灰魔女さんといっしょ

水定ゆう

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いまどきの妖怪

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「あー、急がないと。明日までにやらないと」
(大変だな、学生と言うものは)


 真心はノートを広げると、急いで宿題をした。
 変にシャーペンに力が加わると、ポキポキとシャー芯が折れる。
 散らばったシャー芯を集めつつゴミ箱に捨てると、ふと、答えを間違えてしまった。

「あっ、ここ違う」
(そうだな。その問題の答えは……ん?)

 グレイスが答えを言おうとした。
 けれど、真心の手が止まってしまう。
 なにをしているのかと思うが、真心は消しゴムを探していた。

(どうしたんだ? 消しゴムなら、さっきにそこに……)
「それが無いんだよ。何処を探しても見つからなくて」

 真心はキョロキョロと視線を配った。
 けれど消しゴムはいくら探しても見当たらない。
 床も、机の下も、何処を見ても見当たらない。

「どうして!? どうしてこういう時に限って、消しゴムが見つからないの?」

 真心は頭を掻きむしる。
 髪がクシャクシャになると、グレイスは、真心に言った。

「はぁー、新しいの使おうかな」
(いや、その必要は無いぞ、真心)
「えっ?」

 机の引き出しから、消しゴムを取り出そうとする。
 新しいもので、まだシュリンクが付いている。
 剥がそうとする中、グレイスはそれを一度止めさせた。

「グレイスちゃん、どういうこと?」
(よく見てみろ。マヤカシを一度見たんだ。お前にも・・・・見えるはずだ・・・・・・

 グレイスは真心にそう言った。
 真心自身は、なんのことか分からない。
 けれどグレイスに言われたことを思い浮かべながら、集中して、見てみようとする。
 すると、真心の目は、床をテクテク歩く、小さなアヒルの姿を追った。

「うわぁ、な、なんかいる!?」
(アレは、消しゴムかくしと言う妖怪だ)
「今度は妖怪? マヤカシとは違うの」
(マヤカシは人間や自然の想いのかたまりだ。どう転んでも、基本的には、悪意あくいしかない。それに代わって、妖怪は良いも悪いも表裏一体ひょうりいったいだ)

 グレイスの説明は難しかった。
 それでも真心は頑張って理解しようとする。
 消しゴムかくしと言う妖怪、今時いまどきすぎる名前の妖怪を追い掛ける。

「ねぇ、グレイス。消しゴムかくしって、そのまさかだけど」
(消しゴムかくしは、消しゴムを隠すだけの、いまどき妖怪だ)
「やっぱり」

 真心は消しゴムかくしが持っているものに見覚えがある。
 背中に背負っているのは、真心の使っている、消しゴムだ。
 大事そうに抱えて運ぶと、テクテク何処かに持ち去ろうとする。

「ちょっと待ってよ」
『うわぁ!?』

 真心は消しゴムかくしに声を掛けた。
 すると消しゴムかくしは振り返り、真心と目が合ったことで驚く。

 飛び跳ねて、手をバタバタさせる。
 背負っていた消しゴムを落として、とんでもない速さで逃げようとした。

「あっ、逃げないで。私、なにもしないから」

 真心は消しゴムかくしが逃げたので、負い掛ける。
 とは言っても、すぐに追い付いてしまった。
 消しゴムかくしの逃げ道を塞ぐと、真心は、消しゴムかくしに話し掛けた。

「ねぇってば!」
『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ごめんなさいクワッ、ごめんなさいクワッ』

 消しゴムかくしは突然謝りだした。
 ペコリペコリと何度も頭を下げる。
 完全に真心を怖がっている証拠だった。

「もう謝らないでいいよ。私は、貴方とお話がしたいだけだから」
『お話?』
「うん。えっと、私は真心。貴方は、消しゴムかくし君でいいのかな?」

 真心は消しゴムかくしに訊ねた。
 消しゴムかくしは、突然人間から声をかけられたので、緊張してしまう。

『う、うん……』
「そうなんだ。グレイスちゃん、私、妖怪とお話してるよ!」
(はしゃがなくても、分かっている)

 真心は一人ではしゃいでいた。
 ピョコピョコ軽やかにジャンプする。
 それだけ不思議なことに直面し、気分がハイテンションになっていた。

『この人間、変クワッ』
「ごめんね。でも、今まで消しゴムがどうしてすぐ無くなるのかなって思って、不思議だったの。だけど、いまどき妖怪? の仕業だって分かったら、なんだか可愛くて。まさか今までも?」
『そ、そうクワッ。消しゴムは、僕達のご飯だからクワッ』

 消しゴムかくしはそう答える。
 するとアヒルの口から、白っぽいかたまりが、ポロリポロリと落ちた。

「えっ、消しゴムを食べるの?」
(それが消しゴムかくしの習性しゅうせいだ。消しカスくわしと似ているせいで、いつも縄張なわばり争いで必死らしい)
「消しカスってことは、消しゴムで消したカスってこと? へぇー、そんないまどき妖怪もいるんだ。不思議だねー」

 真心はなんだか楽しくなっていた。
 本当なら、こんな話、信じることもできない。
 けれどマヤカシに襲われ、いまどき妖怪をこの目で見た後だと、なにも不思議に思えない。
 そんな態度を見せる真心に、消しゴムかくしは呆れた。

『この人間が、一番不思議クワッ』

 真心の姿を見上げて言った。
 コロンと床に転がった消しゴムに背中を預けると、一休みをしていた。
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