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皇女との邂逅の章
183.さあ始めよう
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リズとバルムンクの話が一通り済み、これで終わりかと思いきや回復術士のリュアーネがクローバーの皆を見ながら口を開く。
「もしかしてクローバーの皆さんですか?」
桃色の髪の美女。そんなリュアーネの顔、声を見聞きした男性冒険者達の何人かが頬を薄く染める。
「今日も綺麗だな………」
「ああ……『大聖女』の名に恥じないな……」
彼女リュアーネは、ツヴァイフェッターの回復術士。そもそもの数が少ない回復術士は、何処のパーティでも貴重で優遇される存在だが、このリュアーネはそんな回復術士の中でも頂点に立つ存在。
見た目の美しさと、目の前に怪我や病気で苦しんでいる者が居れば、率先して回復魔法を行使し、人々を助ける彼女に付いた名が『大聖女』である。
性格はとにかく正義感と慈愛に溢れ、今までの人生で人を憎んだ事が一度も無い。そんなリュアーネがクローバーの少女達に優しい声音で声を掛ける。
「あ、はい。そうですけど」
「ふふ、皆さんとても可愛らしくて、若くて、才能に溢れていると聞きました。一度会いたいなと思っていたので、こうして会えたのは僥倖です」
そう言ってニッコリと笑顔を浮かべるリュアーネ。その笑顔は本当に綺麗で、裏表があるようにも思えない。
「んー、お姉さんめっちゃ美人だね!あっ、そっちのお姉さんも凄い美人だし、ってか強そう!」
リーダーの座は愛莉に譲ったが、クローバーの切込み隊長であり、誰にでもフレンドリーに接する事が出来る、ある意味特殊能力を持つ未来がリュアーネとミルファに話し掛ける。
「ふふぅ、こんな可愛い娘に美人なんて言われると照れちゃうな~。ね、ミルファ?」
「………そう?わたしは別に………」
思いっきり喜ぶリュアーネと、全く興味を示さないミルファ。まさに動と静、異なるタイプの美女が二人。
「なるほど、君たちが噂のクローバーだね。申し遅れたけど、僕たちはツヴァイフェッター。以後、お見知りおきを」
リュアーネの話に割って入ったのは、ツヴァイフェッターのリーダーにして”英雄”と呼ばれるバルムンク。爽やかな笑顔を浮かべているが、その身体の内から感じる威圧感は、この五人の中では一番大きい。
「あ、よろーーーー」
「おいお前ら、そんな雑魚共なんか放っとけ」
未来がバルムンクに挨拶を返そうとしたその時、そう言い放ったのは赤い髪の男。
はっきり『雑魚』と言われて、思わず頭に来たのはサフィー。赤い髪の男を見上げて、キッと睨みつける。
「あ?なんだ小娘、なんか文句あんのか?」
「……………」
睨みつけるまでは良かったが、相手は圧倒的な威圧感を放っている相手。はっきり言って絶対に勝てないし、そもそも冒険者同士の戦闘はご法度だ。
「やめておけゼレット。我らツヴァイフェッターが弱い者イジメなどと、無様な醜態を晒すな」
赤い髪の武闘家ゼレットを止めたのは、魔道士のラギア。だが『雑魚共』に続き今度は『弱い者イジメ』。完全にクローバーを下に見ているその発言に、サフィーの怒りは頂点に達する。
「ちょっとあんた達ね!さっきから好き放題言ってーーーー」
「はいはいはーーい!サフィーちょっとストップストップ!」
「ふがふがっ!ふんへほへふほほ!ふはふぃふふぁふぃほ!!?」
未来に口を押さえられているので、何を言っているのか良く分からない。しかし端から見ると、黒髪の美少女が紫色の髪の美少女の口を手で押さえ、口を押さえられた美少女が「ふがふが」言っているという、何とも不思議な絵面だった。ある意味ではマニアックな光景と言えなくも無い。
「ははは、すまないね。彼らは少しだけ口が悪くてね」
バルムンクが笑顔を絶やさずに、謝罪の言葉を発する。
「本当、ごめんなさいね。口が悪い人達で」
回復術士リュアーネも謝罪の言葉を口にする。だが二人ともーーーーー
(雑魚とか弱い者とか……否定はしないんだ。まあ当然なんだろうけど)
そう、ゼレットとラギアの言った事を謝罪こそすれ、否定は一切しない。つまり友好的に見えるこの二人も、内心では同じ事を思っているのだと愛莉は確信する。
「わたし達これから用事があるので失礼します。ほら、行こうみんな」
更に事態がこじれる前に退散を決め込む愛莉。険悪な雰囲気になりつつあると悟ったリーシャとエストも愛莉に続く。未来もサフィーの口を押さえながら「あはは」と笑いながら後ずさる。そしてもちろんリズも、皆の後に続く。
そんなクローバーの背中に向かって、バルムンクが言葉を投げかけた。
「クローバーの諸君、どうやら君達は期待されているみたいだよ。なのでくれぐれも殿下に怪我を負わせないようにね」
一瞬足を止めるクローバーの六人。だが、振り返らずにそのまま立ち去る。
「はっ!なんだありゃ、陛下が気に入ったなんて言うからどんなモノかと思えば……あんなもんかよ!?」
「我も楽しみにしていたのだがな。あの程度の冒険者なら他にも居る」
「だからわたしは最初から言ってたわ。興味が無いって」
「ふふぅ、でもあの年齢にしては頑張っていると思うわよ?」
それぞれが口々にクローバーへの評価を述べる。だが残念ながら、彼らの中では及第点にすら届いていないらしい。
「あんなのガキのままごとだぜ。皇女様も結局、ままごと遊びがしたかっただけってか?」
「口を慎めゼレット。相手は皇女様だ」
周りに居る冒険者達にも彼らの会話は聞こえている。だが、この圧倒的強者達の会話に口を挟める者は誰も居ない。自分達よりも確実に強い、Aランクパーティのクローバー。そのクローバーを、遥か上から見下ろせる実力を持つツヴァイフェッターは、やはり途轍もないパーティだと再認識したから。
”英雄”バルムンク
”剣聖”ミルファ
”破壊王”ゼレット
”魔導大帝”ラギア
”大聖女”リュアーネ
もっともSランクに近いと言われる帝国最強のパーティ。そんなパーティのリーダーである英雄バルムンクはーーーー
「彼女達の噂がどの程度、僕達の耳に入るのかお手並み拝見といこうか」
そう呟き、冷たく微笑むのだった。
■■■
往来をゆく人々が、思わず立ち止まって振り返る。
往来をゆく人々が、声を掛けようとして立ち止まる。
だが、結局は誰も声を描けられない。噂で、あれがクローバーなのだとすぐに気付いた。そのクローバーの中には、第一皇女のリズも居る。一言でいいから、声を掛けたい。話をしてみたい。だがーーーーー
「ほんっと腹立つわね!こんなにムカついたのはスナイプ達以来よ!」
物凄く不機嫌そうな紫色の髪の美少女。あれはクローバーの魔道士なのだと、容姿と服装で気付く。
他の面々も、なにやら神妙な面持ちで歩いている。そのせいで、誰も彼女達に声を描けられない。そんな雰囲気では無いのがヒシヒシと伝わるのだ。
「まあ、最後のあれは結構カチンと来たよねー」
普段、何かに対して苛立ったり怒ったりする事などほとんど無い未来ですら、バルムンクが放った最後の一言には思う所があったようだ。
「そうよね~……あれは無いわよね~」
「うん……ちょっと酷いと思った……」
リーシャも、そしてエストですら腹に据えかねているらしい。
そんな中、リズが何とか皆をなだめようと、努めて明るく口を開く。
「た、多分彼らにも悪気があった訳では無いと思うの。確かに言われた事は看過出来るものでは無かったと思うけれど……あまり気にしない方がーーーー」
「いやいや!リズっちが一番怒っていい立場だよ!?」
「………え?」
どういう事だろうか。てっきり『雑魚共』や『弱い者』という言葉に憤っているのかと思っていたのだがーーーーーー、いや違う。先ほど未来は「最後のあれは結構カチンと来た」と言っていた。つまり、彼女達が立腹しているのは、バルムンクが最後に放った一言が原因。
(えーと……確か……)
ーークローバーの諸君、どうやら君達は期待されているみたいだよ。なのでくれぐれも殿下に怪我を負わせないようにね
(だよね、確か。これの何処にみんなが……それにわたしが憤る部分があるの?)
考えてみたが分からないリズ。そんなリズを見て、愛莉が説明する。
「あれって、リズは守る対象だって言われたのと同じだよ」
「………え?」
守る対象?
「つまり、戦闘の頭数に入れてないの。リズがあの人達のパーティに入ったら、きっと戦闘はあの人達だけで戦ってリズは守られるだけの存在になったと思う」
思わず愕然とするリズ。なんだそれは?それではただ護衛されるだけの存在ではないか。
そんなのがパーティだと言えるのだろうか?そんなので、胸を張ってパーティメンバーだと言えるだろうか?
答えは否だ。そんなのは仲間でもなんでも無い。パーティとは、仲間を守り、時には自分も守られ、そうやって苦楽を共にする存在だ。ただ守られるだけの存在など、パーティには必要ない。
「そんなの……」
嫌だ。そんな事の為に冒険者になったのでは無い。むしろ率先して戦い、強くなって、死霊王と対峙しなければならない。この手で死霊王を倒す事こそが、皇家一族の悲願。決して自分だけ守られて人任せにして良い事では無い。
「さっきギルドでも言ったけど、わたしはリズを信じてるから」
「え………?」
「あたしもあたしも!まだリズっちの実力は知らないけど、一緒に戦ってバンバン魔物とか倒して、グングン強くなろーね!」
「ミク……アイリ………」
二人の黒髪少女の言葉が胸に突き刺さる。守る対象では無く、一緒に戦おうと言ってくれる二人。守られるべき皇女ではなく、ちゃんと一人の冒険者、仲間として接してくれている。
「ふふ、わたしも期待してますからねリズ。一緒に強くなりましょうね」
「リーシャ………」
「危険な時は全力で助けるわ。でも……時には背中を預けるから……わたしの事も守ってよね」
「サフィー………」
昨夜はあんなにガチガチだった二人。でも今は………心を通わせようとしてくれている。
「わたしも全力でお守りします」
「エスト……」
「でも……守られるだけでは無く仲間を守りたい。そうですよね………リズちゃん?」
リズちゃん。気のせいか今のは言い淀む事無く、とても自然な感じで呼んでくれたように聞こえた。それだけで、リズは嬉しくて仕方ない。
「………うん!こう見えてわたし、結構強いんだから!」
涙が後から後から溢れ出て来る。ああ、これが仲間。皇女だからと特別扱いせず、お互い命を預け合う真の仲間。
ずっとそんな仲間が欲しかった。忖度されるのではなく、持ち上げられるのではなく、畏怖されるのではなく、何でも言い合えて、どんな事でも一緒に乗り越えてゆける、そんな仲間をずっと渇望していた。そんな存在をずっと望んでいた。
「あっははは!早くリズっちが戦うトコ見てみたいなー!」
「待って未来。その前にやる事たくさんあるから」
「そうよね~。先ずはこれからの予定を決めなくてはね~」
「そうね。何から始めるのか、先ずはそれを決めなくちゃね」
「えっと……差し当たっては今夜泊まる所とか……?」
そんな会話を始めるクローバーの少女達。そんな皆を見ながら、リズは感慨深げにポツリと呟く。
「わたし……クローバーに入れて……みんなと一緒のパーティになれて……本当に良かったって改めて思った」
溢れる涙の潮流が止まらない。人前で泣くのなんて、家族以外の誰かの前で泣くのなんて、これが初めてだった。
だがその顔は心底嬉しそうで、とても輝いていた。だからこそ、皆はリズに向かってこう言う。
『クローバーへようこそ!!』
今この瞬間から六人に増えた新生クローバーが、女神アルテナが選んだ六人の少女達が、死霊王打倒に共に向けて歩き出すのだったーーーーーー
※皇女との邂逅の章、これにて終わりです。本当はこれから現れる中ボス的な強敵と戦うまで書こうと思っていたのですが、あまりにも長くなり過ぎるので一旦切ります。リズの能力とエクストラスキルについては次章で判明しますのでお待ちくださいませ。
次話から閑話を五話ほど投稿します。その後に次章ですが、作者の構想ではあと二章で物語終了です。
この手のファンタジーは、話を作れば結構いつまでも連載出来るのですが、あまり間延びするのは好きじゃないし、完走したいのでラストに向けて舵取りします。とは言え、残り二章はかなり長くなりそうなので………作者の仕事の忙しさにも左右されますが、今年の秋ぐらい(遅くとも今年中)には完結出来ればいいなと思っています。どうぞ完結まで、お付き合い頂けたら幸いです。
「もしかしてクローバーの皆さんですか?」
桃色の髪の美女。そんなリュアーネの顔、声を見聞きした男性冒険者達の何人かが頬を薄く染める。
「今日も綺麗だな………」
「ああ……『大聖女』の名に恥じないな……」
彼女リュアーネは、ツヴァイフェッターの回復術士。そもそもの数が少ない回復術士は、何処のパーティでも貴重で優遇される存在だが、このリュアーネはそんな回復術士の中でも頂点に立つ存在。
見た目の美しさと、目の前に怪我や病気で苦しんでいる者が居れば、率先して回復魔法を行使し、人々を助ける彼女に付いた名が『大聖女』である。
性格はとにかく正義感と慈愛に溢れ、今までの人生で人を憎んだ事が一度も無い。そんなリュアーネがクローバーの少女達に優しい声音で声を掛ける。
「あ、はい。そうですけど」
「ふふ、皆さんとても可愛らしくて、若くて、才能に溢れていると聞きました。一度会いたいなと思っていたので、こうして会えたのは僥倖です」
そう言ってニッコリと笑顔を浮かべるリュアーネ。その笑顔は本当に綺麗で、裏表があるようにも思えない。
「んー、お姉さんめっちゃ美人だね!あっ、そっちのお姉さんも凄い美人だし、ってか強そう!」
リーダーの座は愛莉に譲ったが、クローバーの切込み隊長であり、誰にでもフレンドリーに接する事が出来る、ある意味特殊能力を持つ未来がリュアーネとミルファに話し掛ける。
「ふふぅ、こんな可愛い娘に美人なんて言われると照れちゃうな~。ね、ミルファ?」
「………そう?わたしは別に………」
思いっきり喜ぶリュアーネと、全く興味を示さないミルファ。まさに動と静、異なるタイプの美女が二人。
「なるほど、君たちが噂のクローバーだね。申し遅れたけど、僕たちはツヴァイフェッター。以後、お見知りおきを」
リュアーネの話に割って入ったのは、ツヴァイフェッターのリーダーにして”英雄”と呼ばれるバルムンク。爽やかな笑顔を浮かべているが、その身体の内から感じる威圧感は、この五人の中では一番大きい。
「あ、よろーーーー」
「おいお前ら、そんな雑魚共なんか放っとけ」
未来がバルムンクに挨拶を返そうとしたその時、そう言い放ったのは赤い髪の男。
はっきり『雑魚』と言われて、思わず頭に来たのはサフィー。赤い髪の男を見上げて、キッと睨みつける。
「あ?なんだ小娘、なんか文句あんのか?」
「……………」
睨みつけるまでは良かったが、相手は圧倒的な威圧感を放っている相手。はっきり言って絶対に勝てないし、そもそも冒険者同士の戦闘はご法度だ。
「やめておけゼレット。我らツヴァイフェッターが弱い者イジメなどと、無様な醜態を晒すな」
赤い髪の武闘家ゼレットを止めたのは、魔道士のラギア。だが『雑魚共』に続き今度は『弱い者イジメ』。完全にクローバーを下に見ているその発言に、サフィーの怒りは頂点に達する。
「ちょっとあんた達ね!さっきから好き放題言ってーーーー」
「はいはいはーーい!サフィーちょっとストップストップ!」
「ふがふがっ!ふんへほへふほほ!ふはふぃふふぁふぃほ!!?」
未来に口を押さえられているので、何を言っているのか良く分からない。しかし端から見ると、黒髪の美少女が紫色の髪の美少女の口を手で押さえ、口を押さえられた美少女が「ふがふが」言っているという、何とも不思議な絵面だった。ある意味ではマニアックな光景と言えなくも無い。
「ははは、すまないね。彼らは少しだけ口が悪くてね」
バルムンクが笑顔を絶やさずに、謝罪の言葉を発する。
「本当、ごめんなさいね。口が悪い人達で」
回復術士リュアーネも謝罪の言葉を口にする。だが二人ともーーーーー
(雑魚とか弱い者とか……否定はしないんだ。まあ当然なんだろうけど)
そう、ゼレットとラギアの言った事を謝罪こそすれ、否定は一切しない。つまり友好的に見えるこの二人も、内心では同じ事を思っているのだと愛莉は確信する。
「わたし達これから用事があるので失礼します。ほら、行こうみんな」
更に事態がこじれる前に退散を決め込む愛莉。険悪な雰囲気になりつつあると悟ったリーシャとエストも愛莉に続く。未来もサフィーの口を押さえながら「あはは」と笑いながら後ずさる。そしてもちろんリズも、皆の後に続く。
そんなクローバーの背中に向かって、バルムンクが言葉を投げかけた。
「クローバーの諸君、どうやら君達は期待されているみたいだよ。なのでくれぐれも殿下に怪我を負わせないようにね」
一瞬足を止めるクローバーの六人。だが、振り返らずにそのまま立ち去る。
「はっ!なんだありゃ、陛下が気に入ったなんて言うからどんなモノかと思えば……あんなもんかよ!?」
「我も楽しみにしていたのだがな。あの程度の冒険者なら他にも居る」
「だからわたしは最初から言ってたわ。興味が無いって」
「ふふぅ、でもあの年齢にしては頑張っていると思うわよ?」
それぞれが口々にクローバーへの評価を述べる。だが残念ながら、彼らの中では及第点にすら届いていないらしい。
「あんなのガキのままごとだぜ。皇女様も結局、ままごと遊びがしたかっただけってか?」
「口を慎めゼレット。相手は皇女様だ」
周りに居る冒険者達にも彼らの会話は聞こえている。だが、この圧倒的強者達の会話に口を挟める者は誰も居ない。自分達よりも確実に強い、Aランクパーティのクローバー。そのクローバーを、遥か上から見下ろせる実力を持つツヴァイフェッターは、やはり途轍もないパーティだと再認識したから。
”英雄”バルムンク
”剣聖”ミルファ
”破壊王”ゼレット
”魔導大帝”ラギア
”大聖女”リュアーネ
もっともSランクに近いと言われる帝国最強のパーティ。そんなパーティのリーダーである英雄バルムンクはーーーー
「彼女達の噂がどの程度、僕達の耳に入るのかお手並み拝見といこうか」
そう呟き、冷たく微笑むのだった。
■■■
往来をゆく人々が、思わず立ち止まって振り返る。
往来をゆく人々が、声を掛けようとして立ち止まる。
だが、結局は誰も声を描けられない。噂で、あれがクローバーなのだとすぐに気付いた。そのクローバーの中には、第一皇女のリズも居る。一言でいいから、声を掛けたい。話をしてみたい。だがーーーーー
「ほんっと腹立つわね!こんなにムカついたのはスナイプ達以来よ!」
物凄く不機嫌そうな紫色の髪の美少女。あれはクローバーの魔道士なのだと、容姿と服装で気付く。
他の面々も、なにやら神妙な面持ちで歩いている。そのせいで、誰も彼女達に声を描けられない。そんな雰囲気では無いのがヒシヒシと伝わるのだ。
「まあ、最後のあれは結構カチンと来たよねー」
普段、何かに対して苛立ったり怒ったりする事などほとんど無い未来ですら、バルムンクが放った最後の一言には思う所があったようだ。
「そうよね~……あれは無いわよね~」
「うん……ちょっと酷いと思った……」
リーシャも、そしてエストですら腹に据えかねているらしい。
そんな中、リズが何とか皆をなだめようと、努めて明るく口を開く。
「た、多分彼らにも悪気があった訳では無いと思うの。確かに言われた事は看過出来るものでは無かったと思うけれど……あまり気にしない方がーーーー」
「いやいや!リズっちが一番怒っていい立場だよ!?」
「………え?」
どういう事だろうか。てっきり『雑魚共』や『弱い者』という言葉に憤っているのかと思っていたのだがーーーーーー、いや違う。先ほど未来は「最後のあれは結構カチンと来た」と言っていた。つまり、彼女達が立腹しているのは、バルムンクが最後に放った一言が原因。
(えーと……確か……)
ーークローバーの諸君、どうやら君達は期待されているみたいだよ。なのでくれぐれも殿下に怪我を負わせないようにね
(だよね、確か。これの何処にみんなが……それにわたしが憤る部分があるの?)
考えてみたが分からないリズ。そんなリズを見て、愛莉が説明する。
「あれって、リズは守る対象だって言われたのと同じだよ」
「………え?」
守る対象?
「つまり、戦闘の頭数に入れてないの。リズがあの人達のパーティに入ったら、きっと戦闘はあの人達だけで戦ってリズは守られるだけの存在になったと思う」
思わず愕然とするリズ。なんだそれは?それではただ護衛されるだけの存在ではないか。
そんなのがパーティだと言えるのだろうか?そんなので、胸を張ってパーティメンバーだと言えるだろうか?
答えは否だ。そんなのは仲間でもなんでも無い。パーティとは、仲間を守り、時には自分も守られ、そうやって苦楽を共にする存在だ。ただ守られるだけの存在など、パーティには必要ない。
「そんなの……」
嫌だ。そんな事の為に冒険者になったのでは無い。むしろ率先して戦い、強くなって、死霊王と対峙しなければならない。この手で死霊王を倒す事こそが、皇家一族の悲願。決して自分だけ守られて人任せにして良い事では無い。
「さっきギルドでも言ったけど、わたしはリズを信じてるから」
「え………?」
「あたしもあたしも!まだリズっちの実力は知らないけど、一緒に戦ってバンバン魔物とか倒して、グングン強くなろーね!」
「ミク……アイリ………」
二人の黒髪少女の言葉が胸に突き刺さる。守る対象では無く、一緒に戦おうと言ってくれる二人。守られるべき皇女ではなく、ちゃんと一人の冒険者、仲間として接してくれている。
「ふふ、わたしも期待してますからねリズ。一緒に強くなりましょうね」
「リーシャ………」
「危険な時は全力で助けるわ。でも……時には背中を預けるから……わたしの事も守ってよね」
「サフィー………」
昨夜はあんなにガチガチだった二人。でも今は………心を通わせようとしてくれている。
「わたしも全力でお守りします」
「エスト……」
「でも……守られるだけでは無く仲間を守りたい。そうですよね………リズちゃん?」
リズちゃん。気のせいか今のは言い淀む事無く、とても自然な感じで呼んでくれたように聞こえた。それだけで、リズは嬉しくて仕方ない。
「………うん!こう見えてわたし、結構強いんだから!」
涙が後から後から溢れ出て来る。ああ、これが仲間。皇女だからと特別扱いせず、お互い命を預け合う真の仲間。
ずっとそんな仲間が欲しかった。忖度されるのではなく、持ち上げられるのではなく、畏怖されるのではなく、何でも言い合えて、どんな事でも一緒に乗り越えてゆける、そんな仲間をずっと渇望していた。そんな存在をずっと望んでいた。
「あっははは!早くリズっちが戦うトコ見てみたいなー!」
「待って未来。その前にやる事たくさんあるから」
「そうよね~。先ずはこれからの予定を決めなくてはね~」
「そうね。何から始めるのか、先ずはそれを決めなくちゃね」
「えっと……差し当たっては今夜泊まる所とか……?」
そんな会話を始めるクローバーの少女達。そんな皆を見ながら、リズは感慨深げにポツリと呟く。
「わたし……クローバーに入れて……みんなと一緒のパーティになれて……本当に良かったって改めて思った」
溢れる涙の潮流が止まらない。人前で泣くのなんて、家族以外の誰かの前で泣くのなんて、これが初めてだった。
だがその顔は心底嬉しそうで、とても輝いていた。だからこそ、皆はリズに向かってこう言う。
『クローバーへようこそ!!』
今この瞬間から六人に増えた新生クローバーが、女神アルテナが選んだ六人の少女達が、死霊王打倒に共に向けて歩き出すのだったーーーーーー
※皇女との邂逅の章、これにて終わりです。本当はこれから現れる中ボス的な強敵と戦うまで書こうと思っていたのですが、あまりにも長くなり過ぎるので一旦切ります。リズの能力とエクストラスキルについては次章で判明しますのでお待ちくださいませ。
次話から閑話を五話ほど投稿します。その後に次章ですが、作者の構想ではあと二章で物語終了です。
この手のファンタジーは、話を作れば結構いつまでも連載出来るのですが、あまり間延びするのは好きじゃないし、完走したいのでラストに向けて舵取りします。とは言え、残り二章はかなり長くなりそうなので………作者の仕事の忙しさにも左右されますが、今年の秋ぐらい(遅くとも今年中)には完結出来ればいいなと思っています。どうぞ完結まで、お付き合い頂けたら幸いです。
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