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聖夜編
424.ドリアードに報告
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ガサゴソガサゴソ——
ルカはたった一人で森の中を歩いていた。
あの喧騒から一夜が明け、まさに今日はクリスマス当日。
その午後になってから重たい体を起こしてここまでやって来た。
大変な賑わいを見せるホーリーの町並みとは一変し、森の中は静かで不気味な空気が立ち込めている。今となっては慣れてしまったが、聖怪の森はだからこそ、サンタ・ク・ロースが潜むには打って付けとされていた。
「クリスマスの喧騒すら、ここには存在しないんだ。なんだか悲しい。それがサンタ・ク・ロースの宿命ってこと? 私には……分からないな」
ルカは少しだけ、嫌かなり寂しいと感じた。
決して正体がバレてはいけないなんて、窮屈で仕方ないではないだろうか。
そう思って仕方ないのはあくまでも表の面であり、ルカは考えられる頭を持っていた。
だからだろう。サンタ・ク・ロース、否、ドリアードの気持ちがヒシヒシと伝わった。
「まあ、そんなことで相手の気持ちが分かるなら、誰も苦労はしないんだけどね」
ルカはこの世界に住んでいる意思を持つ生物の性を思わず噛み締める。
その内からはルカでさえ逃れることはできない。
何故ならば、それは誰もが抱えている拭いきれない習性なのだから。
「そんなことがあったんですか?」
ルカはドリアードと話していた。
もちろん今は町の市長の姿でもなければ、サンタ・ク・ロースを無理に偽る必要もない。
正体を見透かしたルカの前だからか、本来の姿に戻っていた。
手元には紅茶の入ったティーカップを置き、ルカの話に耳を傾けていた。
内容はドリアード自信楽しみにしていたらしい。
如何やら昨晩はずっと不安が絶えなかったそうだ。
もちろんルカ達に任せたことを後悔してはいない。話を聴く限り、その様子は情景として脳裏に浮かんでいる。
真剣な面持ちで目を逸らすこともなく聞き入ると、唇を噛み締める素振りを見せた。
「そんなことがあったんですか」
「はい、ありましたよ。大変だったけどね」
「でしょうね」
ルカは出されたティーカップに口を付ける。
ゆっくり紅茶を啜ると、鼻から喉に掛けてスッとする。
心地の良い感覚が全身を包み込んでくれると、ルカは頬杖を突いた。
「全く、疲れちゃうよね。こんなことになるなんて」
「そうですね。恐らくですが、私一人ではどうすることもできなかったでしょう。頼んで良かったです」
「その言い分は気に食わないけど、今回は心の中で留めておくよ」
「ありがとうございます。とでも言えばよいのでしょうか?」
ドリアードは瞬きの一つもしていなかった。
本当の意味で精霊の肝の強さにルカは驚愕する。
しかし今回は怒る気もない。ドリアードはサンタ・ク・ロースを偽るだけで精一杯なのだ。
それもそのはず、今はこうして本来の姿に戻ってはいるが、あの姿に戻れば維持できなくなってしまう。ドリアードには休息が必要で、今もティーカップを持つ指が震えている。
「とりあえず私達はしっかりとサンタ・ク・ロースの役目を果たしたよ。プレゼントも一つ残らず届け終えたから」
「そうみたいですね。私もプレゼントが届けられたことは把握しています」
ドリアードはプレゼントを無事に届け終わったことを感知していたらしい。
それもそのはずで、ドリアードはこの町に居て長い。
おまけに大地を司る精霊の一種だ。故にこのくらい、本来の姿に戻れば当たり前なのだろう。しかしルカは敢えて知らなかった振りをして、話を展開させることにした。お礼も言いたいからだ。
「そうなの? もしかしてこの町のことを知り尽くしているから?」
「そうですね。それにプレゼントが一つでも届けられていなければ、もっと大事になっているはずですよ」
「だろうね。それでなんだけど、名前を騙らせてもらってありがとう。おかげで知り合いにプレゼントを届けられたよ」
ルカはリネアのプレゼントについて暴露した。
あれはサンタ・ク・ロースの名を騙り、ドリアードにクリスマスカードを書いて貰って、ルカが枕元にこっそりおいていたものだ。
リネアは商人として優秀だ。今後もなにかとお世話になると思い、ルカが幾つも持っている方位を教えてくれる便利な魔導具を手渡したのだ。
あれだけ嬉しく思って貰えてよかった。
いっそバレてしまうのではと不安に思っていたが、その心配もなかった。
これもドリアードのおかげだ。そう思って仕方ないが、ドリアード自信は自分が優れていると思っていない。
「それくらいは構わないですよ。サンタ・ク・ロースは子供だけの味方ではありませんから」
「あはは、サンタらしいのかな?」
「らしいかは分かりませんが、働きに対する見返りとは思えない程安いのでね」
見返り。別に期待はしていなかった。
けれどドリアードの口からその言葉が出るのなら、ルカにとってそれ以上に越したことはない。
ニヤリと心の中で笑みを作る。ドリアードに見返りの意識があるのなら、ルカには付け入る隙があると乗じ、少しだけお願いしてみることにした。
ルカはたった一人で森の中を歩いていた。
あの喧騒から一夜が明け、まさに今日はクリスマス当日。
その午後になってから重たい体を起こしてここまでやって来た。
大変な賑わいを見せるホーリーの町並みとは一変し、森の中は静かで不気味な空気が立ち込めている。今となっては慣れてしまったが、聖怪の森はだからこそ、サンタ・ク・ロースが潜むには打って付けとされていた。
「クリスマスの喧騒すら、ここには存在しないんだ。なんだか悲しい。それがサンタ・ク・ロースの宿命ってこと? 私には……分からないな」
ルカは少しだけ、嫌かなり寂しいと感じた。
決して正体がバレてはいけないなんて、窮屈で仕方ないではないだろうか。
そう思って仕方ないのはあくまでも表の面であり、ルカは考えられる頭を持っていた。
だからだろう。サンタ・ク・ロース、否、ドリアードの気持ちがヒシヒシと伝わった。
「まあ、そんなことで相手の気持ちが分かるなら、誰も苦労はしないんだけどね」
ルカはこの世界に住んでいる意思を持つ生物の性を思わず噛み締める。
その内からはルカでさえ逃れることはできない。
何故ならば、それは誰もが抱えている拭いきれない習性なのだから。
「そんなことがあったんですか?」
ルカはドリアードと話していた。
もちろん今は町の市長の姿でもなければ、サンタ・ク・ロースを無理に偽る必要もない。
正体を見透かしたルカの前だからか、本来の姿に戻っていた。
手元には紅茶の入ったティーカップを置き、ルカの話に耳を傾けていた。
内容はドリアード自信楽しみにしていたらしい。
如何やら昨晩はずっと不安が絶えなかったそうだ。
もちろんルカ達に任せたことを後悔してはいない。話を聴く限り、その様子は情景として脳裏に浮かんでいる。
真剣な面持ちで目を逸らすこともなく聞き入ると、唇を噛み締める素振りを見せた。
「そんなことがあったんですか」
「はい、ありましたよ。大変だったけどね」
「でしょうね」
ルカは出されたティーカップに口を付ける。
ゆっくり紅茶を啜ると、鼻から喉に掛けてスッとする。
心地の良い感覚が全身を包み込んでくれると、ルカは頬杖を突いた。
「全く、疲れちゃうよね。こんなことになるなんて」
「そうですね。恐らくですが、私一人ではどうすることもできなかったでしょう。頼んで良かったです」
「その言い分は気に食わないけど、今回は心の中で留めておくよ」
「ありがとうございます。とでも言えばよいのでしょうか?」
ドリアードは瞬きの一つもしていなかった。
本当の意味で精霊の肝の強さにルカは驚愕する。
しかし今回は怒る気もない。ドリアードはサンタ・ク・ロースを偽るだけで精一杯なのだ。
それもそのはず、今はこうして本来の姿に戻ってはいるが、あの姿に戻れば維持できなくなってしまう。ドリアードには休息が必要で、今もティーカップを持つ指が震えている。
「とりあえず私達はしっかりとサンタ・ク・ロースの役目を果たしたよ。プレゼントも一つ残らず届け終えたから」
「そうみたいですね。私もプレゼントが届けられたことは把握しています」
ドリアードはプレゼントを無事に届け終わったことを感知していたらしい。
それもそのはずで、ドリアードはこの町に居て長い。
おまけに大地を司る精霊の一種だ。故にこのくらい、本来の姿に戻れば当たり前なのだろう。しかしルカは敢えて知らなかった振りをして、話を展開させることにした。お礼も言いたいからだ。
「そうなの? もしかしてこの町のことを知り尽くしているから?」
「そうですね。それにプレゼントが一つでも届けられていなければ、もっと大事になっているはずですよ」
「だろうね。それでなんだけど、名前を騙らせてもらってありがとう。おかげで知り合いにプレゼントを届けられたよ」
ルカはリネアのプレゼントについて暴露した。
あれはサンタ・ク・ロースの名を騙り、ドリアードにクリスマスカードを書いて貰って、ルカが枕元にこっそりおいていたものだ。
リネアは商人として優秀だ。今後もなにかとお世話になると思い、ルカが幾つも持っている方位を教えてくれる便利な魔導具を手渡したのだ。
あれだけ嬉しく思って貰えてよかった。
いっそバレてしまうのではと不安に思っていたが、その心配もなかった。
これもドリアードのおかげだ。そう思って仕方ないが、ドリアード自信は自分が優れていると思っていない。
「それくらいは構わないですよ。サンタ・ク・ロースは子供だけの味方ではありませんから」
「あはは、サンタらしいのかな?」
「らしいかは分かりませんが、働きに対する見返りとは思えない程安いのでね」
見返り。別に期待はしていなかった。
けれどドリアードの口からその言葉が出るのなら、ルカにとってそれ以上に越したことはない。
ニヤリと心の中で笑みを作る。ドリアードに見返りの意識があるのなら、ルカには付け入る隙があると乗じ、少しだけお願いしてみることにした。
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