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第1部
第2章:最凶らしい?ー002ー
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依頼品の破壊を知った華坂爺が杖を振りかざしてきた。
先端が外れて現れた刃が、ギラリ光るは気持ちの代弁か。
雪南を背負い両手が塞がれているため、円眞に太刀打ちできる術はない。「ちょ、ちょっと勘弁してくださいよー」叫びながら向かってくる刃を避けるだけで精一杯だ。
寛江が円眞にしたように華坂爺を羽交い締めにしてくれなければ、どこまで逃げ回るハメになっていたか解らない。
「くぅ~、儂の太刀筋を見切るなんて、さすがエンくんじゃの。じゃからといって、小娘。これで許されると思うんじゃないぞ」
怒りは収まらないものの、ひとまず諦めてくれた華坂爺だった。
円眞にしてみれば、生きた心地がしなかった。避けるにしても間一髪だ。本気で襲ってこないで欲しい。「大人げない真似は止したほうがいいですよ」と言う寛江に大きく頷かずにはいられない。
「なぁ、円眞。たかだかモノを壊しただけで、どうしてこのジィさん、命まで狙ってくるんだ」
背中の雪南が実に悪いタイミングで訊いてくる。
熱り立つはジィちゃんズのみなさまだ。逢魔街における危険時間帯をのうのう出歩ける者たちである。どんな能力か把握しきれてはいないが、秀でた実力を秘めているのは間違いない。頼りの寛江は一人きりである。一斉に三人で来られたら防ぎ切れる自信はない。
この場からどう逃げようか。円眞は本気でタイミングを計っていた。
「あら~、いらっしゃい、華坂さん、多田さんに、うっちーさん。事情は店主からお聞きいただけたでしょうか。わざわざお越し頂いたのに申し訳ありません」
商売用の美しい笑みを振りまく彩香が店からやってきた。
ほっほっほぅー、と愛称で呼ばれた内山爺が鼻を伸ばしている。美しい女性オーナーの登場は一気に雰囲気を塗り替えた。あやかちゃんはいつ見ても美人じゃの、と華坂爺まで口にするくらいだ。
さすが年上キラーだな、と円眞は胸を撫で降ろした。
彩香の登場によって、事態は収束へ向かった。依頼品についてはこれから円眞が再度探索なり復元可能か検討していくことで話しがまとまっていく。
「それで事の発端である、エンさんの背中にいる女性は、どうなさるつもりですか」
一通りの話し合いが済んだところで、寛江が訊いてくる。
「風俗で働かせてしまえ」
華坂爺が憎々しげに彩香と同様な提案をしてきた。
円眞の背中が、ぎゅっとつかまれた。力の込もった小さな両手が、決意させた。
「こ、この娘、雪南は自分が責任をもって預かります」
覚悟を決め思い切って口にした円眞だ。なので少し拍子抜けさせられた。
反対の声が挙がるどころか、やっぱりといった顔つきを揃いも揃ってしてくる。なんだかそれはそれで癪な円眞であった。
「けれども、えんちゃん。預かるはいいけど、どこへ寝泊りさせるつもり?」
彩香の問いに、少し考え込む円眞だ。
本当なら何処か場所がないか、相談したいところである。ただ店舗損壊で弁済を迫られている雪南を一人にしては逃亡する懸念を指摘されるだろう。責任を持つ、といった手前もある。
「ボクのアパートへ連れていきます」
甘ちゃんとされないよう毅然と返したつもりの円眞だ。もちろん大反対されることは覚悟のうえである。
だからジィちゃんズが一斉に笑みを浮かべてくれば不審しかない。笑みといっても好意的なものではなく、なんだかイヤらしい感じだから尚更である。
「そうか、そうならば、ジィちゃんたち文句はないぞ。オンナに翻弄されぬように、早く知っておくべきじゃからの」
なんだか釈然はしないものの円眞は、華坂爺が了承してくれたことで良しとした。含む意味については、まだ察しがついていない。
だから円眞は真剣な顔で、明日にでも連絡が入れられるよう頑張る旨を伝えた。
「エンくん、今晩ぐらいはいいぞ。意外と初めての時は、うまくいかないものだからな」
「ほっほっほぅ、明日はちゃんと起きられますかな」
続いた多田爺と内山爺から、円眞はようやく呑み込んだ。ジイちゃんズは構わないが、これから自分の部屋へ連れて行こうとする雪南に誤解は与えたくない。
そ、そんなんじゃ、と円眞が言いかけたところで、彩香が心配そうに訊いてくる。
「本当に大丈夫なの、その娘。エンちゃんを襲ってきたのよ」
「そこは心配するな。これからのワタシなら大丈夫だ」
背中にある雪南の胸を張るみたいな声だ。あまりに堂々とした声だったから、円眞だけではない。この場にいる全員の奇異で彩られた視線を集めていく。
会話の行きがかり上、彩香が先を紡いだ。
「アンタ、よく言うわね。もう命を狙わないなんて、どの口でほざくわけ」
「誰が命を狙わないなんて言った。円眞はワタシが殺す、これだけは譲れない」
はぁ? といった表情が円眞を除いた全員に走る。風が吹き抜けていく瞬間とは、まさしくこの時を指すだろう。
彩香は無意識下に腰元の柄を握っていた。もし雪南が先を続けなければ抜かれていたかもしれない。
「でも円眞はいいヤツだ。迷惑かけてまで殺しにはいけない。ちゃんとだな、周囲に気を配って、円眞が納得できる状況で殺しにかかりたいと思う」
「……ナニ言ってんだか、よくわかんないんだけど」
刀を抜く体勢のまま彩香は困惑を隠さない。
「要は背中から襲うような真似はしない、でイイんだよね」
彩香の殺気を流すためにも、円眞は背へ向かって言う。
「当たり前だ。もう二度と円眞をいきなり襲ったりなどしない」
「そ、それ、約束できる?」
「ああ、もちろんだ、約束しよう」
こうして雪南は円眞の預かりとなった。
先端が外れて現れた刃が、ギラリ光るは気持ちの代弁か。
雪南を背負い両手が塞がれているため、円眞に太刀打ちできる術はない。「ちょ、ちょっと勘弁してくださいよー」叫びながら向かってくる刃を避けるだけで精一杯だ。
寛江が円眞にしたように華坂爺を羽交い締めにしてくれなければ、どこまで逃げ回るハメになっていたか解らない。
「くぅ~、儂の太刀筋を見切るなんて、さすがエンくんじゃの。じゃからといって、小娘。これで許されると思うんじゃないぞ」
怒りは収まらないものの、ひとまず諦めてくれた華坂爺だった。
円眞にしてみれば、生きた心地がしなかった。避けるにしても間一髪だ。本気で襲ってこないで欲しい。「大人げない真似は止したほうがいいですよ」と言う寛江に大きく頷かずにはいられない。
「なぁ、円眞。たかだかモノを壊しただけで、どうしてこのジィさん、命まで狙ってくるんだ」
背中の雪南が実に悪いタイミングで訊いてくる。
熱り立つはジィちゃんズのみなさまだ。逢魔街における危険時間帯をのうのう出歩ける者たちである。どんな能力か把握しきれてはいないが、秀でた実力を秘めているのは間違いない。頼りの寛江は一人きりである。一斉に三人で来られたら防ぎ切れる自信はない。
この場からどう逃げようか。円眞は本気でタイミングを計っていた。
「あら~、いらっしゃい、華坂さん、多田さんに、うっちーさん。事情は店主からお聞きいただけたでしょうか。わざわざお越し頂いたのに申し訳ありません」
商売用の美しい笑みを振りまく彩香が店からやってきた。
ほっほっほぅー、と愛称で呼ばれた内山爺が鼻を伸ばしている。美しい女性オーナーの登場は一気に雰囲気を塗り替えた。あやかちゃんはいつ見ても美人じゃの、と華坂爺まで口にするくらいだ。
さすが年上キラーだな、と円眞は胸を撫で降ろした。
彩香の登場によって、事態は収束へ向かった。依頼品についてはこれから円眞が再度探索なり復元可能か検討していくことで話しがまとまっていく。
「それで事の発端である、エンさんの背中にいる女性は、どうなさるつもりですか」
一通りの話し合いが済んだところで、寛江が訊いてくる。
「風俗で働かせてしまえ」
華坂爺が憎々しげに彩香と同様な提案をしてきた。
円眞の背中が、ぎゅっとつかまれた。力の込もった小さな両手が、決意させた。
「こ、この娘、雪南は自分が責任をもって預かります」
覚悟を決め思い切って口にした円眞だ。なので少し拍子抜けさせられた。
反対の声が挙がるどころか、やっぱりといった顔つきを揃いも揃ってしてくる。なんだかそれはそれで癪な円眞であった。
「けれども、えんちゃん。預かるはいいけど、どこへ寝泊りさせるつもり?」
彩香の問いに、少し考え込む円眞だ。
本当なら何処か場所がないか、相談したいところである。ただ店舗損壊で弁済を迫られている雪南を一人にしては逃亡する懸念を指摘されるだろう。責任を持つ、といった手前もある。
「ボクのアパートへ連れていきます」
甘ちゃんとされないよう毅然と返したつもりの円眞だ。もちろん大反対されることは覚悟のうえである。
だからジィちゃんズが一斉に笑みを浮かべてくれば不審しかない。笑みといっても好意的なものではなく、なんだかイヤらしい感じだから尚更である。
「そうか、そうならば、ジィちゃんたち文句はないぞ。オンナに翻弄されぬように、早く知っておくべきじゃからの」
なんだか釈然はしないものの円眞は、華坂爺が了承してくれたことで良しとした。含む意味については、まだ察しがついていない。
だから円眞は真剣な顔で、明日にでも連絡が入れられるよう頑張る旨を伝えた。
「エンくん、今晩ぐらいはいいぞ。意外と初めての時は、うまくいかないものだからな」
「ほっほっほぅ、明日はちゃんと起きられますかな」
続いた多田爺と内山爺から、円眞はようやく呑み込んだ。ジイちゃんズは構わないが、これから自分の部屋へ連れて行こうとする雪南に誤解は与えたくない。
そ、そんなんじゃ、と円眞が言いかけたところで、彩香が心配そうに訊いてくる。
「本当に大丈夫なの、その娘。エンちゃんを襲ってきたのよ」
「そこは心配するな。これからのワタシなら大丈夫だ」
背中にある雪南の胸を張るみたいな声だ。あまりに堂々とした声だったから、円眞だけではない。この場にいる全員の奇異で彩られた視線を集めていく。
会話の行きがかり上、彩香が先を紡いだ。
「アンタ、よく言うわね。もう命を狙わないなんて、どの口でほざくわけ」
「誰が命を狙わないなんて言った。円眞はワタシが殺す、これだけは譲れない」
はぁ? といった表情が円眞を除いた全員に走る。風が吹き抜けていく瞬間とは、まさしくこの時を指すだろう。
彩香は無意識下に腰元の柄を握っていた。もし雪南が先を続けなければ抜かれていたかもしれない。
「でも円眞はいいヤツだ。迷惑かけてまで殺しにはいけない。ちゃんとだな、周囲に気を配って、円眞が納得できる状況で殺しにかかりたいと思う」
「……ナニ言ってんだか、よくわかんないんだけど」
刀を抜く体勢のまま彩香は困惑を隠さない。
「要は背中から襲うような真似はしない、でイイんだよね」
彩香の殺気を流すためにも、円眞は背へ向かって言う。
「当たり前だ。もう二度と円眞をいきなり襲ったりなどしない」
「そ、それ、約束できる?」
「ああ、もちろんだ、約束しよう」
こうして雪南は円眞の預かりとなった。
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