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天使の願い
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巨大化ニロニロ10体の視界を一気にゼロに粉砕したKは、悠々と控室を出た。ベッドのシーツをドレス風に身体に巻きつけて肌を隠す。多少動きづらいが裸でいるよりはマシだろうと思った程度だったが、これが意外にも動物たちの纏う奇抜な衣装に紛れる。ごった返す森の動物たちの中に入ると全く目立たなかった。これなら気づかれずに舞台の方に接近出来そうだ。
Kは動物たちの隙間をすり抜けて、Sの囚われている花舞台の方に近づいていった。舞台には導師と呼ばれる全ての元凶に違いない憎き男がSを詰っているように見える。Sがへなへなと膝をついたのが見えた。生きていてくれたんだ。Kは自らの手で止めをさしてしまったと思っていたSが生きていてくれたことに、ホッと胸を撫で下ろした。
良かった。私の手で妹を殺さずに済んだ。待ってなさい。絶対に助け出すから。Kは周囲を見回し、舞台に登る方法を考える。シーツの切れ端で巻いただけの脇腹と太腿の傷口がシクシク痛んだが、構っている場合ではない。巨大化ニロニロがやられた報が導師に届けば、警戒されてたちまち見つかってしまうだろう。勝負はその前だ。一刻の猶予もない。
これしかない。Kは舞台から数メートル離れた照明塔に登ることにした。あそこからなら舞台に飛び移ることも可能だろう。悪夢城を失ったKでは足元にも及ばない術者に違いないあの導師を相手にするなら、隙をついて一撃で勝負をつけなければならない。
「お嬢ちゃん、姉貴がしでかした不始末の尻拭いをするのが、この森に迷い込んだ君の宿命だ。長になってこの森の民の慰み者になるがいい」
長という名の奴隷。それがSに課せられた運命だという。
「わかった。それで姉の贖罪が出来るというのなら、ぼくは運命を受入れよう。但し、それは姉と会ってからだ。姉に会わせてくれ」
導師はしてやったりの顔でSを頭の天辺からつま先まで改めて舐めるように眺め、
「勿論会わせてやるさ。処刑の時にな。その前にあの気色悪い長老たちに壊されていなければよいが。ハハハハ。どれ、そろそろ様子を見て来てやろう」
ピカッドドドン、ガガガガァ
導師が花舞台から一段降りた所で、激しい落雷が階段を木端微塵に粉砕した。Kの雷雲からの一撃である。木造りの階段の残骸が舞台脇でパチパチと燃えていた。やったか?しかし導師の姿は見えなかった。
「長K。本当にあなたがぼくのお姉ちゃんなのか?」
花舞台の手すりのコーナーにフワリと舞い降りたKに、Sが尋ねた。
「S。私の妹。記憶を封印されていたとは言え、私は森の民に、そしてあなたにまでもとんでもないことをしてしまった。許しを乞うて許されるようなことではない。私が処刑されるのは当然のことだ。だが、S。あなたはこの森にいてはいけない。ましてやあの男の口車に乗って長になど絶対になってはいけない。今すぐこの森から逃げなさい」
「お姉ちゃん。ぼくはあなたを探して長い旅をしてきました。貴方はあの地獄行きの馬車からぼくの命を救ってくれた人だ。それは今も変わらない。お願いだ。一緒に逃げてくれ」
Sは縋り付くようにKの足に抱きついてそう言った。
「それは出来ない。出来ないんだよ、S。それくらいのことを私はしてきたんだ」
花舞台に突風が吹いた。KもSもシーツを纏った身体を大きく煽られ、舞台袖まで飛ばされた。二人はまるでそこにある見えない壁に身体を十字に張り付けられた状態になる。導師が舞台の真ん中に忽然と現れた。
「K。貴様はまったく面倒くさい女だな。あの化け物どもに大人しく犯されていればいいものを。今の力でまさかあの化け物10体を倒したというのか?どんな魔法を使ったのか知らないが、この上、私にまで楯突こうとは身のほど知らずにも程があるぞ。今すぐ処刑台に戻るがいい」
「私はそのつもりだ。だがSは。Sだけはこの森から逃がしてやってくれないか」
「遅かったな。もう、契は結んである。Sは長になることを承諾してくれたんだ。唯一貴様と会わせることを条件にな。少々勝手は違ってしまったが、その約束ももう果たした。S。そうだな」
Sはうなずく代わりに、森の民に向かって叫んだ。
「長Kを、お姉ちゃんを許してあげてください。本当のKは、本当のお姉ちゃんは自分を犠牲にしても人を助ける、誰よりも優しくて強い人なんです。お願いです。必ずや罪を償って皆さんの為になります。私もです。私もお姉ちゃんと一緒に、皆さんの為に」
Sの必死の叫びに。森の民たちは戸惑いを見せる。そこに再びの突風が襲う。シーツをもぎ取られたSは、その全裸の肢体を森の民の前に晒してしまう。森の民の歓声。しかし、Sはまったくそれを意に返すことなく声を出し続ける。
「お願いします。長Kの贖罪は、私と姉が必ず、きっと必ず・・・・・・。だから、だからお願いします・・・・・・」
裸を目にして野卑た歓声を上げた森の民の様子が少しずつ変わっていく。お願い、通じて。Sの心の叫びは、まるで天使が奏でる心地よい音楽のように森の民の心にジワジワと沁み込んでいった。
こいつ。これは、術か?ようやく気が付いた導師が妨害の術を念じようとしたところにKが落雷を落とした。くそ。忌々しい。
森の民の歓声が沈黙に変わり、それがやがて拍手に変わった。
(続く)
Kは動物たちの隙間をすり抜けて、Sの囚われている花舞台の方に近づいていった。舞台には導師と呼ばれる全ての元凶に違いない憎き男がSを詰っているように見える。Sがへなへなと膝をついたのが見えた。生きていてくれたんだ。Kは自らの手で止めをさしてしまったと思っていたSが生きていてくれたことに、ホッと胸を撫で下ろした。
良かった。私の手で妹を殺さずに済んだ。待ってなさい。絶対に助け出すから。Kは周囲を見回し、舞台に登る方法を考える。シーツの切れ端で巻いただけの脇腹と太腿の傷口がシクシク痛んだが、構っている場合ではない。巨大化ニロニロがやられた報が導師に届けば、警戒されてたちまち見つかってしまうだろう。勝負はその前だ。一刻の猶予もない。
これしかない。Kは舞台から数メートル離れた照明塔に登ることにした。あそこからなら舞台に飛び移ることも可能だろう。悪夢城を失ったKでは足元にも及ばない術者に違いないあの導師を相手にするなら、隙をついて一撃で勝負をつけなければならない。
「お嬢ちゃん、姉貴がしでかした不始末の尻拭いをするのが、この森に迷い込んだ君の宿命だ。長になってこの森の民の慰み者になるがいい」
長という名の奴隷。それがSに課せられた運命だという。
「わかった。それで姉の贖罪が出来るというのなら、ぼくは運命を受入れよう。但し、それは姉と会ってからだ。姉に会わせてくれ」
導師はしてやったりの顔でSを頭の天辺からつま先まで改めて舐めるように眺め、
「勿論会わせてやるさ。処刑の時にな。その前にあの気色悪い長老たちに壊されていなければよいが。ハハハハ。どれ、そろそろ様子を見て来てやろう」
ピカッドドドン、ガガガガァ
導師が花舞台から一段降りた所で、激しい落雷が階段を木端微塵に粉砕した。Kの雷雲からの一撃である。木造りの階段の残骸が舞台脇でパチパチと燃えていた。やったか?しかし導師の姿は見えなかった。
「長K。本当にあなたがぼくのお姉ちゃんなのか?」
花舞台の手すりのコーナーにフワリと舞い降りたKに、Sが尋ねた。
「S。私の妹。記憶を封印されていたとは言え、私は森の民に、そしてあなたにまでもとんでもないことをしてしまった。許しを乞うて許されるようなことではない。私が処刑されるのは当然のことだ。だが、S。あなたはこの森にいてはいけない。ましてやあの男の口車に乗って長になど絶対になってはいけない。今すぐこの森から逃げなさい」
「お姉ちゃん。ぼくはあなたを探して長い旅をしてきました。貴方はあの地獄行きの馬車からぼくの命を救ってくれた人だ。それは今も変わらない。お願いだ。一緒に逃げてくれ」
Sは縋り付くようにKの足に抱きついてそう言った。
「それは出来ない。出来ないんだよ、S。それくらいのことを私はしてきたんだ」
花舞台に突風が吹いた。KもSもシーツを纏った身体を大きく煽られ、舞台袖まで飛ばされた。二人はまるでそこにある見えない壁に身体を十字に張り付けられた状態になる。導師が舞台の真ん中に忽然と現れた。
「K。貴様はまったく面倒くさい女だな。あの化け物どもに大人しく犯されていればいいものを。今の力でまさかあの化け物10体を倒したというのか?どんな魔法を使ったのか知らないが、この上、私にまで楯突こうとは身のほど知らずにも程があるぞ。今すぐ処刑台に戻るがいい」
「私はそのつもりだ。だがSは。Sだけはこの森から逃がしてやってくれないか」
「遅かったな。もう、契は結んである。Sは長になることを承諾してくれたんだ。唯一貴様と会わせることを条件にな。少々勝手は違ってしまったが、その約束ももう果たした。S。そうだな」
Sはうなずく代わりに、森の民に向かって叫んだ。
「長Kを、お姉ちゃんを許してあげてください。本当のKは、本当のお姉ちゃんは自分を犠牲にしても人を助ける、誰よりも優しくて強い人なんです。お願いです。必ずや罪を償って皆さんの為になります。私もです。私もお姉ちゃんと一緒に、皆さんの為に」
Sの必死の叫びに。森の民たちは戸惑いを見せる。そこに再びの突風が襲う。シーツをもぎ取られたSは、その全裸の肢体を森の民の前に晒してしまう。森の民の歓声。しかし、Sはまったくそれを意に返すことなく声を出し続ける。
「お願いします。長Kの贖罪は、私と姉が必ず、きっと必ず・・・・・・。だから、だからお願いします・・・・・・」
裸を目にして野卑た歓声を上げた森の民の様子が少しずつ変わっていく。お願い、通じて。Sの心の叫びは、まるで天使が奏でる心地よい音楽のように森の民の心にジワジワと沁み込んでいった。
こいつ。これは、術か?ようやく気が付いた導師が妨害の術を念じようとしたところにKが落雷を落とした。くそ。忌々しい。
森の民の歓声が沈黙に変わり、それがやがて拍手に変わった。
(続く)
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