灰魔女さんといっしょ

水定ゆう

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灰屋敷の噂

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 ——ねぇねぇ知ってる。あなたは知ってる?——
 ——この世の中には不思議ふしぎ不可思議ふかしぎ摩訶不思議まかふしぎ——
 ——めぐるめく存在が要ること、あなたは知ってる?——

 ——これはある町に住んでいる灰色の髪をした魔女のお話——
 ——彼女に出会った、一人の少女の物語……かもしれない——



「ねぇ、灰色の森の灰屋敷の噂知ってる?」

 クラスメイトの一人がそんな話をしていた。
 “灰色の森”。この町に住んでいる限りその名前を知らない人はいない。
 もちろんその話を聞いていた少女、透屋真心とおやはあとも知っていた。

(灰色の森って、確か、町外れにある大きな森だよね?)

 真心は首を捻った。
 思いださなくても、簡単に思いだせた。

「もちろん知ってるよ、瑠海ちゃん」
「でも灰屋敷はいやしきってなに?」

 瑠海るみの話しに混ざるクラスメイトの二人。
 空子くうこ陸句りく、そんな二人は、灰屋敷なんて聞いたことも無かった。
 もちろん、真心も知らない。今日初めて聞いたのだ。

「それもそうよね。私も最近知ったんだけど」
「そうなの?」
「うん。ネットで」

 ネットの情報。それを聞いた瞬間、流石に信じられなくなる。
 なにせネットは勝手なことばかりが掛かれている。
 中学生の真心達でも、スマホやパソコンは使うから、ネットには少しは関心がある。
 だからだろうか。真心達は胡散臭うさんくさい、とまで思ってしまった。

「瑠海ちゃん。それ、信じない方がいいよ」
「えっ、面白いでしょ?」
「でもネットだよね? 灰色の森は実際にあるけど、灰屋敷なんて、きっと無いよ」

 空子と陸句は否定的だった。
 もちろんただ耳に入るだけの真心もそう思う。
 でも瑠海はニヤッと笑うと、灰屋敷の噂が本当でもあるかのように話した。

「嘘じゃないわよ。灰色の森の中には灰屋敷っていう、全部灰色のお屋敷があって、そこには灰魔女はいまじょっていう、恐ろしい何かが住んでいるんだって」
「「え~?」」
「あっ、その顔。本気で信じて無いわよね」

 あまりにも薄っぺらな情報だった。
 流石はネットの情報。信じられないにも程がある。
 そう思った空子と陸句は、瑠海のことを優しくフォローする。

「大丈夫だよ、瑠海ちゃん。そう言うこともあるから」
「そうだよ、瑠海。気を取り直していこう。ねっ」

 親友関係しんゆうかんけいの三人だ。
 きっとこれで上手く話しはまとまった筈。
 そう思ったのは真心だけで、読んでいた本に視線を移すも、瑠海はムキになる。

「二人共本当に信じて無いのね。いいわよ、それじゃあ私が会いに行ってきてあげるから」
「「ええっ!?」

 瑠海はまさかの行動に出た。
 そこまでするなんて、空子も陸句も、ましてや真心も思っていなかった。
 そのせいだろうか、一瞬真心は振り返る。

「どうしたの、透屋さん?」
「あっ、えっと、なんでもないよ!」

 真心は上手く誤魔化すと、挙動不審きょどうふしんな態度を取りつつ、本に戻る。
 すると瑠海はギュッとこぶしを作る。
 こんなことに燃えなくてもいいのに、何故かやる気に満ちていた。

「とにかく、灰屋敷は絶対にあるのよ。だってこの世は不思議なことだらけだから」
「うーん、そうだとしても」
「流石に危ないよ。それに灰色の森には立ち入っちゃダメだって言われてるでしょ?」

 確かに、灰色の森には入っちゃダメ。
 それは昔から言われていることで、特別な許可が無いと立ち入りできないように、柵が施されている。
 だから幾ら行ったってムダ。真心達は分かっているのに、瑠海はそれでも行きたいらしい。

「それでも行くのよ。むしろ、その方がなにかあるに決まってるわ!」

 目をキラキラさせていった。
 もはや溢れ出る好奇心こうきしんを抑えるなんて真似できない。
 そんな雰囲気になると、空子と陸句は頬を掻いた。

「それじゃあ私達も行くよ」
「えっ、いいの!?」
「だって瑠海一人じゃ危ないでしょ? だけどなにも無いって分かったら帰ろうね」
「ええ、その時はキッパリ諦めるわよ。う~ん、楽しみ!」

 完全に空子と陸句は巻き込まれてしまった。
 だけど瑠海は大変楽しそうだ。
 真心は三人のそんな会話を背にしながら、ジックリ本を読む間もなく、頭の中に“灰色の森”と“灰魔女”と言う言葉がグルグルしていた。

(灰色の森に灰屋敷に灰魔女。灰色尽くしだ)

 真心は勝手に盛り上がってしまった。
 だけど行ってみようとは思わない。
 だって、行ってもなにも無いって分かっているんだから、行く必要なんて更々無いんだ。
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