かつて《剣聖》と呼ばれた社畜、異世界で付与魔法を手に再び《剣聖》へと至る。

水定ゆう

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14話 今更だけど、この世界の俺

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 本当に今更になるのだが、俺、双葉聖は異世界に居る。
 その実感は、正直痛い程伝わる……訳じゃない。
 むしろ今も夢の中、もしくはReaRisin Magicの中、その延長線上に居るのではないかと思う今日この頃。俺は暇を持て余していた。

「ふはぁー。暇だ」

 現実では社畜人生を送る俺。
 それとは打って変わり、この世界での俺は非常に暇だった。

 何か成すべきことがある。と言った大それたことも無く、勇者と言う称号を押し付けられ、稀代の魔王を打ち破るみたいな、非現実的な野望もない。ましてや学校に通い、自分のことを貶す生徒や教師に実力をひけらかすような王道展開もない。
 スローライフ。と呼ぶにも適さない魔法を与えられ、悠々自適を通り越し、机に頭を突っ伏すことになっていた。

「マージで、“あの子”とか“あの子の周り”ってなんなんだろ。もうその役目、ラウリィのことでよくないか?」

 頭の片隅には天使風の女性が託した言葉がグルグル反芻思考する。
 それだけ最後に捧げられた言葉が、この世界の俺を暗喩していた。
 けれど記憶が戻って約三年。一度、本当に昨日起きた盗賊騒動以外に、それっぽいことは何一つなかった。

「家族の所に戻っても、正直やることが……いや、そんなこと言ってたら、自堕落な生活になるか。まあいいんだけどさ……はぁ」

 この世界での俺の家族は農業に精通している。
 全員受け継いだ【家系魔法】によって土地を豊かにし、その上で役目を果たしている。
 けれど俺は【固有魔法:付与】なので、あまり役に立てない。
 そのせいもあってか、一人自責して、家の中で居場所を失おうとしていた。

 だからこそ、俺はこうして一人で生活をしている。
 両親に頼んで小さな小屋と痩せた土地を借り、そこに間借りしている。

 もちろん完全自堕落な生活にはなっていない。
 こんなにも痩せ細った土地でも魔力は充分。そのせいもあり、モンスターが闊歩している。
 俺には剣を振ることしかできない。だから剣を構え、モンスターを退治し、その肉を捌いて利益を上げる。何かしらで貢献はしているのだが、それすら今は無く暇で仕方なかった。

「あー、現代日本人……統計的にはなー」

 社畜人生を振り返しながら、俺は迷走していた。
 異世界で青空を見つめたり、小屋の中でボーッとしたりできるこの瞬間が尊い。
 けれど半面、自堕落な自分が許せない。そんな社畜の鑑のような俺が心の中で蠢き走り、奇妙な不協和音を奏でていた。

「もうどうでも良くなりたい」

 俺はふと目を閉じてしまった。
 小さな窓から射し込む陽射しに頬を射抜かれ、あまりの心地よさに感無量しそうになる。
 このまま眠ってしまおうか。そうしよう、それがいい。俺の中で今日の予定を決めるも、その瞬間全身を貫く感覚に撃たれた。

「あっ、なんか来たな」

 俺は体を起こすと、背中を木の椅子に預ける。
 ガタンガタンと揺れる椅子。腰まで据えると、ソッと目を開けた。
 如何やらこの気配、モンスターじゃなさそうだ。となればなに? 俺はインベントリの中から外している装備を取り出した。

「モンスターじゃないとすれば、人間? にしては敵意は無いような気も……ぶっちゃけ分かんないな」

 俺は取り出した実剣を鞘から引き抜き、銀の反射する刃を睨んだ。
 陽射しが屈折すると、綺麗なくの字を描いている。
 そこに映る自分の顔。一応研いではいるが、ボロボロになった剣の表面に映ると、やけに歪んで見えてしまった。

「この剣も寿命かな。さてと、それじゃあ最後に使うとするか」

 俺は鞘に剣を納めると、椅子から立ち上がり小屋の外に向かおうとする。
 しかし気配はすぐそこまで来ていた。急いでいる様子は無く、ゆっくりとこの立ち尽くす。
 その意外な行動に、俺は首を捻ると、剣を握ったまま蟀谷を掻いた。

「もしかして道に迷った的な奴? それなら適当に道を教えに行こうかな……」

 俺はインベントリの中に実剣を仕舞った。
 一瞬にして消えてなくなると、鞘の代わりにドアノブを握る。
 建付けの悪くなったドアノブだ。ギュルギュルと嫌な音を立てると、そのまま押し開けることになり、俺は誰かにぶつかった。

「「うわぁ!!」」

 まさか扉の前で立っていたなんて。
 いや、俺のタイミングと丁度ノックするタイミングが被ったのだろうか。
 やってしまった。苦い顔をして後悔すると、俺はぶつかった誰かに申し訳ない思いをした。
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