あやかしの森の魔女と彷徨う旅の吟遊詩人

牧村燈

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公開処刑

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 Kの記憶の中の妹の姿が、悪夢城で雷雲の術でとどめを刺した旅人のSに重なる。

「私は、私は、何という恐ろしいことをしてしまったのだろうか」

 KはスニーフやMばかりか、あの日、命がけで守ったはずの愛する妹までをも、自らの手で葬り去ってしまったのだ。そのもはや償いようのない罪の重さに、体が鉛を注入されているかのように重く沈んでいく。

 うああああああああああああ、森中にKの慟哭の叫び声が響き渡った。

 その時だ。ガシャーンという派手な音を立ててお菓子の家の窓ガラスが割れた。そこから侵入して来たのは肌色のニロニロが10倍ほどに巨大化した化け物だ。一匹、二匹、三匹と次々に部屋に侵入した巨大ニロニロは、たちまちKを包囲する。

 心身共に砕かれたKには、既に術を使う力も残されてはいなかった。巨大化したニロニロたちはそれを知ってか知らずか、包囲の輪をジリジリと狭めながら、大きくなった身体の割に小さな目でニヤニヤ笑い、両手を前にクネクネさせながら、Kの身体に触れるか触れないかの距離に迫っていた。

「な、何だお前らは。消し飛ばされたくなければ、今すぐここから出ていけ」

 Kは平静を装いながら、精一杯の強がりを言って目の前のニロニロを突き飛ばそうとした。しかし、難なくその腕を取られると、Kはたちまちニロニロの群れに身体の自由を奪われてしまった。

「我々の仲間を虐げ、我々の仲間を食い殺した長Kを、ついに捕らえたぞ!」

 巨大ニロニロは雄叫びを上げた。K自身、何故そんなことをしてきたのか分からなかった。しかし、事実として自分はその通りの所業をして来たのだ。Kは全てを観念するより他なかった。



 ニロニロのコロニーは宴の真っ最中だった。その中央に焚かれた炎に炙られた十字架には、Kが拘束されている。魔女の衣服は全て剥がされ、申し訳程度の黒い布切れが辛うじて胸と腰の女の尊厳を守っていた。

 森の民を恐怖に陥れてきたあの長Kの公開処刑である。

「これで森に平和が戻る」「いいきみだわ」「ざまあねえな」「早く殺しちまえ」「素っ裸にしてもっと辱めてやれ」「ぐえへへへへ」

 日頃は善良な民たちから様々な罵詈雑言がKに浴びせられた。その通りだ。こんな私などもはや生きている理由すらない。一思いに早く殺してくれ。磔台のKはそう天に願っていた。

「かつての長、このKに我々は散々な目に遭わされてきた。よって、そんな簡単に死なせる訳にはいかない。我々が味わった地獄を、たっぷりと味わってもらおうではないか」

 ニロニロの長老のアジテーションにうおーっという歓声が上がった。

「その前に、我らに力を与えてくれた旅の導師様に一言もらおう。導師様、どうぞこちらへ」

 長老から紹介されたのは黒いマントに身を包んだ年齢不詳の長髪の男だった。この男の魔術によって長老を含めた10体のニロニロが巨大化し、Kをお菓子の家で捕らえることに成功したのだ。積年の恨みを果たす、正に下克上だった。

 あ、あの男は。Kはその男に見覚えがあった。追っ手から逃げてこの森を彷徨っていた時に出会った男。生き抜く力が欲しいかと言われて、一も二もなく欲しいと願うと、ならばお前の心を寄越せと、男はKの左胸に手を差し入れて心臓を握った。男はそのままKの体の中に入り込んだ。それからほんのついさっきまで、Kは過去の記憶の全てを失っていたのだ。こいつのせいだ。Kは全てを理解した。

「Kの悪政は終わった。そして森には新しい長が必要だ」

 導師はそう言うとニロニロに合図を送った。花舞台に光が灯される。そこには眠れる裸の美少女が横たわっていた。Sである。

「美しい森には、美しい長がよく似合う」

 つまり他人の身体を乗っ取って好き放題をやり尽くすのが導師のやり口だった。しかし、乗っ取れる身体には条件がある。二十歳未満の人型の女であること、そして処女であること。Kは間もなく二十歳を迎える。導師には次の身体が必要だったのだ。その為に若い旅人を攫ってはその身体を吟味した。そしてやっと理想の身体を見つけ出したのだ。

 もっと簡単にいくはずだったんだが。まあ、こんなものか。それにしてもKの暴走には危うくオイラまで殺されかけたぜ。

 Sを私の二の舞にしてはいけない。死ぬことだけを考えていたKだったが、妹の為に再びその瞳に意志の力を宿らせた。

 横目にその様子を確認していた導師がほくそ笑む。そうだ。そうじゃなけりゃ面白くない。せいぜい抵抗してもがいてくれよ、K。絶望というものは希望があると思えばこそより闇深くなるものなのだから。

(続く)
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