1000年ぶりに目覚めた「永久の魔女」が最強すぎるので、現代魔術じゃ話にもならない件について

水定ゆう

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聖夜編

431.ナタリーとドリアード

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 アルカード魔術学校。
 一際豪華な装飾が施された校長室で、一人黙々と業務に勤しむナタリーは気が気ではなかった。
 世間では冬休みにもかかわらず、毎日が忙しなくて仕方がない。
 それもそのはずだが、今一番の気掛かりはやはりサンタ・ク・ロースことドリアードからの知らせだった。

「二十七日。もうルカさん達もホーリーの町を経った頃ですね」

 ぼんやりと脳裏を過った。
 自然と指が止まり、滑らかだった筆捌きがピタリと止まってしまう。
 ふぅと音も無く息を吐くと、視線が一点を見つめてしまった。

「大丈夫でしょうか?」

 珍しくナタリーは心配をしていた。ように見えたが如何やら違う。
 ナタリーが心配をしているのはルカではなくシルヴィア達。それからドリアードだ。
 無事に帰って来てくれればそれ以上に得られる喜びは無い。
 心の底からそう思う。

 とは言え、そこにルカの名前が無いのはルカのことを心配していないからではない。
 誰よりも、何よりも、ナタリーはルカに心酔していた。
 それは即ち、ルカがナタリー達が無駄な心配をしなくても良いほど強い。
 それだけの生存率を兼ね備えているからこそ言えることで、心肺など無用だと判り切っていたからだ。

 もっとも、ルカが敗れたその日にはこの世界の明日は無い。
 きっと暗闇に世界が包まれ、二度と光が包み込むことはない。
 ナタリーは万年筆をギュッと握り込み、そのりきみ具合から折れてしまいそうだった。

「ん!?」

 そんな中、突然外部から魔力を感じ取った。
 何事か。ナタリーは周囲を見回すと、窓際に置いていた花瓶が目に留まる。
 何故だろう。ここには無いはずの蔦が伸びていた。

「これはまた珍しい魔性植物ですね。確かホライソーン」

 ホライソーンとは別名聖なる茨とも呼ばれる魔性植物だった。
 茨というには棘は無く、むしろただの蔦。
 と見せかけ、実は凄まじい魔力を有しているのだが、残念なことに普通の魔術師では気が付けない。

 けれどもナタリーが気掛かりに思ったのはそこではない。
 如何してここにホライソーンが生えているのかだ。
 ここアルカード魔術学校ではまだしも、マギアラに自然に生えているという報告は聞いていない。

「なんの脈絡も無いというのは非常に引っかかりますね。恐らくは名のある魔術師……否、魔法使いか精霊の類か……」
『ご名答です』
「ん? この声は、ドリアードさん?」

 ナタリーが考えに耽っていると、速攻で答えが浮かび上がった。
 ホライソーンから突然声がした。おまけに魔力の波動も感じる。
 ナタリーは何事かと思うのは一瞬で、それがドリアードのものと分かり、少なからず安堵した。

『安堵したの?』
「そう聞こえますか? そうですね。確かに安心しましたよ。精霊である貴女からこうして連絡があるということは、即ち無事に上手く行ったということですね」
『確かに、そう言うことにはなるけど』

 何だか含みがある溜め方だった。
 ナタリーは神妙な面持ちで、眉根を寄せて尋ねる。

「薬の方はアレで良かったですか? それから皆さんは?」
『そのことで少し話がある。ナタリー、彼女は何者?』
「何者? もしかしなくてもルカさんのことですよね。あの人はそうですね、私達とは一つ次元が違う存在とでも言うべきでしょうか?」

 ナタリーは躊躇いながらも答えた。
と言うのも、ルカが聞いていたら大変なことになると分かっていた。
ムッと唇を噛むと、ドリアードは続けた。

『ねぇ、サンタ・ク・ロースのためだと思う?』
「えっ? すみません、少し話が見えないのですが……」

 あまりにも唐突過ぎて、聡明なナタリーの頭脳では解決できない。
 何処から切り取るべきなのか、その糸口すらない。
 無限に連なる言葉の迷路が組まれると、ドリアードは拡大解釈をさせないよう小さく仕舞った。

『ルカさんは言っていた。もうサンタ・ク・ロースは必要ないって。でもそれだと、あの人が守りたかった町は世界は一体何処に行ってしまうの? 一度築き上げてきたものを、今まで偽って来た愛と平和を、私一人で壊してしまっても良いのか如何か、不安でたまらない。こんな気持ち初めて。問われた時、私は癇癪を起して答えが出ずに、今も盲目の中を彷徨っている。答えなんて出るはずもない、無限に組み上げられる迷路の中を進んでいるみたいにね』

 ナタリーはドリアードの心の声を聞いて固まってしまった。
 まさか例えがここまで似ているとは思わなかったのだ。
 けれどそれも分からなくはない。ルカは答えを教えてくれない。自らの手で自分が信じた答えを模索させる。それこそが説かせることだと、長年の経験からナタリーは気が付いていた。
 だけど難しいのは事実で、現にドリアードは戸惑っている。答えなんてない、無限に組み上げられた迷路の中、自分だけの答えの扉を作れないでいた。

「ルカさんらしい曖昧な問いかけですね。ですがその説き方こそがルカさんです」
『意味が分からない。ここまで悩ませておいて、本人は相も変わらない。私はそれが許せない。だけど恨んでも仕方がないから』
「分かりますよ、その気持ちは。ですが答えは自分自身で決めるから答えになるんですよ。如何したいのか、如何するべきなのか、それを決めるのはドリアードさん自身ですよ」
『私が答えを決めるべき……ルカさんみたいなことを言うんだね』

 ドリアードは更に悩み続けていた。
 これでは埒が明かないともナタリーは感じる。
 如何したらドリアードに伝わるのか、如何すれば報われるのか、ナタリーには分からない。

「では私からも一つ助言を。今までホーリーを守って来たのは貴女であって、サンタ・ク・ロースさんではありませんよ。それを理解していれば、貴女の存在が例えサンタ・ク・ロースでなくても受け入れられるはずです。姿形は違えど、行動に間違いは無いんです」
『行動に間違いはない……私なんて、間違えてばっかり』
「では間違えを正しいに変えてしまいましょう。それができるのが、今を生きている人の力ですからね」

 ナタリーはドリアードにそう説明した。
 我ながらルカのようだとナタリーは胸の内がざわつく。
 するとドリアードは仕方ないと納得したのか、一言返した。

『今を生きている人の力。私は人では無くて精霊だけど、参考にはさせてもらうね』
「はい、是非参考にしてください」

 ナタリーは見えていないと分かっていて微笑みかける。
 するとドリアードの魔力が消えた。
 ホライソーンだけが花瓶の中を陣取って、存在感を露わにすると、ナタリーは再び業務に戻るのだった。
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