1000年ぶりに目覚めた「永久の魔女」が最強すぎるので、現代魔術じゃ話にもならない件について

水定ゆう

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炎の悪魔編

567.獄炎は止められない

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 ようやくルカの番になった。
 ディンネルは崩れてしまい、ルカの背後を見る。
 一体どんな戦いを見せる。期待してしまう中、ルカは動き出す。

「ふぅ……はっ」

 ルカはオービエンに近付いた。
 魔術も魔法も一切使っていない。
 魔力無しの単純な体術に、ディンネルは目を見開く。

「い、今のは、なんだ?」

 まるで見えなかった。一瞬で距離を縮めた。
 オービエンに距離を詰め、繰り出したのはまさかの拳。

「それっ!」

 気の抜けた拳が声と共に参上。
 オービエンに繰り出されると、防御を取る前に、顔に当たった。

「ぐはっ!」
「は、反応できていない?」

 オービエンの動体視力なら、本来避けられる筈。
 それが避けられないのは、ルカが余りにも速いから。
 ましてやパワーも相まっている。
 オービエンは拳が触れた瞬間、軽く吹き飛んだ。

「ぐへっ、ぶはっ!!」

 地面を跳ねてバウンドする。
 ディンネルの攻撃では決してあり得ない。
 異次元の動きを見せると、ディンネルはむしろ、恐怖さえ感じてしまう。

「これは一体なんだ。私がやって来たことは一体……」

 心の闇が増幅する。ルカの圧倒的な力の前に、悲しいよりも悔しいよりも空しい気持ちが膨らんだ。
 全身から黒い闇が靄となって漏れ出ると、目の前ではオービエンが立ち上がっていた。

「はっははは! それが貴様の全力か?」
「全力? さぁね、どう思う?」
「俺に訊ねるか。……無論、本気では無いのだろう?」
「それじゃあ、もっとやろうか」

 ルカはまるで本気を出していない。
 ただ喧嘩をするみたいに、一発殴って見た程度。
 しかし傍から見てもあり得ない光景。オービエンの頬がこけ、骨が折れてしまっていた。

「《獄炎の治癒インフェル・ヒール》」

 ディンネルは自分の頬を押さえた。
 骨が折れて崩れた左頬から淡い炎が光となって触れる。
 すると崩れた筈の頬は膨らみ、骨が再生した。
 如何やら並みの攻撃では倒れはしないらしく、ディンネルの戦いが、全て前座にもなっていないことを裏付けた。

「ふはっ! そこのダークエルフよりも面白い」
「酷い言い分だね。ディンネルも頑張ったよ?」
「だからどうした! この俺には傷一つ付けられなかった」
「くっ……」

 ディンネルは苦汁を舐めた。
 確かにまともな攻撃はしていないし、ダメージらしいダメージもほとんどない。
 その事実を口にされると、ディンネルは悔しくて仕方ないが、言い返せもしない。

「確かにそうかもしれない」
「そうだろう、貴様もそう思うだろ?」
「でも、人の頑張りを無碍にするなんて真似、絶対に許さない。それが命を懸けた行為なら、尚更ね」

 ルカはディンネルを庇った。
 簡単に嘲笑うオービエンを決して許さない。
 ディンネルの行動が無駄では無いことを示すため、指をパチンと弾いた。

「《ハイド・ウィード》」

 ルカが魔術を唱えると、オービエンの体が傷付く。
 大量の血を拭き出させると、その色は紫。
 人間離れした血飛沫を拭き出させ、オービエンは目を見開く。何が起きたのか、分かっていない証拠だ。

「なっ、なにが起きたんだ!」
「ディンネルの攻撃を無駄にさせないためだよ」
「なんだと?」

 ディンネルはよく分かっていなかった。
 けれどオービエンの体から出た血飛沫。
 その箇所を見れば点が線で繋がり、答えへの道を作る。

「はっ、私の攻撃の痕か……」
「正解。これで無駄じゃなくなったね」

 ルカは自己満足を抱いた。
 もちろん、なんの悪気もない。
 なのだが、ディンネルは釈然としない。傷痕を傷にも出来なかった自分を、恥じさせることになった。

「やはり私は……」
「ディンネル、自分の実力を気にしている暇は無いよ」
「お前に言われなくても……」
「分かってないから言ってるんだよ。そろそろ、オービエンも遊びは終わりらしいよ」
「なに?」

 ルカは正眼に構えるオービエンを見ていた。
 もちろん、視線を一切外さない。

 ディンネルもルカに煽られ、オービエンを見た。
 顔をうつ伏せにしたまま、表情を読ませない。

 黒い影が差し込むと、髪がダランとなる。
 目元に陰影ができると、ニヤニヤ笑っていた。

「はっ、ははは、はは……」

 奇妙な笑い声が蠢き出す。
 同時にエルフの森に新しい風が吹く。
 嫌な風だ。禍津の煙が沸き立つと、全身から生気を奪う。

「ぶはっ! な、なんだ、この瘴気は」
「炎の悪魔の力……いや、その本流に触れようとしている?」

 如何転んでも、状況は一変した。
 もちろん悪い方向に動いている。
 ルカにも汗が流れると、獄炎を止めるのが厄介だった。

「この俺の獄炎は、決して止められない……」
「そっか。じゃあ、止めるよ。どのみちね」
「ふん。やってみるがいい」

 一瞬見えたオービエンの瞳。
 轟々と猛る炎が深炎に染まり、ルカのことを疎んでいた。

「それじゃあ、止めようか。はっ!」

 ルカは一歩前に出ると、オービエンの顔を殴る。
 ここに来て単純な物理。
 オービエンは避けられる筈だが、一切避ける様子が無く、攻撃を喰らった。

「ぶっ」
「効いてるね。これで止まっては……」

 もちろん、止められるとは思っていない。
 オービエンは怪我を治すことを辞めると、不敵な笑みを続ける。
 明らかにルカが押している筈。にもかかわらずこの騒めきは?
 グルグルと渦巻く炎に破られ、ディンネルも滲み汗を浮かべた。
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