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私達はこれからも
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「あっ、そうだ。グレイスちゃん、これ」
「ん? なんだこれ」
「マイカードだよ。グレイスちゃんの身分証明書みたいなもの」
真心は忘れる前に、当初の目的を思い出す。
ポケットの中からマイカードを取り出し、グレイスに手渡す。
受取ったグレイスは不思議そうな顔をしているが、ふと思い出したみたいに立ち上がる。
「そうか。提示を求められていたのは、これだったのか」
「えっ、もしかして必要だった?」
「そうだな。お前が持っていたのか」
「ごめんね。色々あって、渡しそびれちゃったから」
真心に悪気は一切無かった。
グレイスにも伝わっているようで、決して怒りはしない。
「いや、一応は済んだ。とは言え、お前が持っていたなら、別に今日でも無くてもよかったな」
「こういうの早い方がいいんじゃないのかな?」
「普通はな。とは言え私は魔女だ。ただの人間と、流れる時間は一緒じゃない」
「魔女だから?」
「そうだ。だが、今だけは一緒の時間を送ってやる」
グレイスは窓際によると、外の風景を見ていた。
霧が立ち込めていたのだが、ゆっくりと霧が晴れていくのが分かる。
薄く射し込んだ太陽の陽射し。
真心はグレイスの灰色の髪に光が反射すると、神々しく見えた。
「グレイスちゃん」
「真心、そろそろ時間じゃないのか?」
「時間って?」
「学校、遅れるぞ」
グレイスに言われ、壁に掛かった時計を見る。
確かにヤバい。今すぐ屋敷を出ないと間に合わない。
顔面蒼白になり立ち上がると、真心はバタバタし出した。
「や、ヤバい! グレイスちゃん、私行くね」
「ああ、また後でな」
「うん、また今度ね。あー、急げ!」
真心はグレイスに挨拶そこそこで、急いで屋敷を出た。
その背中をグレイスは見つめ、紅茶を一口啜る。
「ふぅ……また後でな」
グレイスの表情が変わった。
鋭く眉根を寄せると、リビングから別の部屋へと向かった。
「あっ、真心。なんか疲れてない?」
「橙子ちゃん」
灰屋敷から学校まで走って来た。
そのせいか、全身から汗が流れ出ている。
顔色がとても悪く、親友の橙子にも心配されていた。
「すっごい、汗。大丈夫、保健室行ったら?」
「大丈夫だよ。あはは……はぁ」
真心は机に突っ伏した。
少しの間休憩しようと、チャイムが鳴るまで、待っていた。
けれど時間の進みは早く、すぐにでもチャイムが鳴ってしまう。
「は、早いよ!」
「全員席について。今日はこのクラスに新しく来る生徒がいるから」
真心は顔を上げた。
まだ全身の汗が乾ききっていなかったが仕方が無い。
それにしてもこんな時期に転向性なんて意外だ。
真心だけではなく、クラスメイトがざわつく中、教室に入って来たのは真心の知る人物だった。
「それじゃあ入って」
「ああ」
ぶっきら棒な口振る舞い。
真心は心当たりがあったが、教室の扉を潜った灰色の髪。
それを見た瞬間、机を叩き、立ち上がってしまった。
「ええっ?」
「ん? 透野さん、どうしたの?」
「あっ、いや、その……」
真心はポツリと呟いた。
すると、転校生は口を開く。
「言っただろう、また後でなと」
「言ってたけど、そう言うこと?」
「そう言うことだ。まあ、定番だな」
そこに居たのは、灰色の髪の少女。
真心は知っている。
少女は、いつもとは違う服を着込み、制服になっていた。
「という訳だ。私の名前は、グレイス・ミリミラー。よろしくな」
グレイスは淡白な自己紹介をした。
それを立ち尽くしたまま聞く真心。
クラスが静まり返る中、グレイスはニヤリと微笑む。
「ん」
「えっ、ああ私? よろしくね、グレイスちゃん」
「ああ」
グレイスは真心に視線を向けた。
完全に指名されてしまった。
真心はそれを受け、気を取り直すと、グレイスに笑みを返す。
なんだか楽しくなりそうな学校生活だ。
真心はそんなことを思うと、グレイスを迎えることになった。
クラスも静まり返っていたが、和やかな雰囲気に書き換わると、灰色の魔女の魔法が掛かったみたいだ。
~完~
「ん? なんだこれ」
「マイカードだよ。グレイスちゃんの身分証明書みたいなもの」
真心は忘れる前に、当初の目的を思い出す。
ポケットの中からマイカードを取り出し、グレイスに手渡す。
受取ったグレイスは不思議そうな顔をしているが、ふと思い出したみたいに立ち上がる。
「そうか。提示を求められていたのは、これだったのか」
「えっ、もしかして必要だった?」
「そうだな。お前が持っていたのか」
「ごめんね。色々あって、渡しそびれちゃったから」
真心に悪気は一切無かった。
グレイスにも伝わっているようで、決して怒りはしない。
「いや、一応は済んだ。とは言え、お前が持っていたなら、別に今日でも無くてもよかったな」
「こういうの早い方がいいんじゃないのかな?」
「普通はな。とは言え私は魔女だ。ただの人間と、流れる時間は一緒じゃない」
「魔女だから?」
「そうだ。だが、今だけは一緒の時間を送ってやる」
グレイスは窓際によると、外の風景を見ていた。
霧が立ち込めていたのだが、ゆっくりと霧が晴れていくのが分かる。
薄く射し込んだ太陽の陽射し。
真心はグレイスの灰色の髪に光が反射すると、神々しく見えた。
「グレイスちゃん」
「真心、そろそろ時間じゃないのか?」
「時間って?」
「学校、遅れるぞ」
グレイスに言われ、壁に掛かった時計を見る。
確かにヤバい。今すぐ屋敷を出ないと間に合わない。
顔面蒼白になり立ち上がると、真心はバタバタし出した。
「や、ヤバい! グレイスちゃん、私行くね」
「ああ、また後でな」
「うん、また今度ね。あー、急げ!」
真心はグレイスに挨拶そこそこで、急いで屋敷を出た。
その背中をグレイスは見つめ、紅茶を一口啜る。
「ふぅ……また後でな」
グレイスの表情が変わった。
鋭く眉根を寄せると、リビングから別の部屋へと向かった。
「あっ、真心。なんか疲れてない?」
「橙子ちゃん」
灰屋敷から学校まで走って来た。
そのせいか、全身から汗が流れ出ている。
顔色がとても悪く、親友の橙子にも心配されていた。
「すっごい、汗。大丈夫、保健室行ったら?」
「大丈夫だよ。あはは……はぁ」
真心は机に突っ伏した。
少しの間休憩しようと、チャイムが鳴るまで、待っていた。
けれど時間の進みは早く、すぐにでもチャイムが鳴ってしまう。
「は、早いよ!」
「全員席について。今日はこのクラスに新しく来る生徒がいるから」
真心は顔を上げた。
まだ全身の汗が乾ききっていなかったが仕方が無い。
それにしてもこんな時期に転向性なんて意外だ。
真心だけではなく、クラスメイトがざわつく中、教室に入って来たのは真心の知る人物だった。
「それじゃあ入って」
「ああ」
ぶっきら棒な口振る舞い。
真心は心当たりがあったが、教室の扉を潜った灰色の髪。
それを見た瞬間、机を叩き、立ち上がってしまった。
「ええっ?」
「ん? 透野さん、どうしたの?」
「あっ、いや、その……」
真心はポツリと呟いた。
すると、転校生は口を開く。
「言っただろう、また後でなと」
「言ってたけど、そう言うこと?」
「そう言うことだ。まあ、定番だな」
そこに居たのは、灰色の髪の少女。
真心は知っている。
少女は、いつもとは違う服を着込み、制服になっていた。
「という訳だ。私の名前は、グレイス・ミリミラー。よろしくな」
グレイスは淡白な自己紹介をした。
それを立ち尽くしたまま聞く真心。
クラスが静まり返る中、グレイスはニヤリと微笑む。
「ん」
「えっ、ああ私? よろしくね、グレイスちゃん」
「ああ」
グレイスは真心に視線を向けた。
完全に指名されてしまった。
真心はそれを受け、気を取り直すと、グレイスに笑みを返す。
なんだか楽しくなりそうな学校生活だ。
真心はそんなことを思うと、グレイスを迎えることになった。
クラスも静まり返っていたが、和やかな雰囲気に書き換わると、灰色の魔女の魔法が掛かったみたいだ。
~完~
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