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炎の悪魔編
576.記憶を覗いてみよう(ディンネル編2)
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次の記憶を覗いでみる。
ルカは別の記憶に触れると、そこは寒々しい世界では無かった。
(おっ、ポカポカして温かい)
世界が一変して冬から春へと様変わりしていた。
景色も明らかに違っており、如何やら森の中らしい。
けれどただの森では無いのは記憶の世界とは分かりやすく、木々達からは魔素が溢れ、ポワポワと精霊達が躍っていた。
(もしかしてここは……)
ルカはこの景色に見覚えがあった。
相変らずこの森は魔法で溢れている。精霊達が綿のように舞いながら、笑顔を浮かべている。こんな異次元なことが起こるのは、如何やらその場所で合っているらしい。
「はぁぁぁぁぁ!」
カキーン!
鋭い金属音が木々の合間を抜けた。
綿の様な精霊達が突然のことに驚き、互いにぶつかりながら離れてしまう。
怖がりな精霊の子供達をルカは見守りつつ、音の元凶に向かう。
「どうした、ディンネル! その程度か?」
「ま、まだです! まだまだまだ、私はこんなものじゃないです!」
褐色肌をした幼いダークエルフの少女が戦っていた。
手にはナイフを持っており、乱暴に振り回している。
否、乱暴に縦横振り抜いているナイフは、実は相手の動きを制限している、とても上手い動きだった。
「おうおう、さっきより動きが良くなったな!」
「当然です。私も成長しているんですよ、ハルバーンさん!」
(ハルバーン……あの、ハルバーンか?)
ルカは幼い少女がディンネルであるとすぐに察した。
けれど目の前で相手をしている男性は後ろ姿だ。
特徴的なのは鍛え上げられたその肉体。手にしているナイフが子供用にも思える程の巨漢で、エルフ族にしては随分と筋肉質だった。
だがハルバーンの名前を聞いて納得した。
千年前、ナタリーとリタリーと共に、この森を守っていたエルフ族の一人。
当時から鍛え上げられた肉体美が長所だったが、もはや化物と言ってしまいそうな程、筋肉が肥大化していた。
(なるほど。ハルバーンが師匠か……どうりで闇に染まった時、力技を振りかざしたんだね)
ルカはディンネルの行動に合点が行った。
もちろん全てに整合性が取れた訳じゃない。
一つ一つの細かな動きから、今更だがハルバーンの筋肉バカと思わしておいて、実はち密な計算が施されていたあの戦い方が見受けられた。
「ぐはっ!」
「ふぅ。強くなったな、ディンネル。だがまだ甘いぞ!」
ディンネルはハルバーンの前に、まるで歯が立たなかった。
経験も実力も何もかもが劣っている。
ましてや基本的な部分は同じでも、戦い方がまるで違う。
ディンネルは体躯を活かしたスピード型。一方のハルバーンは体重を使ったパワー型。
それぞれに劣るものもあるが、ディンネルの動きは今に通じる。
重ねて修行すれば、いずれハルバーンにも勝るとも劣らない逸材になるだろう。
「うっ、ハルバーンさん、強すぎますよ」
「当り前だ。まだまだディンネルに負けるとも思えないからな」
「くっ、いつか絶対に一撃を入れてみせます」
「期待しているぞ、ディンネル。いつかはその実力を胸に、リタリーを支えるんだぞ」
「もちろんです。それが私の居場所ですから!」
ディンネルもハルバーンも楽しそうだった。
まるで良き師弟関係の様。ルカは胸が温かくなる。
実際、ルカにこんな経験は無かった。
(いい師匠に出会ったじゃないか……それが何故)
ますます違和感を感じてしまう。
如何してディンネルは闇を抱え過ぎてしまったのか。
このころのディンネルからはそんな様子は一切見られず、ナイフを片手にハルバーンに挑む。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ディンネルは腹の底から声を出す。
ハルバーンを威嚇しながら突撃すると、ワンパターンな動きを披露する。
「ディンネル、それがお前の本気か? その程度でこの俺を」
「分かっていますよ。だからです」
「なにっ!?」
ディンネルはこんな動きじゃ足りないと分かっていた。
だからこそ、走り出した瞬間にディンネルは急ブレーキをかける。
ハルバーンの目の前で止まってみせ、間を置いてから攻撃を仕掛ける。
「そこです!」
「ふん、まだまだ甘いわ!」
ディンネルの意表を突いた作戦は効いたと思った。
けれどハルバーンの前では届かず、ナイフを弾かれてしまう。
コロンとナイフが草の上に転がり、ディンネルは押し倒された。
もはや勝負あり。と言いたげにハルバーンはディンネルを指さす。
「今の動きはなかなかよかったぞ」
「でも届きませんでした」
「今はそれでいいだろ。むしろディンネル自身、成長の幅を感じたのならな」
「成長の幅……はい、私はもっと強くなれます」
ディンネルの表情に陰が落ちた。
かと思えば、自分自身で払拭してみせる。
闇を打ち払いキラリとした瞳をチラつかせた。
「その意気だぞ。少し休憩を取るか」
「分かりました」
ディンネルは素直だった。ハルバーンに褒められ嬉しそう。
手のひらを開いたり閉じたりしながら、自分の成長を確かめる。
そんな姿が今のディンネルには似つかわしくないと、初々しさを感じた。
ルカは別の記憶に触れると、そこは寒々しい世界では無かった。
(おっ、ポカポカして温かい)
世界が一変して冬から春へと様変わりしていた。
景色も明らかに違っており、如何やら森の中らしい。
けれどただの森では無いのは記憶の世界とは分かりやすく、木々達からは魔素が溢れ、ポワポワと精霊達が躍っていた。
(もしかしてここは……)
ルカはこの景色に見覚えがあった。
相変らずこの森は魔法で溢れている。精霊達が綿のように舞いながら、笑顔を浮かべている。こんな異次元なことが起こるのは、如何やらその場所で合っているらしい。
「はぁぁぁぁぁ!」
カキーン!
鋭い金属音が木々の合間を抜けた。
綿の様な精霊達が突然のことに驚き、互いにぶつかりながら離れてしまう。
怖がりな精霊の子供達をルカは見守りつつ、音の元凶に向かう。
「どうした、ディンネル! その程度か?」
「ま、まだです! まだまだまだ、私はこんなものじゃないです!」
褐色肌をした幼いダークエルフの少女が戦っていた。
手にはナイフを持っており、乱暴に振り回している。
否、乱暴に縦横振り抜いているナイフは、実は相手の動きを制限している、とても上手い動きだった。
「おうおう、さっきより動きが良くなったな!」
「当然です。私も成長しているんですよ、ハルバーンさん!」
(ハルバーン……あの、ハルバーンか?)
ルカは幼い少女がディンネルであるとすぐに察した。
けれど目の前で相手をしている男性は後ろ姿だ。
特徴的なのは鍛え上げられたその肉体。手にしているナイフが子供用にも思える程の巨漢で、エルフ族にしては随分と筋肉質だった。
だがハルバーンの名前を聞いて納得した。
千年前、ナタリーとリタリーと共に、この森を守っていたエルフ族の一人。
当時から鍛え上げられた肉体美が長所だったが、もはや化物と言ってしまいそうな程、筋肉が肥大化していた。
(なるほど。ハルバーンが師匠か……どうりで闇に染まった時、力技を振りかざしたんだね)
ルカはディンネルの行動に合点が行った。
もちろん全てに整合性が取れた訳じゃない。
一つ一つの細かな動きから、今更だがハルバーンの筋肉バカと思わしておいて、実はち密な計算が施されていたあの戦い方が見受けられた。
「ぐはっ!」
「ふぅ。強くなったな、ディンネル。だがまだ甘いぞ!」
ディンネルはハルバーンの前に、まるで歯が立たなかった。
経験も実力も何もかもが劣っている。
ましてや基本的な部分は同じでも、戦い方がまるで違う。
ディンネルは体躯を活かしたスピード型。一方のハルバーンは体重を使ったパワー型。
それぞれに劣るものもあるが、ディンネルの動きは今に通じる。
重ねて修行すれば、いずれハルバーンにも勝るとも劣らない逸材になるだろう。
「うっ、ハルバーンさん、強すぎますよ」
「当り前だ。まだまだディンネルに負けるとも思えないからな」
「くっ、いつか絶対に一撃を入れてみせます」
「期待しているぞ、ディンネル。いつかはその実力を胸に、リタリーを支えるんだぞ」
「もちろんです。それが私の居場所ですから!」
ディンネルもハルバーンも楽しそうだった。
まるで良き師弟関係の様。ルカは胸が温かくなる。
実際、ルカにこんな経験は無かった。
(いい師匠に出会ったじゃないか……それが何故)
ますます違和感を感じてしまう。
如何してディンネルは闇を抱え過ぎてしまったのか。
このころのディンネルからはそんな様子は一切見られず、ナイフを片手にハルバーンに挑む。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ディンネルは腹の底から声を出す。
ハルバーンを威嚇しながら突撃すると、ワンパターンな動きを披露する。
「ディンネル、それがお前の本気か? その程度でこの俺を」
「分かっていますよ。だからです」
「なにっ!?」
ディンネルはこんな動きじゃ足りないと分かっていた。
だからこそ、走り出した瞬間にディンネルは急ブレーキをかける。
ハルバーンの目の前で止まってみせ、間を置いてから攻撃を仕掛ける。
「そこです!」
「ふん、まだまだ甘いわ!」
ディンネルの意表を突いた作戦は効いたと思った。
けれどハルバーンの前では届かず、ナイフを弾かれてしまう。
コロンとナイフが草の上に転がり、ディンネルは押し倒された。
もはや勝負あり。と言いたげにハルバーンはディンネルを指さす。
「今の動きはなかなかよかったぞ」
「でも届きませんでした」
「今はそれでいいだろ。むしろディンネル自身、成長の幅を感じたのならな」
「成長の幅……はい、私はもっと強くなれます」
ディンネルの表情に陰が落ちた。
かと思えば、自分自身で払拭してみせる。
闇を打ち払いキラリとした瞳をチラつかせた。
「その意気だぞ。少し休憩を取るか」
「分かりました」
ディンネルは素直だった。ハルバーンに褒められ嬉しそう。
手のひらを開いたり閉じたりしながら、自分の成長を確かめる。
そんな姿が今のディンネルには似つかわしくないと、初々しさを感じた。
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