あやかしの森の魔女と彷徨う旅の吟遊詩人

牧村燈

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旅の理由

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 Sはスニーフに全てを打ち明けた。

 Sは妖精の村で生まれ育った。しかし、当時の妖精の村は、今のように豊かな森の恵みもなく、貧しくそれ故に争いの絶えない村だった。Sのような特殊能力のない人型族の生活は特に厳しく、中でも力が弱く働き手にならない女子の出産は酷く疎まれていた。それでもミウラ族の少女は美しい容姿を持つ者が多かった為、人間の町の裏社会で需要があった。生まれた女の半数は童女の内に口減らしの為に人間の町に売られていったという。売られていった童女たちは禿として花街で奉公に入ったが、その後の行方は二度と分からなかった。少なくとも村に戻ったものはいない。人間の町への馬車は片道切符だった。

 Sもある日、姉と一緒に町に売られる馬車に乗せられた。売られた先で何をされるのかも当時のSはハッキリと知らなかったが、それが自分にとってデス・ロードだということは知っていた。

 Sの姉は当時12歳だったが、その年齢の枠に収まらない才知を持ち、その上に美しい容姿と早熟な身体を持っていた。姉はその時まで決してその力誇示するようなことはなかった。清楚であり貞淑であり、4歳下のSにはいつも優しい姉だった。

 その姉が自らの魅力を最大限に使って見張りの男を籠絡した。膨らみかけた胸や白い太腿をチラつかせ、男がその気になると甘い吐息を吐いて身体を弄らせた。衣服を脱がされ未熟な胸を力任せに揉ませながらも、ついに男の腰にぶら下がった檻の鍵を奪い、女たちを逃亡させることに成功する。三々五々に逃げ惑った女たちの何人が逃げ延びることが出来たのかは分からない。Sは人間の町に逃げ延びた。追ってきた男を姉が自分を囮にして匿ってくれたからだ。

 その後の姉の行方は分からなかった。Sは逃亡生活の中で、男装し剣術を習得することで身を守ることを覚えた。

「あの凄いお姉ちゃんが、そんな簡単に殺されたりしない。お姉ちゃんは生きている。お姉ちゃん探し出して一緒に暮らすんだ」

 その夢を叶える為に、この何年もの間、Sは争いのなくなった妖精の村と人間の町を往復する旅の中で、姉に関する情報を集めてきた。このあやかしの森に入ったのも姉に似た人物を見たという情報があってのことだ。

「姉に会いたい。一目だけでも。ぼくはもうそれだけでいいんだ」

 うんうんと話を聞いていたスニーフが、興奮した面持ちでこう言った。

「ということはだ。そのお姉ちゃんもお嬢ちゃんみたいに可愛いってことだよな?」

 そこか!とは思ったものの、それでもいいやと、Sが答える。

「勿論だよ。ぼくなんかよりずっとずっと美人さ。きっと今頃はもっときれいになっている」

「よし分かった。そのお姉ちゃんもまとめてオイラが面倒みよう。そうと決まったら善は急げだ。早速探しに行こうぜ」

 このスニーフ。行動がメチャ早い。ただ考えていないのでどこに行くかの当てがない。

「それでどこに行けばいいんだ?」

 とスニーフが聞いたのは、Sを背に走り出して1分もした頃だ。

「どこに行くんだろうとは思っていたけど、まさかホントに闇雲に走ってたなんて。一体あなたって、どんな・・・・・・」

 あまりのことにSは可笑しくて堪らなくなった。

「もう。ハハハハ、フッフッ、ハハハハハッ」

「そんなに笑うなよ、お嬢ちゃん」

「だって。可笑しくて……」

 こんなに笑ったのって本当に久しぶりだ。Sはこの前にいつ笑ったのかさえ記憶になかった。一人の旅とはそういうものだ。

 SはスニーフにMのお菓子の家に行ってみないかと提案した。Mがこの森のことに色々詳しいことはスニーフもよく知っていたのですぐに同意して、すぐさまお菓子の家を目指して走り出した。Mが長Kからスニーフ抹殺の指令を受けていることなど、この時の二人には知る由もない。

 その頃、お菓子の家ではMが沈鬱な顔をして戦闘の準備をしている最中だった。

「何だって、あたしが・・・・・・」

 そう呟いたMの瞳には今にもこぼれそうなほどの涙が溜まっていた。それでもMは涙をこぼすことはない。誰に見られているわけではないことを知っていても、自分は泣くような女ではないと、自ら決めていた。

「スニーフ・・・・・・」

 Mは、手にした黒光りする銃の先端部分を撫でながら、その冷徹な静けさを頼りに、己の熱い思いを冷まそうと、苦い息を吐き続けていた。

(続く)
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