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6.そんなのってないだろ

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「村はない」

「はぁ?」

 俺はジェードの言った言葉が飲み込めず、理解できなかった。
 いや理解しようにもできるわけがない。
 俺の頭は即座に混乱し、痙攣した。

「嘘だろ。嘘って言ってくれよ」

「本当だ」

「なんでだ。まさか魔物の侵攻にでも!」

「いや、単純にお前の知っている村がなくなっただけだ。今お前の村は、「無剣の英雄が生まれ育った村」として観光地化している」

「観光地だと?」

「あぁ。だからお前が帰れば、あの村は廃れ、お前は嫌われて迫害されるだろうな」

 そんなのってありか。ありなのか。
 せっかく命からがら戻ってきて、気が付けば3年経ってて、それに加えて故郷の村にも帰れない。
 一文無し。武器もなし。住む場所さえない。

「そんなのってありかよ」

「世の中は非常だ。結局、後に残ったものに無理にでもすがろうとする。今じゃああの村も金と欲に取りつかれている」

 俺は愕然とした。
 そんな中、ジェードはある提案をした。

「どうせならその名前と身分でも捨ててみるか」

「なんだよそれ。俺が俺を捨てろってのか!」

「そうだ。このまま「無剣の英雄」の名を語る不届き者として生きるより、よっぽどマシだろ」

 ジェードの言っていることは至極全うだった。
 多分その方が、事後報告が楽なのもあるだろうが、全ては俺のため。
 しかし俺は真っ向から否定した。

「嫌だね。俺は自分の名前を捨てる気はない。爵位のような貴族の身分もいらない」

「まあお前らしいな。だがその強情さはいいぞ。貴族ってのは、謙虚さと強欲さ。この二つを兼ね備えてないとすぐに飲み込まれるからな」

「だから、俺は貴族になんか!」

 ジェードは勝手に話を進めようとしていた。
 俺は頭に血が上っていたらしい。
 しかしそんな中、首を突っ込んだのはさっきまで黙っていたアクアスだった。

「あのリイブ。一つ提案なんだけど、いっそのこと貴族にでもなってみたら」

「はあっ?」

 こいつ話を聞いていたのか。
 俺はそんな身分要らない。そんなものがあれば、俺自身を締め付けるだけだ。

「だからね、第二王子に頼んで辺境伯の地位を与えてもらうの。そうしたら、リイブって名前も、侯爵の爵位と王族からのお墨付きをもらえれば、大抵の人は納得してくれると思うな」

「なるほど。その考えはなかった」

 アクアスの発想は俺にはなかった。
 俺に欠けていたものを見つけてくれたことに感謝する。

「だがそんなこと、本当にできるのか?」

「えーっと」

「できるはずだ。そうだろ、レインフォード公爵令嬢」

「公爵令嬢!?」

 何でそんな奴が冒険者なんてやってんだよ。
 しかも、公爵って。王家に通ずる最高爵位じゃねぁか。

「おい、今のって」

「隠していたことは謝ります。でも私……」

「そんなことはいい。どうにかなるのか?」

 俺は問いただした。
 すると、アクアスは少し困った顔をしたけれど、

「はい、何とかなりますよ。多分」

「できるのか!」

「流石レインフォード家の令嬢だ」

「令嬢令嬢って、私三女なんですけど」

「でも令嬢なんだろ」

「まぁ。はい」


 アクアスの歯切れが悪い。
 しかしこれで何とかなった。
 俺はホッと一息つくと、しばらくの間王都に滞在することとなった。

 しかし、

「リイブ。そのお願いを何とかする代わりに、私のお願いも聞いてください」

「それはいいけど。さっき、俺がゴブリンから助けてやっただろ」

「それはそれ。これはこれです」

「大事なものを奪われそうになったのにか?」

「それは言わないでください!」

 アクアスは怒った。
 しかし俺はまるで怖くもない怒り顔に顔を顰める。

「わぁったよ。で、なんだ。無理なのはやめろよ」

「大丈夫です。リイブさんには私と一緒にいてもらいますからね」

「どういう意味だ」

 俺は首を傾げた。
 するとアクアスは笑顔で、

「私の剣の師匠になってくださいね」

「剣の……はぁっ!」

 頭が痛くなった。
 何を頼まれているんだ。

 教えることもないのに、そんなことを言われるなんて無理にほど近い。
 しかし、

「お願いしますね、リイブ」

 蟲惑魔の笑みを浮かべ、俺をあざ笑った。
 それが無性に腹が立ったが、俺にはどうにもできなかった。

「くそっ、権力が」

「何って言いましたか?」

「何でもない」

「お前も大変だな」

「お前がシムンに頼めばいいだろ!」

 俺は怒鳴った。
 しかしながら、ジェードは何もしてくれなかった。
 それどころか、

「よかったじゃねぇか、リイブ。ちょうどいい相手が見つかって」

「お前ひねり潰されたいのか」

「おいおい。俺は本当のことを言ってやっただけだぞ」

「それが気に食わねぇんだよ。まぁ、俺だって大人だ。そんなことはしない」

「はい?」

 ジェードの顔が固まる。
 何か変なことでも言ったか。
 俺が気になって視線を移すと、

「お前まだ子ど……」

 グシャ!

 ジェードの顔がテーブルにめり込む。
 荒々しいことをしてしまった。口ではなく行動で示すなんて、俺らしくもない。

「なにすんだよ」

「それは言うな」

「はぁ?」

「言うな」

 俺は釘を刺した。
 すると身の危険を感じたジェードはおとなしく受け入れた。全く、命知らずな野郎だ。
 その光景をアクアスは目をぱちくりさせていた。
 しかし関わるのは身のためじゃないと即座に気づき、無言でスルーしていたが、それでいい。

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