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◇60 メタルの爪は厄介3

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  森の木々を抜け、草木をかき分け、三人は声のした方に駆け出していた。
 しかし、アキラは周囲に気を配ることはなかった。
 代わりにNightとフェルノは、木の幹を見ていた。

「これは、アキラ少し待て」
「えっ、なに?」
「私も止まって方がいいよ。アキラ、この先はマズいってー」

 フェルノまでそう言いだした。
 アキラは急に足を止め、その瞬間に二つの情報が同時に視覚と聴覚に訴えかける。

「な、何この幹の傷痕の数!」
「それだけじゃない。今、聞こえたな」
「うん。聞こえたくなかったけど……」

 アキラはしょんぼりした。
 耳にしたのは、男の人の残響。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 助けてく——」

 耳につんざいて離れなかった。
 しかしそんなアキラに、フェルノは大声で叫んだ。

「アキラ、伏せて!」
「えっ!?」

 アキラはしゃがみ込んだ。
 するとフェルノが飛びかかる。
 その拳は、真っ赤に燃え盛り、烈火の如く揺れていた。そして背後で、じゅわっと音がした。振り返りざま、そこにいたのはフェルノと巨大なクマだった。これは一体何が起こったのかと、一瞬で理解した。

「あの人、えっ!? まだ生きてる……そりゃぁ!」
「駄目だ」

 アキラは飛びかかった。
 しかし、そんなアキラの首根っこをつまんだのはNightだった。
 Nightは、アキラを傍まで寄せると、ナイフを構えた。

「Night、何するの!」
「何するのは、お前の方だ。馬鹿な真似はやめろ」
「馬鹿な真似って、あの人まだ生きてるよ! HPが残ってる」
「無理だ。ほら見てみろ」

 そう言って、Nightは辛い現実を見せた。
 そこには既にこと切れた人形のようにして、項垂れる男の人。
 ボロボロになっていて、残りのHPも少ない。服も所々が破けている。

「もう直、HPは切れる。今更やっても無理だ」
「でも確か、このゲームのHPは防御力で決まるけど、確か影響は……」
「精神だ。しかしそれはプレイヤー間で発生するもの、あの状態だとほとんど抜け殻だ」
「だとしても私は助けるよ。助けられるものを助けずに放置何て運命、私は認めないから」
「自分の身が一番だろ」
「それはそうでも、ほんの一瞬でいいから」

 アキラは熱弁した。
 するとNightの方が先に折れたらしい。それを悟ったフェルノも、顔の表情を見せなかったが、にこりと笑って、体勢を崩させた。

「今だよ、Night。アキラはそのうちに」
「はぁー。その手を離せ!」
「ありがと、フェルノ、Night」

 Nightはナイフを投げつけた。その隙をつき、男の人を救出する。
 しかしNightの言う通り、既には気はなく、「うっ、ああ……」と細い目で見ていた。
 それを悟ったアキラだったが、後悔はしなかった。Nightやフェルノも、アキラの性格を知っていた。そもそも、アキラは自分がやられる気はなかった。

「さてと、これで戦えるな」
「Night、わかってたよね。私はこうすることも」
「勝手に想像しろ」
「じゃあそうする。でもここからは、私たちのステージだから」
「全力でいっくよー!」

 フェルノは、燃え盛る炎でメタルクローの拳に対抗した。
 まるでエンジンのようにどんどん馬力が増していく。
 それはフェルノが信頼していて、何も考えていない証拠だった。

「凄まじい火力だな。これなら押し切れるかもしれない」
「いや、そうでもないかなー」

 そう言いながらもなんとか押し返している。
 しかしそれは押し返しているだけで、致命的な攻撃ではなかった。
 何故なら体格差は、圧倒的にメタルクローの方が上で、フェルノは奥歯を噛み締めていた。その瞳は、赤々と燃え盛り、炎が揺らめく。

「仕方ない。私たちも行くぞ」
「うん。フェルノ、すぐに行くから待ってて」
「足止めは任せて。この爪のメタル、奪えたら強そうなんだけどなー。なんてね」

 フェルノは冗談のつもりだった。 
 しかしアキラは違った。
 そのアイデア、かなり欲しいかもと強く願った。
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