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◇455 雷斬・天狐VS雪将軍4
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雪将軍は苦しみあぐねていた。
頭をブンブン振り回し、うなじに突き刺さった黒刀を抜こうとする。
けれどうなじに突き刺さっているせいか、尋常じゃないダメージが走る。
HPがミリずつ削れていくが、雪将軍は痛みに襲われながらも、まだまだ諦める気はなかった。
「クッ、コノ、コノテイドデワシガマケルワケガナカロウ!」
雪将軍は怒りに満ちていた。
瞳の色は薄れて行き、もはや精神に宿る本能で動いていた。
太刀を杖のように使い、痛みを抑え込んでいたのだが、それすら止めている。
体を起こすと、雷斬の黒刀が今にも落ちそうだった。
「天狐さん、この状況は……」
「ちょい危ないかも。完全に本能に支配されてるわぁ」
流石に静観を決め込み、これ以上は無いと踏んでいた雷斬と天狐にも激震が走る。
身構えていつでも対応できるように準備をする。
しかし雪将軍の動きは大げさで、太刀を天空に掲げた。
「サスツルギヨ! ワシニコタエヨ!」
雪将軍は一切サスツルギに呼びかける。
すると呼応するかの如く、掲げた太刀の刀身が凍って行く。
これだけで強力な氷の太刀の完成……かと思われたが、如何にもそれが狙いではない。
「フキスサベ! ソシテ、キエウセヨ!」
雪将軍は太刀を乱雑に振り捌いた。
太刀の刀身が空気を震わせ、風を掻き切り、氷の刃を生み出す。
しかし生み出されたのはただのサスツルギではない。クルクルと円形のサスツルギが宙を舞うと、雷斬と天狐に向かって飛んでくる。
「戦輪ですか!? 天狐さん避けられますか?」
「もちろん、余裕やわぁ」
「それでは少し下がりましょう。流石に戦輪とはいえ、追尾はできない筈……」
「フラグ立てへんでほしおすなぁ」
「そうですね。フラグのようですね」
雷斬は分かって口走った。
しかしその予想はやはり当たっていて、戦輪=チャクラムが雷斬と天狐を追尾する。
空気を震わせ風を掴み、氷の刃が身を削りながら何処までも襲う。
その獰猛さは武士でも将軍でもない。雪将軍の荒々しい性格が滲み出ていた。
「シンデシマエ! シンデワシニワビルノダ!」
「怒りに囚われた貴方に詫びる言葉はありませんよ。それに私を幻滅させたこと、後悔してください」
「結構厳しいこと言うなぁ。そないな性格やった?」
「当然です。私は友人を貶されて黙っている人ではないので」
雷斬は間髪入れずに答えた。
放った言葉の中には雷斬の熱さと重みが同時に伝わる。
想いが籠っていて、ぶつけられた天狐は口角を上げ笑みを浮かべる。
指で印を組むと、今再び【朧狐火】を発動しようとした。まさにその時だった。
「カカッタノ!」
雪将軍はほくそ笑んだ。まさにこの瞬間を待っていた。
天孤が印を組む瞬間、手から短刀が離れる。
攻撃の手段を失い、無防備になった状態で、雷斬も武器を失っている。
護衛が居ないのでこの隙を狙えば一人は確実に落とせると思ったのだ。
「天狐さん!?」
「うちの方に来てるなぁ。あっ、これはマズいかも……」
雪将軍の狙いはおおよそ当たっていた。
雷斬も天狐も最強ではない。攻撃の時、防御の時、移動の時、スキル発動の時、何処にでも必ずムラは生まれてそれが隙に転じる。
最後まで見ていた雪将軍だからこそ、印を組む一瞬を突かれてしまい、天狐は万事休すとなる。
「イマイマシイゲンジュツシヨ、オノレヲノロッテキエウセヨ!」
雪将軍の放ったサスツルギの戦輪が天狐の体を貫く。
クルクルと回転していた戦輪は急な方向転換で雷斬から興味が失せたかのように、天狐の体を一刀両断してしまう。
一番細くて無防備な首を狙われ、HPも一瞬で底をつく。
完全に即死判定。このGAMEの醍醐味でやられたと、天狐は不服そうでありながらも満足な表情を浮かべていた。
「なんてな」
天孤はニヤついた笑みを浮かべた。
口角を吊り上げ、目元まで笑っている。
雪将軍は目を見開き、何が起きたのか分かっていない。
罠に嵌められたのか、それとも誑かされたのか、何一つ分かっていない中、突然天狐の姿が忽然と消えた。
「ナッ!? ナニガオコッタ。マサカマタチョクゼンデスガタヲケシタノカ!?」
雪将軍は勝手な推測を始める。
きっとそうに違いないと固定観念に囚われる。
それが仇となったのか、背後を警戒した雪将軍は今一度脇腹を痛みが襲った。
「ガッ!? ナ、ナンダト」
「やっぱし掛かりやすいわぁ」
ふと視線を預けると、そこに居たのは天孤だった。
身を小さく屈めると、幻術を解いて短刀で脇腹を指したのだ。
痛い、痛い過ぎる。塞がり切っていない傷口を更に広げられると、雪将軍は成すすべなく膝を付いた。
「グハッ!」
口から何か吐き出す。けれど血のエフェクトなど到底存在しない。
HPがごっそり削り取られ、命の危機に瀕した雪将軍は最後の足掻きをしてみせる。
膝を付いてはいるものの、太刀を振り上げ、天狐を攻撃してみせた。
けれど再び天狐は嘲笑い消えてしまう。いつまでも幻術の中に囚われていた。
「焦ってるなぁ。そやけどこれからが本番。後は任せたわぁ」
天孤はにやけ顔を浮かべた。
スッと空間に溶けて行くみたいで、不敵な言葉だけを残す。
「クッ、ワシハゲンジュツゴトキニヤブレルノカ」
「いいえ、貴方を倒すのは天狐さんではありませんよ」
「ナヌッ」
雪将軍は泣き崩れてしまった。
幻術士に敗れたと情けなくなってしまった。
けれどそれは違う。耳元で聞こえてきたのは、今回の宿敵、雷斬の姿だった。
その手にはいつの間にか、いや、最初から黒刀が握られていた。
頭をブンブン振り回し、うなじに突き刺さった黒刀を抜こうとする。
けれどうなじに突き刺さっているせいか、尋常じゃないダメージが走る。
HPがミリずつ削れていくが、雪将軍は痛みに襲われながらも、まだまだ諦める気はなかった。
「クッ、コノ、コノテイドデワシガマケルワケガナカロウ!」
雪将軍は怒りに満ちていた。
瞳の色は薄れて行き、もはや精神に宿る本能で動いていた。
太刀を杖のように使い、痛みを抑え込んでいたのだが、それすら止めている。
体を起こすと、雷斬の黒刀が今にも落ちそうだった。
「天狐さん、この状況は……」
「ちょい危ないかも。完全に本能に支配されてるわぁ」
流石に静観を決め込み、これ以上は無いと踏んでいた雷斬と天狐にも激震が走る。
身構えていつでも対応できるように準備をする。
しかし雪将軍の動きは大げさで、太刀を天空に掲げた。
「サスツルギヨ! ワシニコタエヨ!」
雪将軍は一切サスツルギに呼びかける。
すると呼応するかの如く、掲げた太刀の刀身が凍って行く。
これだけで強力な氷の太刀の完成……かと思われたが、如何にもそれが狙いではない。
「フキスサベ! ソシテ、キエウセヨ!」
雪将軍は太刀を乱雑に振り捌いた。
太刀の刀身が空気を震わせ、風を掻き切り、氷の刃を生み出す。
しかし生み出されたのはただのサスツルギではない。クルクルと円形のサスツルギが宙を舞うと、雷斬と天狐に向かって飛んでくる。
「戦輪ですか!? 天狐さん避けられますか?」
「もちろん、余裕やわぁ」
「それでは少し下がりましょう。流石に戦輪とはいえ、追尾はできない筈……」
「フラグ立てへんでほしおすなぁ」
「そうですね。フラグのようですね」
雷斬は分かって口走った。
しかしその予想はやはり当たっていて、戦輪=チャクラムが雷斬と天狐を追尾する。
空気を震わせ風を掴み、氷の刃が身を削りながら何処までも襲う。
その獰猛さは武士でも将軍でもない。雪将軍の荒々しい性格が滲み出ていた。
「シンデシマエ! シンデワシニワビルノダ!」
「怒りに囚われた貴方に詫びる言葉はありませんよ。それに私を幻滅させたこと、後悔してください」
「結構厳しいこと言うなぁ。そないな性格やった?」
「当然です。私は友人を貶されて黙っている人ではないので」
雷斬は間髪入れずに答えた。
放った言葉の中には雷斬の熱さと重みが同時に伝わる。
想いが籠っていて、ぶつけられた天狐は口角を上げ笑みを浮かべる。
指で印を組むと、今再び【朧狐火】を発動しようとした。まさにその時だった。
「カカッタノ!」
雪将軍はほくそ笑んだ。まさにこの瞬間を待っていた。
天孤が印を組む瞬間、手から短刀が離れる。
攻撃の手段を失い、無防備になった状態で、雷斬も武器を失っている。
護衛が居ないのでこの隙を狙えば一人は確実に落とせると思ったのだ。
「天狐さん!?」
「うちの方に来てるなぁ。あっ、これはマズいかも……」
雪将軍の狙いはおおよそ当たっていた。
雷斬も天狐も最強ではない。攻撃の時、防御の時、移動の時、スキル発動の時、何処にでも必ずムラは生まれてそれが隙に転じる。
最後まで見ていた雪将軍だからこそ、印を組む一瞬を突かれてしまい、天狐は万事休すとなる。
「イマイマシイゲンジュツシヨ、オノレヲノロッテキエウセヨ!」
雪将軍の放ったサスツルギの戦輪が天狐の体を貫く。
クルクルと回転していた戦輪は急な方向転換で雷斬から興味が失せたかのように、天狐の体を一刀両断してしまう。
一番細くて無防備な首を狙われ、HPも一瞬で底をつく。
完全に即死判定。このGAMEの醍醐味でやられたと、天狐は不服そうでありながらも満足な表情を浮かべていた。
「なんてな」
天孤はニヤついた笑みを浮かべた。
口角を吊り上げ、目元まで笑っている。
雪将軍は目を見開き、何が起きたのか分かっていない。
罠に嵌められたのか、それとも誑かされたのか、何一つ分かっていない中、突然天狐の姿が忽然と消えた。
「ナッ!? ナニガオコッタ。マサカマタチョクゼンデスガタヲケシタノカ!?」
雪将軍は勝手な推測を始める。
きっとそうに違いないと固定観念に囚われる。
それが仇となったのか、背後を警戒した雪将軍は今一度脇腹を痛みが襲った。
「ガッ!? ナ、ナンダト」
「やっぱし掛かりやすいわぁ」
ふと視線を預けると、そこに居たのは天孤だった。
身を小さく屈めると、幻術を解いて短刀で脇腹を指したのだ。
痛い、痛い過ぎる。塞がり切っていない傷口を更に広げられると、雪将軍は成すすべなく膝を付いた。
「グハッ!」
口から何か吐き出す。けれど血のエフェクトなど到底存在しない。
HPがごっそり削り取られ、命の危機に瀕した雪将軍は最後の足掻きをしてみせる。
膝を付いてはいるものの、太刀を振り上げ、天狐を攻撃してみせた。
けれど再び天狐は嘲笑い消えてしまう。いつまでも幻術の中に囚われていた。
「焦ってるなぁ。そやけどこれからが本番。後は任せたわぁ」
天孤はにやけ顔を浮かべた。
スッと空間に溶けて行くみたいで、不敵な言葉だけを残す。
「クッ、ワシハゲンジュツゴトキニヤブレルノカ」
「いいえ、貴方を倒すのは天狐さんではありませんよ」
「ナヌッ」
雪将軍は泣き崩れてしまった。
幻術士に敗れたと情けなくなってしまった。
けれどそれは違う。耳元で聞こえてきたのは、今回の宿敵、雷斬の姿だった。
その手にはいつの間にか、いや、最初から黒刀が握られていた。
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