竜騎士七夜の異世界録

水定ユウ

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第一章:異世界と旅路

■1 アンティークショップ

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 ある日の帰り道。
 高校に入学したばかりの私は、中学の時からの友達と一緒に下校していた。

七夜ななやちゃんは部活入らないの?」
「うーん入る気はないかなー。織姫おりひめは?」
「私は手芸部に入ったよ」
「へぇーそうなんだ」
「だって高校生活三年間なんてあっという間だもん!楽しいことしなくちゃね!」
「確かに楽しいことはしたいかも。うーん、でも何したらいいんだろ?」

 そんなくだらない会話を続ける4月。
 私達はいつものように下校中、ふと視界に入った建物が目を見張った。

「ねえ織姫。アレなにかな?」
「えっ?お店みたいだけど」

 私の指差した所にあったのは何かのお店だった。
 見たこともない文字で書かれたプレート。
 粘土素材と煉瓦調で彩られた建物。ひっそりと佇むそのお店には立派なショーウィンドウもあり普段は目立つはずなのに今まで気づかなかったのが不思議なくらいその場に収まっていた。

「なんのお店だろうね」
「行ってみようよ七夜ちゃん!」
「えっ!?」
「ほらほら早く!」

 私は織姫に腕を掴まれた。

「ちょっと織姫!もうわかったから。行くから離して!」

 もの凄い力で引っ張られるまま私は織姫について行き、何かよくわからないお店の中に入ることになった。

 カランカラーン!

 綺麗な鈴の音が鳴る。
 私の目の前に広がったのは沢山の物の数だった。
 目移りしてしまうほどに目まぐるしく、暗く滑らかな色合いの机の上にはいくつもの腕時計やブレスレットが並ぶ。
 さらには値段の張りそうな、銀細工のフォークやスプーン。それから格調高い木のテーブルや椅子などが並んでいる。
 その独特な雰囲気や畏まった感じからしてここが何のお店なのかはわかったような気がする。

「アンティークショップ?」
「変なものがいっぱい置いてあるね七夜ちゃん」
「うん。私にはよくわからないものばっかり」

 値段も相待ってだがお店の中にあるものの価値はよくわからなかった。
 ただ高そうだなーという印象が強い。
 一般女子高生である私には到底そんな高価なものを買うお金も道理もないのだが、やっぱり色々なものが密集していると目移りしてしまうのが人間のさがらしい。

「うわぁー、見てよ七夜ちゃん。この椅子20万円だって」
「20万って。嘘でしょ」
「ホントだよ。ほら」

 織姫は指差して訴えかける。
 どれどれと覗き見ると、確かに二の数字を頭に0が5つ後ろについていた。
 ゴクリと喉を鳴らす。
 そして苦い顔をした。正直、こう言ったものに物の価値はわからない。私個人としては使ってみて自分に馴染むものが良いものだと思っているからだ。

「どうしよ。買っちゃおうかな」
「うわぁー、出たよ。織姫の衝動買い」

 白けた顔をする。
 織姫の家はお金持ちだからたまに衝動買いしている姿を見る。そんな彼女と親友の私は至って普通の家の人間なんだけどね。

「まあ嘘だけど」
「嘘なんだ(織姫が言うと嘘に聞こえないんだよねー)」

 そんなことを思っていたのは内緒だけど、それにしても色んなものがある。
 西洋の甲冑みたいなものから、本物としか思えない鉄製の剣。結構物騒だ。
 さらには指輪とか宝石とかまで披露されている。
 それなのにケースに収められず無防備なのは些か不用心すぎるかはするけどね。

 それにしてもだ。
 さっきからお店の人の姿がないのは気になる。
 それに加えた私達以外お店に人の気配がないのだ。

(不気味だなー)

 そう思いながらふらふら見て回っていると、不思議と私の手はそこに並べられていたペンダントを手に取っていた。

「なんだろ、コレ?」

 別に不思議ではなかった。
 だけど綺麗な赤い宝石が埋め込まれたそれを手にしていると心がポカポカ温かくなる……気がする。
 さらに値段を見てみると凄く安かった。これなら余裕で買えそうだ。
 さらに物色していると、今度は何故手に取ってしまったのかわからないが同じくテーブルの上に置かれていた革製のベルトを掴む。

「いや、コレは駄目でしょ」

 私の手に取ったベルト。
 そこにはホルスターが付いていて、一丁の銃が納められていた。
 銃の色合いは黒っぽく。銃身が何処となく竜っぽかった。
 さらには後ろにダイヤルっぽいものが二つあり、銃の真ん中ぐらいには透明なパネルみたいなものがある。何にも映っていないけど。

「あはは、おもちゃだなーコレ」

 それにしてもよく出来ている。
 重さもしっかりも伝わっていたけど、手に馴染むのは言うまでもない。ただその馴染み加減が異様に心地いいのは少々不気味ではあるんだけどね。
 何となく並べられていた物達に目移りしていると、突然……

「おや、探し物は見つかったかいお嬢さん」
「はあっ!?」

 背後から声が聞こえてきた。
 おかしい。さっきまで誰もいなかったはずなのに、急に声と気配がビシバシ背中に伝わる。
 私は恐る恐る背後を振り返ると、そこにいたのは髪と髭を真っ白に染めたお爺さんだった。

「えっと……」
「はっはっはっ。すまんな、わしはこの店の主人よ。まあ名前はいいじゃろうがな」
「あっ、す、すみません。お店のものを勝手に」

 私は手に持っていたペンダントと銃を置いた。
 しかしお爺さんはそれを見て怒る気配がない。むしろ笑っていた。不気味だ。

「はっはっはっ。なーに構わんよ。それに、其奴らはお嬢さんを待っていたみたいだしのー」
「えっ、待ってた?あの、何言ってるんですこ?」
「はっはっはっ。こっちの話よ。ところでお嬢さん、そのペンダントと星銃アストラシオンは気に入ってくれたかのー」
「アストラシオン?もしかして、この銃の名前ですか?」
「うむ。儂もそれを預かって何百年も経つがやっとその荷も降りるとなると、少々寂しいのー」
「はい?えっと、お爺さんなに言ってるんですか?」

 ちょっと私の頭では処理しきれないぐらい不思議チックなお話を聞かされました。
 正直訳がわからない。

「あの、コレは……」
「持って行くといい。所詮値による価値はないに等しい」
「価値がないって……やっぱりおもちゃなんだコレ!へぇー、よく見るとやっぱり良いモデルガンだなー」

 私は一度笑顔になる。
 可愛いのも好きだけど、カッコいいのも好きだったからだ。射的は……そんなに得意じゃないけど。

「玩具とみなすか。まあそれもまた然り。じゃが、真に主人を持ったソレが如何なる未来を描くか……空白を埋めるに等しいものかは儂にはわからんがな」
「未来?空白?なんのこと……」

 お爺さんに聞き返す私。
 しかしそこで話に割り込んだのは織姫だった。

「おーい七夜ちゃん!もう帰ろー」
「えっ!?う、うん」

 私はそう促されるままその場を離れる。
 先に店を出た織姫。その後を私も続こうとした時だ。お爺さんは一言呟く。

「必ずや未来を掴み取ってくれ……」
「えっ!?」

 さっきから驚いてばっかりだ。
 だがもっと驚くべきだったのはその後だった。
 何故なら私達が店を出た途端、さっきまで私達が居たはずのお店が急に無くなったからだ。

「あれ、さっきのお店は」
「なに言ってるの七夜ちゃん?そんなところでボーッとして」
「えっ!?」

 本日一番の驚きを示したのはまさにこの瞬間だった。
 しかしその手にはさっき貰ったペンダントとホルスターに納められた銃の姿が優しく光るのだった。

 
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