毒も薬も紙一重〜総合魔術大学の日陰者は、何故か今日も慎ましく生きられない!?

水定ゆう

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5.カモミールの研究室

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「よいしょっと。やっと着いた」

 カモミールの研究室まで辿り着いた。
 研究資料を無事に運びきることが出来た。
 
 やって来たのは、研究室棟。
 カモミールの研究室の前まで、段ボール箱を運んだ。
 ポケットから鍵を取り出すと、ガチャリと開け、部屋の中に立ち入った。

「失礼しまーす」

 カモミールの研究室に初めて入った。
 そもそも、研究室に入るなんて、相当なことが無ければあり得ない。
 ましてやアダバナのような陰の者には、正直縁も所縁も無かった。

 だからこそ、初めて入る研究室のニオイ。
 意外にもカモミールの研究室は綺麗でまとまりがあった。
 魔術薬学の研究者であるものの、部屋の中はほとんど無臭だった。

「ここが、カモミール教授の研究室?」

 他の教授や助教授の研究室を知らない。
 アダバナは比べることなんて烏滸がましいと思いつつも、一言、本音が漏れた。

「なんだか、綺麗!」

 アダバナは興奮していた。
 段ボール箱を少し下ろして腰丈に持つ。
 
研究室にはたくさんの棚が置かれている。中には薬品が入っている。
 簡易的な机と研究用のテーブルが設置されていて、表面は綺麗に拭き取られている。
 
 性格が窺えるが、カモミールは綺麗好きらしい。
 使った道具もそのままにはせず、丁寧に片付けている。
 使ったものはシッカリと元の場所に戻すらしい。

「カモミール教授は確か、研究生を取らないんだよね?」

 カモミール教授は、何故か研究生を取らない。
 恐らくは、一人で研究をする方が、何かと捗るに違いない。
 別におかしな話ではない。アダバナも納得で、一人でも身の回りのことをある程度こなせてしまうなら、研究生なんてわざわざ必要ない。

「凄いな。ベッドまで置いてあるよ」

 研究室の中はとても広い……と言う訳でもない。
 完全にワンルーム状態で、一般的な研究室とは少し違う。
 まるで自分専用の部屋のようで、仮眠室代わりでもあるらしい。

「これは……携帯食料?」

 段ボール箱をテーブルの上に置いた。
 ふと視線を飛ばして研究室の中を見回す。
 ゴミ箱の中が視界に入ると、携帯食料の袋が入っていた。

「もしかして、食生活は乱れている?」

 アダバナは余計な詮索をしてしまった。
 自分も言えた口ではなく、最低限の健康食だ。
研究で普段から時間が無く忙しいので、食生活は偏るのだろう。

「そう言えば、カモミール教授、部屋の中を好きに見ていいって言ってたよね?」

 何故かカモミールはアダバナに部屋の中を見るように言った。
 別に強制ではなく、自主的な判断だ。完全に踊らされていることは重々承知の上、アダバナは興味を示していた。
 カモミールの研究室に立ち入れるのは、今後一切無いと思った。

「凄くワクワクする」

 本当に子供のような感想だった。
 好奇心を抱くと、部屋の中を見て回る。
 失礼だとは思いつつも、こんな機会は二度と無い。

「カモミール教授って、普段どんな研究をしているんだろう?」

 アダバナはカモミールに若干の憧れを抱いていた。
 それでもカモミールは凄い。比べ物にならない。
 手が届かないくらい高い壁で、憧れることさえ烏滸がましい。
 自分とはまるで違って堂々としており、言葉に出せなかった。

「うわぁ、全然読めない」

 研究資料を今このタイミングで、初めて見た。
 もっと前から目を通してもよかった筈だ。
 けれど失礼に値する。そう思い手が伸びなかったが、目を通すと唖然。
 まるで内容が入って来ず、アダバナは宇宙に投げ出される。

「ん、ん?」

 目が点になっていた。言葉の意味は何となく分かる。
 けれど専門用語の群れが襲い掛かると、内容を読み解くことが出来ない。
 流石は天才。これだけの資料を作ってしまうなんて、本当に付いて行けなかった。

「わ、分からない……」

 結局諦めてしまった。
 研究資料を元に戻すと、今度は棚の中を見て回る。
 貴重な薬品が幾つも入っていて、魔術薬学に使われるものばかりだった。

「凄い。これってプロキシオンの根っこだよね? こっちはメテオラ石の粉末?」

 珍しい薬品の中には、原形をとどめているものも多い。
 粉末状のものや液体状のものなど、様々だった。
 物珍しいものばかりで、「ほぇ~」となるしかない。

「本当に色んな薬品が置いてある。薬品だけじゃないけど……」

 三つ置かれた棚の中には色んなものが入っている。
 薬品だけではなく、試験管やビーカーなど、道具も揃っている。
 おまけにドクロマークの描かれた箱や、ビックリマークの入ったファイルと様々だ。

「教授にもなると、研究のために色々必要なんだね。私には無理だよぉ」

 カモミール教授は天才だ。
 天才だからこそ、様々なものを使って研究を行う。
 それだけ目の付け所が違うに違いない。
 考えれば考える程、頭がパンクしてしまった。

「ふぅ……ん?」

 呼吸を整えると、肩をなだらかにする。
 何だか居心地がよすぎて不思議な気分になる。
 だけどそろそろ出て行かないといけない。筈なのだが、視界に映るものに気を取られる。

「アレは……」

 ふと目に留まる物があった。
 自然と足が動くと、机へと向かっている。
 そこに置いてあったのは、試験管。それから収まった台。

 何本か試験官が収まっている。
 うち二本は空っぽのままで、気になるのは残りの一本。
 中身が入っているけれど、独特な色合いだった。

「もしかして、これって薬かな?」

 明らかに薬品の雰囲気を醸し出していた。
 カモミールの作る薬。どんなものだろう?
 興味無いふりは出来なくて、顔をググッと近付けて、覗き込んでいた。
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