1000年ぶりに目覚めた「永久の魔女」が最強すぎるので、現代魔術じゃ話にもならない件について

水定ゆう

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炎の悪魔編

572.ディンネルとタイマン

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 ルカはディンネルと勝負することになった。
 いわゆるタイマンと言うものだ。

(まさか、ここまで闇が膨らんでいたなんて)

 正直、ディンネルは淡かった。
 本来、ディンネルではまだ解放できない魔法を使った。
 そのせいか、内側に眠る負の感情が、一気に飛び出したのだ。

(この様子だと、私は引き金にならなくても、いずれ自爆していたかな)

 更に言えば、ディンネルの精神状態は一刻を争っていた。
 どんな形であれ、近いうちに感情が闇に沈む。
 それが今でよかったと安堵するのは、ルカだけだろうか? いや、きっとそうだろう。

「私はお前を本気で殺す」
「殺すなんて物騒だね」
「それくらいでなければ、私はお前に勝てない」

 ディンネルは勝つ気満々だった。
 もちろんルカはそんな気無い。
 ディンネルと戦い、勝った所で、何も得られるものは無い。

「いいよ、その気概は勝うよ」
「ふん、いつまでも調子に乗るな。私は私は……」

 もちろん試合開始のゴングなんてない。
 くぐもったディンネルの声が開戦の狼煙になると、先に動くのはディンネルだ。

「がうぁ!」
「いきなり呑まれてる」

 ディンネルは既に理性を失っていた。
 完全に獣と化し、暴走してしまっている。
 止めるのは至難の業で、まともに当たれば、怪我は必死だ。

(まあ、怪我をするのはディンネルなんだけど……ねっ)

 ルカは飛び掛かって来たディンネルを容易く受け流す。
 バックステップで距離を取ると、ディンネルは体躯を活かし、無理にでも距離を縮めた。

「ばうぁ!」

 足腰の動きが尋常じゃない。無理をすれば、簡単に痛めてしまう。
 人間の走り方ではないと悟り、ルカはディンネルの目を見た。
 真っ黒に染まり、靄が出始めている。

「ディンネル、そこまで……」

 ディンネルの心はここにはない。
 闇の中に囚われてしまっているらしく、ルカは溜息を付く。
 同時に悲しい気持ちが込み上がると、ルカは躱すのを辞め、真っ向から挑む。

「それっ!」

 もちろん魔法は使わない。ただの拳で牽制だ。
 もっともこれが効くとは思っていない。
 現にディンネルは、ルカの攻撃の軌道を読み切ると、闇の魔法を放つ。

「《ブラックアッシュ》!」

 ディンネルの拳が真っ黒になる。
 重力を纏い、渾身の一撃を叩き込む。

「その魔法は……受け流せばいい」

 ルカはディンネルがなにを繰り出すか読んでいた。
 まるで未来を読む如く、繰り出された《ブラックアッシュ》に最適な回答を示す。

「よっと」

 ルカは繰り出されたディンネルの右拳には触れず、手首を持って軽く捻った。
 柔術で横に押し倒すと、《ブラックアッシュ》は完全に無力化される。
 これこそが重力の弊害。纏っているのはごく一部の領域だけで、それ以外は無力だった。

「どうかな?」
「《ブラッククロー》!」

 ディンネルはそれで倒れるようなダークエルフじゃない。
 森長としての才の象徴。強さが滲み出ている。
 ルカの胸ぐら目掛けて黒い爪を立てると、切り刻んでやろうとした。

「それも受けないよ」

 ルカは《ブラッククロー》相手に、拳を繰り出した。
 指関節が黒い爪に触れると、砕けたのは《ブラッククロー》。
 ルカの拳一発で簡単に破壊されると、ディンネルの面子は丸潰れだ。

「ぬがぁぁぁぁぁ!」
「まさか魔法無しで壊されるとは思わなかったかな?」

 ルカは何処までもディンネルを挑発する。
 溜め込んだ毒素を力に変換させるのだ。
 そうすることで、心の闇を解放し、少しでも流れを良くする。

「らーらるるんがぁぁぁぁぁ!」
「叫び始めた? 来るかな」

 ルカは一瞬身構えると、ディンネルが目の前から消える。
 真っ黒な闇がディンネルを取り込むと、忽然と姿を隠してしまった。
 
 消えたディンネルは何処にも居ない。
 まるで亜空間の中に逃げ込んだような静けさが包む中、ルカの髪を掻き撫でる魔力を感じ取る。

「三、二、一!」

 口で三つカウントを取ると、背後にけたたましい魔力の波動を感じ取った。
 しかもルカのすぐ近くで、後頭部の辺りから感じ取る。
 姿を消していたディンネルが奇襲を仕掛け、一気にルカを倒してしまおうとしたのだ。


(これで終わりだ!)
「甘いね」

 ディンネルの心の声が漏れだす。
 ルカの中に流れ込むと、ほくそ笑んで相手取る。

「はっ!」
「ぐあっ! ……うっぶ、ぶへっ!」

 ルカは後頭部を狙って来るディンネルを読み切っていた。
 後ろ周り蹴りを腹に喰らわせると、胃酸が食堂を駆け上がり、痰となって吐き出される。
 目から血涙が溢れ出そうな程見開かれ、頬が今にも裂けてしまいそうなくらい、必死に苦しんでいるが、ルカは手加減をしつつも、ディンネルを地面に押し倒した。

「ふぅ。時と空間を操る私に、小細工は通用しないよ。やるならもっとマシな技を使おうか」
(何故だ、何故、何故、勝てない……どうして)

 地面に押し倒されたディンネルに対し、ルカは依然とした言葉を掛ける。
 一切敬う気も讃える気もない真実の言葉は、ディンネルに突き刺さり、失われ掛けていた本当の感情を解かせる。

 けれどこれでは勝負にもならない。
 ルカの圧倒的な力の前に屈したディンネルは、吐き気を催す程疲弊していた。
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