灰魔女さんといっしょ

水定ゆう

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透明人間になっちゃった!?

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 真心はしばしの間、言葉を失ってしまった。
 きっとこれはなにかの冗談だ。そうに違いない。
 そう思い込むことしかできない中、グレイスは淡々と紅茶を飲んでは、注いでいた。

「少しぬるいな……真心も飲むか?」
「……大丈夫」
「そうか。うーん、それでも美味い」

 グレイスは気品に溢れていた。
 けれど真心の傷付いた心を癒してはくれない。
 自分の思うがままに振舞うと、ポツリと呟いた。

「どうやら、私が来る少し前に、トウメイリザードに姿を食べられたらしいな」
「えっ?」

 グレイスは答えを知っている様子だ。
 落ち込み、なにも口にしたくなかった真心だったが、グレイスの言葉はすんなり耳に入る。
 あまりにもバカげた出来事に、真心もおかしくなってしまいそうだが、それでもこれが現実なのだとすれば、少しでも良くなる方法が知りたいのだ。

「グレイスちゃん、どういうこと?」
「そのままの意味だ。とは言え、理解はできないだろうがな」
「うん、できないよ。トウメイリザードって、私のことを襲ったトカゲ頭の?」
「マヤカシの一種、トウメイリザード。その怪異は、喰らったものの姿を奪い、この世から消してしまうこと。鋭い牙と大きな口で、存在を飲み込んでしまい、断末魔を聞いた者の意識を刈り取る。それが、トウメイリザードという、マヤカシだ」

 グレイスの説明はやけに単調で、掴みどころは無かった。
 それでも真心は真剣に聞いていた。
 やはりバカげているのだが、それでも実際にこの目で見たものを、信じない訳には行かない。
 真心なりに覚悟が決まっていると、グレイスの話を要約し、頭の中でまとめた。

「つまり私は、トウメイリザードっていうマヤカシに、存在=姿を食べられちゃったってこと?」
「ほぉう、理解が早いな。まぁ、そう言うことだな」
「納得できないよ……」

 グレイスに褒められた真心だったが、全然嬉しくなかった。
 むしろ心底バカにされている気がしてしまう。
 それでも腹を立てないのは、真心が優しいから。それに加えて、グレイスが嘘を付いていないからだ。

「グレイスちゃん、教えて」
「なにをだ?」
「マヤカシってなんなの? 私はどうしたらいいの? このままじゃ、家に帰れない。私、どうしたら……ううっ」

 真心はグレイスに頼み込んだ。
 泣きついてしまい、大粒の涙が溢れてしまう。
 クシャクシャになった顔も、きっと誰にも見えないはずだ。
 声だけが散々響くと、グレイスは真心のことを抱き寄せた。

「そう泣くな。なに、トウメイリザードは大したことのないマヤカシだ。私がなんとかしてやる。だから泣くな」
「なんとかって? 泣くななんて、無理だよ」
「はぁ、人間は難しい生き物だ」

 グレイスは真心のことを必死に宥めようとする。
 できるだけ優しい言葉を掛けることで、心の平穏を保とうとする。

 けれどそれも叶わなかった。
 真心はさらに泣き出してしまうと、グレイスにはどうすることもできない。
 
 頭を抱えると、ポリポリと指で掻く。
 それから言葉を選んで口ずさんだ。

「トウメイリザードに喰われた姿は、トウメイリザード本体を倒してしまえば、元通りの返って来る」
「そうなの? でもそんなのできないよ」
「問題は無いと言っただろう。私は、トウメイリザード如きにやられるほど、軟じゃない」

 グレイスは胸に手を当てて行った。
 とても誇らしげで、真心は少しだけ元気が出る。

「だけど……」
「まだなにかあるのか?」

 それでも真心はまだ不安でいっぱいだ。
 グレイスは首を捻ったが、真心はグレイスの手を掴む。

「グレイスちゃんが、危ないよ。あんな化物、戦ったらダメだよ」
「いまさらだな」

 真心はグレイスを危険に晒していると気が付いていた。
 自分のわがままを聞いてもらっている。
 どうしても、申し訳ない気持ちが間に入ると、グレイスに任せるだけでは満足できない。

「私は、あんな化物と戦ったりはできないけど……」
「そうだな。魔法使いでもない、ただの人間に、マヤカシは倒せない」
「それでも、少しだけでいいから、できることは無い? 私も、助けてもらってばかりじゃ、嫌だから!」

 真心はギュッとグレイスの手を握った。
 その手のひらはとても温かくて、勇気を振り絞っている。
 グレイスはそれを直に感じると、自分には無い感情に、心を動かされる。

「バカだな、できないことは任せればいいのに」
「そうだけど……それでも、私はしたいから」
「魔法使いとしての素質があるな。その“満たされない欲”、悪くない」

 グレイスはフッと笑みを浮かべた。
 真心の気持ちを受け取ったからだ。
 ただ頼られるだけではない。面白い女の子に出会えたことに、期待を寄せているのだ。

「いいだろう、手伝ってもらうぞ」
「うん」
「とは言え、今日のところはもう夜も遅い。家に帰らないと、マズいだろ」
「えっ、もうそんな時間なの!?」

 真心はスマホを取り出した。
 見れば時刻は夜も八時を回っている。
 つまり外はもう真っ暗と言うことだ。
 流石に母親に心配を掛ける訳には行かない。そう思ったのだが、真心には心配事があった。

「どうしよう、このままじゃ帰れない」

 真心は姿を失っている。
 透明人間状態では家にも帰れない。
 頭を抱えてしまう中、グレイスは何故か首を捻り、真心のことを、憐れんでいた。
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