3 / 12
第一章:異世界と旅路
■3 山の中で放置されて
しおりを挟む
気がつくとそこは森の中だった。
私の視界の先には一面の緑。地面は茶色。少し薄い色合いだ。
これは一体何が起こったのか?状況を整理する必要がある。
確か私は織姫との下校中変なアンティークショップを見つけて二人で入った。
そこで変なお爺さんからペンダントとおもちゃの銃を貰って外に出たら皆んなそのことを忘れていた。で、私が異常者になった。
それから織姫と帰ってくだらない話に花を咲かせて途中で別れた。そしたら急に貰ったペンダントの色が変わって光出した。そしたら飲み込まれてそこからの記憶がない……はぁ、これはですね。
「てかヤバくない!」
はい?マジでなんなの。一体何が起こったんですか?
誰か説明してくださいよ。説明くれますよね?ねぇ!
とか言っても誰も何にも答えてくれないのが世の中なのです。そう、実際問題私は森の中で一人きり。訳がわからないまま放置プレイです。はい。
「てかこの展開なに!どうなってるのこれ!普通じゃないって」
それもそのはず普通じゃなかった。
私は住宅街にいたはず。それなのにいきなり森の中と来た。
もしかして私悪い人達に?いや、だったらなんでここに放置なんですか?
はたまた新手のヤバい研究者とか……いやそれはないか。
じゃあ何だこれ。さっきからほっぺたをつねってみてるけど、夢じゃなさげなんだけど!
混乱と困惑で正しい思考ができなくなった私はとりあえず今目の前で起きていることへの対処に向かう。
「とりあえずこの森を出るしかないか」
溜息混じりに現実を受け入れることにした。
夢じゃないことを確信し、今目の前に立ちはだかる壁を一つ一つ乗り越えるしか道はないと「なんとなく」そう踏んだからだ。
まあ私の「なんとなく」も大抵当たると言うだけで、精度はそこまで高くないんだけどね。
「とりあえず鞄と財布とスマホを取られていないってことは窃盗ではないみたいだけど……うーんやっぱり駄目か」
スマホの電源を入れてみても一応動くには動くが、圏外になっている。
ネットもメールもSNSも何にも使えない。
つまりガラクタになったと言ってもいい。
助けは呼べそうにないことを見ると、些か不安とハードルは急上昇するのだが致し方ないのかな。うん。
「行こ」
鞄を背負い、と言うかリュックなんですけどね。
私はまるで刈られた跡もない雑草だらけの森の中をひたすら歩く。
途中何度も木の枝や蔦に絡まりながらも進んでいくと、少し開けた場所に出た。
そこには切株があり、そこで少し休むことにした。
「このペースで進んでも垨が明ない。せめて方角さえわかれば」
あれから二時間悪路を歩き続けた。
疲れてはいないけど、流石に方向もわからないまま進むのは厳しい。
それがわかっているからこそ、こうして迷い迷っている次第なんだけどね。あはは。笑い話にもならないや。
「とにかく太陽の位置からして多分こっちが西だから。変に外国とかスマホの時計がぶっ壊れてなかったらだけど」
寄せ集めの知識からとりあえずの方向を定めた。
とりあえずこっちに向かうべきなのだろうか?
考え続けていると、何かの音が聞こえた。森の奥の方からだ。私以外の喋り声が聞こえないせいか、静かでスムーズに聞き取れる。
その音はとても荒々しく、次第にこちらに近づいてきているみたいに反響が大きくなる。
嫌な予感がする。「なんとなく」とかそう言う話じゃない。マジで嫌な予感がする。
「に、逃げよっかなー」
こればかりは「なんとなく」だった。
私が一歩足を下げる。
すると劈くような異臭が鼻を蝕んだ。
「うっ、な、なにこれ」
異臭。
別に腐った肉とかじゃない。こう、悪臭に近いのかもしれない。だけど、こう唇を噛んだ時に血が出るみたいな感じの「うわぁ」となる臭いではあった。
気持ち悪い。
それだけは確信する。
音の元凶が近づいてくる。
黒い何かだ。ジリジリと後ろに後退する私。そんな私の前に姿を現したのは絶対にヤバいやつだった。
「く、熊!」
現れたのは黒く分厚い毛に覆われた熊だった。
しかしデカい。2メートルぐらいはある。
しかも鋭い爪を生やし、顔と爪は赤く染まっていた。
「アレってまさか」
血だ。
何故そんなものが付いているのかはわかんないけど、とにかくヤバい。
目は合わせていないけど、あの目は私を獲物としている目だ。ヤバすぎる。一歩動けば死ぬ。そんな未来しか想像できなかった。
ゴクリと喉を鳴らす。
私はそれでも尚逃げようとするが、小さな音を嗅ぎつけて熊はこちらを睨んだ。
そしてーー
ダッと駆け寄るように鋭い牙と爪を曝け出して襲いかかってきた。
私は敵意を感じる一目散に逃げる。
しかしながら向こうの方が当然脚は速い。だからすぐに捕まってしまいそうになるが、森の中に逃げ隠れ蔦とかを工夫しながら逃げた。
「ヤバいヤバい。どうしよ!」
逃げてるだけじゃ駄目だ。
向こうはこちらを睨みながら襲ってくる。
爪で蔦を捌き、血生臭い臭いを発しながら私を捕らえようと牙をぎらつかせた。
「誰か、誰かー!助けてー!」
そんな言葉は当然虚空に消えていく。
だーれもいないのは織り込み済み。それがわかっているからこそ、私はいずれ捕まる未来しか見えなかった。
嫌だ。絶対に嫌だ。まだ死にたくない!
「な、なにか。なにか……って、えっ!?」
私が周りを見回しながら逃げていると、ふと気づいた。
腰につけたホルスターに納められている銃が妙に熱い。熱を発しているのではなく、こうなんて言おう言葉に出来なかった。
(もしかしてだけど……)
唾を飲む。
「撃てるの、アストラシオン」
名前を呼ぶ。
すると頷くように透明パネルが淡く光る。
肯定を示しているのかはわかんないですけど。
「賭けるしかない。このまま逃げてもいずれ捕まる!」
私はそれを覚悟して銃を引き抜く。
よくわからないダイヤルをグルグル回し、引き金に指をかけた。
狙いはあの熊。人間相手じゃなかったら、私は撃てるはず。
そう確信し、一瞬だけ背後を見る。すると熊の顔が私の目の前にまで迫っていた。残り数十センチ。目を見開き私は引き金を引いた。
バキューン!!
轟音が轟く。
森中を駆け巡り、煙などを一切出すことのない銃から放たれた弾丸は硬度とかそんなものを度外視してこの黒い熊を撃ち抜いたのだ。
「し、死んだのかな?」
「そうみたいだね」
「えっ!?」
唐突に背後から声をかけられた。
私は恐る恐る振り返る。
女性の声だ。しっとりとしている優しい声だ。
「えっと……貴女は?」
「うむ。それはこちらの台詞かな。ここは私の領地だ。そこに無断で立ち入った君は何者なのかな?」
「私は七夜です。天河七夜って言います。勝手に入ってごめんなさい、でも私」
「いいよ。なんとなく君の気配で察した。異世界からこっちに召喚されたんだろう。可哀想に。同情はするよ」
「えっ、召喚?」
ちょっと何を言ってるんだこの人。
銀にたなびく真白の髪。青く透き通る瞳と白い肌。
黒を纏ったレース。
「えっと、召喚って?」
「その話は後にしようか。まずは自己紹介。名前ぐらいは知ってもらいたいからね。私は、ステラ。ステラ・フィス・ディスティーニだ。よろしくね、ナナヤ」
「えっ、は、はい」
そう名乗る女性、ステラさんは私に優しく微笑みかけるのだった。
私の視界の先には一面の緑。地面は茶色。少し薄い色合いだ。
これは一体何が起こったのか?状況を整理する必要がある。
確か私は織姫との下校中変なアンティークショップを見つけて二人で入った。
そこで変なお爺さんからペンダントとおもちゃの銃を貰って外に出たら皆んなそのことを忘れていた。で、私が異常者になった。
それから織姫と帰ってくだらない話に花を咲かせて途中で別れた。そしたら急に貰ったペンダントの色が変わって光出した。そしたら飲み込まれてそこからの記憶がない……はぁ、これはですね。
「てかヤバくない!」
はい?マジでなんなの。一体何が起こったんですか?
誰か説明してくださいよ。説明くれますよね?ねぇ!
とか言っても誰も何にも答えてくれないのが世の中なのです。そう、実際問題私は森の中で一人きり。訳がわからないまま放置プレイです。はい。
「てかこの展開なに!どうなってるのこれ!普通じゃないって」
それもそのはず普通じゃなかった。
私は住宅街にいたはず。それなのにいきなり森の中と来た。
もしかして私悪い人達に?いや、だったらなんでここに放置なんですか?
はたまた新手のヤバい研究者とか……いやそれはないか。
じゃあ何だこれ。さっきからほっぺたをつねってみてるけど、夢じゃなさげなんだけど!
混乱と困惑で正しい思考ができなくなった私はとりあえず今目の前で起きていることへの対処に向かう。
「とりあえずこの森を出るしかないか」
溜息混じりに現実を受け入れることにした。
夢じゃないことを確信し、今目の前に立ちはだかる壁を一つ一つ乗り越えるしか道はないと「なんとなく」そう踏んだからだ。
まあ私の「なんとなく」も大抵当たると言うだけで、精度はそこまで高くないんだけどね。
「とりあえず鞄と財布とスマホを取られていないってことは窃盗ではないみたいだけど……うーんやっぱり駄目か」
スマホの電源を入れてみても一応動くには動くが、圏外になっている。
ネットもメールもSNSも何にも使えない。
つまりガラクタになったと言ってもいい。
助けは呼べそうにないことを見ると、些か不安とハードルは急上昇するのだが致し方ないのかな。うん。
「行こ」
鞄を背負い、と言うかリュックなんですけどね。
私はまるで刈られた跡もない雑草だらけの森の中をひたすら歩く。
途中何度も木の枝や蔦に絡まりながらも進んでいくと、少し開けた場所に出た。
そこには切株があり、そこで少し休むことにした。
「このペースで進んでも垨が明ない。せめて方角さえわかれば」
あれから二時間悪路を歩き続けた。
疲れてはいないけど、流石に方向もわからないまま進むのは厳しい。
それがわかっているからこそ、こうして迷い迷っている次第なんだけどね。あはは。笑い話にもならないや。
「とにかく太陽の位置からして多分こっちが西だから。変に外国とかスマホの時計がぶっ壊れてなかったらだけど」
寄せ集めの知識からとりあえずの方向を定めた。
とりあえずこっちに向かうべきなのだろうか?
考え続けていると、何かの音が聞こえた。森の奥の方からだ。私以外の喋り声が聞こえないせいか、静かでスムーズに聞き取れる。
その音はとても荒々しく、次第にこちらに近づいてきているみたいに反響が大きくなる。
嫌な予感がする。「なんとなく」とかそう言う話じゃない。マジで嫌な予感がする。
「に、逃げよっかなー」
こればかりは「なんとなく」だった。
私が一歩足を下げる。
すると劈くような異臭が鼻を蝕んだ。
「うっ、な、なにこれ」
異臭。
別に腐った肉とかじゃない。こう、悪臭に近いのかもしれない。だけど、こう唇を噛んだ時に血が出るみたいな感じの「うわぁ」となる臭いではあった。
気持ち悪い。
それだけは確信する。
音の元凶が近づいてくる。
黒い何かだ。ジリジリと後ろに後退する私。そんな私の前に姿を現したのは絶対にヤバいやつだった。
「く、熊!」
現れたのは黒く分厚い毛に覆われた熊だった。
しかしデカい。2メートルぐらいはある。
しかも鋭い爪を生やし、顔と爪は赤く染まっていた。
「アレってまさか」
血だ。
何故そんなものが付いているのかはわかんないけど、とにかくヤバい。
目は合わせていないけど、あの目は私を獲物としている目だ。ヤバすぎる。一歩動けば死ぬ。そんな未来しか想像できなかった。
ゴクリと喉を鳴らす。
私はそれでも尚逃げようとするが、小さな音を嗅ぎつけて熊はこちらを睨んだ。
そしてーー
ダッと駆け寄るように鋭い牙と爪を曝け出して襲いかかってきた。
私は敵意を感じる一目散に逃げる。
しかしながら向こうの方が当然脚は速い。だからすぐに捕まってしまいそうになるが、森の中に逃げ隠れ蔦とかを工夫しながら逃げた。
「ヤバいヤバい。どうしよ!」
逃げてるだけじゃ駄目だ。
向こうはこちらを睨みながら襲ってくる。
爪で蔦を捌き、血生臭い臭いを発しながら私を捕らえようと牙をぎらつかせた。
「誰か、誰かー!助けてー!」
そんな言葉は当然虚空に消えていく。
だーれもいないのは織り込み済み。それがわかっているからこそ、私はいずれ捕まる未来しか見えなかった。
嫌だ。絶対に嫌だ。まだ死にたくない!
「な、なにか。なにか……って、えっ!?」
私が周りを見回しながら逃げていると、ふと気づいた。
腰につけたホルスターに納められている銃が妙に熱い。熱を発しているのではなく、こうなんて言おう言葉に出来なかった。
(もしかしてだけど……)
唾を飲む。
「撃てるの、アストラシオン」
名前を呼ぶ。
すると頷くように透明パネルが淡く光る。
肯定を示しているのかはわかんないですけど。
「賭けるしかない。このまま逃げてもいずれ捕まる!」
私はそれを覚悟して銃を引き抜く。
よくわからないダイヤルをグルグル回し、引き金に指をかけた。
狙いはあの熊。人間相手じゃなかったら、私は撃てるはず。
そう確信し、一瞬だけ背後を見る。すると熊の顔が私の目の前にまで迫っていた。残り数十センチ。目を見開き私は引き金を引いた。
バキューン!!
轟音が轟く。
森中を駆け巡り、煙などを一切出すことのない銃から放たれた弾丸は硬度とかそんなものを度外視してこの黒い熊を撃ち抜いたのだ。
「し、死んだのかな?」
「そうみたいだね」
「えっ!?」
唐突に背後から声をかけられた。
私は恐る恐る振り返る。
女性の声だ。しっとりとしている優しい声だ。
「えっと……貴女は?」
「うむ。それはこちらの台詞かな。ここは私の領地だ。そこに無断で立ち入った君は何者なのかな?」
「私は七夜です。天河七夜って言います。勝手に入ってごめんなさい、でも私」
「いいよ。なんとなく君の気配で察した。異世界からこっちに召喚されたんだろう。可哀想に。同情はするよ」
「えっ、召喚?」
ちょっと何を言ってるんだこの人。
銀にたなびく真白の髪。青く透き通る瞳と白い肌。
黒を纏ったレース。
「えっと、召喚って?」
「その話は後にしようか。まずは自己紹介。名前ぐらいは知ってもらいたいからね。私は、ステラ。ステラ・フィス・ディスティーニだ。よろしくね、ナナヤ」
「えっ、は、はい」
そう名乗る女性、ステラさんは私に優しく微笑みかけるのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる