かつて《剣聖》と呼ばれた社畜、異世界で付与魔法を手に再び《剣聖》へと至る。

水定ゆう

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26話 小屋がずぶ濡れじゃんかよ!

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「よいしょ、よいしょ」
「【固有魔法:付与強化(体)】」

 俺とラウリィは小屋の中から家具を運び出した。
 埃を被り、脚の擦り減った椅子と少し傾いた机。
 どちらも手入れは最低限で、正直汚かった。

「ううっ、ヒジリさん、この家具替えませんか?」
「買い直すってこと? 流石に勿体ないよね」
「勿体ないですか? うーん、確かにそうですけど、これだけ傾いていたら……ああっ!」

 ラウリィが小屋の中に二つしかなかった椅子を運び出すと、脚が傾いて外れてしまった。
 地面に叩き付けられると、そのまま椅子が解体されてしまう。
 頬に手を当て、目をオロオロさせると、ラウリィは申し訳なさ一杯になる。

「ヒジリさん、壊れちゃいました」
「あはは、流石に壊れちゃうか」
「当り前ですよ、ヒジリ様。そちらのテーブルとチェアは今から二十年前にこの小屋を使っていた老紳士が死後残していたものです。故に劣化も激しく、ここまでまともに使えていたことが奇跡な程です」
「その事実は聞きたくなかったよ」

 俺は小屋を住処として借りていたけれど、そんな所以があったとは思わなかった。
 けれど今から二十年前のものとなれば、乱暴に扱っていなくても壊れてしまうのは仕方がない。
 俺は諦めることにして、頭をポリポリ掻くと、クーリエにもう一つお願いすることにした。

「クーリエ、家具って買えるかな?」
「畏まりました。すぐにでも用意致します」
「あっ、その前に掃除を終わらせようか」
「畏まりました。それでは……まずは小屋の中に生えたカビと埃を取り除きましょうか」

 そう言うと、クーリエは両腕を横に広げた。
 全身から魔力が放出されると、クーリエの固有魔法が発動される。
 久々に見るが、クーリエの魔法モーションには派手さがあってカッコいい。

「【固有魔法:精霊使役】。来てください、ウンディーネ、シルフ!」

 クーリエが唱えると、不思議な魔法陣が二つも浮かび上がった。
 一つは青い魔法陣。もう一つは緑の魔法陣。
 絵柄も図柄も文字さえも読むことができない。完全に厨二全開だった。

「これが精霊魔法」
「【固有魔法:精霊使役】です。私の呼び声に集い、太古より存在する四大精霊を使役することができます」
「ってことは、ウンディーネが水で、シルフが風?」
「流石はヒジリ様ですね。ご名答にございます。では、小屋の掃除を終わらせてしまいましょうか」

 クーリエはそう宣言すると、呼び寄せて使役した精霊に聞いたことも無い言語で呼び掛ける。
 俺とラウリィには当然解読することはできない。
 ポカンとして見守っていると、話が付いたのか、精霊達は形も無く小屋の中へと消える。
 するととんでもない爆音が小屋の中で響き渡り、それを悟られないように、クーリエはソッと扉を閉めた。

「く、クーリエさん?」
「はい、なんでしょうかヒジリ様」
「今の爆音、絶対ヤバいよね?」
「いえ、そのようなことはなにも」
「嘘付け!」

 俺は盛大にクーリエに突っ込んだ。
 流石小屋の中が大変なことになっている筈。
 よく見れば扉や窓の隙間から水が零れており、古い木の板を張って建てられた小屋のせいか、軋む音が非常に怖い。

「これ、マジで住めるのかな?」
「クーリエさんを信じましょう、ヒジリさん!」
「信じているけどさ」
「大変勿体ないお言葉です」
「いや、褒めては無いよ? 褒めて無いからね」

 俺はクーリエが鼻を高くしようとするので、ポッキリへし折った。
 するとクーリエは態度には表れないが、ショボーンとしてしまう。
 肩を落とし、落胆してしまっていたが、次第に小屋の中で聞こえたミシミシと言う音が消え、精霊達の動きが弱まっていた。

「そろそろ終わりみたいですね。それでは……」
「待った!」
「はい、なんでしょうか、ヒジリ様?」

 クーリエは小屋の扉を開けようとする。
 俺はドアノブに手を掛けた瞬間、嫌な予感がしたのでクーリエを止める。
 首を捻るクーリエだったが、俺が代わりにドアノブを握ると、驚いた様子を見せる。

「俺が代わりに開けるから。クーリエはラウリィをお願い」
「ヒジリ様、それではメイドとして」
「これくらいできるから、ほら下がって下がって」

 俺はクーリエを追い払うと、扉の前を陣取る。
 クーリエが震えるラウリィの前に立つのを見計らってから、俺はドアノブを強く握った。
 この後の光景。俺は何となくだが分かっている。

「南無三!」

 俺は重たい扉を開けた。
 すると案の状のことが起こってしまい、俺は絶句する。

 バッサーーーーーーーーーーーーーーーン!!

 扉を開けると、小屋の中が大海原と化していた。
 この世界で海を見たことないけれど、カビと埃がグルグルと回り泳いでいる。
 備え付けられていたキッチンなど、大事なものも滅茶苦茶にされると、膝から崩れ落ちそうになった。

「大海原じゃなくて、洗濯機だった……」
「「せんたくき?」」
「うん、そうだよね。分かってた」

 もはや笑うことしかできない。
 抗う術は無く、落胆して落ち込んだ俺の脇を“冷たい何か”と“涼しい何か”が通り抜ける。
 まるで慰めてくれたようで、俺の肩をソッと撫で、「ありがとう」と無意識の感謝が零れていた。
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