灰魔女さんといっしょ

水定ゆう

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灰色の森にお屋敷

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「ううっ……」

 真心は酷くうなされていた。
 全身から、大量の汗が流れる。
 おまけに頭がクラクラしていて、耳が痛い。

「ううっあ……」

 断末魔だんまつまを訊いた影響えいきょうだ。
 真心は体を起こすどころか、まぶたさえ重くて、目を開けることさえできない。

「ああ……お母さん……お姉ちゃん……」

 完全にうなされていた。
 うわごとのように、家族の名前を口にする。

「私……は……ああ?」

 そんな中、急に真心の体と心が軽くなった。
 とても不思議な感覚で、まるで真心の中に、なにかが入って来るみたいだ。

 トポトポトポトポ!

 真心の薄っすら開いた口に、なにか注がれる。
 そのせいか、舌が勝手に喉の奥へと押し流してくれる。

「ああっ……あっ。……がぱっ!?」

 だけど流石に多すぎた。
 ついつい喉を詰まらせそうになるので、命の危険を感じる。
 真心は咄嗟に目を見開くと、体を起こして、吐き出そうともがいた、

「げほっ、げほっ、がっ、うべっ、く、苦しい……気持ち悪い」

 真心は吐き出そうとしたけれど、全く吐き出せなかった。
 むしろ全部飲み込んでしまった。
 一体なにを飲んだのか? 真心は怖くなると、全身を身震いが襲った。

「って、私、ここ、何処?」

 真心は体を身震いさせるも、それと同じくらい早く、ここが何処なのか気になる。
 正直、ここは何処かの建物の中。
 それだけは分かるけど、真心は一度も見たことがないような、広いリビング? が広がっていた。

「えっ、ええっ!? どうなってるの。確か、私は……」

 真心は記憶を引っ張り出した。
 トカゲ頭の化物に襲われ、間一髪のところで助けられた。
 灰色髪の少女は、謎の力によって、トカゲ頭の化物を追い払ったのだ。

「そうだ。確か私はあの時……」
「そうだ、トウメイリザードに襲われた影響で、アンタは気絶したんだ」
「やっぱり……って、誰!?」

 真心はツッコミを入れた。
 突然独り言に割って入って来たので、驚いたのだ。

「ん? ああ、気が付いたんだな」
「そうじゃなくて……」

 真心が座っているのは、大きなソファー。
 その隣にも小さな一人用のソファーが置いてある。
 そこに腰かけているのは、灰色の髪をした少女。
 鋭い目付きをして、ティーカップに注いだ紅茶を飲んでいた。

「えっと、誰なの?」
「人に名前を訊く前に、自分から名乗るべきじゃないのか?」

 上から目線な言葉がのように飛んで来た。
 真心の胸を貫くと、グサリとひびが入る。

「そうだよね。私は、遠屋真心とおやはあと、よろしくね」
「真心か。悪く無い名前だ」
「えーっと、その?」

 真心は何故か名前を褒められた。
 首を横に倒すと、唇を曲げる。
 眉間みけんにしわを寄せ、正しい顔ができなくなった。

「私はグレイス・ミリミラー。《灰魔女》と呼ばれる魔法使いを生業なりわいにしている」
「……ん? ……」

 真心は余計に訳が分からなくなった。
 瞬きを何度もしてしまい、グレイスと名乗った少女の言葉を頭の中で、復唱する。

(はいまじょ? まほうつかい? えっと、そっち系の子なのかな?)

 心身しんしんに受け止めつつも、真心は難しく考えてしまった。
 そのせいだろうか? 真心は表情がぎこちない。
 それでも顔色を整えようとするも、グレイスは、真心の心を見透かした。

「信じられないのなら、それでも構わない。元々、信じて貰えるとは、思ってもいないからな」

 グレイスは悲しくなるようなことを言った。
 見かねた真心は、慌てた様子で、訂正する。

「あっ、ごめんね。私も、全部信じてないわけじゃ、ないんだよ。ただね、突然灰魔女だとか、魔法使いって言われても、ピンと来なかっただけで……ごめんなさい」

 真心はグレイスに抱きつき、必死に謝った。
 するとグレイスにも伝わったらしい。
 真心を引き剥がすと、顔色を元に戻した。

「問題は無い。ところで、真心とか言ったな。体の方は大丈夫か?」
「えっ?」

 真心はグレイスに心配された。
 とは言え、真心は心配されるほど、疲れてはいなかった。
 トカゲ頭の化物に何故か襲われたけれど、寝覚めは悪くなく、むしろ良い方だった。

「うん、大丈夫だよ」
「……そうか、それはよかったな」

 グレイスはホッと一安心すると、胸を撫でた。
 それから紅茶を一口飲むと、真心も真似をして飲もうとする。
 少し苦くて、美味しくはない。だけど何故か喉の奥がスッキリとして、心地が良かった。

「とは言え、その姿では家には帰れないだろうな」
「ん? その姿って、もしかして、汚れてるの?」
「そういう意味じゃない。……ほら、見てみろ」
「スマホ……ええっ!?」

 グレイスはおかしなことを言った。
 真心は反応してしまい、首を捻る。
 “その姿では家に帰れない”、なんのことを言っているのか、さっぱり分からなかった。

 そんな中、グレイスはスマホを取り出した。
 画面を見せ、真心の姿を映し出す。
 そこに映るのは当然真心自身の姿。なんら変わらないと思っていた真心だったが、絶句してしまい言葉を失う。

「ど、どうなってるの、これ? わ、わ、私が、映ってない?」
「そうだ。真心、今のお前は・・・・・存在していない・・・・・・・。“透明人間”だ」

 グレイスはひょうひょうとした態度で、なに一つ顔色を変えなかった。
 けれど真心は違った。
 スマホには自分の姿は一切映っておらず、完全に奥の景色が映し出されており、グレイスの言う通り、透明人間になっていたのだから、言葉を失うのだった。
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