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マヤカシ
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「本当に大丈夫かな?」
真心は自分の家の前で、立ち尽くしていた。
正直、バレそうで仕方が無い。
不安でいっぱいになる胸を、頭の中で、グレイスが優しく励ます。
(大丈夫だ。自身を持て)
「うん、やってみるね」
いつまでもこうして立ち尽くしていても怪しい。
意を決して、真心は、自分の家の扉に手を開ける。
ガチャ!
「ただいま~……よし、お母さんにはバレてない」
ホッと胸を撫で下ろした。
のも束の間、真心は視線を感じる。
ビックリして背筋を伸ばすと、そこには女の人が立っていた。
「真心、こんな時間まで何処に行ってたの?」
「えっ、えっと、その……真澄さんに頼まれて」
「真澄さんに頼まれて、それで?」
「えっと、灰色の森まで行ってました」
真心は母親に頭が上がらなかった。
気が付けば夜も九時を過ぎている。
こんな時間まで、中学生が家に帰って来なければ、心配するのも無理は無かった。
「灰色の森? 真澄さんが、真心の鞄を持って来た時から気が付いてたけど……」
「な、なにに?」
「真心、灰色の森で”なにか”見たわよね?」
「えっ、なに言ってるの!?」
真心は明らかに挙動不審な態度を取った。
身震いすると、なんとかして隠そうとする。
「なんにも見て無いよ。それよりお母さん、明日はもっと早く帰るから、今日はごめんなさい。それじゃあ」
「あっ、夕ご飯は!」
「えっと、その、大丈夫」
真心は完全に焦っていた。
冷汗をダラダラ掻くと、急いで二階にある、自分の部屋に戻る。
本当はお腹も空いていたが、それすら黙ると、階段を二段飛ばして駆け上がった。
「あの子、やっぱり見たのね」
そんな後姿を、母親は心配そうに見つめていた。
けれど何処か楽観的で気楽にも捉えた。
薄っすらと口角を上げると、頬に手を当てた。
「ふぅ、なんとか誤魔化せたよね?」
真心はベッドに横になっていた。
上手く隠し切れたと思っている。
(いや、絶対にバレていただろ)
「えっ、そんなことないよ! 私、完璧に誤魔化せたよ?」
グレイスは真心の母親に、全てバレていると読んでいた。
けれど真心本人は、自信たっぷりだ。
灰色の森であんな目に遭ったなんて、誰も信じてはくれない。
だからこそ、真心は母親に心配を掛けたくなかった。
「でも私、本当にグレイスちゃんの体を借りちゃったんだ」
真心は不思議な感覚だった。
なにせ、今の真心はグレイスと一心同体だ。
心も体も一つになっていて、そのおかげもあり、こうして家に帰ってくることができた。
「ごめんね、グレイスちゃん」
(謝るな。それより、これからのことだが)
「トウメイリザードを捕まえるんだよね。でも、どうやって?」
(トウメイリザードは、透明なトカゲのマヤカシだ。本来なら、姿を見つけることなんてできない)
「そんな!」
いきなりつまずいてしまった。
けれどグレイスは真心を励ます。
たとえ姿を見つけられなくても、今回は問題が無かった。
(大丈夫だ。トウメイリザードは、まだ真心のことを諦めていない)
「諦めてないってなに?」
(私に攻撃されて、過敏になっているはずだ。それになにより、真心の存在を喰べきっていないから、また襲って来るはずだ)
「それじゃあ、待ってればそのうちまた襲って来るの?」
(そういうことだ。そこを叩く、どうだ、楽な話しだろ?)
グレイスは簡単に言ってしまう。
しかし真心にとってはそんなに簡単でもない。
むしろ難しく考えてしまい、頭を抱えてしまう。
「はぁ、グレイスちゃん。私、マヤカシについてなにも知らないよ」
(別に知らなくてもいいだろ)
「だけど、トウメイリザードはマヤカシなんでしょ? マヤカシって、一体《いったい》|何者なの?」
真心はグレイスに訊ねた。
するとグレイスは少し言葉を悩みながらも、真心に分かりやすく説明した。
(マヤカシとは、魔妖道と呼ばれる、この世ならざるものの総称だな)
「”まやかしどう”? 総称ってことは、まとめてってことだよね?」
(マヤカシは、陰の道を行くもの。様々な悪影響を与えてしまい、この世を乱してしまうもので、私達、魔法使いの敵だ)
「もうファンタジーだよ」
真心は理解することさえ、諦めてしまった。
けれど、グレイスはそれも仕方が無いと思う。
マヤカシとはそんな存在で、とにかくよくないものだった。
「グレイスちゃん、私はなにをしたらいいかな?」
(そうだな……)
「あっ!」
真心はベッドから飛び起きた。
一体なんの騒ぎかと、グレイスは驚く。
(どうした、真心?)
「グレイスちゃん、大変だよ。今から宿題やらないと」
(ああ、宿題か……頑張れ)
「ううっ、こんな時間からなんて……うえぇぇぇぇぇん」
真心は泣きたくなった。
だけど涙はもう枯れてしまっている。
グレイスは真心の泣き叫ぶ声に耳を塞ぎたくなるも、体を貸しているせいで、それもできなかった。
真心は自分の家の前で、立ち尽くしていた。
正直、バレそうで仕方が無い。
不安でいっぱいになる胸を、頭の中で、グレイスが優しく励ます。
(大丈夫だ。自身を持て)
「うん、やってみるね」
いつまでもこうして立ち尽くしていても怪しい。
意を決して、真心は、自分の家の扉に手を開ける。
ガチャ!
「ただいま~……よし、お母さんにはバレてない」
ホッと胸を撫で下ろした。
のも束の間、真心は視線を感じる。
ビックリして背筋を伸ばすと、そこには女の人が立っていた。
「真心、こんな時間まで何処に行ってたの?」
「えっ、えっと、その……真澄さんに頼まれて」
「真澄さんに頼まれて、それで?」
「えっと、灰色の森まで行ってました」
真心は母親に頭が上がらなかった。
気が付けば夜も九時を過ぎている。
こんな時間まで、中学生が家に帰って来なければ、心配するのも無理は無かった。
「灰色の森? 真澄さんが、真心の鞄を持って来た時から気が付いてたけど……」
「な、なにに?」
「真心、灰色の森で”なにか”見たわよね?」
「えっ、なに言ってるの!?」
真心は明らかに挙動不審な態度を取った。
身震いすると、なんとかして隠そうとする。
「なんにも見て無いよ。それよりお母さん、明日はもっと早く帰るから、今日はごめんなさい。それじゃあ」
「あっ、夕ご飯は!」
「えっと、その、大丈夫」
真心は完全に焦っていた。
冷汗をダラダラ掻くと、急いで二階にある、自分の部屋に戻る。
本当はお腹も空いていたが、それすら黙ると、階段を二段飛ばして駆け上がった。
「あの子、やっぱり見たのね」
そんな後姿を、母親は心配そうに見つめていた。
けれど何処か楽観的で気楽にも捉えた。
薄っすらと口角を上げると、頬に手を当てた。
「ふぅ、なんとか誤魔化せたよね?」
真心はベッドに横になっていた。
上手く隠し切れたと思っている。
(いや、絶対にバレていただろ)
「えっ、そんなことないよ! 私、完璧に誤魔化せたよ?」
グレイスは真心の母親に、全てバレていると読んでいた。
けれど真心本人は、自信たっぷりだ。
灰色の森であんな目に遭ったなんて、誰も信じてはくれない。
だからこそ、真心は母親に心配を掛けたくなかった。
「でも私、本当にグレイスちゃんの体を借りちゃったんだ」
真心は不思議な感覚だった。
なにせ、今の真心はグレイスと一心同体だ。
心も体も一つになっていて、そのおかげもあり、こうして家に帰ってくることができた。
「ごめんね、グレイスちゃん」
(謝るな。それより、これからのことだが)
「トウメイリザードを捕まえるんだよね。でも、どうやって?」
(トウメイリザードは、透明なトカゲのマヤカシだ。本来なら、姿を見つけることなんてできない)
「そんな!」
いきなりつまずいてしまった。
けれどグレイスは真心を励ます。
たとえ姿を見つけられなくても、今回は問題が無かった。
(大丈夫だ。トウメイリザードは、まだ真心のことを諦めていない)
「諦めてないってなに?」
(私に攻撃されて、過敏になっているはずだ。それになにより、真心の存在を喰べきっていないから、また襲って来るはずだ)
「それじゃあ、待ってればそのうちまた襲って来るの?」
(そういうことだ。そこを叩く、どうだ、楽な話しだろ?)
グレイスは簡単に言ってしまう。
しかし真心にとってはそんなに簡単でもない。
むしろ難しく考えてしまい、頭を抱えてしまう。
「はぁ、グレイスちゃん。私、マヤカシについてなにも知らないよ」
(別に知らなくてもいいだろ)
「だけど、トウメイリザードはマヤカシなんでしょ? マヤカシって、一体《いったい》|何者なの?」
真心はグレイスに訊ねた。
するとグレイスは少し言葉を悩みながらも、真心に分かりやすく説明した。
(マヤカシとは、魔妖道と呼ばれる、この世ならざるものの総称だな)
「”まやかしどう”? 総称ってことは、まとめてってことだよね?」
(マヤカシは、陰の道を行くもの。様々な悪影響を与えてしまい、この世を乱してしまうもので、私達、魔法使いの敵だ)
「もうファンタジーだよ」
真心は理解することさえ、諦めてしまった。
けれど、グレイスはそれも仕方が無いと思う。
マヤカシとはそんな存在で、とにかくよくないものだった。
「グレイスちゃん、私はなにをしたらいいかな?」
(そうだな……)
「あっ!」
真心はベッドから飛び起きた。
一体なんの騒ぎかと、グレイスは驚く。
(どうした、真心?)
「グレイスちゃん、大変だよ。今から宿題やらないと」
(ああ、宿題か……頑張れ)
「ううっ、こんな時間からなんて……うえぇぇぇぇぇん」
真心は泣きたくなった。
だけど涙はもう枯れてしまっている。
グレイスは真心の泣き叫ぶ声に耳を塞ぎたくなるも、体を貸しているせいで、それもできなかった。
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