1000年ぶりに目覚めた「永久の魔女」が最強すぎるので、現代魔術じゃ話にもならない件について

水定ゆう

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エルフの森編

494.ディンネルは用心深い

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「それで、改めて書状を拝見させて貰おうか」

 ディンネルの雰囲気が変わった。
 ウッドエルフの姉妹の間に腰を落ち着け、威圧する眼で睨みを利かせる。

(ピリッとしているな)

 ルカはディンネル相手でも一切面持ちを変えない。
 とは言え、やはり違和感は犇めいている。

 形の無い鋭いナイフが部屋中を占める感覚。
 背筋を貫く勢いで、少しでも淀めば殺される気がしてならない。

(ああ、流石に怯えるよね)

 ふと視線を斜め後ろに向けると、シルヴィア達が畏まった態度を取っていた。
 中々経験し辛い本物の対談現場。
 重苦しい辛辣な空気に苛まれると、背中が丸くなっている。
 気持ちが落ち込み、ストレスを感じている証拠だ。

「書状は?」
「一ついいかな?」
「なんだ。この期に及んでか?」
「そうじゃないよ。悪いけど、私の友達を威圧するのは止めてくれるかな?」
「ん?」

 ルカはこの状況下でも自分を前面に押し出していた。
 そもそもが話、この空気は千年前に体験済み。
 幾度となく修羅場を乗り越え、死線を掻い潜って来た証。
 この程度の空気に負ける気はしないのだ。

「そうか……この空気すら読み解けない魔術師の子供だったか」
「はい?」

 その瞬間、ディンネルから殺意がダダ洩れになった。
 飄々としたルカの胸を刺すようで、部屋の中を重たい空気がどよめく。
 鳥肌が立ち、ディンネルの隣に座る姉妹も表情が硬くなると、ディンネルが相当機嫌遭悪いことを理解した。

「今この森は危機に瀕している。その状況を見ようともしないなど、言語道断だ」
「危機に瀕している。それは聞いてるよ。この森、謎の発火現象が起きているんだよね?」
「その程度の浅い知識をひけらかすのか?」
「まさか。そっちが教えてくれないだけでしょ?」

 ルカとディンネルは真っ向からぶつかり合う。
 お互いに一切退く気はない。
 もとい、引き際など存在しておらず、ルカとディンネルは意味の無い空中戦を披露する。

「そもそも、この書状は本物なのかさえ疑わしい」
「それ言っちゃうんだ? ディンネルも見たはずだけど」
「精巧に作られた偽物かもしれないだろ」
「それはそうだけど、その書状の字体、エルフ族特有の言語の筈だよ。さらに筆記体はナタリーのものだ。どちらも魔術を使わない、自分の手で直筆されたもの。流石に目が肥えていれば、分かるよね?」

 ルカの言う通り、用意された書状はエルフ族が特別な場面で使う紙。
 その上に乗ったインクも特有のもので、魔術などは使わず、変に誤魔化していない直筆性。
 おまけに判まで押されているため、疑う余地のない本物だった。

 けれどその事実を付けられてもディンネルは用心深い。
 ルカの言葉に嘘偽りがないかどうか、しかと吟味する。
 それだけ疑いを向けられるのは流石に心外だと、ルカは心の中で唱えてしまった。

「どうだ」
「読めないよ」
「読もうともできないね」

 ディンネルは左右を挟むウッドエルフの姉妹に声を掛けた。
 「読めない」。一体何を読もうというのか。ルカは見当が付いていた。
 けれど姉妹は読み解くことが一切できない。
 情報が一切出ない中、ディンネルは今一度殺気を放った。

「うわぁ、怖い」
「そう言っていられるのも今の内だ。この部屋の中は密室。故に外部からは天窓のみでしか中の様子を確認できない。つまるところ……」

 ディンネルはそう言うと、指先から魔術を繰り出す。
 黒い塊が天井まで上って行くと、パチン! と破裂してしまう。
 すると天窓を暗闇が覆い、部屋の中を真っ暗に染め上げた。

「な、なに!?」
「うわぁ、真っ暗だー」
「これは魔術……《ブラックアウト》ですよ」
「ほ、炎を出しますね」

 シルヴィア達はプチパニックを起こす。
 しかし次の手を封じるように、ディンネルの殺意を剥き出しにした空気が、ナイフのように襲い掛かり、何もできないで恐怖に慄き固まらせる。

「動くな、部外者」

 ディンネルの辛辣な言葉。
 ルカはそれを受けてカチンと来る。
 ここまでのことをする必要性は何処にもない。
 本当は嫌だと思いつつも、「仕方ないな」と一言呟き、ディンネルと姉妹にだけ殺気を向けた。

「ちょっとは黙って欲しいな」
「「「……!?」」」

 ディンネル達は言葉を失う。
 突然の殺気に喉を潰され、呼吸ができない。
 抵抗しようにも凄まじい重圧が肌を押し殺し、冷静に思考することさえ封じ込めると、なにもできなくされてしまう。

 怖い、苦しい、死にたくない。
 様々な思考がグルグルと脳内を巡り行き、今にも倒れてしまいそうだ。
張り裂けそうな胸を爪で引っ掻くと、ルカはディンネル達に答える。

「私達はナタリー・ルラン校長に言われてここに来た。それがなによりも事実であり、無碍にするのなら私達はここから去る。それでどうなろうが私達は知らない。疑うのは勝手だけど、私に勝てると思わないことだよ。身の程を知るんだね」

 いつものルカらしくは無かった。
 そのせいだろうか、部屋の中がルカ一人の物になる。
 他全ては所詮命の無いガラクタ。そんな想像さえできてしまうと、気が付けば暗闇の中に光が射し込み、ディンネルの魔法が解除されると、そこは凄惨な現場として、誰も意識を持たない地獄絵図が広がっていた。

「ちょっとやりすぎたかな?」

 泡を吹いて倒れるディンネルと姉妹。
 気絶しているシルヴィア達。
 ただ一人この状況に取り残されたルカは後悔した。
 百分の一も出していない殺気にやられるなんて、信じたくは無かったのだ。
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