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フェンリル編
686.幻獣の治療は難しい
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ルカはフェンリルの治療を続けていた。
けれど思った以上に手早くない。
いつにも増して時間が掛かり、ルカは苦悶な顔色をする。
「やっぱり難しいね」
ルカが苦言を呈した。
それもその筈、いつものように手早くできない。
《パーフェクトヒール》は完全回復魔法。
最近は無茶な戦い方をして、骨を折るシルヴィアに使っている。
《パーフェクトヒール》を使えば、細胞分裂の回数を無視して、体を治すことができる。
病気もある程度は完治できる。それでも、完ぺきとは言えない。
消費する魔力の量は多く、ましてや注意も必要だ。それこそ、無理やり体を治すから、痛みを伴う。
それでも、《パーフェクトヒール》は完全回復の名前に相応しい。
少し掻けた程度で怪我を治してしまえる、世界から逸脱した魔法の一つ。
ルカが自信を持って使える、“パーフェクト”なシリーズだった。
けれど今回は違った。
相手が現代の人間ではなく、過去の幻獣だからだ。
何時もに比べ、難易度が跳ね上がる。
「幻獣は、魔法に対する耐性が強いんだよね。厄介だよ」
正確には“魔法”にではなく、“魔力”に対しての耐性が高い。
そのせいもあり、魔力を介した治療が難しい。
幻獣が滅多に人前に現れないのもその一つで、物静かに暮らしている方が、色々と危険も少ないのだ。
「本気を出せば……いや、ダメだね」
もちろん、ルカであれば簡単に耐性を突破できる。
けれどそんなことはしないし、できない。
何故ならば、ルカが無理に耐性を突破しようとすると、幻獣であるフェンリルに影響を及ぼす。それこそ簡単に性質を捻じ曲げ、世界を壊してしまう可能性があった。
強すぎる力には危険が伴う。ルカがその代表で、本気を出したくても出せなかった。
「だから慎重に、ユックリと……」
ルカはユックリ魔法を掛けた。
深い傷跡を塞ぎ、ばい菌を排除する。
凍傷で体が完全に痛む前に解き、何とか回復させようとした。
その時だった。急にフェンリルが体を動かす。
「ガルル!」
「ちょっと、動かないで欲しいな」
フェンリルは瞼を開けた。
傍に居たルカに気が付くと、警戒して牙を剥く。
体を震わせると、急ぎルカから離れようとした。
「ハナレナサイニンゲン」
「それは無理かな」
「ハナレ、ワタシニナニヲスルキダ!」
「もうやってるよ」
フェンリルは動揺している。
ルカが自分に何をしているのか知らないからだ。
もちろん、今更止める気はない。ルカはフェンリルの威嚇を無視して、治療を続ける。
「ヤメロ、ワタシカラハナレナサイ!」
「治療が終わってからね」
「チリョウ?」
本気でフェンリルは、自分が何をされているのか分かっていなかった。
首を捻ると「クォーン」と鳴いた。
ここまで威嚇ばかりだったが、警戒心を残しつつ、少しだけ優しい目になった。
「私は別に、殺そうとか捕まえようとか、そんなことは思っていないよ」
「デハナゼ?」
「単に死なれたら困るんだよ。だから助ける。私がそうしたいと思ったからね」
結局はルカの自己満足のためだ。それ以上に最大の動機は無い。
フェンリルは唖然とする中、ルカは少しでも安心して貰いたいと思う。
また暴れて動かれても、治療の邪魔になるだけだった。
「安心はできないかもしれないけど、信じて欲しいな」
「シンジルダト?」
「うん。不審な動きが合ったら、すぐに噛み殺そうとしてくれて構わないから。まぁ、噛み殺される気は無いけどね」
ルカは自分の命を秤にかけた。
一つの賭けの対象に使っている。
あまりにも勇気ある無謀な行動に、フェンリルは訝しんだ。
「ホンキデイッテイルノデスカ?」
「口調が変わったね。丸くなった、いいね」
「ソウイウコトデハナイ」
「おお、怖いな。でも本気だよ。私のことを、少しでも信じてくれるならね」
口調が川って面白かった。ルカはフェンリルの口調にツッコミを入れる。
けれどフェンリルに羽衣のように軽やかに流されると、ルカも本気で言葉を重ねる。
本気で信じて欲しいからこそ、命を懸けたのだ。
あまりにもバカ気ている。そこまでする人間が居るのか怪しい。
けれど、フェンリルは賢い。フェンリルはルカの気持ちを汲み取る。
ドクンと何か胸に来るものがあったのか、ルカの言葉を信じることにした。
「ワカッタ」
「はは、怖い口調。無事に傷が治ったら、さっきみたいな優しい口調にして欲しいな」
「……ゼンショスル」
「しなくてもいいよ」
お互いに軽口を叩き合った。
少しだけ空気に丸みが帯びると、フェンリルは自分の命を預ける。
体を寄せ、警戒心を解くと、ルカの傍らで横になる。
「それじゃあ続きをするよ。《パーフェクトヒール》」
ルカは再び魔法を行使する。
先程までの流れで、感覚を掴むことができた。
そのおかげもあり、フェンリルの治療をより優しく行った。
「うん、この調子でやって行こう」
ルカはフェンリルの治療を続けていく。
少しずつ、本当に少しずつ、傷痕が塞がっていく。
血液は止まっているから、ユックリ熱が働き、肉が繋がり合った。
「グルル~」
温かい魔力に体を包まれた。
フェンリルは気持ちがいいのか、安心している。
瞼が唐突に重たくなると、《パーフェクトヒール》の余波を受け、ルカの傍らで休んでいた。
けれど思った以上に手早くない。
いつにも増して時間が掛かり、ルカは苦悶な顔色をする。
「やっぱり難しいね」
ルカが苦言を呈した。
それもその筈、いつものように手早くできない。
《パーフェクトヒール》は完全回復魔法。
最近は無茶な戦い方をして、骨を折るシルヴィアに使っている。
《パーフェクトヒール》を使えば、細胞分裂の回数を無視して、体を治すことができる。
病気もある程度は完治できる。それでも、完ぺきとは言えない。
消費する魔力の量は多く、ましてや注意も必要だ。それこそ、無理やり体を治すから、痛みを伴う。
それでも、《パーフェクトヒール》は完全回復の名前に相応しい。
少し掻けた程度で怪我を治してしまえる、世界から逸脱した魔法の一つ。
ルカが自信を持って使える、“パーフェクト”なシリーズだった。
けれど今回は違った。
相手が現代の人間ではなく、過去の幻獣だからだ。
何時もに比べ、難易度が跳ね上がる。
「幻獣は、魔法に対する耐性が強いんだよね。厄介だよ」
正確には“魔法”にではなく、“魔力”に対しての耐性が高い。
そのせいもあり、魔力を介した治療が難しい。
幻獣が滅多に人前に現れないのもその一つで、物静かに暮らしている方が、色々と危険も少ないのだ。
「本気を出せば……いや、ダメだね」
もちろん、ルカであれば簡単に耐性を突破できる。
けれどそんなことはしないし、できない。
何故ならば、ルカが無理に耐性を突破しようとすると、幻獣であるフェンリルに影響を及ぼす。それこそ簡単に性質を捻じ曲げ、世界を壊してしまう可能性があった。
強すぎる力には危険が伴う。ルカがその代表で、本気を出したくても出せなかった。
「だから慎重に、ユックリと……」
ルカはユックリ魔法を掛けた。
深い傷跡を塞ぎ、ばい菌を排除する。
凍傷で体が完全に痛む前に解き、何とか回復させようとした。
その時だった。急にフェンリルが体を動かす。
「ガルル!」
「ちょっと、動かないで欲しいな」
フェンリルは瞼を開けた。
傍に居たルカに気が付くと、警戒して牙を剥く。
体を震わせると、急ぎルカから離れようとした。
「ハナレナサイニンゲン」
「それは無理かな」
「ハナレ、ワタシニナニヲスルキダ!」
「もうやってるよ」
フェンリルは動揺している。
ルカが自分に何をしているのか知らないからだ。
もちろん、今更止める気はない。ルカはフェンリルの威嚇を無視して、治療を続ける。
「ヤメロ、ワタシカラハナレナサイ!」
「治療が終わってからね」
「チリョウ?」
本気でフェンリルは、自分が何をされているのか分かっていなかった。
首を捻ると「クォーン」と鳴いた。
ここまで威嚇ばかりだったが、警戒心を残しつつ、少しだけ優しい目になった。
「私は別に、殺そうとか捕まえようとか、そんなことは思っていないよ」
「デハナゼ?」
「単に死なれたら困るんだよ。だから助ける。私がそうしたいと思ったからね」
結局はルカの自己満足のためだ。それ以上に最大の動機は無い。
フェンリルは唖然とする中、ルカは少しでも安心して貰いたいと思う。
また暴れて動かれても、治療の邪魔になるだけだった。
「安心はできないかもしれないけど、信じて欲しいな」
「シンジルダト?」
「うん。不審な動きが合ったら、すぐに噛み殺そうとしてくれて構わないから。まぁ、噛み殺される気は無いけどね」
ルカは自分の命を秤にかけた。
一つの賭けの対象に使っている。
あまりにも勇気ある無謀な行動に、フェンリルは訝しんだ。
「ホンキデイッテイルノデスカ?」
「口調が変わったね。丸くなった、いいね」
「ソウイウコトデハナイ」
「おお、怖いな。でも本気だよ。私のことを、少しでも信じてくれるならね」
口調が川って面白かった。ルカはフェンリルの口調にツッコミを入れる。
けれどフェンリルに羽衣のように軽やかに流されると、ルカも本気で言葉を重ねる。
本気で信じて欲しいからこそ、命を懸けたのだ。
あまりにもバカ気ている。そこまでする人間が居るのか怪しい。
けれど、フェンリルは賢い。フェンリルはルカの気持ちを汲み取る。
ドクンと何か胸に来るものがあったのか、ルカの言葉を信じることにした。
「ワカッタ」
「はは、怖い口調。無事に傷が治ったら、さっきみたいな優しい口調にして欲しいな」
「……ゼンショスル」
「しなくてもいいよ」
お互いに軽口を叩き合った。
少しだけ空気に丸みが帯びると、フェンリルは自分の命を預ける。
体を寄せ、警戒心を解くと、ルカの傍らで横になる。
「それじゃあ続きをするよ。《パーフェクトヒール》」
ルカは再び魔法を行使する。
先程までの流れで、感覚を掴むことができた。
そのおかげもあり、フェンリルの治療をより優しく行った。
「うん、この調子でやって行こう」
ルカはフェンリルの治療を続けていく。
少しずつ、本当に少しずつ、傷痕が塞がっていく。
血液は止まっているから、ユックリ熱が働き、肉が繋がり合った。
「グルル~」
温かい魔力に体を包まれた。
フェンリルは気持ちがいいのか、安心している。
瞼が唐突に重たくなると、《パーフェクトヒール》の余波を受け、ルカの傍らで休んでいた。
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