15 / 45
15話 本当にお礼に来た?
しおりを挟む
俺は扉の前に立っていた誰かにぶつかった。
頭を押さえ、急に走った痛みに表情を訝しめる。
けれど自分のせいでもある。だからこそ、先に謝る姿勢を見せた。
「ごめん、怪我はしてな……い?」
「ううっ、またぶつかっちゃいました」
そこに居たのは白尽くめの少女だった。
この格好、この声、全てに見覚えがある。
唯一無いのは腰に携えた剣のみで、俺はほぼ間違いなく、百パーセントを飛び越えて確信を持った。
「もしかして、ラウリィ?」
「その声、やっぱりヒジリさんのお家だったんですね! よかったです」
この場合、何を以って“良かった”なのかイマイチピンと来ない。
けれどラウリィは笑顔を浮かべている。
如何やらラウリィがここに来た目的は、俺に会うことだったらしい。
「えーっと、とりあえずどうぞ?」
「お邪魔致します。おお……」
ラウリィを小屋に通すと、丁寧に頭を下げた。
しかし顔を上げた瞬間、あまりにも手入れの行き届いていない小屋に小声を漏らす。
汚い、正直掃除は行き届いていない。俺はソッと目を逸らした。
「ヒジリさん」
「そ、掃除でしょ? 分かってるよ。後でやるから、とりあえずそこに座ってて」
俺は開いている椅子に指を指すと、ラウリィに座って貰った。
確か奥に使っていない新品の茶葉があったはずだ。
お湯は一応沸かしてあるので、俺は急いでカップを用意し、お茶を注ぐことにした。
「あの、ヒジリさん」
「大丈夫大丈夫。一応これでも生活できてるから」
俺はラウリィに何を言われるか分からず怖くなる。
社畜時代、否、学生時代からの癖で穏便解決を図りに向かう。
全力で意識を集中すると、今にも頭の血管が破裂するくらい本気になった。
「あの、ヒジリさん、私お話があるんです」
「お、お話? 俺には無いけど」
「そんなこと言わないでください。ここに来るまで大変だったんですよ」
「ううっ、整備はしているつもりなんだけどな……」
ラウリィは逆ギレしてしまった。
如何やらここに来るまで時間が掛かったようで、この間よりは丁寧に森の中を歩いてきたようだが、所々に擦り傷が走っている。
俺は正直整備をしている。正しいルートを通れば怪我なんてしないのだ。
何故自分がキレられるのか、心底社畜時代のクズ上司がチラついた。
「落ち着け、ここは違うぞ。ここは異世界、相手はか弱い少女……キレるなキレるな」
俺は心の中で深呼吸をすると、精神を落ち着かせた。
そのおかげかスッと嫌な気持ちは消えて行く。
だからだろうか。ラウリィに作り笑いを浮かべると、引かれてしまった。
「ヒジリさん、やっぱり無理してますよね?」
「無理はしてないよ。あっ、それよりジャーキー食べる? 俺が燻製にした奴なんだけど、つまみくらいには」
「あの、ヒジリさん。私が不躾にも昨日今日ここに来たのには理由があるんです。ヒジリさんにいち早くお礼がしたいんです」
ラウリィは急ぎ足で話を進めて行く。
もはや俺が入り込む隙は何処にもない。
開こうとした口を強制的に黙らされると、俺は口をチャックした。
「お礼ね……(律義だなー)」
お茶を淹れ、それぞれの前にカップを置いた。
下に敷かれた藁半紙の様なコースターがみっともない。
口を付けた部分から滴る水滴が吸われると、俺は肘をついて顎を乗せた。
「もしかして、そのために来たの?」
「はい!」
「他には?」
「無いです!」
「……(律義!)」
こんなにも純粋ピュアな子を無碍にはできない。
心の中で純粋正義な俺がけたたましくトランペットを吹いた。
ここは態度を切り替えよう。影響じゃないけど笑顔を切り捨て、いつもの俺へと戻った。
「わざわざ俺のために来てくれたんだ。ありがとう」
「えっ、急、急に褒められて……あの、その、ご迷惑では?」
「別に気にしてないよ。貰えるものは変なものじゃなければ貰っておいた方が吉だからね」
俺は持論を呟いてみせた。すると少女は「変なの……」と少し落ち込み気味に口ずさむ。
もしかして地雷を踏み抜いた? 嫌な予感がしたのだが、少女は切り替え俺の目をジッと見る。
それから何か真意がありそうで掴めないが、ポツリと訊ねた。
「あの、ヒジリさんは貰ってくれますか?」
「なにを?」
「その、私ができる、私なりの最善なお礼をです!」
ラウリィの言葉には芯があった。
もはや俺が口を挟む道理はないほどに。
ここまで篭っているものならば、きっと間違いは無いに決まっている。
数秒の思考に運命を委ねると、俺はニコリと正しい笑みを浮かべた。
「うん。お礼は要らないけど、そこまで言うなら貰ってもいいかな」
「では……ヒジリさん、私をヒジリさんの下に置いてください」
「……はい?」
ラウリィは自分の胸に手を当て、堂々とした態度を取る。
けれど俺には珍紛漢紛で、ちっとも理解できない。
首を捻り真顔になると、ラウリィは再度答える。
「私はヒジリさんを支えるためにここに来ました。言質は取りました。私はヒジリさんの従者をさせていただきますね」
「……意味分かんないんだけど」
俺の思考が勝手に停止していた。
ラウリィの言葉には脈絡が無い。
けれどラウリィの中では決まっているようで、一人周回遅れにされてしまった俺が居た。
頭を押さえ、急に走った痛みに表情を訝しめる。
けれど自分のせいでもある。だからこそ、先に謝る姿勢を見せた。
「ごめん、怪我はしてな……い?」
「ううっ、またぶつかっちゃいました」
そこに居たのは白尽くめの少女だった。
この格好、この声、全てに見覚えがある。
唯一無いのは腰に携えた剣のみで、俺はほぼ間違いなく、百パーセントを飛び越えて確信を持った。
「もしかして、ラウリィ?」
「その声、やっぱりヒジリさんのお家だったんですね! よかったです」
この場合、何を以って“良かった”なのかイマイチピンと来ない。
けれどラウリィは笑顔を浮かべている。
如何やらラウリィがここに来た目的は、俺に会うことだったらしい。
「えーっと、とりあえずどうぞ?」
「お邪魔致します。おお……」
ラウリィを小屋に通すと、丁寧に頭を下げた。
しかし顔を上げた瞬間、あまりにも手入れの行き届いていない小屋に小声を漏らす。
汚い、正直掃除は行き届いていない。俺はソッと目を逸らした。
「ヒジリさん」
「そ、掃除でしょ? 分かってるよ。後でやるから、とりあえずそこに座ってて」
俺は開いている椅子に指を指すと、ラウリィに座って貰った。
確か奥に使っていない新品の茶葉があったはずだ。
お湯は一応沸かしてあるので、俺は急いでカップを用意し、お茶を注ぐことにした。
「あの、ヒジリさん」
「大丈夫大丈夫。一応これでも生活できてるから」
俺はラウリィに何を言われるか分からず怖くなる。
社畜時代、否、学生時代からの癖で穏便解決を図りに向かう。
全力で意識を集中すると、今にも頭の血管が破裂するくらい本気になった。
「あの、ヒジリさん、私お話があるんです」
「お、お話? 俺には無いけど」
「そんなこと言わないでください。ここに来るまで大変だったんですよ」
「ううっ、整備はしているつもりなんだけどな……」
ラウリィは逆ギレしてしまった。
如何やらここに来るまで時間が掛かったようで、この間よりは丁寧に森の中を歩いてきたようだが、所々に擦り傷が走っている。
俺は正直整備をしている。正しいルートを通れば怪我なんてしないのだ。
何故自分がキレられるのか、心底社畜時代のクズ上司がチラついた。
「落ち着け、ここは違うぞ。ここは異世界、相手はか弱い少女……キレるなキレるな」
俺は心の中で深呼吸をすると、精神を落ち着かせた。
そのおかげかスッと嫌な気持ちは消えて行く。
だからだろうか。ラウリィに作り笑いを浮かべると、引かれてしまった。
「ヒジリさん、やっぱり無理してますよね?」
「無理はしてないよ。あっ、それよりジャーキー食べる? 俺が燻製にした奴なんだけど、つまみくらいには」
「あの、ヒジリさん。私が不躾にも昨日今日ここに来たのには理由があるんです。ヒジリさんにいち早くお礼がしたいんです」
ラウリィは急ぎ足で話を進めて行く。
もはや俺が入り込む隙は何処にもない。
開こうとした口を強制的に黙らされると、俺は口をチャックした。
「お礼ね……(律義だなー)」
お茶を淹れ、それぞれの前にカップを置いた。
下に敷かれた藁半紙の様なコースターがみっともない。
口を付けた部分から滴る水滴が吸われると、俺は肘をついて顎を乗せた。
「もしかして、そのために来たの?」
「はい!」
「他には?」
「無いです!」
「……(律義!)」
こんなにも純粋ピュアな子を無碍にはできない。
心の中で純粋正義な俺がけたたましくトランペットを吹いた。
ここは態度を切り替えよう。影響じゃないけど笑顔を切り捨て、いつもの俺へと戻った。
「わざわざ俺のために来てくれたんだ。ありがとう」
「えっ、急、急に褒められて……あの、その、ご迷惑では?」
「別に気にしてないよ。貰えるものは変なものじゃなければ貰っておいた方が吉だからね」
俺は持論を呟いてみせた。すると少女は「変なの……」と少し落ち込み気味に口ずさむ。
もしかして地雷を踏み抜いた? 嫌な予感がしたのだが、少女は切り替え俺の目をジッと見る。
それから何か真意がありそうで掴めないが、ポツリと訊ねた。
「あの、ヒジリさんは貰ってくれますか?」
「なにを?」
「その、私ができる、私なりの最善なお礼をです!」
ラウリィの言葉には芯があった。
もはや俺が口を挟む道理はないほどに。
ここまで篭っているものならば、きっと間違いは無いに決まっている。
数秒の思考に運命を委ねると、俺はニコリと正しい笑みを浮かべた。
「うん。お礼は要らないけど、そこまで言うなら貰ってもいいかな」
「では……ヒジリさん、私をヒジリさんの下に置いてください」
「……はい?」
ラウリィは自分の胸に手を当て、堂々とした態度を取る。
けれど俺には珍紛漢紛で、ちっとも理解できない。
首を捻り真顔になると、ラウリィは再度答える。
「私はヒジリさんを支えるためにここに来ました。言質は取りました。私はヒジリさんの従者をさせていただきますね」
「……意味分かんないんだけど」
俺の思考が勝手に停止していた。
ラウリィの言葉には脈絡が無い。
けれどラウリィの中では決まっているようで、一人周回遅れにされてしまった俺が居た。
0
あなたにおすすめの小説
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
異世界転生特典『絶対安全領域(マイホーム)』~家の中にいれば神すら無効化、一歩も出ずに世界最強になりました~
夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が転生時に願ったのは、たった一つ。「誰にも邪魔されず、絶対に安全な家で引きこもりたい!」
その切実な願いを聞き入れた神は、ユニークスキル『絶対安全領域(マイホーム)』を授けてくれた。この家の中にいれば、神の干渉すら無効化する究極の無敵空間だ!
「これで理想の怠惰な生活が送れる!」と喜んだのも束の間、追われる王女様が俺の庭に逃げ込んできて……? 面倒だが仕方なく、庭いじりのついでに追手を撃退したら、なぜかここが「聖域」だと勘違いされ、獣人の娘やエルフの学者まで押しかけてきた!
俺は家から出ずに快適なスローライフを送りたいだけなのに! 知らぬ間に世界を救う、無自覚最強の引きこもりファンタジー、開幕!
ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした
むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。
配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。
誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。
そんなホシは、ぼそっと一言。
「うちのペット達の方が手応えあるかな」
それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。
封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する
鶴井こう
ファンタジー
「魔王を押さえつけている今のうちに、俺ごとやれ!」と自ら犠牲になり、自分ごと魔王を封印した英雄ゼノン・ウェンライト。
突然目が覚めたと思ったら五百年後の世界だった。
しかもそこには弱体化して少女になっていた魔王もいた。
魔王を監視しつつ、とりあえず生活の金を稼ごうと、冒険者協会の門を叩くゼノン。
英雄ゼノンこと冒険者トントンは、おじさんだと馬鹿にされても気にせず、時代が変わってもその強さで無双し伝説を次々と作っていく。
《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。
無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。
やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
外れスキル【アイテム錬成】でSランクパーティを追放された俺、実は神の素材で最強装備を創り放題だったので、辺境で気ままな工房を開きます
夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティで「外れスキル」と蔑まれ、雑用係としてこき使われていた錬金術師のアルト。ある日、リーダーの身勝手な失敗の責任を全て押し付けられ、無一文でパーティから追放されてしまう。
絶望の中、流れ着いた辺境の町で、彼は偶然にも伝説の素材【神の涙】を発見。これまで役立たずと言われたスキル【アイテム錬成】が、実は神の素材を扱える唯一無二のチート能力だと知る。
辺境で小さな工房を開いたアルトの元には、彼の作る規格外のアイテムを求めて、なぜか聖女や竜王(美少女の姿)まで訪れるようになり、賑やかで幸せな日々が始まる。
一方、アルトを失った元パーティは没落の一途を辿り、今更になって彼に復帰を懇願してくるが――。「もう、遅いんです」
これは、不遇だった青年が本当の居場所を見つける、ほのぼの工房ライフ&ときどき追放ざまぁファンタジー!
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる