1000年ぶりに目覚めた「永久の魔女」が最強すぎるので、現代魔術じゃ話にもならない件について

水定ゆう

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フェンリル編

667.こんなにも弱いなんて……

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 ルカはジョーグを黙らせることに成功した。
 ジョーグは腰を抜かし、呼吸が荒い。
静まり返った不穏な空気が冒険者ギルド全体に漂う中、ルカは「ふぅ」と息を吐く。

「さてと、これでいいとして」

 クルンと振り返り、受付カウンターを見る。
 三人程カウンターを任されている受付嬢が居た。
 うち二人は互いに抱き合い怯えている。一方でレジェは息を飲むと、ルカのことを凝視していた。

「それじゃあ、そっちに行ってもいいかな?」
「は、はい。どうぞ、こちらへ」

 ルカはレジェに視線を配る。
 受付カウンターの奥へ案内してくれると先程言った。
 これ以上の面倒事はごめん。ここは甘えることにし、ジョーグから離れようとする。

「ま、待てよ」
「ん、まだやるの?」
「なにもやってねぇだろ!」

 ルカは受付カウンターに逃げ込もうとした。
 ジョーグはそんなルカを言葉で張り上げる。
 淡白な返しをしてスルーしようとするルカに対し、一層怒りを覚えた。

「俺に恥をかかせやがって。タダでは済まさねぇぞ!」
「なんで冒険者は毎回こうなのかな?」

 冒険者はすぐ頭に血が上るのだろうか? いや、そんなことは無い筈だ。
 正直、赤斜の冒険者が頭に血が上りやすいのかもしれない。
 けれどここまで冒険者としての矜持も何も無ければ、呆れるしかない。

「俺と決闘だ。叩きのめしてやる!」
「そんなので勝っても、冒険者の品位を下げるだけだよ?」
「うるせぇ! とっとと俺と勝負しやがれ」

 ジョーグは、完全に怒り心頭だった。
 確かにルカも舐めた態度を取ってしまった。
 自分でも悪いと思いつつ、ジョーグが冒険者の品位を下げていることも明らか。
 どちらも悪いので、ここは痛み分けにする。

「分かった。じゃあ勝負してあげるよ」
「ふん、やっとその気になったか」

 ジョーグは腰のベルトからナイフを取り出す。
 ルカはそれを見て呆気に取られた。
 まさかのオシャレナイフ。刃の部分は全く切ることに適していない、ただの飾りだった。

「嘘でしょ?」
「はっ、今更ビビったか」
「うん、逆にね」

 本当にこの男性は冒険者なのかと今更疑う。
 もしかして、ただ自慢したいだけのイタい奴なのではないか?
 ルカは手を抜くべきかと思う中、ジョーグは周囲に他に誰も居ないことを確認し、早速イカを蹴って攻撃を仕掛ける。

「死ねっ!」
「……」

 あまりにも遅い、遅すぎる。
 正直止まって見えてしまい、ルカは無言になる。
 これは舐めない方がおかしいレベルで、決闘の相手にもならない。

「よっと」
「な、なにっ!?」

 簡単にナイフの軌道を避け、逆に手首を掴んだ。
 まさか躱されるとは思わなかったのか、ましてや掴まれるとは想定していなかったのか、ジョーグは目を見開く。本気で驚いている証拠だ。

「嘘だろ、あのジョーグが!?」
「マジかよ。あの子何者だ」
「きっと只者じゃねぇ。マジでBランクを相手にしてやがる。しかも余裕そうに」

 見物していた冒険者達がザワ付く。
 本気で言っているのかと疑うが、ジョーグがBランクなのは本当。
 しかもオシャレナイフで戦って来た冒険者であり、その強さは折り紙付き。
 逆にそれだけ鈍らな武器で戦って来たとなれば相当凄いのだが、ルカは赤斜全体の冒険者のレベルに愕然とする。

(まさかこんなに弱いなんて……)

 冒険者ならばもっと強く合って欲しかった。
 それが悔しいくらいに弱すぎて、言葉も出なくなる。
 赤斜の冒険者のレベルがここまで低いなんて信じられず、苛立ちが体に現れると、ルカはジョーグの掴んだ腕を握り込んだ。

「い、痛てぇ。ちょ、まっ、離せ、離しやがれ、離してください、お願いします!」

 つい力を入れ過ぎてしまった。
 ジョーグはルカの指が手首に食い込むと、あまりの痛みに絶句。
 強がっていた態度が徐々に崩れ、腕の鬱血と共に、悲鳴へ変わり、懇願するようになっていた。

「ん? ごめん」
「はっ!?」

 ルカは急いで手を離した。
 ジョーグはようやく解放され、顔色に血の気が戻る。
 険しかった歪んだ表情が、過呼吸ではあるものの、人間らしい血の色を取り戻す。

「クソ。なんだよ、お前。タダのガキじゃないのか」
「どう思われてもいいよ。さてと、決闘の勝敗を付けないとね」
「ヒイイッ!?」

 ジョーグは恐怖心に抗うように、ルカを罵った。
 酷い言われようだが、ルカは気にも留めない。
代わりに決闘の勝敗はまだ決まっていないことを伝える。
 
「ま、待ってくれ。俺の負けでいい。だから」
「……えいっ」

 ルカはスッと近付いた。
 ジョーグはルカが近付いただけで足を竦ませ、床に倒れ込む。
 尻餅を付いてしまうと、ルカに見下ろされた。

 腰を下ろしてジョーグと目線を合わせる。
 ニヤッと笑みを浮かべ、可愛らしい声を上げると、額にデコピンを喰らわす。
 ペチンと軽い思いで攻撃すると、ジョーグの首がもげそうになった。

「ぶはっ!」

 ルカはデコピン一発で、ジョーグを吹き飛ばした。
 軽く指で弾いただけだと思ったが、如何にもそんな甘い話ではない。
 パタリと床に倒れ込んでしまうと、動かなくなってしまった。

「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
「「「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」

 冒険者ギルドで絶叫が上がった。
 ルカのことを称賛してくれているのか、いないのか。
 むしろ悲鳴にさえ聞こえてしまうが、ルカは気にしない。

「あれ? ちょっと強くやりすぎちゃったかな?」

 ジョーグの肩を軽く揺すった。完全に意識を失っているのか、白目になっている。
 おまけに額からは血が出ている。如何やら額の骨が折れているらしい。
 これはバレるとマズいので、ルカは急いで治癒する。

「まあいっか。とりあえず、私の勝ちでいいよね」

 ルカにとっては如何と言うことは無かった。
 何せ心臓が動いている。つまり死んではいない。
 それだけで充分だと、ルカは魔法使いらしくないことを思う。

「……判定が付かないけど、勝ちだよね?」
「えっ、は、はい。そうですね、勝ちだと思います」
「よかった。それじゃあ私の番でいいかな?」
「えー……っと、はい。次の方、どうぞ」

 それからこの場を上手く丸めることを考えた。
 まずはルカの視線は受付カウンターに向き、そこで呆然とするレジェの顔色を窺う。
 一応決闘の勝敗を決めて貰うと、ルカの勝ちにはなった。

 これで一段落。そう思い、ルカは何食わぬ顔で列に並ぶ。
 レジェは戸惑いながらもルカのことを案内し、カウンターの奥に通して貰った。
 その間もジョーグは床に横たわったままで、意識は無いが心臓は動いている。
 その内目を覚ますだろうと呼び掛け、ルカは知らない顔をした。
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