25 / 32
トウメイリザードは手負いだから
しおりを挟む
真心の頬を鋭い爪が引っ掻く。
チクリとした痛みが走る。
言われるがまま、真心は、距離を取ると、振り返った先が捻じれていた。
「な、なに?」
(トウメイリザードだ)
「やっぱり今のって……痛い。えっ、ええっ!?」
真心は頬を触った。
するとベッタリとした感触がする。
目を見開いて、ドクンドクンと振動が音を鳴り出した。
(灰の薬)
真心が怯えていると、グレイスは魔法を唱えた。
すると空から灰色の粉が舞う。
全身を優しく包み込むと、頬の傷が塞がった。
「ありがとう、グレイスちゃん」
(あまり怪我はするなよ。回復系の魔法は、魔力の消費が激しい)
「ごめんなさい。それで、どうしたらいいかな?」
ようやくトウメイリザードに出遭えた。
けれど、上手く姿が見えない。
景色が歪んで見えてしまい、真心は目元を擦る。
「私の目がおかしいのかな?」
(いや、お前の目はおかしくないぞ。ただ、トウメイリザードは消えているだけだ)
「消えてるの? そんな感じには見えない……空間がねじ曲がってる?」
真心の目がおかしくなったのか、景色ではなく、空間がねじ曲がってるように見えた。
そのせいか、トウメイリザードの姿は、輪郭だけ露出している。
中途半端に消えていて、真心の目でも、ちゃんと見つけられた。
(どうやら、私の攻撃が効いているらしいな)
「効いてるって?」
(お前を助けるために使った、灰の詩を流し込んだからな。全身が悲鳴を上げているんだろう)
「悲鳴……なんだか、可哀そうなこと、しちゃったかな?」
真心はトウメイリザードのことを、可愛そうに思う。
“マヤカシ”と言うだけで倒されるなんて、最低なことをしている気がした。
「ツシャァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
すると突然トウメイリザードは吠えた。
耳を押さえた真心だったが、目を見開き唖然となる。
「と、トウメイリザードは!?」
(マズいな。今の感情で、トウメイリザードの傷が治りつつあるのか)
「感情で? もしかして、私が可哀そうなんて、思ったから?」
トウメイリザードは目の前から姿を消した。
真心にこれ以上手を出す気はない。
周囲にも、マヤカシの気配は完全に消えていて、キョロキョロと視線を配った。
「ど、どうしよう!?」
(落ち着け。そう、遠くには行っていな筈だ)
グレイスは真心を落ち着かせる。
けれど真心は、トウメイリザードが見えなくなったので、慌てるしかない。
なんとかして見つけないと。そんな感情が盲目にさせる。
「さっきみたいに歪みを探して……見えない」
(真心、少し落ち着け。マヤカシを肉眼で見ようとするな)
「肉眼でって、目で見ないってこと?」
(そうだ。マヤカシを見るための魔法を教えてやる。見えざる目)
「見えざる目?」
真心は半信半疑で唱えた。
けれどなにか変なことが起こった様子も無い。
首を捻ってしまうと、グレイスに訊ね返す。
「グレイスちゃん、なにも起きないよ?」
(いいや、お前の魔法はちゃんと効いているぞ)
「効いてるの?」
そんな感覚が一切無い。
けれどグレイスの言葉は真心を勇気付ける。
グルンと周囲を見回してみると、真心は気が付かないものに気が付く。
「あれ?」
(お前にも見えたか)
グレイスは最初から見えていた。
アスファルトの地面に大きな足跡が残されている。
「もしかして、トウメイリザードの足跡?」
(灰の跡のような効果は無いが、これを使えば、ある程度は追えるぞ)
「凄い。凄すぎるよ」
灰の跡のようなクッキリ感は無い。
それでも、足跡を追えるくらいには、目で見える。
真心は足跡がこの先に続いていることを知ると、早速追い掛けることにする。
「足跡は住宅地の方に続いてるよ」
(そうだな。急ぐぞ、被害が出る前に、終わらせる)
「そうだね……うわぁ!」
駆け出した真心は足をつまづいた。
コツンと爪先がなにかにぶつかると、そのまま体勢を崩す。
フラフラしてしまい、膝を打つと、涙を浮かべそうになる。
「痛い……」
(大丈夫か?)
「うん。今、私なにに足を取られたの?」
ふと視線を向けると、縁石が見えるようになっていた。
トウメイリザードが逃げる際に消していたものだ。
真心はそれを受けて思う。もしも、なにも知らない人が同じ目に遭ったら、本当に大惨事になる。
(トウメイリザードの仕業だな)
「本当になんとかしないと。私のことより」
(真心……あまり気負うなよ)
「分かってるよ。行こう、グレイスちゃん」
真心の中でなにかが吹き飛んだ。
恐怖心もあるが、それを覆す程の、爆発的な感情だ。
最初に出した一歩は力強くて、グレイスは驚いてしまった。
チクリとした痛みが走る。
言われるがまま、真心は、距離を取ると、振り返った先が捻じれていた。
「な、なに?」
(トウメイリザードだ)
「やっぱり今のって……痛い。えっ、ええっ!?」
真心は頬を触った。
するとベッタリとした感触がする。
目を見開いて、ドクンドクンと振動が音を鳴り出した。
(灰の薬)
真心が怯えていると、グレイスは魔法を唱えた。
すると空から灰色の粉が舞う。
全身を優しく包み込むと、頬の傷が塞がった。
「ありがとう、グレイスちゃん」
(あまり怪我はするなよ。回復系の魔法は、魔力の消費が激しい)
「ごめんなさい。それで、どうしたらいいかな?」
ようやくトウメイリザードに出遭えた。
けれど、上手く姿が見えない。
景色が歪んで見えてしまい、真心は目元を擦る。
「私の目がおかしいのかな?」
(いや、お前の目はおかしくないぞ。ただ、トウメイリザードは消えているだけだ)
「消えてるの? そんな感じには見えない……空間がねじ曲がってる?」
真心の目がおかしくなったのか、景色ではなく、空間がねじ曲がってるように見えた。
そのせいか、トウメイリザードの姿は、輪郭だけ露出している。
中途半端に消えていて、真心の目でも、ちゃんと見つけられた。
(どうやら、私の攻撃が効いているらしいな)
「効いてるって?」
(お前を助けるために使った、灰の詩を流し込んだからな。全身が悲鳴を上げているんだろう)
「悲鳴……なんだか、可哀そうなこと、しちゃったかな?」
真心はトウメイリザードのことを、可愛そうに思う。
“マヤカシ”と言うだけで倒されるなんて、最低なことをしている気がした。
「ツシャァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
すると突然トウメイリザードは吠えた。
耳を押さえた真心だったが、目を見開き唖然となる。
「と、トウメイリザードは!?」
(マズいな。今の感情で、トウメイリザードの傷が治りつつあるのか)
「感情で? もしかして、私が可哀そうなんて、思ったから?」
トウメイリザードは目の前から姿を消した。
真心にこれ以上手を出す気はない。
周囲にも、マヤカシの気配は完全に消えていて、キョロキョロと視線を配った。
「ど、どうしよう!?」
(落ち着け。そう、遠くには行っていな筈だ)
グレイスは真心を落ち着かせる。
けれど真心は、トウメイリザードが見えなくなったので、慌てるしかない。
なんとかして見つけないと。そんな感情が盲目にさせる。
「さっきみたいに歪みを探して……見えない」
(真心、少し落ち着け。マヤカシを肉眼で見ようとするな)
「肉眼でって、目で見ないってこと?」
(そうだ。マヤカシを見るための魔法を教えてやる。見えざる目)
「見えざる目?」
真心は半信半疑で唱えた。
けれどなにか変なことが起こった様子も無い。
首を捻ってしまうと、グレイスに訊ね返す。
「グレイスちゃん、なにも起きないよ?」
(いいや、お前の魔法はちゃんと効いているぞ)
「効いてるの?」
そんな感覚が一切無い。
けれどグレイスの言葉は真心を勇気付ける。
グルンと周囲を見回してみると、真心は気が付かないものに気が付く。
「あれ?」
(お前にも見えたか)
グレイスは最初から見えていた。
アスファルトの地面に大きな足跡が残されている。
「もしかして、トウメイリザードの足跡?」
(灰の跡のような効果は無いが、これを使えば、ある程度は追えるぞ)
「凄い。凄すぎるよ」
灰の跡のようなクッキリ感は無い。
それでも、足跡を追えるくらいには、目で見える。
真心は足跡がこの先に続いていることを知ると、早速追い掛けることにする。
「足跡は住宅地の方に続いてるよ」
(そうだな。急ぐぞ、被害が出る前に、終わらせる)
「そうだね……うわぁ!」
駆け出した真心は足をつまづいた。
コツンと爪先がなにかにぶつかると、そのまま体勢を崩す。
フラフラしてしまい、膝を打つと、涙を浮かべそうになる。
「痛い……」
(大丈夫か?)
「うん。今、私なにに足を取られたの?」
ふと視線を向けると、縁石が見えるようになっていた。
トウメイリザードが逃げる際に消していたものだ。
真心はそれを受けて思う。もしも、なにも知らない人が同じ目に遭ったら、本当に大惨事になる。
(トウメイリザードの仕業だな)
「本当になんとかしないと。私のことより」
(真心……あまり気負うなよ)
「分かってるよ。行こう、グレイスちゃん」
真心の中でなにかが吹き飛んだ。
恐怖心もあるが、それを覆す程の、爆発的な感情だ。
最初に出した一歩は力強くて、グレイスは驚いてしまった。
0
あなたにおすすめの小説
カリンカの子メルヴェ
田原更
児童書・童話
地下に掘り進めた穴の中で、黒い油という可燃性の液体を採掘して生きる、カリンカという民がいた。
かつて迫害により追われたカリンカたちは、地下都市「ユヴァーシ」を作り上げ、豊かに暮らしていた。
彼らは合言葉を用いていた。それは……「ともに生き、ともに生かす」
十三歳の少女メルヴェは、不在の父や病弱な母に代わって、一家の父親役を務めていた。仕事に従事し、弟妹のまとめ役となり、時には厳しく叱ることもあった。そのせいで妹たちとの間に亀裂が走ったことに、メルヴェは気づいていなかった。
幼なじみのタリクはメルヴェを気遣い、きらきら輝く白い石をメルヴェに贈った。メルヴェは幼い頃のように喜んだ。タリクは次はもっと大きな石を掘り当てると約束した。
年に一度の祭にあわせ、父が帰郷した。祭当日、男だけが踊る舞台に妹の一人が上がった。メルヴェは妹を叱った。しかし、メルヴェも、最近みせた傲慢な態度を父から叱られてしまう。
そんな折に地下都市ユヴァーシで起きた事件により、メルヴェは生まれてはじめて外の世界に飛び出していく……。
※本作はトルコのカッパドキアにある地下都市から着想を得ました。
星降る夜に落ちた子
千東風子
児童書・童話
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
転生妃は後宮学園でのんびりしたい~冷徹皇帝の胃袋掴んだら、なぜか溺愛ルート始まりました!?~
☆ほしい
児童書・童話
平凡な女子高生だった私・茉莉(まり)は、交通事故に遭い、目覚めると中華風異世界・彩雲国の後宮に住む“嫌われ者の妃”・麗霞(れいか)に転生していた!
麗霞は毒婦だと噂され、冷徹非情で有名な若き皇帝・暁からは見向きもされない最悪の状況。面倒な権力争いを避け、前世の知識を活かして、後宮の学園で美味しいお菓子でも作りのんびり過ごしたい…そう思っていたのに、気まぐれに献上した「プリン」が、甘いものに興味がないはずの皇帝の胃袋を掴んでしまった!
「…面白い。明日もこれを作れ」
それをきっかけに、なぜか暁がわからの好感度が急上昇! 嫉妬する他の妃たちからの嫌がらせも、持ち前の雑草魂と現代知識で次々解決! 平穏なスローライフを目指す、転生妃の爽快成り上がり後宮ファンタジー!
【完結】またたく星空の下
mazecco
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 君とのきずな児童書賞 受賞作】
※こちらはweb版(改稿前)です※
※書籍版は『初恋×星空シンバル』と改題し、web版を大幅に改稿したものです※
◇◇◇冴えない中学一年生の女の子の、部活×恋愛の青春物語◇◇◇
主人公、海茅は、フルート志望で吹奏楽部に入部したのに、オーディションに落ちてパーカッションになってしまった。しかもコンクールでは地味なシンバルを担当することに。
クラスには馴染めないし、中学生活が全然楽しくない。
そんな中、海茅は一人の女性と一人の男の子と出会う。
シンバルと、絵が好きな男の子に恋に落ちる、小さなキュンとキュッが詰まった物語。
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
9日間
柏木みのり
児童書・童話
サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。
大事なのは最後まで諦めないこと——and take a chance!
(also @ なろう)
放課後ゆめみちきっぷ
梅野小吹
児童書・童話
わたし、小日向(こひなた)ゆには、元気で明るくて髪の毛がふわふわなことが自慢の中学一年生!
ある日の放課後、宿題をし忘れて居残りをしていたわたしは、廊下で変わったコウモリを見つけたんだ。気になってあとを追いかけてみたら、たどり着いた視聴覚室で、なぜか同じクラスの玖波(くば)くんが眠っていたの。
心配になって玖波くんの手を取ってみると……なんと、彼の夢の中に引きずり込まれちゃった!
夢の中で出会ったのは、空に虹をかけながら走るヒツジの列車と、人の幸せを食べてしまう悪いコウモリ・「フコウモリ」。そして、そんなフコウモリと戦う玖波くんだった。
玖波くんは悪夢を食べる妖怪・バクの血を引いているらしくて、ヒツジの車掌が運転する〝夢見列車〟に乗ることで、他人の夢の中を渡り歩きながら、人知れずみんなの幸せを守っているんだって。
そんな玖波くんのヒミツを知ってしまったわたしは、なんと、夢の中でフコウモリ退治のお手伝いをすることになってしまって――?
これは、みんなを悪夢から守るわたしたちの、ヒミツの夢旅の物語!
【奨励賞】おとぎの店の白雪姫
ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】
母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。
ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし!
そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。
小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり!
他のサイトにも掲載しています。
表紙イラストは今市阿寒様です。
絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる