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第一章:異世界と旅路
■2 異世界召喚
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織姫はなにも覚えていなかった。
それは不思議でたまらない。何故かって?そんなの今、私と一緒に出たお店のことをなにも覚えていないからだ。しかもそのお店自体がいつの間にか忽然と姿を消しているではないか。そんなこと普通に考えてある訳がない。
だって、急に目の前にあったはずのお店が最初っからなかったみたいになるはずがないのだ。
「織姫、本当に覚えてないの?」
「なにが?」
「さっきのお店。アンティークショップで20万円の椅子を衝動買いしようとしてたこととか」
「うーん、覚えてないなー。私そんなことした?」
「ホントに?」
「本当に!もうしつこいよ七夜ちゃん」
やっぱり織姫は何も覚えていないんだ。
と言うかそもそもその段階ではなく、起きていないことになっている。
では何故私にはその記憶がある。
織姫が覚えていないのなら、同時に私も覚えていないのが普通のはずだ。記憶に残らず、最初っから関係ない傍観者になっているはずなのだ。
でもそれが成り得ていない。
その原因がなんなのかわからない以上、異常者は私だった。
(考えても仕方ないけど。考えないとやってられない)
このまま放り投げていいような簡単なお話ではない。
それは重々承知の上で、これ以上織姫を刺激しないようにはした。
本当に嫌われてしまいかねない。それは流石に嫌だからね。
残ったのは問題の山。しかもそれを確証付けるためのヒントは何処にもない。ただそれを証明してくれそうなものはここにある。
(ペンダントとアストラシオン……星銃とか言ってたけど。アストラシオンってなんだろ)
私は英語が苦手だ。
だから織姫にそれとなく尋ねてみる。
「織姫。ちょっと聞きたいんだけどさ」
「なーに七夜ちゃん」
「アストラシオンってなんの造語かな?」
それとなくどころか口から滑ったのは直接的な質問だった。
しかし織姫はそんな愚直な質問にも真摯に答えてくれる。
「アストラシオン?うーんなんだろ。多分アストラは星って言う意味だと思うけど」
「星?」
「うん。ラテン語で星って意味。あとはサンスクリット語では飛び道具とか、もっと直接的だと矢とかかなー」
「へぇー。じゃあシオンは?」
「うーん、わかんない。でも例えばエスパシオならスペイン語で空間とか宇宙とかの意味になるけど……多分違うよね」
「エスパシオ……いや、多分あってるんじゃないかな?」
「えっ?どうしてそう思うの」
「えっと、なんとなく」
私の答えは非常にあっさりとしていてもの寂しかった。
織姫はそれに落胆してしまう。
「はぁ、またなんとなくって。直感お化けじゃん」
「それは……否定できないけど」
「でもでも七夜ちゃんの直感ってよく当たるよね」
「うん。まあね」
昔から「なんとなく」の直感はよく当たる。
それがこれと言って役に立ったことはないけど、けど大抵当たるのだ。
だから今、この「なんとなく」発言がなんらかのトリガーになったのではないかとビクビク身震いしている。
それは織姫には見せないけど、心の中では少し嫌な方向へと舵を切っていた。
(もしかしてだけど、あのお爺さんとか普通じゃなかったんじゃ。って、普通な訳ないよね)
あのお爺さんは如何転んでも普通じゃない。それだけは紛れもない事実だった。
で、そんなお爺さんに如何にも怪しい品を押し付けられたのだからこれはその、警戒しといた方がいいかもそれなあ。
私の直感力。それらを統合しても、何が起きても動じない精神は前もって準備しておいた方が良さげだった。
「そう言えば七夜ちゃん。最近本とか読んでる?」
「本?」
「うん。例えば今流行りの異世界転生系のラノベとか」
「うーん。一応読んでるけど、私はどっちかというと転生というより召喚ないかな?」
「召喚系?ああ定番だよねー」
「まぁね。でも面白いよ」
とんでもなくくだらない談義に盛り上がる。
「でもああ言う設定って物語の中だけのものだよねー」
「うん。そう思いたいよね」
「いやないよ。あったらヤバいでしょ!」
「ま、まあね」
「まあ、最初に思いついた人とかだったらわかんないけど」
「あはは確かに」
私は笑って答えた。
って、最初?確かにそうだ。
あれは本の中だけの話で現実には到底あり得ない。だけどじゃあさっきの不思議体験はなんだ。それを加味したら転生とか召喚だって……とか考えるな私!
首をブンブン振って払い除ける。
余計なことは考えないが吉。
下手に物事を深く考えすぎて、今ある最短を見逃す方がよっぽどだ。
私はそんな感じでしばらく織姫との会話を続けていたが、織姫とは変える方向が少し違うのでこの辺で別れることになる。
とそんなことを言ってる側から分かれ道がやって来た。
「じゃあねー七夜ちゃん」
「うん。じゃあ来週また」
「うんうん。私は家族との旅行楽しんでくるよ!」
「いいね、楽しんで来なよ」
「うん!それと七夜ちゃん、その腰の皮ベルトちょっとダサいよ」
「それ今言うな!」
私怒鳴った。
だけど織姫はそんなのへっちゃらって具合に楽しげに笑っていた。
そのままいつも通り織姫は先に行ってしまい、取り残された私と家路に着こうとその場を後にしようとした。
一歩前に出る。利き足が地面に着地した。その瞬間だ。
キュイーーーン!!
急に変な効果音と共に私の制服のポケットから光が漏れた。
「あっ、はあっ、なに!?」
慌ててポケットの中から光の発生物を取り出す。
するとそれはさっき貰ったペンダントだった。ペンダントの赤い宝石が淡く白み掛かる。
それと同時に周囲一帯を飲み込んでしまうぐらい眩しい光を発していた。
しかし周りから窓を開ける音とかはしない。まるで私だけ包み込んでいるみたいだった。
「うわぁ、な、なにーーー!」
私は叫んだ。
しかしそれは届かなかった。
気がつくと私は光に完全に取り込まれてしまっていた。
そしてそこには何も残らなかったのだった。
それは不思議でたまらない。何故かって?そんなの今、私と一緒に出たお店のことをなにも覚えていないからだ。しかもそのお店自体がいつの間にか忽然と姿を消しているではないか。そんなこと普通に考えてある訳がない。
だって、急に目の前にあったはずのお店が最初っからなかったみたいになるはずがないのだ。
「織姫、本当に覚えてないの?」
「なにが?」
「さっきのお店。アンティークショップで20万円の椅子を衝動買いしようとしてたこととか」
「うーん、覚えてないなー。私そんなことした?」
「ホントに?」
「本当に!もうしつこいよ七夜ちゃん」
やっぱり織姫は何も覚えていないんだ。
と言うかそもそもその段階ではなく、起きていないことになっている。
では何故私にはその記憶がある。
織姫が覚えていないのなら、同時に私も覚えていないのが普通のはずだ。記憶に残らず、最初っから関係ない傍観者になっているはずなのだ。
でもそれが成り得ていない。
その原因がなんなのかわからない以上、異常者は私だった。
(考えても仕方ないけど。考えないとやってられない)
このまま放り投げていいような簡単なお話ではない。
それは重々承知の上で、これ以上織姫を刺激しないようにはした。
本当に嫌われてしまいかねない。それは流石に嫌だからね。
残ったのは問題の山。しかもそれを確証付けるためのヒントは何処にもない。ただそれを証明してくれそうなものはここにある。
(ペンダントとアストラシオン……星銃とか言ってたけど。アストラシオンってなんだろ)
私は英語が苦手だ。
だから織姫にそれとなく尋ねてみる。
「織姫。ちょっと聞きたいんだけどさ」
「なーに七夜ちゃん」
「アストラシオンってなんの造語かな?」
それとなくどころか口から滑ったのは直接的な質問だった。
しかし織姫はそんな愚直な質問にも真摯に答えてくれる。
「アストラシオン?うーんなんだろ。多分アストラは星って言う意味だと思うけど」
「星?」
「うん。ラテン語で星って意味。あとはサンスクリット語では飛び道具とか、もっと直接的だと矢とかかなー」
「へぇー。じゃあシオンは?」
「うーん、わかんない。でも例えばエスパシオならスペイン語で空間とか宇宙とかの意味になるけど……多分違うよね」
「エスパシオ……いや、多分あってるんじゃないかな?」
「えっ?どうしてそう思うの」
「えっと、なんとなく」
私の答えは非常にあっさりとしていてもの寂しかった。
織姫はそれに落胆してしまう。
「はぁ、またなんとなくって。直感お化けじゃん」
「それは……否定できないけど」
「でもでも七夜ちゃんの直感ってよく当たるよね」
「うん。まあね」
昔から「なんとなく」の直感はよく当たる。
それがこれと言って役に立ったことはないけど、けど大抵当たるのだ。
だから今、この「なんとなく」発言がなんらかのトリガーになったのではないかとビクビク身震いしている。
それは織姫には見せないけど、心の中では少し嫌な方向へと舵を切っていた。
(もしかしてだけど、あのお爺さんとか普通じゃなかったんじゃ。って、普通な訳ないよね)
あのお爺さんは如何転んでも普通じゃない。それだけは紛れもない事実だった。
で、そんなお爺さんに如何にも怪しい品を押し付けられたのだからこれはその、警戒しといた方がいいかもそれなあ。
私の直感力。それらを統合しても、何が起きても動じない精神は前もって準備しておいた方が良さげだった。
「そう言えば七夜ちゃん。最近本とか読んでる?」
「本?」
「うん。例えば今流行りの異世界転生系のラノベとか」
「うーん。一応読んでるけど、私はどっちかというと転生というより召喚ないかな?」
「召喚系?ああ定番だよねー」
「まぁね。でも面白いよ」
とんでもなくくだらない談義に盛り上がる。
「でもああ言う設定って物語の中だけのものだよねー」
「うん。そう思いたいよね」
「いやないよ。あったらヤバいでしょ!」
「ま、まあね」
「まあ、最初に思いついた人とかだったらわかんないけど」
「あはは確かに」
私は笑って答えた。
って、最初?確かにそうだ。
あれは本の中だけの話で現実には到底あり得ない。だけどじゃあさっきの不思議体験はなんだ。それを加味したら転生とか召喚だって……とか考えるな私!
首をブンブン振って払い除ける。
余計なことは考えないが吉。
下手に物事を深く考えすぎて、今ある最短を見逃す方がよっぽどだ。
私はそんな感じでしばらく織姫との会話を続けていたが、織姫とは変える方向が少し違うのでこの辺で別れることになる。
とそんなことを言ってる側から分かれ道がやって来た。
「じゃあねー七夜ちゃん」
「うん。じゃあ来週また」
「うんうん。私は家族との旅行楽しんでくるよ!」
「いいね、楽しんで来なよ」
「うん!それと七夜ちゃん、その腰の皮ベルトちょっとダサいよ」
「それ今言うな!」
私怒鳴った。
だけど織姫はそんなのへっちゃらって具合に楽しげに笑っていた。
そのままいつも通り織姫は先に行ってしまい、取り残された私と家路に着こうとその場を後にしようとした。
一歩前に出る。利き足が地面に着地した。その瞬間だ。
キュイーーーン!!
急に変な効果音と共に私の制服のポケットから光が漏れた。
「あっ、はあっ、なに!?」
慌ててポケットの中から光の発生物を取り出す。
するとそれはさっき貰ったペンダントだった。ペンダントの赤い宝石が淡く白み掛かる。
それと同時に周囲一帯を飲み込んでしまうぐらい眩しい光を発していた。
しかし周りから窓を開ける音とかはしない。まるで私だけ包み込んでいるみたいだった。
「うわぁ、な、なにーーー!」
私は叫んだ。
しかしそれは届かなかった。
気がつくと私は光に完全に取り込まれてしまっていた。
そしてそこには何も残らなかったのだった。
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