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私の体を貸してやる
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真心は困り果てていた。
頭を抱えると、一人でパニックになっている。
そんな真心を、グレイスは憐れに思った。
「ど、ど、ど、どうしよう、グレイスちゃん!」
「なにだが?」
「なにがって、私透明人間なんだよ! このままじゃ、家にも帰れない。お母さんにどう説明すればいいの?」
真心は透明人間になっていた。
そう、憧れの透明人間だ。
この姿なら、何処でなにをしていても、誰にも怒られない。
バスも電車も自由に乗り放題。
映画館でも遊園地でも、好き勝手に入れる。
まさに夢のような能力……だと思ったら大間違い。
真心は、こんな能力欲しくも無かった。
「あー、どうしよう。これじゃあ私、何処にも行けない」
「声だけは聞こえるぞ」
「声だけ聞こえたら、逆に怖いでしょ!」
真心が喰べられてしまったのは、姿だけ。
そのおかげと言うべきか、声だけは無事だ。
口を開けば普通に喋れるし、周りにも声は聞こえる。
けれど、何処からともなく声だけが聞こえても、怖くて驚かれるだけだった。
「ううっ、これじゃあ家にも帰れないし、学校にも行けない。友達にも会えないし、如何したらいいの?」
真心は困ってしまった。
ソファーに座ると、顔を埋めた。
大粒の涙がポロポロ零れると、グレイスはふと呟いた。
「私には見えているだがな」
その言葉はとても鮮烈だった。
真心は、グレイスと会話をする中で、少しだけ引っかかっていた。
“どうしてグレイスは、私の顔色が分かるのか”。
あまりにも突然だったので、真心はすっかり見落としていたが、グレイスの振る舞いは、まるで真心の姿が見えているようだった。
「もしかして、グレイスちゃんには、私のことが見えてる?」
「当り前だ。そうじゃなかったら、どうして顔色が分かるんだ?」
「えっと、勘?」
「そんな訳があるか! 私は魔女だぞ、ただの魔法使いじゃない。たとえ、姿を喰われようが、私の目までは誤魔化せないぞ」
グレイスはとても誇らしげに言い切った。
腕まで組むと、背筋をピンと伸ばす。
その立ち姿に、真心は感動した。魔女であれ、なんであれ、自分の姿を見てくれる人がいることに感謝した。
「よかった……」
「ん? なにがよかったんだ」
真心は一安心できた。
胸に突き刺さっていたなにかがポロリと落ちる。
そんな感覚に至ると、真心は、グレイスに笑顔を浮かべる。
「ありがとう、グレイスちゃん。私、まだいるんだね」
「当り前だ。世界が存在を見失っても、私はこの目で見た真実を見届けるまでだ」
「ううっ、カッコいい」
グレイスの言葉はとてもカッコ良かった。
もちろん、意識してカッコいい言葉を使った訳じゃない。
ただ単に、グレイスは自分の目で見たことを、真実として受け取るだけだった。
「とは言え、家にも帰れず学校にも行けないとなると、それまでの間、どうやって誤魔化せばいいんだ。今からだと、流石に間に合わないか……仕方ない」
グレイスはブツブツと呪文を唱え始める。
真心は姿を喰われてしまったものの、今もこの世界に存在している。
それを周囲に気が付かれると、色々と生活が大変だ。
グレイスはなんとかして良い方法がないかと考え、ふと突飛なアイデアが思い付いてしまった。
「そうか、その手があったか」
グレイスはニヤリと笑みを浮かべる。
あまりにも不適な笑いで、真心は内心ドキドキしていた。
もちろん、助けてもらう側に立った真心には、拒否権なんてものは無い。
恐る恐る訊ねると、グレイスはこう言った。
「グレイスちゃん、なにが思い付いたの?」
「簡単なことだ。真心、お前に私の体を貸してやる」
「ん?」
真心は瞬きを何度もした。
グレイスの言っている言葉の意味が、理解できなかった。
困惑してしまうと、グレイスに訊ね返す。
「グレイスちゃん、ちょっとだけ、分からないんだけど」
「まあ、百聞は一見に如かずだ。早速試してみよう」
グレイスはぶっつけ本番で、試してみることにした。
真心を抱き寄せ、ギュッと抱きつく。
全身にグレイスの温もりが伝わると、真心は顔を真っ赤にする。
「えっ、ど、どうしたの、グレイスちゃん!? 急に抱きつかれたら、流石に照れちゃうよ」
「照れる必要は無い。いいから、意識を集中しろ。初めてやるが、上手く行ってくれよ」
グレイスは真心と一緒に目を閉じて、意識を集中する。
研ぎ澄まされると、不意に意識が混ざり合う。
真心は怖くなり、目を開けようとするけれど、グレイスに注意された。
「グレイスちゃん、怖いよ」
「いいから集中しろ。灰の鏡……うっ」
「グレイスちゃん!? あ、あれ……」
真心はグレイスの声が聞こえなくなったので焦った。
同時に、抱き合っていたはずが、急に一人ぼっちになっていた。
真心はキョロキョロ辺りを見回す。
そこにグレイスの姿が無く、真心は不安になる。
「グレイスちゃん、グレイスちゃん! 何処に行っちゃったんだろ……」
(うるさいな、私はここにいる)
「うわぁ、今、頭の中でグレイスちゃんの声がした気がしたけど……えっ?」
真心は顔を抑えた。
幻聴が聞こえて来たのかと思ってしまう。
けれどそんなことは無い。真心の頭の中で、グレイスの声がした。
(それじゃあ真心、お前の家に帰るぞ)
「その前にちゃんと説明してよ、グレイスちゃん、何処なの!」
真心は未だに信じられなかった。
まさか真心が、グレイスの体を借りてしまったことに。
にわかには信じがたいが、確かにそこに居るのは真心自身で、グレイスの体を借りた真心が居た。
頭を抱えると、一人でパニックになっている。
そんな真心を、グレイスは憐れに思った。
「ど、ど、ど、どうしよう、グレイスちゃん!」
「なにだが?」
「なにがって、私透明人間なんだよ! このままじゃ、家にも帰れない。お母さんにどう説明すればいいの?」
真心は透明人間になっていた。
そう、憧れの透明人間だ。
この姿なら、何処でなにをしていても、誰にも怒られない。
バスも電車も自由に乗り放題。
映画館でも遊園地でも、好き勝手に入れる。
まさに夢のような能力……だと思ったら大間違い。
真心は、こんな能力欲しくも無かった。
「あー、どうしよう。これじゃあ私、何処にも行けない」
「声だけは聞こえるぞ」
「声だけ聞こえたら、逆に怖いでしょ!」
真心が喰べられてしまったのは、姿だけ。
そのおかげと言うべきか、声だけは無事だ。
口を開けば普通に喋れるし、周りにも声は聞こえる。
けれど、何処からともなく声だけが聞こえても、怖くて驚かれるだけだった。
「ううっ、これじゃあ家にも帰れないし、学校にも行けない。友達にも会えないし、如何したらいいの?」
真心は困ってしまった。
ソファーに座ると、顔を埋めた。
大粒の涙がポロポロ零れると、グレイスはふと呟いた。
「私には見えているだがな」
その言葉はとても鮮烈だった。
真心は、グレイスと会話をする中で、少しだけ引っかかっていた。
“どうしてグレイスは、私の顔色が分かるのか”。
あまりにも突然だったので、真心はすっかり見落としていたが、グレイスの振る舞いは、まるで真心の姿が見えているようだった。
「もしかして、グレイスちゃんには、私のことが見えてる?」
「当り前だ。そうじゃなかったら、どうして顔色が分かるんだ?」
「えっと、勘?」
「そんな訳があるか! 私は魔女だぞ、ただの魔法使いじゃない。たとえ、姿を喰われようが、私の目までは誤魔化せないぞ」
グレイスはとても誇らしげに言い切った。
腕まで組むと、背筋をピンと伸ばす。
その立ち姿に、真心は感動した。魔女であれ、なんであれ、自分の姿を見てくれる人がいることに感謝した。
「よかった……」
「ん? なにがよかったんだ」
真心は一安心できた。
胸に突き刺さっていたなにかがポロリと落ちる。
そんな感覚に至ると、真心は、グレイスに笑顔を浮かべる。
「ありがとう、グレイスちゃん。私、まだいるんだね」
「当り前だ。世界が存在を見失っても、私はこの目で見た真実を見届けるまでだ」
「ううっ、カッコいい」
グレイスの言葉はとてもカッコ良かった。
もちろん、意識してカッコいい言葉を使った訳じゃない。
ただ単に、グレイスは自分の目で見たことを、真実として受け取るだけだった。
「とは言え、家にも帰れず学校にも行けないとなると、それまでの間、どうやって誤魔化せばいいんだ。今からだと、流石に間に合わないか……仕方ない」
グレイスはブツブツと呪文を唱え始める。
真心は姿を喰われてしまったものの、今もこの世界に存在している。
それを周囲に気が付かれると、色々と生活が大変だ。
グレイスはなんとかして良い方法がないかと考え、ふと突飛なアイデアが思い付いてしまった。
「そうか、その手があったか」
グレイスはニヤリと笑みを浮かべる。
あまりにも不適な笑いで、真心は内心ドキドキしていた。
もちろん、助けてもらう側に立った真心には、拒否権なんてものは無い。
恐る恐る訊ねると、グレイスはこう言った。
「グレイスちゃん、なにが思い付いたの?」
「簡単なことだ。真心、お前に私の体を貸してやる」
「ん?」
真心は瞬きを何度もした。
グレイスの言っている言葉の意味が、理解できなかった。
困惑してしまうと、グレイスに訊ね返す。
「グレイスちゃん、ちょっとだけ、分からないんだけど」
「まあ、百聞は一見に如かずだ。早速試してみよう」
グレイスはぶっつけ本番で、試してみることにした。
真心を抱き寄せ、ギュッと抱きつく。
全身にグレイスの温もりが伝わると、真心は顔を真っ赤にする。
「えっ、ど、どうしたの、グレイスちゃん!? 急に抱きつかれたら、流石に照れちゃうよ」
「照れる必要は無い。いいから、意識を集中しろ。初めてやるが、上手く行ってくれよ」
グレイスは真心と一緒に目を閉じて、意識を集中する。
研ぎ澄まされると、不意に意識が混ざり合う。
真心は怖くなり、目を開けようとするけれど、グレイスに注意された。
「グレイスちゃん、怖いよ」
「いいから集中しろ。灰の鏡……うっ」
「グレイスちゃん!? あ、あれ……」
真心はグレイスの声が聞こえなくなったので焦った。
同時に、抱き合っていたはずが、急に一人ぼっちになっていた。
真心はキョロキョロ辺りを見回す。
そこにグレイスの姿が無く、真心は不安になる。
「グレイスちゃん、グレイスちゃん! 何処に行っちゃったんだろ……」
(うるさいな、私はここにいる)
「うわぁ、今、頭の中でグレイスちゃんの声がした気がしたけど……えっ?」
真心は顔を抑えた。
幻聴が聞こえて来たのかと思ってしまう。
けれどそんなことは無い。真心の頭の中で、グレイスの声がした。
(それじゃあ真心、お前の家に帰るぞ)
「その前にちゃんと説明してよ、グレイスちゃん、何処なの!」
真心は未だに信じられなかった。
まさか真心が、グレイスの体を借りてしまったことに。
にわかには信じがたいが、確かにそこに居るのは真心自身で、グレイスの体を借りた真心が居た。
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