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炎の悪魔編
575.記憶を覗いてみよう(ディンネル編1)
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ルカは記憶の一つに触れた。
ディンネルの心の中に入り込んでいたルカの意識が、ディンネルの記憶の世界に潜り込む。
(ここは……)
ディンネルの記憶の世界が一つ。
そこは暗闇に染まった世界の中。
ここは千年前の世界じゃない。もっと直近の世界で、恐らくは今から二百五十年程前だろう。
(それにしても、どうして世界は暗闇に?)
空を見上げると、真っ暗な空が覆い尽くしていた。
カーテンコールを待っているのか、青空を取り戻すまで時間が掛かりそうだ。
とは言え、如何して烏の羽の様な黒が、空を覆い尽くしているのかは分からない。
恐らくは何か、魔術か魔法が発動したのだろう。
しかも規模感は大規模。魔力が暴走でもしたような跡が、所々に残っている。
(アレは……)
空以外にも黒に染まっている物が多かった。
周りには、ゴロゴロと建物の破片が散らばっている。
おまけに破片には白い粉粒が付いていて、見た所雪のようだ。
(雪が降っている。しかもこの荒れ方……《ブリザード・デストロイ》でも使ったのかな?)
ルカはこれだけの規模間で使える魔法を幾つも知っている。
しかし空を覆う黒雲とあらゆるものを切断する風、気力を失わせる雪。
どれをとっても氷の系の魔法を使ったのは明白で、恐らく大災害になっただろう。
(まさかそんなバカな真似する魔術師が、今の時代……いや、いるのか。いつの時代でも)
魔法使いの時代にも厄介ごとを引き起こす、闇の魔法使いは多数居た。
現代になって、闇の魔術師が居ない訳が無い。
実際、雷山での騒動の発端は、まさにそれだ。
ルカは周囲の景色を見回すと、何処か寂しさを感じ取る。
(この異様な寂しさはなんだろうか?)
ルカは全身を掻き撫でるような冷たさに心を打たれる。
気持ちが簡単に沈んでしまいそうだが、ルカは決して折れない。
自分には決して関係が無い。そう言い切ってみせると、遠くに二つの人影が見えた。
(アレは……あっ)
ルカは少し近付いてみる。
遠目ではあるが人影が何者か確認してみた。
小さく声を上げると、懐かしい顔と幼い顔にビックリする。
「大丈夫です。貴女は、必ず乗り越えられます」
「そんな、無理、無理です」
「無理では無い筈です。私が手を差し伸べる限り、貴女をここで終わらせるわけにはいきません」
強い言葉で押さない少女を励ます。
その姿はとても美しいのだが、言葉一つ一つに迫力と棘がある。
心が折れかけている少女にとって、強い感情を持つ言葉は、鋭く尖った血まみれのナイフでしかなかった。
「私の手を取れますか?」
「取れません。私には、貴女を手を取ることはできないんです」
「できます」
「できません」
「できますから」
「できません。私はもう一人ぼっちなんです。なので貴女の手を取る訳にはいかないんです。お父様もお母様もいない今、私に居場所なんて無いんです」
とても強情で、一切進展の無い口論をしていた。完全に押し問答になっていて。ルカは見ているだけで呆れてしまう。
恐らく、零下に侵されているこの記憶では、体が強張って今にも凍えてしまいそうな筈。
お互いの言葉が心を抉り刺し合う中、女性は強い言葉を辞め、上手く丸め込みに掛かる。
「ではこうしましょう。貴女に居場所を作ります」
「えっ?」
「必要とされる価値を与えてあげます。その果てに、なにを得たいのか、それを決めるのは貴女自身です。これでどうですか?」
女性の誘いはとても魅力的に映る。
けれどあまりにも根拠が無い。
反論を繰り出されてもおかしくは無いのだが、少女にとって、随分と心地よく思えたらしい。
「必要とされる価値」
「貴女にとって、そこが居場所かは分かりません。ですが、貴女自身が生きていく上の目標になれば、それこそが貴女の価値です。違いますか?」
女性の言葉はとても重い枷になりそうだった。けれど少女にとってはその言葉がとても温かいものであるのは間違いない。
一種の支えになると、ゆっくりと手を伸ばす。
女性の差し出した手を掴むと、まるで恋焦がれるように目を光らせた。
「私が生きていい理由を与えてくれてありがとうございます」
「いいえ、理由を見つけるのは貴女自身ですよ」
「私自身……見つけられますか?」
「それを決めるのは貴女自身です。さて、寒いのでそろそろ行きましょうか」
「は、はい」
女性は自分が着ていた服を差し出した。
少女の体を優しくくるむと、まるで親子の様に荒れ果てた地を去っていく。
二人の姿は寒々しい冬の世界に相応しくない。ルカはジッと視線をくべると、頭の中で記憶が思い起こされる。
(そうか、ここがナタリーの言っていた)
ルカはナタリーからこの場所のことを教えて貰っていた。
エルフ族に伝わる、いや、近代魔術師による事件の一つとして取り上げられている。
エルフの住む土地から少し離れた場所。そこに暮らすエルフ族を襲った大寒波。犯人は魔術師であり、集落一つが平気で滅んでしまった。その事件の名前は、集落の名前を取り——ヴィスピナの冷波と呼ばれている。
ディンネルの心の中に入り込んでいたルカの意識が、ディンネルの記憶の世界に潜り込む。
(ここは……)
ディンネルの記憶の世界が一つ。
そこは暗闇に染まった世界の中。
ここは千年前の世界じゃない。もっと直近の世界で、恐らくは今から二百五十年程前だろう。
(それにしても、どうして世界は暗闇に?)
空を見上げると、真っ暗な空が覆い尽くしていた。
カーテンコールを待っているのか、青空を取り戻すまで時間が掛かりそうだ。
とは言え、如何して烏の羽の様な黒が、空を覆い尽くしているのかは分からない。
恐らくは何か、魔術か魔法が発動したのだろう。
しかも規模感は大規模。魔力が暴走でもしたような跡が、所々に残っている。
(アレは……)
空以外にも黒に染まっている物が多かった。
周りには、ゴロゴロと建物の破片が散らばっている。
おまけに破片には白い粉粒が付いていて、見た所雪のようだ。
(雪が降っている。しかもこの荒れ方……《ブリザード・デストロイ》でも使ったのかな?)
ルカはこれだけの規模間で使える魔法を幾つも知っている。
しかし空を覆う黒雲とあらゆるものを切断する風、気力を失わせる雪。
どれをとっても氷の系の魔法を使ったのは明白で、恐らく大災害になっただろう。
(まさかそんなバカな真似する魔術師が、今の時代……いや、いるのか。いつの時代でも)
魔法使いの時代にも厄介ごとを引き起こす、闇の魔法使いは多数居た。
現代になって、闇の魔術師が居ない訳が無い。
実際、雷山での騒動の発端は、まさにそれだ。
ルカは周囲の景色を見回すと、何処か寂しさを感じ取る。
(この異様な寂しさはなんだろうか?)
ルカは全身を掻き撫でるような冷たさに心を打たれる。
気持ちが簡単に沈んでしまいそうだが、ルカは決して折れない。
自分には決して関係が無い。そう言い切ってみせると、遠くに二つの人影が見えた。
(アレは……あっ)
ルカは少し近付いてみる。
遠目ではあるが人影が何者か確認してみた。
小さく声を上げると、懐かしい顔と幼い顔にビックリする。
「大丈夫です。貴女は、必ず乗り越えられます」
「そんな、無理、無理です」
「無理では無い筈です。私が手を差し伸べる限り、貴女をここで終わらせるわけにはいきません」
強い言葉で押さない少女を励ます。
その姿はとても美しいのだが、言葉一つ一つに迫力と棘がある。
心が折れかけている少女にとって、強い感情を持つ言葉は、鋭く尖った血まみれのナイフでしかなかった。
「私の手を取れますか?」
「取れません。私には、貴女を手を取ることはできないんです」
「できます」
「できません」
「できますから」
「できません。私はもう一人ぼっちなんです。なので貴女の手を取る訳にはいかないんです。お父様もお母様もいない今、私に居場所なんて無いんです」
とても強情で、一切進展の無い口論をしていた。完全に押し問答になっていて。ルカは見ているだけで呆れてしまう。
恐らく、零下に侵されているこの記憶では、体が強張って今にも凍えてしまいそうな筈。
お互いの言葉が心を抉り刺し合う中、女性は強い言葉を辞め、上手く丸め込みに掛かる。
「ではこうしましょう。貴女に居場所を作ります」
「えっ?」
「必要とされる価値を与えてあげます。その果てに、なにを得たいのか、それを決めるのは貴女自身です。これでどうですか?」
女性の誘いはとても魅力的に映る。
けれどあまりにも根拠が無い。
反論を繰り出されてもおかしくは無いのだが、少女にとって、随分と心地よく思えたらしい。
「必要とされる価値」
「貴女にとって、そこが居場所かは分かりません。ですが、貴女自身が生きていく上の目標になれば、それこそが貴女の価値です。違いますか?」
女性の言葉はとても重い枷になりそうだった。けれど少女にとってはその言葉がとても温かいものであるのは間違いない。
一種の支えになると、ゆっくりと手を伸ばす。
女性の差し出した手を掴むと、まるで恋焦がれるように目を光らせた。
「私が生きていい理由を与えてくれてありがとうございます」
「いいえ、理由を見つけるのは貴女自身ですよ」
「私自身……見つけられますか?」
「それを決めるのは貴女自身です。さて、寒いのでそろそろ行きましょうか」
「は、はい」
女性は自分が着ていた服を差し出した。
少女の体を優しくくるむと、まるで親子の様に荒れ果てた地を去っていく。
二人の姿は寒々しい冬の世界に相応しくない。ルカはジッと視線をくべると、頭の中で記憶が思い起こされる。
(そうか、ここがナタリーの言っていた)
ルカはナタリーからこの場所のことを教えて貰っていた。
エルフ族に伝わる、いや、近代魔術師による事件の一つとして取り上げられている。
エルフの住む土地から少し離れた場所。そこに暮らすエルフ族を襲った大寒波。犯人は魔術師であり、集落一つが平気で滅んでしまった。その事件の名前は、集落の名前を取り——ヴィスピナの冷波と呼ばれている。
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