百合JKの異世界転移〜女の子だけのパーティで最強目指します!〜

綾瀬 猫

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最終章

257.ド忘れ

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 執事に案内された部屋へと通されると、そこには既に皇帝アルベルトと、何故かグランドマスターのマディアスまで椅子に座っていた。


「来たか」
「只今参りましたお父様、マディアス様」


 代表してリズがアルベルトとマディアスに挨拶をする。もちろん未来たち五人もスッと頭を下げる。


「わざわざすまぬな。特にアイリは昨日までの魔車作りで疲れておる所を」
「あ、いえ、大丈夫です」


 疲れている者が、恋人と一日中行為に及ぼうとはしない。つまり愛莉は別に疲れてはいない。


「それでお父様、今日のご用はどのようなものでしょうか?マディアス様までご同席しているという事は……やはり死霊王の?」


 リズは自分で言っておきながら、死霊王関連の用事であれば、クローバーだけ呼ばれた理由が分からなかった。死霊王討伐に向かうのは、クローバー以外にもツヴァイフェッターやプリュフォールといった、六組のパーティである。それならばクローバーだけではなく、討伐に向かう者全員を呼ぶべきでは?と考えたからだ。


「ふむ……もちろん死霊王に関係している事なのだが、今回の用事に関してはクローバー限定の用事になる」


 アルベルトの言葉に顔を見合わせるクローバーの少女達。死霊王に関係していて、クローバー限定の用事であり、目の前には皇帝とグランドマスター。この時点で今日の用事の内容を察しているのは、実は愛莉だけだった。


「アイリは既に気づいているって顔をしているね」


 マディアスがいつもの優雅な微笑み浮かべながら、愛莉に視線を合わせる。


「はぁ……まぁ、この何日か気になってましたから」
「ははは、すまないね。忘れていた訳では無いのだけど、君の魔車作りの邪魔をしたくないと陛下と話し合ってね、魔車作りが終わってからにしようと言う事になったんだ」


 全てを察している愛莉が、マディアスとそんな会話を交わす。だが話に着いていけていない他の五人は、しきりに首を傾げている。


「あのー、マディアスさん達だけで納得してないで、あたし達にも分かるように教えて欲しいんですけど」


 未来がもっともな意見を述べると、マディアスは「ごめんごめん」と言い、咳払いを一つした。


「以前君たちに話した内容だけどね、殿下も陛下から聞いていると思うんだけど」


 誰もが真剣な表情を浮かべてマディアスを見つめる。


「以前話した『旧暦封書』の事は覚えているかい?」


 愛莉以外の五人が「あっ」と小さく溢す。

 
 『旧暦封書』とは、旧暦と呼ばれる時代に書かれた一冊の本であり、冒険者としての最高峰であるSランク冒険者にしか閲覧を許されていない封書である。
 内容はこの世界の真実である女神アルテナの事や、死霊王の事などについて書かれた本。クローバーがSランク冒険者を目指すきっかけになったのがその『旧暦封書』なのだが、何故か今の今まで失念していたのは、Sランクになった直後に死霊王が現れたり、愛莉が魔車作りを開始したりなど、突然忙しくなったからである。


「あはは……すっかりド忘れしてたー」
「わたしも……それが目的だった筈なのに不思議よね~」
「忙しかったからよ。仕方ないわよ」
「わたしも……忘れてた……」
「サフィーの言う通り忙しかったものね……主にアイリが……だけど」


 その一番忙しかった愛莉自身は覚えていたのに、他の五人が忘れてるのはどういう事?と、思わずにはいられない愛莉。


「まあ、君たちが忘れていた事はこの際さて置いて、その『旧暦封書』を読む権利をSランク冒険者へとランクアップを果たした君たちに発生した」


 この世界の真実が書かれていると言われている旧暦封書。ついに、その貴重な書物を読む日が来たという事だ。


「旧暦封書は代々、この皇宮にて皇帝が管理して来た」
「え……この皇宮で……ですか?」


 アルベルトの言葉に驚きを隠せないのは、娘のリズである。自分が生まれ育ったこの皇宮、広いとは言えども知らない場所、足を踏み入れた事の無い部屋など一つも存在しない。そんなリズですら、今こうして父に語られるまで、この皇宮でそのような重要な書物を保管していたなど知らなかったのだ。


「では参ろう。着いて来るがよい」


 アルベルトはそう言うと徐ろに椅子から立ち上がる。そして同じタイミングで立ち上がったマディアスと共に、部屋を出て行く。クローバーの六人は慌てて後を追い、二人の後ろから静かに着いて行った。

 部屋を出て、長い廊下を直進したり曲がったりすると、突然目の前に地下への階段が現れた。
 この先が何処につながっているのか、もちろんリズは知っている。そしてやはり、書物を保管しているのだから、この場所しか無いと一人で納得していた。


「リズっち、この先って何があんの?」
「地下書庫。膨大な数の本が保管された、とても大きな書庫なの」


 本というのは保管が難しい。直射日光に当てるのはご法度だし、だからと言って極度に湿度の高い場所も駄目である。
 しかしこの皇宮が誇る地下書庫は、風通しを良くして湿度を下げ、魔道具によって温度も一定に保たれている。もちろん地下なので日光に当たる事も無い。


「ふーん、リズっちは良く行く感じ?」
「うん。本を読むのはとても好きなの。色々な知識を得る事が出来るし、想像力も豊かになるから」


 リズの言葉にもっとも共感したのは愛莉である。愛莉も教科書や参考書以外にも、小説や趣味のDIYの専門書、哲学書、更にはライトノベルや漫画に至るまで、手広く何でも読む。
 専門書や哲学書は知識が広がるし、小説、ライトノベルなどはリズの言う通り想像力が豊かになる。今までの人生で培われたそういった知識や想像力が、この世界で『錬金術』として大いに役立っているのだから、本を読むというのは改めて大切な事だったのだと愛莉自身気付かされた事だ。


「偉いじゃん!あたし、本なんて漫画くらいしか読まないよ」
「漫画?」


 漫画がどういう物なのかをリズに説明する未来。そして何やら感心しているリズと、話を聞いていたリーシャ、サフィー、エスト。
 そうこうしている内に、先頭を歩くアルベルトとマディアスが地下書庫の入口へと辿り着く。
 アルベルトが扉を開くと、古めかしいギギギという小気味良い音が響き、未来達の視界に一面本ばかりの世界が広がる。


「うわぁ……すっごい数の本だね!」
「うん……学校の図書室レベルじゃないね。完全に図書館レベル」


 本という物自体が高価なこの世界において、一つ所にこれだけの数の本が本棚に収まっている光景は、見ていて壮観だ。しかもどの本を見ても装丁がしっかりとしていて、この世界の本に対する価値観が鮮明に伝わって来る。


「すご……ま、魔導書もあるのかしら……」
「あ、うん。わたしは魔法使えないから読んだ事は無いけど、確か向こうの列に魔導書が並んでいたと思う」


 リズの返答を聞き、思わず心が躍るサフィー。未来同様サフィーも本を読む習慣は無いが、魔導書だけは今までに何度も何度も読んで来た。
 故郷の村の魔道士の老婆が持っていた初級の魔導書を譲って貰い、擦り切れるまで読み耽った。つい最近だと自分で買った中級の魔導書をやはり毎日読み耽ったし、エストの実家に立ち寄った際にマクスウェル家から譲って貰った上級の魔導書も、暇さえあれば読んでいる。お陰で一度目の契約で上級魔法の契約に成功したのだ。


「よ、読んでもいいのかしら!?」
「あ、うん。でも後でね?今日ここに来たのは別の理由だから」


 そう、この地下書庫へ来たのは、魔導書を読む為でも物語を読む為でも無い。Sランク冒険者にしか読む事を許されていない『旧暦封書』を読む為だ。


「こっちだ」


 アルベルトがクローバーの皆に声を掛けると、書庫の奥へと歩き出す。そして一番奥に堂々と鎮座する本棚の前で歩みを止めると、目の前の本を何冊か引き抜く。


「お、お父様……!?」


 父アルベルトの突然の行動に、驚きと戸惑いの入り混じった表情を浮かべるリズ。一体この行動にはどんな意味があるのだろうか、そう思っていると、突然アルベルトが自分達の方に振り返った。


「ここを見てみるがいい」


 いきなりそう言われ、皆は互いの顔を見回しながらアルベルトが本を引き抜いた場所を確認する。するとーーーーー


「これは……何かの紋章……?」


 そこには見た事もない紋章のような物が刻まれていた。しかし紋章が刻まれていたのは本棚の背板ではなく、そこだけ背板が取り外されていて、後ろの壁が剥き出しになっているその壁に、紋章は刻まれていた。


「マディアス」
「ええ、分かってますよ」


 アルベルトがマディアスに何事かを促すと、マディアスは自分の懐に手を入れたのだった。



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