【R18】女騎士ゆきの憂鬱

牧村燈

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第4章 女騎士と王女

4-7 レッドカーペット

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「ようやく本命がかかりましたね、マラダイ王子。乾杯といきましょう」

 ジャッカルの口元が緩み、掲げたグラスを傾けた。濃厚な赤ワインが、グラスの底にルビーを沈めたような輝きに揺れる。

「よもや、これで逃げられるようなことにはなりますまいな、ジャッカル新国王殿」

「ハハハハ、それはご心配に及びませんよ、マラダイ王子。あの会場の内も外も、一体どれだけの兵を貼り付けているとお思いか。蟻一匹逃しはしません。あなた様の大事なゆきが哀れに捕まる様を、ゆっくりとご覧くだされ」

「くれぐれも!」

 怒りを抑えきれないマラダイは激しい口調で念を押す。

「ゆきを傷つけることのないよう。万が一にもそのようなことに至れば、私もここに呑気に座ってはおりませぬ故」

「マラダイ王子。それはゆきの出方次第。おいたが過ぎれば、相応のお仕置きはやむを得ませぬ。貴殿があの女騎士をどうしてそこまで固執なさっておいでなのか存じませぬが、食えない女であることは間違いない。それより貴殿は許嫁のアン王子を気遣うべきでしょう?」

 妹、ゆきを救いたい。マラダイの気持ちはただその一点にあった。許嫁の凛々しいアン王女に嫌いなところがあるわけではなかったが、今、マラダイが守るべき人ではなかった。

 会場に設置された無数のカメラが、ゆきとアン王女を追い回す。その中から自動で選択される複数のベストショットがモニターに映し出される仕掛けになっていた。前からも後ろからも上からも、中には王女の赤いドレスを下から覗くような映像まである。全てはジャッカルの手の平の上にある。どこにも逃げ場などないぞと、という無言の圧力がかけられているようだった。

 この包囲網を本当に潜り抜けられるのだろうか。勿論、不安はあったが、ゆきにはひとつの確信があった。それは、ゆきへのわだかまりの心を打ち明けて完全に一皮むけたテツを筆頭に、この戦いの中でチームのメンバーが確実に進化を遂げていることだった。みんなが集まれば、きっと何かが動くはずだと、ゆきは信じていたのだ。

 ゆきと王女の周りを囲んだ敵兵が少しずつ間合いを詰めているところに、ステージの混乱を制圧したテツとトモ、そして客席からゆきたちを追い掛けたナカがその一角を崩して、ゆきの元に駆けつけた。

 チームゆきの集結だ。その姿には、城を出た頃の頼りなさはもう一片も残っていなかった。死線を越え、ひとつひとつのミッションをクリアしてチームは逞しく成長した。

「よし、行くよ。ナカあれやっちゃって」

 うなずいたナカは、ゆきの前に立ち着ていたシャツを脱ぎ捨てた。美少女のナカが突然上半身下着だけの姿になったことで、モニターの注目度が一気に上昇する。更にナカはブラジャーも外す素振りで後ろに手を回す。ナカの手がホックを外すところをモニターが捉えると、観客の視線は一斉にナカの胸に集まった。

 フワリ

 ナカのブラジャーが身体から離れると同時に、ナカは『幻想拷問』を仕掛けた。裸の胸から猛烈に眩ゆい光が放たれ、これをまともに見たものは『幻想拷問』の餌食になった。直接でなくモニターを通して見た者も、完全な形ではないものの術に掛かっていた。

 特に間合いを詰めて間近にいた敵兵のダメージは甚大だった。周囲10メートル以内には、まともに立っている者すらいない。

「急ごう」

 ゆきの声で、チームゆきは会場出口へと急いだ。立ちはだかる者もほんの少数で、これらは先頭のテツが片っ端からなぎ倒した。横から取り付いてくる者もいたが、これらには容赦のないゆきの蹴りが飛んだ。

 かくしてチームゆきは、全員揃って特設会場から外に出た。見事、脱出成功、と思われた。

 しかし。

 会場の周りには敵兵がぐるりと取り囲んでいた。一体どれだけの人数がいるのだろうか。百や二百ではない。千か、いやそれ以上、数千人規模かも知れない。たった一人、ゆきを捕獲するということのために、これだけの人数を差し向ける。これこそがジャッカルという男の異常性を如実に表していた。


「ハハハハハ、なかなかエグいことをやってくれますねえ。マラダイ王子のハニーは」

 ジャッカルはマラダイ王子に向かって大笑いを投げた。ナカがかました会場のモニターまで使ったお色気攻撃には、ジャッカルもかなり面食らったようだが、これも想定範囲内だと言わんばかりに。

「しかし、この二千人の包囲網には手も足も出ないでしょうね。捕まえて少しお灸を据えてやらねばなりません」

「この兵、一体どこから集めてきたのですか、ジャッカル新国王殿」

「これこそがこの王の力ですよ、マラダイ王子。とくとご覧ください、我が力を」


 どうやって突破するかを思案するゆきに、トモがポツリと、

「こんな包囲網、突破するなんて簡単だよ。もう一度中に戻ろう」

 と進言した。

 行き先を塞がれたゆきたちは、トモの提案に従って再度特設会場に入った。

「中に戻ってどうするっていうのよ?さっきの私の一撃の効き目は、モニター越しの人ならもって30分よ」

 ナカが不安そうに尋ねたが、トモはまったく平静だった。

「何の問題もないよ、ちょっと出口を変えるだけだから」

 トモはさっきの南向きの正面入口から回廊を左に45度回った西門の先にある非常口から表に出ようと提案した。無論そこも敵兵が包囲している。

「じゃ、行きましょう。全力疾走です」

 そう言われても、さっきと何が違うのかサッパリわからず疑心暗鬼なメンバーの気持ちを察したゆきは、

「信じよう。仲間の言葉を」

 そう言って、アン王女の手を引いて真っ先に包囲網の中に飛び込んでいった。

「行くぞ、ゆきに続け、王女様をお守りするんだ」

 テツがこれに続き、その後をナカとトモが走った。5人がひとかたまりで包囲網に突っ込んでいく。

 すると。まるでモーゼの海割の様に包囲網が真っ二つに割れた。

 相手にぶつかるつもりで全力で走ったゆきは、思い切り拍子抜けだったが、敵兵の恐れおののいた顔を見て、トモの算段を理解した。

 これだけの人数をどこから集めてきたのかは分からないが、少なくとも精鋭部隊でないことは明らかだった。しかも王女の公開陵辱会の会場をグルリと取り巻く布陣を、何のために一体いつから敷いていたのかを考えれば、恐らく正面のメインの門を除いては、寄せ集めの素人しかいないと考えて間違いない。それはトモの目論見通りだった。

 ゆきは、少し考えれば当然のことなのに、単に数に圧倒されて怯んだ自分を恥じながら、冷静に真実を看破したトモを改めてリスペクトした。何かやってくれるとは思っていたが、想像以上だ。トモは物凄い参謀になるかも知れない。

 割れた敵兵が作ったレッドカーペットを、5人は悠々と渡り切った。二千人の烏合の衆は、その大人数が逆に足かせとなって、ゆきたちを追い掛けることが出来なかったのだ。混乱を尻目に、5人は無事現世に辿り着き国王の待つ新宿への道をひた走った。

(第5章に続く)
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