灰魔女さんといっしょ

水定ゆう

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この世ならざるもの

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 真心が来る少し前。
 灰色の森に先にやって来ていた、瑠海、空子、陸句。
 三人の少女達は、残念ながら、彷徨さまよっていた。

「あー、もう、全然辿り着けないわね」
「そうだね、瑠海ちゃん」
「もう疲れたよ」

 三人は疲れてヘトヘトだった。
 汗を流すくらいには歩き続けていて、スマホを見ると、もう一時間は経っている。
 部活を早めに抜け出して来たのに、これじゃあ元も子もない。

「瑠海ちゃん、もう帰ろう! このままじゃ本当に迷っちゃうよ」
「なに言ってるの、空子。ここまで来て諦めきれないでしょ?」
「でも……」
「でもじゃない! ネットの真実を暴くんだから」

 空子は必死に止めようとした。
 このまま歩き続けても、手掛かりの一つさえ見つかる気がしない。

 それだけじゃない。
 陸句がもう帰りたがっているから、早めに森を出たかった。
 このまま森の中を闇雲に歩き続けたら、本当に町に戻れなくなりそうで怖いのだ。

「ネットの真実なんて、暴かない方が面白いのに……」
「陸句!?」

 ついつい陸句は本音を呟いてしまった。
 完全に飽きてしまっている。
 それに勘付く空子は、瑠海の機嫌も窺った。

「瑠、瑠海ちゃん?」
「陸句、嫌なら帰ってもいいのよ」
「それじゃあ帰れない。瑠海は道を覚えてない」
「うっ……それは、ねぇ、空子?」

 瑠海は表情が硬くなった。
 なにを隠そう、瑠海は覚えるのが得意じゃない。
 だから陸句に帰られると、とっても困ってしまった。

 そんな中、視線を空子に向ける。
 空子ならきっと覚えているはず。
 そう期待したのだが、空子の表情は暗い。

「ごめんね、瑠海ちゃん」
「ま、まさか空子も!?」
「う、うん」

 空子も陸句と同じだった。
 このまま歩いていても日が暮れるだけ。
 だから早めにあきらめて帰りたい空気を出すと、瑠海はムッとする。

「も、もういいわよ! 私一人で探すから」

 瑠海は顔を真っ赤にした。
 空子と陸句はそんな瑠海のことを必死になだめようとする。

「落ち着いて、瑠海ちゃん!」
「そうだよ、瑠海。落ち着いて」
「落ち着けるわけないでしょ! 二人共、そんなに帰りたいなら帰って」

 こうなってしまった瑠海を宥めるのは至難のわざだ。
 そのせいか、空子はどうしようかと悩んでしまう。
 その隣では、陸句が大きな欠伸あくびをしている。
 完全に無視している証拠だ。

「ちょっと、陸句ちゃん」
「なに?」
「瑠海ちゃんを連れて帰るよ。このままここにいてもらちが明かないから」

 大人な態度を取る空子は二人の母親の様。
 上手くまとめると、耳打ちをして連れ帰る作戦を考える。
 そんな中、急に瑠海は叫んだ。明後日の方向を見てだ。

「どうしたの、瑠海ちゃん?」
「空子、陸句、あそこ。なにかいるわよ」
「なにかって? ほんとだ」
「ほんとだって……そんなまさか。うわぁ!?」

 空子と陸句も、瑠海と同じものを見た。
 その姿は真っ黒な棒人間。
 あまりにも不気味で仕方がなく、空子はついつい叫んでしまった。

「な、なにあれ!?」
「なにか分からないけど、でも怪しいわよね」
「怪しいというより、不気味」
「そうよね。あっ、こっち見たわよ」

 黒い棒人間はウネウネしていた。
 小さい頭を右に左にユラユラユラ。
 長い手足をユラユラユラ。
 細い体をユラユラユラ。

「ちょ、なんかヤバそうよね?」
「瑠海ちゃん、もう帰ろう」
「そ、そうね。流石に私も命の危険を……」

 瑠海がビビった。その瞬間、黒い棒人間は、体を揺らしながら、近付いて来た。
 動きは非常にゆっくりしている。
 だけどおどろおどろしく、瑠海達は、体が固まって逃げられなかった。

「ど、どうして、どうして体が動かないのよ!」
「怖い、怖いよ……」
「ううっ、動けない。あっ、こっち来た」

 瑠海達の体は動かない。
 完全に震えが止まらずで、気が付けば、黒い棒人間は、形を変えて、瑠海達の前にやって来た。

「ミツケタ……ミィツケタ。ニンゲン、ミィツケタ」

 黒い棒人間の頭が変わった。
 その形は、まるでトカゲ。
 ギザギザの歯を何本も生やしていて、瑠海達を食べようとする。

「こ、来ないで!」
「あ、あっち、行ってよ!」
「だ、誰か……」

 瑠海達は悲鳴を上げた。
 お腹から声出して、必死だった。
 だけど誰も助けてくれない。何故なら、近くには誰もいないのだから。

「それっ!」

 すると突然、先がするどとがった 木の棒が飛んで来た。
 トカゲ頭の棒人間の体にコツンと当たる。
 すると一瞬いっしゅんだけ視線を外すと、瑠海達は体が軽くなる。

「か、体が動いた!?」
「今だよ、瑠海ちゃん」
「さっさと逃げる。帰れるかは後回し」

 そう言うと、瑠海達は、神様が助けてくれたと思って、急いで逃げだした。
 やぶの中に、急いで飛び込む。
 するとトカゲ頭の棒人間が、視線を戻す頃には、もういなくなっていた。
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