あやかしの森の魔女と彷徨う旅の吟遊詩人

牧村燈

文字の大きさ
17 / 24

処刑執行

しおりを挟む
 拍手のさざ波がどんどん広がり、やがて森中がその優しい響きに包まれた。Sの心の願いが森の民に通じたのだ。その拍手に応えて頭を下げるSは一糸まとわぬ全裸である。しかしその姿は、もはや森の民を煽動するようなエロティックなものではない。神々しいばかりに美しく眩い光を纏っていた。

「S……」

 Kの瞳がキラリ光る。Sが頷く。

「なんだ、なんだ、なんだ、なんだ。なんだこの茶番は!お前たちのような弱者は、何も考えずに私に従っていればいいものを、何勝手なことをしているんだ」

 導師がイライラを爆発させた。

「ぼくは君に言われた通りにこの森の長になる。勝手なことなんてしていない」

「Kは処刑だ。それは森の民の総意だ」

「それは今、森の民によって許された。それは君も見ただろう」

「うううううううう、反論するな。あんな集団催眠術を使った誘導、邪道だろう」

「そういう君はどうやって森の民の総意を得たというんだい」

「お前は、生意気だ!」

 導師は指先をSに向けて身体を操ろうするが、すぐにKが落雷を落とす。導師がKに指先を向けると、今度はSが導師の精神に揺さぶりを掛けた。

「くっそお。忌々しい姉妹だ。ならばこれでどうだ」

 導師は舞台の一番前にいたニロニロ10体に術を掛けて巨大化させると、KとSを襲えと指示を出した。物理的攻撃を受けつけないヌラヌラした直径に1mほどの円柱の巨体が舞台に押し寄せる。

「S、こいつらの弱点は目だ」

 KがSに耳打ちする。

「待って、お姉ちゃん。ここでニロニロを攻撃してはだめ」

 Sが制する。たった今、森の民に対して贖罪を約束したばかりだ。いくら導師の術に掛かっているからと言って、この舞台の上でニロニロを傷つけることは出来ない。

「そんな。S。どうするの?こいつらに力では勝てない」

「でも、待って」

 Sはニロニロに念派を送る。先頭のニロニロが立ち止まったが、残りの9体がそれを蹴り倒して押し寄せて来た。Sは続けざまに必死で念派を送ったが、勢い込んだ重戦車軍団を一度に全部を止めるすべはなかった。

「あっ、もう無理」

 抵抗空しく二人はあっと言う間に巨大化ニロニロの虜になった。

「ヨーーシ。よしよし。よくやった。それでいいんだ。ハハハハハ。慈悲心が仇になったなお嬢ちゃん」

 ざわめく広場の様子など全く歯牙にも掛けない導師が満足気に笑う。Kを取り押さえていたニロニロの一体が、器用に両手を使って徐にKの身体のシーツを剥ぎ取った。

「おお。なかなか気が利くじゃないか。おい、そっちの女も目と口を押さえておけ。そうだ。それでいい。これで面倒な術を使われることもなくなった。さあ、ニロニロどもよ。今度こそKの処刑をはじめるのだ」

 舞台にニロニロの身体の大きさほどもある巨大な剣が用意された。艶めかしいほどにギラギラした光が、その剣のえげつない切れ味を物語っている。二体のニロニロに跪かされたKの首筋にその巨大な剣があてがわれた。広場のざわめきが大きくなる。やはり、Kは殺されるべきなのか。あのSの必死の願いを叶えてやることは出来ないのか。森の民の揺れる心が広場にカゲロウを作る。

 お願い。お願い。お願い。目と口を塞がれニロニロの動きを封じることが出来ないSは祈るよりほかに何も出来なかった。

 お願い。お願い。お願い。助けて。助けて、スニーフ!

 剣が高々と振り上げられて、真っ直ぐにKの首へと振りおろされた。

 万事休す。

 次の瞬間、Sは押さえつけられて力がふっと消えたの感じ、視界が一気に戻った。

 Sは飛んでいた。真下に花舞台が見える。巨大化ニロニロが四方にバラバラに吹き飛んでいる。真ん中に裸のお姉ちゃん。首は、ついている。お姉ちゃんの隣に見えるのはきっとMだ。

 この背中は。そう。スニーフの背中だ。

「遅くなってすまなかったな。お嬢ちゃん」

「うん」

 Sはひとつ頷いて、その背中に強く抱きついた。

(続く)
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

彼女の離縁とその波紋

豆狸
恋愛
夫にとって魅力的なのは、今も昔も恋人のあの女性なのでしょう。こうして私が悩んでいる間もふたりは楽しく笑い合っているのかと思うと、胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになりました。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

処理中です...