼ぶリーシャ。背中にはじっとりと汗が流れ、顔は熱いのに背筋は冷たい。
 いくら本人の願いとは言え、本当に自分の如き庶民が皇女を愛称で呼ぶなど許されるのか?そう思っていた矢先、リズが嬉しそうに顔を綻ばせながら、握っていた手に少し力を込めて更に強く握って来た。


「嬉しい……でも敬語なの……?」
「そ、それはその……も、もう少し仲良くなるまでは………」


 仲良く。自分で言っておきながら、何だが途轍もない事を言ってしまった気持ちになる。だがそんなリーシャとは裏腹に、リズはゆっくりと首を縦に振りながら、納得の表情を浮かべた。


「うん。今はそれで大丈夫。エ、エストも……まだ敬語だし」


 何故かエストと呼ぶ時だけ少し口ごもるのは、やはりリズ自身恥ずかしいからだ。だが、お互いこの恥ずかしさが無くなった時、初めて本当の仲間になれる気がする。


「は、はい!改めまして宜しくお願いします!その………リズ………」
「うん!宜しくねリーシャ!」


 これで一人。そしてリーシャから手を放したリズは、最後の一人の元へと歩み寄る。その最後の一人は次は自分の番だと分かっていたのか、既に及び腰なのが隣の席に座っている愛莉にもよく分かった。


「サフィー」


 リーシャの時同様、いきなりサフィーの手を握るリズ。当然、サフィーは「ひいっ!」と短い悲鳴を上げる。


「えっと……そんなに驚く事……?」
「だ、だだだって!あ、あたしなんかの手を………!」
「ふふ、サフィーの手はとても温かいのね。凄く優しい人なんだって、伝わって来るよ」
「そ、そんな事は………」


 何故かいきなり褒められてしまって混乱するサフィー。だが内心ではーーーーー


(うわわっ!手、握られてる!すっごいスベスベしてるし温かいし、指細いし!)


 と、感情が色々と散らかってしまっている。


「サフィーも……リズって呼んでくれる?」
「うっ……そ、それは………」


 無意識なのだろうが、懇願するように少しだけ首を傾げるリズの仕草は、本人の美貌も相まってあまりにも可愛過ぎた。流石にこれはズルいと思いつつも、先ほどリズが使った仲間外れという言葉は、サフィーにも少なからず響いていた。

 リーシャと二人、故郷の村からファルディナの街へ出てきて冒険者になった後、先輩のCランク冒険者達からは親切にされたが、スナイプ達を始めとする同期の者達からは、いつまでもランクアップ出来ない事で嘲笑を受けていた。
 思えば、あれは自分とリーシャだけが仲間外れにされていたような状況で、何度も悔しくて悲しい思いをしたのだ。だからこそ、自分は絶対にそういう事はしたくないと思っている。


「わ……分かった………リズって呼ぶわ」


 我ながら声が震えているのが自分でも分かったが、サフィーははっきりとそう答えた。そして愛称で呼ぶと決めた以上、敬語も無しだ。同じパーティの仲間同士、これから先ギクシャクはしたくない。


「うん!宜しくねサフィー!」


 そんなサフィーの答えが嬉しかったのか、リズは笑顔を弾ませる。そんな二人を見ながら、未来も愛莉もリーシャもエストも、笑顔を浮かべるのだった。




※全員何とかリズと呼ぶ事が出来たという事で、今回から『リズリット』では無く『リズ』と表記しています。このままリズリット表記だと、エストも『エストリア』と表記しないとおかしいという、作者の変なこだわりです(笑)
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