89 / 733
魔術運動会編1
89.シルヴィアの風④
しおりを挟む
シルヴィアは両手を広げた。
意識を一つにして、集中する。
全身で風を感じ取り、受け流すように、体を軸にして感じ取る。
「おいおい、無防備すぎねぇか?」
「・・・」
シルヴィアは集中していた。
声は耳に入らない。
そのことに苛立ったのか、ボーティーは溜め込んでいた暴風の弾丸を指先から放った。
「これでも食らっとけぇ!」
そう言って渾身の力で撃ちだしたのは、体内に流れるほぼ全ての魔力だった。
人差し指がピンと張って、指先から血が出る。
裂けたようだが、シルヴィアは動かず、過去へ逃避行していた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
それはシルヴィア・リューネラが幼い頃のこと。
「ほらほら、シルヴィ。そんなんじゃ、風に好かれないよ。もっと、風に好かれるようにやってみないと」
「風に好かれるって、そんなわからないですよ、師匠」
「うーん。じゃあこう考えてみて。風は友達」
シルヴィアは首を傾げて、ポカンとした。
すると、師匠はこう答え返した。
両手を広げて全身で風を受け止める仕草をしてみることだった。
「こうやって両手を広げてみて、ほら風がささやいてくれる」
「声なんてしませんよ」
「ほらほら想像力足りないよ。こうして、風を受けると最初は通り過ぎちゃうけど、話してくれるでしょ。だから後は耳を傾けてあげるの。それが出来たら、きっと風は応えてくれるから」
師匠はそう言った。
だから信じてみることにした。
風が抜けていく。でも時々囁いてくれる。
「勝利の風は常に吹いている」——
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
シルヴィアは動じなかった。
常に勝利の風は吹いている。それだけじゃない。風は友達になってくれる。優しい風は、常に無風の時でも傍にいる。
それがわかるから、シルヴィアは動かなかった。
「風を感じる。でも悪い流れの風ね。流石にこの風は、受け流さなくちゃいけないわね。師匠、落ちからお借りします。《風包み》」
風が止んだ。
全てシルヴィアの手の中に還っていく。
ボーティーはそのことに気が付いていた。しかし、既に時は遅い。風はシルヴィアの手の中にあった。
「な、なに!? この俺の暴風がぁ!」
「これが勝利の風よ、師匠みたいに上手くはいかないけど、《風・爆》!」
ボーティーの懐に、集めた風が閉じ込められたまま放置される。
するとシルヴィアの指慣らしを合図に、風が爆発した。とんでもない衝撃と突風が起こるが、閉じ込められていた風は、解放されるとともに、ボーティーの服を引き裂いて、瞬間的につむじ風みたいになった。これが、《風・爆》で一度解放されれば、周囲を風の爆弾が破壊する。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! あ……あああっ……ああ……あ・・・」
ボーティーは何度もバウンドしながら空中と屋根の上に体を叩きつけられた。
全身が血だらけになるだけでなく、酷い痣ができる。これはもはやシルヴィアの魔術じゃない。単純な、自然現象が起こした現象だった。
しかしその影響はシルヴィアにも出ていた。
「ぐはぁ! はぁはぁはぁはぁ。流石に、魔力が保たない……わね。これじゃあ、自滅覚悟みたいで、笑われちゃうわ……あはは、はは……」
シルヴィアの体もボロボロだった。
もう力もない。剥き出しになった血管が痛んだ。
ボーティーは、白目になって息もしていないが、まだ心臓はギリで動いているみたいだった。
「後は頼んだわよ、ルカ。それとライ、絶対に負けちゃ駄目だからね。私は、少し眠らせてもらうわ」
風が優しく包んでいた。
重さはない。気圧も関係ない。
ボロボロになりながらも、シルヴィアは戦って勝った。その意気を感じたのか、風たちは舞い踊り、シルヴィアの体を休ませることに必死となり、彼女はしばし眠るのだった。
意識を一つにして、集中する。
全身で風を感じ取り、受け流すように、体を軸にして感じ取る。
「おいおい、無防備すぎねぇか?」
「・・・」
シルヴィアは集中していた。
声は耳に入らない。
そのことに苛立ったのか、ボーティーは溜め込んでいた暴風の弾丸を指先から放った。
「これでも食らっとけぇ!」
そう言って渾身の力で撃ちだしたのは、体内に流れるほぼ全ての魔力だった。
人差し指がピンと張って、指先から血が出る。
裂けたようだが、シルヴィアは動かず、過去へ逃避行していた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
それはシルヴィア・リューネラが幼い頃のこと。
「ほらほら、シルヴィ。そんなんじゃ、風に好かれないよ。もっと、風に好かれるようにやってみないと」
「風に好かれるって、そんなわからないですよ、師匠」
「うーん。じゃあこう考えてみて。風は友達」
シルヴィアは首を傾げて、ポカンとした。
すると、師匠はこう答え返した。
両手を広げて全身で風を受け止める仕草をしてみることだった。
「こうやって両手を広げてみて、ほら風がささやいてくれる」
「声なんてしませんよ」
「ほらほら想像力足りないよ。こうして、風を受けると最初は通り過ぎちゃうけど、話してくれるでしょ。だから後は耳を傾けてあげるの。それが出来たら、きっと風は応えてくれるから」
師匠はそう言った。
だから信じてみることにした。
風が抜けていく。でも時々囁いてくれる。
「勝利の風は常に吹いている」——
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
シルヴィアは動じなかった。
常に勝利の風は吹いている。それだけじゃない。風は友達になってくれる。優しい風は、常に無風の時でも傍にいる。
それがわかるから、シルヴィアは動かなかった。
「風を感じる。でも悪い流れの風ね。流石にこの風は、受け流さなくちゃいけないわね。師匠、落ちからお借りします。《風包み》」
風が止んだ。
全てシルヴィアの手の中に還っていく。
ボーティーはそのことに気が付いていた。しかし、既に時は遅い。風はシルヴィアの手の中にあった。
「な、なに!? この俺の暴風がぁ!」
「これが勝利の風よ、師匠みたいに上手くはいかないけど、《風・爆》!」
ボーティーの懐に、集めた風が閉じ込められたまま放置される。
するとシルヴィアの指慣らしを合図に、風が爆発した。とんでもない衝撃と突風が起こるが、閉じ込められていた風は、解放されるとともに、ボーティーの服を引き裂いて、瞬間的につむじ風みたいになった。これが、《風・爆》で一度解放されれば、周囲を風の爆弾が破壊する。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! あ……あああっ……ああ……あ・・・」
ボーティーは何度もバウンドしながら空中と屋根の上に体を叩きつけられた。
全身が血だらけになるだけでなく、酷い痣ができる。これはもはやシルヴィアの魔術じゃない。単純な、自然現象が起こした現象だった。
しかしその影響はシルヴィアにも出ていた。
「ぐはぁ! はぁはぁはぁはぁ。流石に、魔力が保たない……わね。これじゃあ、自滅覚悟みたいで、笑われちゃうわ……あはは、はは……」
シルヴィアの体もボロボロだった。
もう力もない。剥き出しになった血管が痛んだ。
ボーティーは、白目になって息もしていないが、まだ心臓はギリで動いているみたいだった。
「後は頼んだわよ、ルカ。それとライ、絶対に負けちゃ駄目だからね。私は、少し眠らせてもらうわ」
風が優しく包んでいた。
重さはない。気圧も関係ない。
ボロボロになりながらも、シルヴィアは戦って勝った。その意気を感じたのか、風たちは舞い踊り、シルヴィアの体を休ませることに必死となり、彼女はしばし眠るのだった。
20
あなたにおすすめの小説
ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい
空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。
孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。
竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。
火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜?
いやいや、ないでしょ……。
【お知らせ】2018/2/27 完結しました。
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
昭和生まれお局様は、異世界転生いたしましたとさ
蒼あかり
ファンタジー
局田舞子(つぼたまいこ)43歳、独身。
とある事故をきっかけに、彼女は異世界へと転生することになった。
どうしてこんなことになったのか、訳もわからぬままに彼女は異世界に一人放り込まれ、辛い日々を過ごしながら苦悩する毎日......。
など送ることもなく、なんとなく順応しながら、それなりの日々を送って行くのでありました。
そんな彼女の異世界生活と、ほんの少しのラブロマンスっぽい何かを織り交ぜながらすすむ、そんな彼女の生活を覗いてみませんか?
毎日投稿はできないと思います。気長に更新をお待ちください。
【完結】王子と結婚するには本人も家族も覚悟が必要です
宇水涼麻
ファンタジー
王城の素晴らしい庭園でお茶をする五人。
若い二人と壮年のおデブ紳士と気品あふれる夫妻は、若い二人の未来について話している。
若い二人のうち一人は王子、一人は男爵令嬢である。
王子に見初められた男爵令嬢はこれから王子妃になるべく勉強していくことになる。
そして、男爵一家は王子妃の家族として振る舞えるようにならなくてはならない。
これまでそのような行動をしてこなかった男爵家の人たちでもできるものなのだろうか。
国王陛下夫妻と王宮総務局が総力を挙げて協力していく。
男爵令嬢の教育はいかに!
中世ヨーロッパ風のお話です。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる