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◇300 クリスマスは過ぎて行く

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 アキラたちはサンタクロースたちに別れを告げ、街へと戻ってきた。
 スタットの街の中は如何なっているかと思えば、明らかに空気が変わっていた。

「皆さんクリスマスケーキ、クリスマスケーキは如何ですか?」
「お客様、当店のチキングリルは如何でしょうか?」
「パレードがもうすぐ始まるってよ」
「ねえねえ行ってみようよ!」

 少し喧騒が落ち着いていた。
 和やかな空気で、先程までの猛烈なまでのハロウィン要素が何処へやら、NPCの家族やプレイヤーのカップルが闊歩していた。

「あ、あれ?」
「何だろう。この場違い感……」

 完全に日本がベースになっているので、この空気になるのは無理もなかった。
 だからだろうか、先程までのムードが一瞬でひっくり返ってしまった。
 完全に深夜デートの雰囲気と、喧騒のせいで闊歩できなかった反動が出てしまっていた。

「ちょっと入り難いよね」
「そうですね。少し静かな場所に移りましょうか」
「静かな場所って何処よ?」
「それは……Nightさん、何処か良い場所は有りませんか?」

 雷斬はNightに尋ねた。
 するとNightの口からは「教会にでも言ったらどうだ?」と言われてしまった。
 今まで一度も足を運んだことが無いので少し気が引けたが、それと同時に風情もあって行きたいと思った。だけどベルがそれを止めた。

「止めておきましょう。クリスマスの教会なんて、どれだけの人が集まっているか……」
「それはそうだけど、このままジッとしているのも……」

 大通りの真ん中で、アキラたちは突っ立っていた。
 こんな時如何したら良いのか分からないので困ってしまうと、突然誰かから声を掛けられた。

「こんなところで何をしているだい?」
「えっ!?」

 背後から声が聞こえてきた。
 振り返って見て見ると、そこに居たのはけみーだった。

 バーテンダーの格好をしていた。
 手にはバスケットを持ち、中にはワインの瓶が何本か入っていた。

「けみーさんこそ如何して?」
「僕はお酒の買い出しだよ。丁度切らしてしまってね」
「お、お酒?」
「うん、夜はバーになるんだよ。それよりソウラたちを見なかったかい?」

 けみーはアキラたちに尋ねた。
 如何やらアキラたちと別れた後、ソウラたちはお店を片付けてしまったみたいだ。
 それもそのはず、アレだけ売れたら売り上げはとんでもないことになるはずで、材料が無くなっていてもおかしくはなかった。

「そうかい。それじゃあ何処に……」
「あの、けみーさんは今一人ですか?」
「うん。見ての通りだよ。何ならそこの階段辺りででも、話しをしないかい? 暇だろ」
「うっ……そうですね。いいかな?」

 アキラはみんなに問いかけた。
 するとコクコクと頷いてくれた。静寂に包まてる中、アキラたちは静かなクリスマスを過ごすことを選んだ。

「まあ、これくらいが丁度良いのかもしれないな」

 Nightはポツリと口にした。
 確かに日本の都会の方では味わえない空気感だった。

「クリスマスとは本来静かに過ごすものだと聞いたことがありますよ」
「そうだな。日本で行われているのは、むしろ盛り上げに特化したものだ」

 別にそれが悪いとは思わなかった。
 だけど先程まではあまりに壮絶すぎて、アキラたちは心身ともに疲れていた。

 けみーと共に近くにあった階段へと移動した。
 段差に腰を下ろすと、不意に尋ねられた。

「何か飲むかい?」
「でもお酒しか……」
「大丈夫。瓶系統しかないけれど、どうぞ」

 けみーはアキラたちにオレンジジュースを差し出した。
 透明な瓶に入っていて、先端には栓がされていた。

 触ってみると、少し湿っていた。
 表面を凍らせていた氷が溶けて水になったみたいだ。おかげで中身はひんやりしていて、栓を抜くと白い靄が出た。冷たくて美味しそうだった。

「いただきます」

 アキラは冷えた瓶の口を唇に沿わせた。
 すると口の中いっぱいにオレンジの酸味の効いた旨味が迸り、疲れが一気に達成感へと変わった。

「ぷはぁー。美味しい」
「普通のオレンジジュースだよ?」

 けみーは想像とは違うオーバーリアクションに首を捻った。
 しかしアキラだけではなく、Nightを含めた全員の顔色が達成感に満たされていた。
 苦労の甲斐があったと、心が躍り出し叫んでいた。

「いやぁー、何か良いね!」
「はい。……皆さん、本当にお疲れ様でした」
「そうね。くたびれたけど、達成感はあるわね」
「……この静寂もクリスマスって感じするもんね。もしかしたら、この空気の方が肌に合っているのかも」
「今のところそうかもな」

 しんみりとしていた。完全に打ち上げ状態になっていた。
 けみーはアキラたちの表情に笑みが浮かんだのを見て安心していた。

「顔色が良くなったね」
「ありがとうございました、けみーさん」
「僕は内もしていないよ。それより、何があったのか、聞かせて貰えるかな?」

 けみーは代わりにアキラたちから話を聞こうとした。
 しかしアキラたちは少しだけ口をつぐんだ。言葉にできない体験ばかりをここ数日送ってきたせいだ。
 だからアキラの口からは、曖昧な言葉が出ていた。

「まあ、そうですね。あはは」
「普通のクリスマスにはならなかったが、故に良いものになったかもしれないな」
「「「うんうん」」」

 けみーは理解できなかった。
 だけどアキラたちの間では、この空気も含めてその全てが総合で楽しいクリスマスになった。
こうしてクリスマスは過ぎていく。
 一番頑張ったアキラたちを称賛するように、ベツレヘムの星が爛々と照らしているのだった。
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