灰魔女さんといっしょ

水定ゆう

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灰色の魔女がやって来た

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「よかった……」

 真心はあとはホッと胸をでた。
 やぶの中を走り、何とか追い付くと、案の定、瑠海達の姿があった。
 けれど目の前には、よく分からない、この世ならざるものをした化物ばけものの姿。
 完全に怯《おび》えていて、逃げられなくなっていたところを、真心は勇気を出して対抗たいこうした。

「近くに木の棒が落ちていてよかったよ」

 丁度ちょうどよく、近くに木の棒が落ちていた。
 しかも先が鋭く手危なかった。
 全然やったことは無かったけれど、真心は木の棒を投げつけたことで、無事に瑠海達を逃がすことに成功したのだ。

「って言っても、これからどうしよう」

 トカゲ頭の棒人間は、真心のことを見つめていた。
 もちろん、薮の中に隠れているおかげか、姿は見つけられていない。
 けれど、少しでも動けばバレてしまう。汗が流れる真心は、このまま動けなくなってしまった。

「このままゆっくり後ろに下がれば、逃げられるかな?」

 真心はなんとしてでも逃げようとした。
 音をできるだけ立てないようにしつつ、ゆっくりゆっくり後ずさりをする。
 すると草がガサガサ、木の枝がポキポキと鳴り出してしまった。
 まるで意図的に・・・・鳴っている・・・・・みたいで、気味が悪かった。

「ちょっとだけ静かにしてよ。お願いだから」

 真心は小さな声でお願いした。
 けれど、そんな真心の言葉はかき消される。

「ニンゲン……ミィツケタ」

 トカゲ頭の棒人間は、愉悦ゆえつ混じりに笑みを浮かべていた。
 ゆっくりユラユラ揺れ出すと、スッと移動する。
 その動きは、まるで瞬間移動しゅんかんいどうしたみたいで、真心は声も出せなくなる。

「ひぃっ!?」

 もはや擬音ぎおんだけが、口から零れていた。
 目は見開いてしまい、涙が出て来る。
 もう怖いとか、そんなレベルではなく、真心の心臓がドクンドクンと悲鳴を上げていた。

「ニンゲン……ニンゲン……クエバ、ツヨクナレル」

 トカゲ頭の棒人間は、さらに体を変化させた。
 今度は頭だけじゃない。腕も足も全部トカゲの姿に変わる。
 ズラリと生えそろった歯を見せつけると、大きく口を開けて、真心をカブリと噛み付こうとする。

「誰か、助けて……」

 真心は助けを求めた。
 けれど誰もいない。いるはずがない。
 そうと分かっているはずなのに、急に風がヒュルルル~と音を立て、ガサガサと草木が揺れ始めた。

「灰の詩」

 何処からともなく真心では無い、誰かの声がした。
 それに合わせるように、突然とつぜん空気が変わった。
 恐怖が支配していたはずなの、逆にトカゲの化物がおびえ始めた。

「コレ、イヤ。コノ、オト、キライ……ギャァァァァァァァァァァァァァァァ!」

 トカゲの化物は悲鳴を上げた。
 頭がグワングワンと揺れ始める。
 だけど、今回はさっきまでの揺れとは違う。
 何故か怯えてしまっていて、トカゲの化物は、耳の辺りを押さえていた。

「ど、どういうこと?」
「灰の詩は、細かな灰の魔法で、空気を伝うことにより、マヤカシにダメージを与えることができる」

 真心の疑問に、正確な答えが返って来た。
 しかも背後からで、真心は誰か来たと思い、助けて欲しいという感情と、それを上回る、守りたいという感情が溢れ出した。

「あっ、ダメ。こっちに来ちゃダメだよ!」
「問題無い。すでにここは、私のテリトリーだ」

 そう言うと、やって来た少女は自信満々な態度を見せる。
 一体どういうことだろうか。
 真心は瞬きを何度もするが、やって来た少女の見た目に、それ以上に驚いてしまった。

「えっ、貴女は、さっき……えっ?」
「ん? アンタはさっき、十字路ですれ違った奴だな。どうしてここにいるんだ?」
「どうしてここにって、それは、その……」

 真心は当然の疑問に、当然の疑問で返された。
 そのせいだろうか、困惑してしまい、なにも返せなくなる。
 モジモジしてしまうと、灰色髪の少女は視線を落とした。

「まあいい。とりあえず、そこにいるマヤカシを倒してからだな」
「ま、マヤカシ?」

 なにを言ってるのか、真心にはやはり分からない。
 根本こんぽんからまるで付いて行けない。
 そんな中、灰色髪の少女は、トカゲの化物に近付く。
 真心は、そんな灰色髪の少女を止める。

「ん? なんだ、腕を離してくれ」
「ダメだよ。あんな化物、相手にしちゃダメだよ。今すぐ逃げよう。ねっ!」

 真心は必死な顔で言った。
 けれど灰色髪の少女は気にしない。
 むしろ首を傾げると、「何故?」と言いたそうになる。

「問題無いと、言っただろ。それに、ここでマヤカシを倒しておけば、色々と面倒が省ける」
「面倒?」
「そう言うことだ。だから、腕を離してくれ」
「で、でも……」

 真心はどうしても腕を離せない。
 なんだか嫌な予感がしてしまったからだ。
 けれど灰色髪の少女は無理にでも引き剥がすと、トカゲ頭の化物に近付いた。

「マヤカシはここで倒しておく。私の敷地内に勝手に入って来たんだ。悪く思うなよ」

 灰色髪の少女は、トカゲ頭の化物に、手をかざした。
 するとまた変な言葉を呟いた。

「灰に還れ」
「ンギャァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 トカゲ頭の化物は、突然断末魔だんまつまを上げた。
 とんでもない叫び声が上がる。
 私は不意に耳を塞ぐけど、それでもうるさい。

「本当になにが起きてるの……」
「この世には、知らなくても良いことの方が多い。これは、そのたぐいのものだ」
「えっ?」

 灰色髪の少女は、そう呟いた。
 その瞬間、目の前に居たトカゲ頭の化物は、長くて鋭い爪を振るう。
 灰色髪の少女は襲われたが、まるで動じない。
 むしろ少し後ろに下がっただけで、顔色も汗も一つも掻かなかった。

「とは言え、この町にいる限り、それは無理な話かもしれないが……」
「もう、本当に、訳が分からない……」

 バタン!

「ん? おい、大丈夫か、おい!」

 真心は断末魔のせいか、頭が痛くなって来た。
 その直後、不意に体の中をなにかが通るような感覚に襲われる。

 それを最後に、意識が途絶えた。
 視界が真っ暗になると、パタリとうつ伏せで倒れてしまう。

 真っ先に気が付いた、灰色髪の少女は傍に駆け寄る。
 するとトカゲ頭の化物は、一瞬のすきを付いて逃げ出す。

「あっ、待て……って、それよりこっちか。おい、しっかりしろ、おい!」

 ガサガサと草木を掻き分ける音がした。
 追うか迷ったが、今は真心の身を第一に考える。
 その手は、真心の透き通る体・・・・・を優しく撫でると、灰色の森を抜けるのだった。
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