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生き残り
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スニーフの自らの魂を武器にした一撃によって、悪夢城は甚大な被害を蒙った。城門が完全に粉砕されて跡形もなくなったばかりか、城の内部も衝撃の渦によって滅茶苦茶になった。元々が謎の装飾物がそこかしこに置かれたおどろおどろしい雰囲気ではあったが、廃墟と化した1階フロアはこの世とは思えぬほどのあり様だ。
荒涼と静まり返った混沌たる戦場跡には、生存者の姿はなかった。
一方、城の二階の吹き抜けにある処刑場でニロニロに拘束を受けていたSとMは、轟音と共に階下から吹き上がって来た粉じんに巻かれたが、それによって正気を取り戻していた。ニロニロたちのほとんどは1階フロアでKの背後を固める任務に出向いていた為、皆焼きフランクフルトに変わり果ててしまった。2階に残った者も爆風で壁に叩きつけられ無残な死に様を晒している。
SとMは、いかにもSM趣味のX字の処刑台に手かせと足かせを付けられ、大の字に括りつけられていた。爆風の通り道でなかったこと、そしてしっかりと拘束されていたが故に、ニロニロのように飛ばされて壁にペチャンコになって張り付くことなく生き延びた。怪我の功名。二人は必死で脱出を試みたが、拘束を解くのは困難だった。
「スニーフは、どうしたんだろう?」
Sは頼みの綱でもある、スニーフの安否を気遣った。
「さっきの爆発がKが起こしたにせよスニーフが起こしたにせよ、スニーフが生きている可能性は爪の先ほどもないだろうね。というか、私たちが生きているということが奇跡だろう」
Mが冷静な声でそう告げる。
「そんな……。」
その時、ガタンと入口で誰かが躓く音がした。私たち以外に生きている者がいる。長Kか?二人はぎょっとして音の方向に目を向けた。
「おいおい、勝手に殺すなよ」
スニーフだった。全身の毛が真っ黒に焦げていたが、それは間違いなくスニーフだ。
「スニーフ!」
Sが感嘆の声を上げる。やっぱりこういう時は女の子なんだな、とMは何故か更に冷静にその様子を眺めている。本当は自分こそ、今すぐスニーフに駆け寄りしがみつきたい気持ちを抑えて。
「M。生きていてくれたんだな」
スニーフは真っ直ぐにMに向かってそう言った。
「あたしはあんたを殺そうとしたんだ。間違いなく。本気で」
「うん。分かってる」
「もう、あんたに合わせる顔なんてないんだ」
スニーフはMの拘束を解きながら、穏やかな声で答える。
「うん。大丈夫だ。よーく分かってるから」
「分かってないだろう。あんたは何をやってるんだい。助けるのはSだろう。あたしなんかここでのたれ死ぬのがまっとうな道なんだ」
「そうだな。分かった。もういいんだ、M」
そしてスニーフは、拘束の解けたMを静かに抱きしめた。
「大丈夫だから。オイラは何とも思っていないぜ。あとでよく話を聞くからさ。Sが待ってる。ちょっと待っていてくれよ」
スニーフは続いてSの拘束を外した。
「ありがとう、スニーフ」
「いや、何てことはないさ」
聞きたいことが沢山あった。だけど今は。Sは何度も何度もうんうんと頷いて、わずかな時間に起こった消化しきれない出来事と、大きく揺れ動く心を無理矢理に封じ込めた。
「長は、長Kはどうしたのさ?」
急に思い出したようにMがスニーフに尋ねた。そうだ、あの爆発は一体何だったのか。
「オイラが生きてるくらいなんだ。Kが死んだということはないだろうな。ただ、それなりの深手は負わせたと思うぜ。オイラと同じくらいにはな」
そう言うとスニーフはその場にバタリと倒れた。
「スニーフ!」
「なあに、心配ないさ。少し眠いだけだ。頼む。ちょっとだけ眠らせてくれないか」
そういうとスニーフは目を閉じた。そしてもう二度と目を覚ますことはないのではないかと思うような、深い深い眠りの底に落ちて行った。
(続く)
荒涼と静まり返った混沌たる戦場跡には、生存者の姿はなかった。
一方、城の二階の吹き抜けにある処刑場でニロニロに拘束を受けていたSとMは、轟音と共に階下から吹き上がって来た粉じんに巻かれたが、それによって正気を取り戻していた。ニロニロたちのほとんどは1階フロアでKの背後を固める任務に出向いていた為、皆焼きフランクフルトに変わり果ててしまった。2階に残った者も爆風で壁に叩きつけられ無残な死に様を晒している。
SとMは、いかにもSM趣味のX字の処刑台に手かせと足かせを付けられ、大の字に括りつけられていた。爆風の通り道でなかったこと、そしてしっかりと拘束されていたが故に、ニロニロのように飛ばされて壁にペチャンコになって張り付くことなく生き延びた。怪我の功名。二人は必死で脱出を試みたが、拘束を解くのは困難だった。
「スニーフは、どうしたんだろう?」
Sは頼みの綱でもある、スニーフの安否を気遣った。
「さっきの爆発がKが起こしたにせよスニーフが起こしたにせよ、スニーフが生きている可能性は爪の先ほどもないだろうね。というか、私たちが生きているということが奇跡だろう」
Mが冷静な声でそう告げる。
「そんな……。」
その時、ガタンと入口で誰かが躓く音がした。私たち以外に生きている者がいる。長Kか?二人はぎょっとして音の方向に目を向けた。
「おいおい、勝手に殺すなよ」
スニーフだった。全身の毛が真っ黒に焦げていたが、それは間違いなくスニーフだ。
「スニーフ!」
Sが感嘆の声を上げる。やっぱりこういう時は女の子なんだな、とMは何故か更に冷静にその様子を眺めている。本当は自分こそ、今すぐスニーフに駆け寄りしがみつきたい気持ちを抑えて。
「M。生きていてくれたんだな」
スニーフは真っ直ぐにMに向かってそう言った。
「あたしはあんたを殺そうとしたんだ。間違いなく。本気で」
「うん。分かってる」
「もう、あんたに合わせる顔なんてないんだ」
スニーフはMの拘束を解きながら、穏やかな声で答える。
「うん。大丈夫だ。よーく分かってるから」
「分かってないだろう。あんたは何をやってるんだい。助けるのはSだろう。あたしなんかここでのたれ死ぬのがまっとうな道なんだ」
「そうだな。分かった。もういいんだ、M」
そしてスニーフは、拘束の解けたMを静かに抱きしめた。
「大丈夫だから。オイラは何とも思っていないぜ。あとでよく話を聞くからさ。Sが待ってる。ちょっと待っていてくれよ」
スニーフは続いてSの拘束を外した。
「ありがとう、スニーフ」
「いや、何てことはないさ」
聞きたいことが沢山あった。だけど今は。Sは何度も何度もうんうんと頷いて、わずかな時間に起こった消化しきれない出来事と、大きく揺れ動く心を無理矢理に封じ込めた。
「長は、長Kはどうしたのさ?」
急に思い出したようにMがスニーフに尋ねた。そうだ、あの爆発は一体何だったのか。
「オイラが生きてるくらいなんだ。Kが死んだということはないだろうな。ただ、それなりの深手は負わせたと思うぜ。オイラと同じくらいにはな」
そう言うとスニーフはその場にバタリと倒れた。
「スニーフ!」
「なあに、心配ないさ。少し眠いだけだ。頼む。ちょっとだけ眠らせてくれないか」
そういうとスニーフは目を閉じた。そしてもう二度と目を覚ますことはないのではないかと思うような、深い深い眠りの底に落ちて行った。
(続く)
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