かつて《剣聖》と呼ばれた社畜、異世界で付与魔法を手に再び《剣聖》へと至る。

水定ゆう

文字の大きさ
20 / 45

20話 コトコト煮込めば美味いはず

しおりを挟む
「それじゃあ、腕によりをかけて作りますね」
「俺も手伝うよ。とりあえずなに作る?」

 俺達はタイガーブルの素材を余すことなく持ち帰って来た。
 もちろん使えない部分もあったので、それは森に生息している他のモンスターにお裾分けした。
 それでも充分以上の食材が手に入ると、用意していた野菜や野草を始め、かなり豪勢にできそうだ。

「そうですね。それじゃあ煮込んでスープにしましょう」
「スープ? 牛肉スープ?」

 せっかく持ち帰った新鮮な肉を、焼いてステーキにするでもなく、刻んで野菜と一緒に炒めるでもなく、スープにすると言い出した。
 流石に俺にその選択肢は無い。唖然とする中、ラウリィは薬草と一緒にタイガーブルの肉を大鍋の中に移すと、柔らかくするためと臭いを消すべくコトコト煮込む。

「もしかして、マジでスープ作るの?」
「はい、作りますよ」
「……正気?」
「正気も正気です。まあ見ていてください」

 俺は呆気に取られてしまうと、もはや手出しできなかった。
 キッチンから追いやられ、鍋の前を陣取られると、俺がいくら手を伸ばしても届かない。
 これはもうあれだ。食うしかないんだ。
 勿体ないと思いつつも、心の中では(まあいっか)と唱えていた。

「お肉が柔らかくなってきたら薬草を取り出して、人参と玉ねぎを入れて……あっ、聖さん調味料ってありますか?」
「隣の棚にあるよ」

 俺はキッチン隣の棚を指さす。
 ラウリィは火加減を見守りながら棚を開けると、大量の調味料が入っていて歓喜する。

「うわぁ、こんなにたくさんの調味料があればなんだって……これはなんですか?」
「ん? ああ、醤油と味噌、それからみりんに料理酒だよ」
「しょうゆ? みそ? この辺りじゃ見かけない調味料ですよね」
「輸入品だよ。後、そっちにぬか床がある」
「ぬかどことは?」

 異世界に転生した俺だったが、食が余りにも日本人だった。
 しかも古き良き日本人で、こっちには無い醤油や味噌を輸入するほど。
 正直、日本らしい調味料が存在していた時には歓喜した。
 それ以来か、今までは喜んで食べていた洋食よりも、和食のありがたみを噛み締めるようになっていた。

(ぬか漬けって、意外に美味いんだよな……あれ、聞いてない?)

 知らずに視線を外すと、涎を垂らし掛けていた。
 しかしラウリィは再び火と睨み合っている。
 完全にスルーされているようで、何だか悲しくなってしまう。

「ラウリィ、俺はなに手伝えばいい?」
「大丈夫ですよ、ヒジリさん。休んでいてください」
「や、休む? うわぁ、社畜の俺にそれ言うんだ……付け合わせでも作るか」

 俺は社畜だった頃に習慣化されてしまった慣れを発動させる。
 ラウリィの邪魔にならない程度で付け合わせのサラダでも作ろうと思った。
 包丁をインベントリから取り出すと、野菜を切り裂き、小鉢に野菜を盛り付ける。

「とりあえず彩りは良しとして……」
「できました!」

 ラウリィは鍋の調子が良く、無事に完成したことを伝える。
 一体どんな仕上がりになったのか。
 途中から全く見ていなかったけれど、鍋の中をこっそり覗くと、如何やらシチューのようだ。

(あっ、ビーフシチューだ)

 結局でき上がったものはシンプルなビーフシチューに落ち着いた。
 ホッと一安心すると、器にラウリィがよそう。
 赤ワインの良い香りとトロトロに煮えた肉。どちらも食欲をそそらせる。
 
「美味しそうだね」
「どうぞ、食べてみてください」
「それじゃあ貰うね。いただきます」

 俺はよそってもらった器を凝視。
 スプーンを手にしてビーフシチューを掬い上げると、口の中へと運ぶ。
 下に乗せる。すると旨味が一気に広がった。

「うわぁ! (牛の油、ヤバッ……)」

 俺の体の中に大量の油が投入される。
 けれどそれがしつこくない上に、甘みがあって美味い。
 気が付くとスプーンを何度も器に運び、俺はビーフシチューを食べ続けていた。

「ヒジリさん、そんなに急がなくても大丈夫ですよ」
「あむっあむっあむっあむっ……(美味しい。嫌いじゃない)」

 俺はラウリィの料理の腕に感嘆となる。
 それと同時に本当に貴族なのか怪しくなる。
 それだけ家庭的な貴族の少女に、俺は覚えが無いのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界転生特典『絶対安全領域(マイホーム)』~家の中にいれば神すら無効化、一歩も出ずに世界最強になりました~

夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が転生時に願ったのは、たった一つ。「誰にも邪魔されず、絶対に安全な家で引きこもりたい!」 その切実な願いを聞き入れた神は、ユニークスキル『絶対安全領域(マイホーム)』を授けてくれた。この家の中にいれば、神の干渉すら無効化する究極の無敵空間だ! 「これで理想の怠惰な生活が送れる!」と喜んだのも束の間、追われる王女様が俺の庭に逃げ込んできて……? 面倒だが仕方なく、庭いじりのついでに追手を撃退したら、なぜかここが「聖域」だと勘違いされ、獣人の娘やエルフの学者まで押しかけてきた! 俺は家から出ずに快適なスローライフを送りたいだけなのに! 知らぬ間に世界を救う、無自覚最強の引きこもりファンタジー、開幕!

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした

むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~ Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。

封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する

鶴井こう
ファンタジー
「魔王を押さえつけている今のうちに、俺ごとやれ!」と自ら犠牲になり、自分ごと魔王を封印した英雄ゼノン・ウェンライト。 突然目が覚めたと思ったら五百年後の世界だった。 しかもそこには弱体化して少女になっていた魔王もいた。 魔王を監視しつつ、とりあえず生活の金を稼ごうと、冒険者協会の門を叩くゼノン。 英雄ゼノンこと冒険者トントンは、おじさんだと馬鹿にされても気にせず、時代が変わってもその強さで無双し伝説を次々と作っていく。

《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。 無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。 やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

外れスキル【アイテム錬成】でSランクパーティを追放された俺、実は神の素材で最強装備を創り放題だったので、辺境で気ままな工房を開きます

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティで「外れスキル」と蔑まれ、雑用係としてこき使われていた錬金術師のアルト。ある日、リーダーの身勝手な失敗の責任を全て押し付けられ、無一文でパーティから追放されてしまう。 絶望の中、流れ着いた辺境の町で、彼は偶然にも伝説の素材【神の涙】を発見。これまで役立たずと言われたスキル【アイテム錬成】が、実は神の素材を扱える唯一無二のチート能力だと知る。 辺境で小さな工房を開いたアルトの元には、彼の作る規格外のアイテムを求めて、なぜか聖女や竜王(美少女の姿)まで訪れるようになり、賑やかで幸せな日々が始まる。 一方、アルトを失った元パーティは没落の一途を辿り、今更になって彼に復帰を懇願してくるが――。「もう、遅いんです」 これは、不遇だった青年が本当の居場所を見つける、ほのぼの工房ライフ&ときどき追放ざまぁファンタジー!

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

処理中です...