異世界で最強になった俺が偽魔王になってみた。~魔王キャラVTuberの俺が配信していたら、異世界転移してしまい、マジの魔王扱いされたんだが?

水定ゆう

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第5話 女神官を捕まえたら?

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「で、どうしたらいいんだろう?」

 俺は拘束した勇者パーティーの少女、ミュシェルを目の前にしていた。
 というのも、さっきから全然口を開かない。
 俯いたまま完全に無言を決め込んでいる。

 もちろん、余計な情報を口にしないのは分かる。
 賢明すぎる判断なのだが、足も捻っているから、早く治療がしたい。

(まあ、それが言いだせたら苦労はしないんだろうけど……この状況じゃ、なに言ってもだんまりだろうな)

 ミュシェルは俺のことを魔王とは思っていない節がある。
 けれど今となっては気が変わった可能性は高い。
 拘束され、どんな拷問を受けるか分からないのだ。
 俺のことを残虐非道な魔王とでも思われているに違いない。

「ああ、怪我は大丈夫か?」
「……」
「本気で心配しているんだけど?」
「……ふん」

 ミュシェルは足を差し出した。
 俺はしゃがみ込んで、挫いたであろう爪先を見た。
 靴の上からは怪我の様子が見えない。

望遠鏡の目テレスコープ・アイ

 俺は目に単眼鏡を当てた。
 単眼鏡を通して見たミュシェルの肌は白くてスベスベ。
 綺麗に整えられていて、触りたくも……まあ、俺は無いけれど、とりあえず炎症を起こしていたので治療する。

「動かないでね、蛇使い座アスクレピオスの治療・メディカル!」

 俺の手の中に杖が現れる。
 蛇が巻き付いた奇妙な木の杖で、ミュシェルの足に当てると、炎症が綺麗さっぱり消えてしまった。

「凄い……」

 淡い光がポロポロ膨らむ。
 ミュシェルは言葉を失ってしまうと、瞬きをするのも惜しい。
 俺の魔法に見惚れてしまうと、気が付けば足の痛みが完全に消えていた。

「はい、終わり。それと……解除」

 ミュシェルの怪我を治した俺は、同時に拘束も解除する。
 指を軽く鳴らすと、ミュシェルの体を縛り上げていた、土星の拘束輪が解けた。

「ひやっ!」

 ミュシェルは可愛らしい声を上げた。
 突然体の自由が戻ったせいか、声を出してしまったのだ。
 腕が動くようになると、床に落ちていた杖を真っ先に拾い、俺に突き出す。

「もう歩けるよ」
「……ありがとうございました」
「どういたしまして。で、怪我も治ったし、帰る?」

 俺はミュシェルに訊ねた。そもそも拘束したのは、質問があったからだ。
 けれどここまで警戒されているとなると、少しでも気を許して貰うしかない。
 そのためには恩を売るのが一番だと思い、自由に帰らせてあげることにした。
 しかし、ミュシェルは俺の誘いを断る。

「いいえ、帰りません。ではなく、逃げません!」
「逃げるとか逃げないとかの話じゃないと思うんだけど?」
「……あの、私を助けた理由はなんですか?」
「はい?」

 ミュシェルの目が怖い。
 俺のことを確かめようとしている。
 ここは選択を間違えたら、間違いなく好感度に反映される。
 恋愛シミュレーション・ゲームは得意じゃない。さあ、如何する。

「助けた理由? そんなの要るの?」
「えっ」
「助けたかったから助けた。それだけだよ」

 俺は思ったことを素直に答える。
 変に気を遣うようなことは絶対にしない。
 俺らしく、淡々と言い切ると、ミュシェルは口をパクパクさせた。

「貴方は、本当に、魔王なんですか?」
「魔王って、一体なにを以って魔王なの?」
「魔王とは魔族の王。類まれなる力を持ち、この世界を脅かす存在。残虐非道で、己の欲を満たすことに心血を注ぐ存在です」
「おお、なんか凄く当たり前のこと」

 凄く分かりやすい設定だなと思った。
 というより、これ以上ない説明だった。

「それが俺?」
「そう思われるかもしれませんが、私にはそうには見えないんです。だから教えてください。貴方は本当に魔王……」
「いや、魔王じゃないから。俺はただの人間だよ」
「ん?」

 悪いけど、話の腰を折ることにした。
 俺は案の定、魔族でも無ければ魔王でもない。ただの人間。
 その証拠に、威厳のようなものは一切無く、中肉中背・基本なんでも面倒に感じつつ、真面目にこなす大学二年生。それが俺だった。

「本当に、貴方は人間なんですか?」
「人間だよ?」
「……それなら、どうしてあれだけの強さを持っているんですか。ユキムラさんは、あれでも水の勇者です。一般人に劣る程、傍若無人ではありません!」
「そんなこと言われても……あっ!」

 ミュシェルに詰められ、一気に形勢が悪くなる。
 なんとかして証明しないとマズい。
 俺は腕を組んで考えると、ふと記憶を辿り、あることを思い付く。

「あっ、そうだ」
「な、なにをされるおつもりで……へっ?」
「……ぶっ」

 俺は唇に犬歯を押し当てた。
 本当はしたくないけど、やるしかない。
 グッと噛み潰し、唇の端に傷ができると、タラタラと真っ赤な血が少し垂れた。
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