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13.皆んなのための村作り

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 レンは俺たちに村作りの野望について話してくれた。
 その夢は途方もない上に突拍子もないもので、1人でやろうなんて誰が何と言おうと無理な話だった。

「レン、それは本気か?」

「はい。大真面目です」

「大真面目って。レンは本気なの? そんな突拍子もないこと。絶対無理だよ!」

「無理じゃないです。魔法使いさんは言ってました。素敵な夢だって。必ず叶うって」

 その魔法使いはよっぽど呑気な人だったんだな。
 俺は呆れてものと言えなかった。
 しかしレンはと言うと、完全に心酔している様子で遠くの空を見上げる。
 その始末に呆れ顔を崩れない俺だったが、

「如何してそんな無謀なことを夢見たんだよ」

「私が魔物だからです」

「はあっ!?」

 何だその理由。
 俺は吹き出してしまった。しかしレンは、

「私がエルダートレント。長く生きた魔物だからわかるんです。人と魔物は共存できる」

「共存って。魔物を殺して回ってるんだぞ、人間は」

「それは知っています。でも、言葉の通じる魔物やいい魔物は互いに手を取り合ってあるんですよね」

「それは……まぁな」

 嘘ではない。
 だがそれはあくまで極端な例で、全てじゃない。そんな夢物語を追いかけるだけの気概が俺にはなかった。
 だが、レンはそれでも話を続けた。

「魔物の中には人に危害を加えるものももちろんいます。でも、互いに手と手を取り合えるものもいる。魔法使いさんは、そう教えてくれました」

「突飛な奴だな」

「その方は魔物を従えていました」

「テイマーか。それなら納得がいく」

 テイマーとは魔物使いのことで、魔物と心を通わせて、互いの理のために付き従う存在だ。
 しかしテイマーの素質を持つものは少なく、ましてやそんなテイマーに飼い慣らされる魔物もあまりに少ない。
 そんな希少価値の塊のようなものを引き合いに出されても困ると言ったところだっが、フレアリザードの件もある。
 今も俺の首元に擦り寄り、硬くザラザラした皮膚が肌を擦る。

「けど、何で俺たちなんだ」

「それは魔法使いさんが……」

「そうじゃない。如何してその話を俺たちに持ちかけた。何か理由があるんだろ」

 第一この森に近づく人は少ない。
 しかし何かの間違いで足を踏み入れて、それを魔法使いが言っていた人間だと感じてもおかしくない。
 だが俺たちを見てからコイツは言った。そこに意図があるとしか思えない。

 するとレンは俺とフレアリザードを眺めた。

「その子が懐いていたからです」

「コイツが?」

「はい。いいですね」

 レンはうっとりしていた。
 口元を緩ませて、ポカンとする。
 確かに俺とコイツの付き合いは長い。実年で数えれば、二年半ぐらいか。

「その子、貴方のことを気に入っていますよ。すっかり懐いていて、まるで苦楽を共にした兄弟のようです」

「そうなのか。確かにコイツとの付き合いは長いが」

「だからです。貴方にはテイマーの才能があると思うんです」

「はいっ?」

 そんな妄想じみた答えがお前の決めた理由か。
 またしょうもないな。
 けどその夢を否定したりはしない。

「テイマーの才があるかどうか、俺にはわからんが、その夢を否定はしない。だが馬鹿にはする」

「リイブ、それはそれで酷いよ!」

「わかってる。わあってるから。けど、その夢を叶えればお前は英雄だな」

「英雄……そう言えば、魔物たちの間で噂になっている人がいるんですよ」

「噂になっている? 何だ勇者とかか」

「いいえ、悪き魔物をばったばったと切り倒し、世界を救った伝説の剣士。魔物の間でも強いものしかいない、絶望と絶命の洞窟に足を踏み入れ、生きて帰還したと言う英雄。その名も、「無剣の英雄」。魔物の間でも尊敬されていて、英雄視されているんですよ」

 おいおい嘘だろ。
 コイツ何言って。

「いつか会ってみたいです」

「お、おいその話はもう!

「ふっふっふっ。その英雄、実は私会ったことがあるのですよ!」

「本当ですか! えーっと」

「アクアス。アクアス・レインフォードだよ。その英雄さんに私も命を救ってもらったんです」

「そうだってんですか! それでそれで、どんな人だったんですか」

「強くて優しくて、時々皮肉めいたことも言うけど的を射ていて」

「リイブさんみたいですね!」

「おい!」

 俺の引き合いに出すな。
 またしても同じ言い回しになってしまった。これはマズいな。しかもこの状況はマズいの何のって、話じゃない!

「おい、アクアス、その話はもう止めろ!」

「実はですね! ここにいるリイブさんこそがその「無剣の英雄」なんだよ!」

「あちゃー」

 俺は顔を覆った。
 するとレンは俺の方をぎこちなく向いて、

「本当ですか?」

「信じたくないんだがな」

 はにかんだように答えた。
 するとレンは目を大きく見開いて、

「ほ、ほ、ほ、ほほほ本当に会っちゃったー!」

「はしゃぐな。子供でもない」

「いやいやはしゃいじゃうって!」

 アクアスも同感していた。
 俺だけ空気に溶け込めないまま、同調した空気のはみ出しものになるのはまさかの俺であった。
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