1000年ぶりに目覚めた「永久の魔女」が最強すぎるので、現代魔術じゃ話にもならない件について

水定ゆう

文字の大きさ
499 / 733
エルフの森編

495.遠い暗闇

しおりを挟む
 真っ暗な闇の中。
 頭上を見上げれば、何処までも遠い暗雲が立ち込めている。
 いくら目元を擦ろうが、雲が消える様子はなく、ましてやその場に停滞したまま、光を覆い隠していた。

「寒い……」

 少女は小刻みに震える体を抱き寄せる。
 あまりの寒さに手足がかじかみ、思うように動いてくれない。
 まるで凍り付いてしまいそうで、今にも固まってしまいそう。

「ダメ。動かさないと、ダメだ」

 少女は歯茎すら噛み砕きそうな勢いで、思いっきり白い歯を噛む。
 自分の心を鼓舞すると、精神を極まらせる。
 今にも固まって二度と動かなくなるかもしれない体を奮起させ、暗雲が覆い尽くす世界を歩いていた。

「お父様、お母様、一体何処……何処に、何処に行ってしまったの」

 少女は自分の両新を探していた。
 さっきまで一緒に居た筈なのに、どれだけ視線を配ろうが、その姿は無い。
 殺された、それとも消された。そんな気もしない。
 少女はただ一人、当てもない暗闇の中を一人ぼっちで歩く。

「怖い、辛い、寂しいよ」

 少女は今にも泣いてしまいそうで、震える体からは熱が奪われる。
 瞼が重く、このまま眠ってしまいたい。
 まつ毛は雪が降ってもいないのに凍り付き、痛みを伴う。
 少女は完全に孤立し、視線が少しずつ落ちて行く。

「どうしてこんなことになるの? どうしてこんなことになったの?」

 少女は自分を傷付けるように攻撃した。
 自責の念に駆られてしまい、心苦しくて消えて無くなりたい。
 そう思う気持ちが指先を黒い禍々しい何かで積み重ねると、喉の奥底を悍ましい何かも溢れ出す。

「ぶへっ!」

 今にも吐き出してしまいたい。
 自分の中に会ってはいけない何かが蠢いている。
 死にたい、死にたい、死にたい、死にたい——
 無数の残響が気持ちの良い目を奪い取った。

「私は、一人……一人なんだ……私は、私は、いつまでも……」

 少女は心の闇に支配されたかった。
 そうすれば全てが楽になると思った。
 この心の奥底から蠢き、沸き立つ黒いものは、私にとっての啓示なのかもしれない。
 そう思ってしまえばどれだけ楽になるだろうか。
 今にも縋ってしまいたくなり、私は自分の喉元に指を掛ける。

「ううっ……あっ、がぁっ!」

 少女は自死を迎えようとしていた。
 息ができない。呼吸で酸素を取り込めず、今にも意識が奪われてしまいそうになる。
 喉の奥底から胃酸が溢れ出し、ブクブクと泡が出そうになって……

「なにをやっているんです」

 その瞬間、少女の細い腕を別の腕が掴んだ。
 喉を押し潰していた指を剥がすと、少女を死から解放する。

「ぐがっ! ぐはっ、はっはっはっはっはっ……はぁー……あんっ?」

 少女は息ができるようになり、倒れ込んでしまった。
 目が溶けてしまいそうな熱を感じ、少女は頭を抱える。
 冷たい地面に顔を押しつけ、視線を少しだけ上げる。
 そこに浮かぶのは人影。光に包まれているせいか、顔だけ乱反射して窺えない。

 けれど分かることもあった。
 とても眩しい魔力を有していて、少女には直視ができない。
 睨むことでしか自分を晒すことができず、少女は顔らしき部分をジッと見つめた。

「誰?」
「誰でもいいですよ。それより、こんな暗闇でなにをしているんですか?」
「……」
「まさか死のうとしていたんじゃないですよね?」

 少女は何も言い返せなかった。
 見れば分ると言いたかったので、少女は視線を右往左往させる。
 するとおそらく女性だが、厳しい口調で少女に手を差し伸べた。

「死を選ぶのは、私が許しませんよ」
「……どうして?」
「どうしてとは?」
「どうしてそんなことが言えるんです。私の人生、私自身が終わらせたって構わないはずです。それを見ず知らずの貴女に、口を挟まれる必要はないはずですよ!」

 少女は猛烈に抗議を入れた。
 少女にとって、この暗闇の中に囚われているのは自分だけ。
 そう思っていた一瞬が崩壊したのは良いものの、女性は少女とは相いれない考えを持っていた。

「私はもう一人なんです。ここにいる限り、私はいつまでも一人ぼっち……」
「そうですね、私にはなにが起きたのかは分かりませんけど、貴女はいつまでも一人です」
「それが分かっているのなら、私に差し伸べる手はないはずです」
「そうです。今の貴女に、私が口を挟んでまで差し伸べる手はありません」
「それならもう放って置いて……」
「ですが、それはできません。同族を見捨てる・・・・・・・ことを・・・私も姉さんも良しとは・・・・・・・・・・しませんよ・・・・・

 その瞬間、少女の頬に指先が触れる。
 温かい。確かな温もりが少女の凍って固まった体に注がれる。
 心地が良い。気持ちが良すぎて、今にも天昇してしまいそうだ。

「温かい……」
「貴女自身が生きたがっている証拠ですよ」
「私が生きたがっている……そんなこと」
「体は意思よりもよっぽど素直ですよ。この暗闇も、貴女自身が上手くなれば乗りこなせるはずです」
「乗りこなせる? それってどういう!」

 少女は女性の言葉が不可思議で脳の奥底を通り過ぎる。
 首を捻ろうとするが、顔を抑えられてしまい動かせない。
 瞬きだけで合図をすると、女性は見えない顔の中で、ニコリと微笑んで見えた。

「その意味が知りたいのなら生きてください。そうすれば貴女は一人ではなくなるはずです。安心してください、私が保証しますから」

 根拠何て更々なかった。
 正直、信じていい訳が無かった。
 けれど女性の言葉には芯があり、少女の心を突き動かす。否、引っ張り上げるには充分過ぎた。

「……はい」

 少女は落ちた膝を浮かせると、ゆっくり自分の足で立ち上がる。
 未だに震えたまま、小刻みに揺れて頼りない。
 けれど女性の手の温もりが、少女のことを支えると、頭上を覆う暗雲が今にも晴れてしまい、ひっそりとした陽射しを迎え入れるような気がしてならなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

昭和生まれお局様は、異世界転生いたしましたとさ

蒼あかり
ファンタジー
局田舞子(つぼたまいこ)43歳、独身。 とある事故をきっかけに、彼女は異世界へと転生することになった。 どうしてこんなことになったのか、訳もわからぬままに彼女は異世界に一人放り込まれ、辛い日々を過ごしながら苦悩する毎日......。 など送ることもなく、なんとなく順応しながら、それなりの日々を送って行くのでありました。 そんな彼女の異世界生活と、ほんの少しのラブロマンスっぽい何かを織り交ぜながらすすむ、そんな彼女の生活を覗いてみませんか? 毎日投稿はできないと思います。気長に更新をお待ちください。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

処理中です...